夢小説「La mia utopia」 | ナノ


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暗殺家業といえど休日は存在する。

さすがヨーロッパと言うべきか、日曜日と祝日は基本的に仕事を入れないようにしているらしい。任務によっては休日にかかってしまうこともある。その場合は振替休日がちゃんと貰えるのだとか。
そして今日は記念すべき日曜日。アジトにはリゾットをはじめとした暗殺チームが、思い思いにだらけて休日を謳歌していた。私はそんな彼らの姿へ微笑ましい気持ちになりながら、今日も今日とて昼食を作っている。

「えっと…オリーブの微塵切りと…へぇ、レモンの皮も磨りおろすのね…」
「何作ってんだ?」
「インサラータ・ディ・リーゾ(Insalata di riso)」

暑いこの時期に熱いものを食べる事は中々難しい。かと言って、冷製パスタなどの冷たい物ばかりも夏バテになりやすい原因だ。だからせめてもの妥協点でこのメニュー。
インサラータ・ディ・リーゾは白米とサラダを和えた料理のこと。トマトとバジルは勿論入れて、それ以外の食材は結構自由。サラダとしておかしくない組み合わせであれば、豪快に炊いたご飯と混ぜて食べる。そこへマヨネーズがドレッシングとして用意されるのだが、日本人的にツナマヨや海老マヨのおにぎりが好きなら美味しく思うはずだ。
今作っているのはそのマヨネーズ。具材が少々味の濃い物になってしまったので、さっぱり食べれるようにしたい。

「手間のかかる事してんだなァ」
「ふふ、手伝ってくださってもいいんですよ?」
「ハッ!なら、可愛く強請ってみたらどうだ」
「意地悪な人」

ペッシさんなら素直に手伝ってくれるのに、なんて思いながら手元では既に作業が進んでいる。卵黄にオリーブオイルとバルサミコ酢を加えてひたすら混ぜる。水分と油を乳化させる事で、マヨネーズ独特の味わいが生み出され、その度合いによって食感が変わるのだ。ここを手抜きにする事は出来ない。とはいえ電動ミキサーでもかなり時間がかかる作業を手でしているのだからかなりの重労働。
時々手首を休めつつボウルの中身をかき混ぜていると、強情だなと零しながらプロシュートが泡だて器を私の手から奪い取ってしまった。

「下手でも文句は受付ねぇからな」
「この作業に上手い下手もないですよ」

ありがとうございます、とボウルを手渡して、私は炊いた米にも一手間加える。
冷ましておいたご飯に刻んだブラックオリーブと削ったレモンの皮、荒く微塵切りしたイタリアンパセリを混ぜる。これだけでも私的には美味しく食べれるが、働き盛りなメンバーには物足りないだろう。
次に食材。茹でた小エビとホタテは氷水で身を引き締めた後ひと口大に。トマト、きゅうり、パプリカやチーズはサイコロ状に切って、のゆで卵は8等分にして飾り付け用にする。豆類は作り置きしておいた瓶詰めから必要な分だけ取り出して、サッと水洗い。

さてそろそろマヨネーズが出来上がったかなと振り返れば、リビングにメンバーが集結しているのが目に入った。いつの間にと思ったが、彼らがボウルと泡だて器を代わる代わる持ってかき混ぜている様子を見て事態を把握する。プロシュートがほかのメンバーにも手伝わせ始めちゃったんだな、と。

「クソッ!なんで!俺がこんなッ!」
「早くしねぇといつまで経っても飯にありつけねぇぞ」
「オメェがそれを言うんじゃあねぇ!!」

全くその通りだ。ギアッチョがプロシュートに吠えながらも手を動かしてくれている事に私は感動した。根はいい子なのよね、なんてまるで母親のように失礼なことを思ってしまう。しかしギブアップとボウルは放り出され、それはリゾットの手に渡った。

彼の今日の服装はいつもより幾分ラフなで、トレードマークの帽子だってかぶっていない。ゆるいズボンに襟元が僅かによれたシャツという出で立ち。他のメンバーもだいたいそんな風な気の抜けた服装で、例外はプロシュートくらいなもの。
彼はいつ見たって完璧な色男で、スーツではない服だとしても妥協はないようだ。鍛えた体にピッタリとフィットしたVネックのTシャツがよく似合っている。

「…こんな程度でいいか?」
「あ、はい、ありがとうございます」

ついプロシュートの肉体美に見惚れてしまっていたようだ。リゾットがボウルを差し出すまで、側に来ていた事に全く気がつかなかったなんて。少し恥ずかしく思う気持ちを振り払い、ボウルを受け取る。そして準備しておいた具材を大皿に盛り付けて、最後にルッコラを大盛りに。その上から塩少々と、メンバーで作ってくれたマヨネーズをかければ完成。さすがの重量で私にはとても運べない。テーブルで仕上げればよかったと思いながら、ペッシにダイニングテーブルまで持って行ってもらい、私は取り皿とカトラリーを配った。

「お待たせしました。小分けにはしませんから各自好きなだけ召し上がってください」
「美味そうだ」
「名前、Grazie」

いつもは2人で何処かに食べに出てしまうソルベとジェラートだが、今日は珍しくアジトにいる。だからこそ作る昼食の量が膨大だったのだ。2人とも美味しそうに頬張ってくれており、一先ずは安心した。ペッシは相変わらず口の端に米粒をつけながら美味い美味いと掻きこんで食べているし、プロシュートやギアッチョ、リゾットも満足げに目を細めて食べている。イルーゾォはルッコラをよけながら皿に取り分けているようで、なかなか口に入れられてない様子。好き嫌いはダメですよ、とばかりにそっとルッコラを盛ってやれば、ムッとした表情をこちらに向ける。しかしすぐ諦めたのか、ほんの2,3枚だけ皿に乗せたままにしてようやくスプーンを差し入れた。

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