夢小説「La mia utopia」 | ナノ


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やれやれくたびれた。
そう思いつつ、ホルマジオは首を回す。

のんびりとした様子で玄関を潜る2人の男。直前までお互いに別の任務をこなしていたが、疲労は内心で呟くほどは伺えない。多少の交戦で負った擦り傷や切り傷はあるものの、五体満足でアジトに辿り着けたので概ね成功と言える仕事ぶりだった。

しかしホルマジオは帰って来た矢先、まず最初に玄関にて違和感を覚えた。男所帯が暮らすこの家で、きちんと揃えられた靴はあまりにも異常にみえる。常ならば散らかす筆頭はプロシュートだ。あの男は高価だろうが物を大事にすることがなく、高級品の革靴であろうと常にそこら辺に脱ぎっぱなし。必要があればペッシにとってこいと言うばかりである。それが今やきっちりと並べられているどころか、まるでシューズショップの展示の様な棚まで作られているではないか!
壁にかけられた鏡には埃の一つも見当たらず、くもり一つなく磨き上げられている。階段の手摺りでさえ、修繕はされてなくとも綺麗に磨かれていた。
まるで一般家庭の当たり前…そんな空気感が底に満ち溢れている。隣を見れば、自分と同様に、茫然と立ち止まるメローネがいた。

「あー…アレじゃない?ほら…プロシュートがメール寄越してきた…」
「…まぁ、そうだろうなぁ…」

今は男所帯に紅一点がいたんだったな、と思い出す。
女1人加わるだけで随分と居心地が悪くなったものだ。情けないと嘆くべきか、まだ人の子だったと喜ぶべきか…

その女の幽波紋によってソルベとジェラートが生き返った。その能力はきっとボスどころか、何処のチームも喉から手が出るほど欲しがるだろう。ギャングだけじゃない、どこかしこのお偉いさん方にだって必要とされる。それならば誰かにバレる前に、とそういうことだ。
ただデメリットもかなりある。むしろデメリットの方が多い。俺たちは一度“裏切り”を犯している。もう一度はない…。それを鑑みても囲うほどなのか、それとも本当に誰かが血迷ったか。

「何はともあれご対面といくか?」
「良い母体でない事を祈るよ」

そう意気込んでみたはいいが、リビングに入ってからも息が詰まって仕方がない。自分の家にいると言うのに気を遣わなければならないなんて…。やはり俺も人間なのだろう。長期任務には慣れているが、そのフィールドが自らの巣だというだけで、精神的な負荷はかなりかかる。俺やメローネは他のメンバーと違って頭脳派で、周りのわずかな環境の変化にもかなり左右される“繊細なタイプ”だ。暫くはどこか他に女を作って避難した方がいいかもしれない。

「おかえりなさい、ホルマジオさん」

メローネの執拗な絡みを軽くいなしながら、俺に労いの言葉と軽食をだすのを見て、俺は確信を持った。
自分の力量を弁えている女ほど、厄介で扱いにくいものもないだろう。

俺はこの女がどうも苦手である。

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