夢小説「La mia utopia」 | ナノ


▼ 20

あの女は信用ならねぇ。
それが俺の下した判断。

年齢の件も身の上話も、俺たちのチーム全員にリゾットから通達があった。それはまさに夢物語のように思えたが、幽波紋が存在するこの世で今更ありえない事などありはしないようにも思える。それに俺たちのチームの、仮にもリーダー様がその“事実”を受け入れる、もしくは据え置きにすると言うならば、反論することはしない。

いや、俺が信用ならないと思った原因は、見かけより年を食っている事や、無駄に料理の腕が良い事じゃあないのだ。むしろそれは好印象が持てる要素だったし、日本人だというにも関わらず出来上がったアクアパッツアは絶品だった。
話は逸れたが、つまり、例えあの女が正しい年齢だったとしても、不気味なほどに俺たちをよく知ってやがるのが、どうにも落ちつかねぇと言うわけだ。

イルーゾォの人見知りで距離を測る性格も、ペッシの格下に兄貴ぶりたがる癖、プロシュートの下世話な趣味、リゾットの世話焼きな割に打算的な所。全て一朝一夕に知り得る情報じゃない。これらは俺たちの様な汚れ稼業に居る連中のデータブックにさえのらない、長年の観察と送り続けてきた日常の証とも言える。そこに気付き対応するその姿は、あまりにも自然過ぎた。

過去を弄くれる幽波紋の影響で未来が少しわかるというのであればまだ納得しないにしても、不審に思うことはなかっただろう。だがあいつは違う。未来は見れず、変えれるのは過去の起こったある一点の出来事のみだと言う。
であれば、何故俺たちの性格を把握しているのか。そこが俺は一番わからなかった。

だから俺は信用しない。
するわけにはいかなかった。

奴がボスの送り込んだスパイだったら、死ぬのは俺たちのチーム全員。ソルベとジェラートを、もう一度死なせるわけにはいかない。それに俺だって死にたくはない。たとえ一度だけならあの女の幽波紋で生き返るとしても、だ。

しかし信用していないからとは言え、同じ屋根の下で暮らし、あまつさえ炊事洗濯掃除諸々の家事を一手に任せているのだから、多少の譲り合いの精神というものを見せるべきなのだろう。それはこんなマフィアのど底辺で、人の命をただの札束にしか思わない俺たちであっても知っている、所謂“常識”と“良心”というものだ。メローネ辺りはそんな事はどうでもいいと一蹴しそうなものだが、アイツと違って俺は至極真っ当な人間で真面目な性質だった。

だから今日も面倒だと思いながらも、こいつの買い物に付き合ってやり、荷物持ちを買って出たというわけだが…

「…おい」
「なんでしょう?」
「女がそんな大荷物抱えてどォすんだよ!何の為に俺が付いてきてやってると思ってんだ?!」
「あ…手伝ってくださる為に来てくださったんですか!てっきり同じ方向にご用事があるのかと…」

腕に抱える食材の数々を奪い取れば、ありがとうと晴れやかに笑いやがった。これだから信用ができねぇ。むしろこの女は察しが良すぎるくらい良いはずなのだから、信用されてねぇ事くらい分かっているだろうに。それとも信用されてないとわかっているからこそ、手伝ってくれと自分からは言いださなかったのか…
くそったれと不機嫌を抑え込むまでも無く垂れ流した俺を、女は穏やかな顔で眺めるだけにとどめている。

ああ、やはりこいつは何かがおかしい。

そう確信を得ても根拠がない、立証できない、証拠がないのだ。イラつかせるぜ全く。
信用できないといいながら心を許してしまいそうになるのは、こいつの存在がまるで麻薬か何かの様にじわじわと効き始めてしまっているからだろうか。
一層気を引き締めていかねばと、そう思う時点で既に俺の敗北は決まって居るのだろう。なんとも不愉快で不可解で、気味が悪い。

だから今日も俺はこいつに心を許していない風を装って、強がって見せるしか出来ないのだ。
せめて飯が不味けりゃなぁと内心ひとりごちた。

prev / next
22/28


[ Back ]