夢小説「La mia utopia」 | ナノ


▼ 19

まだメンバーそれぞれの味好みは良く分からないため、とりあえず辛口と甘口の白ワインを2本ずつ持って上がれば、そこにはすでに暗殺チームの現在集まれる面々が揃っていた。

「おかえりなさい、ギアッチョさん」

流石暗殺者である。いつ帰って来たかは分からないなと思いながら一つ増えた人影へ声をかければ、ギロリと凄い勢いで睨まれ思わず肩が跳ねた。肌に感じた冷気は殺気かスタンドの能力か…。彼の目付きの悪さを分かっていたつもりだったが、本物はやはり輪を掛けて迫力がある。リゾットと比べればと奮い立たせたお陰か、まだ少しの恐怖心を抱くだけで腰を抜かずに済んだのがせめてもの救いだろうか。

大人たるなけなしのプライドからキュッと無理矢理にでも笑顔を作ると、ギアッチョは鋭い舌打ちをして、寝そべるように腰掛けていたボロボロのソファから立ち上がる。その足で向かってくる彼の表情は、氷のように冷たくもなければ疑り深い嫌なものでもなく、ただただ不機嫌そうなだけであった。

「俺ぁ腹減ってんだよ!!サッサと食わせろ!」
「はい、今ご用意しますね。先にワインを開けてしまってください」

腕の中のボトルを軽く持ち上げてみせれば、そのうちの一本を抜き取って、グラスを並べたテーブルへ行ってしまった。舌打ちは再度頂いてしまったが、正直もう少しなにかしら言われるかと思っていた為拍子抜けではある。
ただ何も言わないことばかりが良いというわけではない事を、私はちゃんと理解していた。言葉のやり取りは相互理解への一歩であるからだ。

兎も角、今は食事の仕上げをしようとキッチンへ走る。残りのボトルはソルべに託して、アクアパッツァを軽く温め直す。スープの鍋も火にかけておいて、バケットを分厚めに切り分けて皿に盛った。
サラダも仕上げないととトマトソースを冷蔵庫から取り出せば、上からオイと声がかかる。見上げればギアッチョがワイングラスを片手に、反対の手でスプーンを揺らしていた。

「サラダも用意しますから、もう少し待ってくださいね」
「それ、お前が作ったんだってなァ?」
「ええ、市販のものより身体にいいですから」
「味見させろ」

その為のスプーンかと納得して、トマトソースを詰めてある瓶の蓋を開けた。冷蔵庫から出したての冷たいそれを、ギアッチョは味見というには多すぎる量を取って口にする。ゆるりと細められた目が猫のように三日月を描くので、つい可愛いと思ってしまった。そして同時に、ペッシと似たようなものなんだなとも。

「これをどうすんだ?」
「バルサミコなどと混ぜてドレッシングにします」
「ここでそんな洒落たモンを食えるとはなァ。良い拾いモノしたぜ」

至極楽しげにする彼の様子に私は少しの違和感を解決させた。渡したばかりのワインをどんなペースで飲んだのかは知らないが、彼はもう酔っ払っているらしい。疲労からアルコールがいつもより良く回ってしまったのだろう。早く食いてぇなぁと上機嫌にスプーンを揺らすギアッチョは、やはりペッシに似て可愛らしかった。

「名前つったっかァ?」
「はい」
「歓迎してやるつもりはねぇが、その飯の腕だけは買ってやる。存分に振るえよ」

あと一つ、と指を立てる彼。
意味をはかりかねてキョトリと首を傾げれば、ゲラゲラと笑い始めてしまった。ますますわけがわからず、これだから酔っ払いはなんて思わなくもない。

「リゾットに勝手に出したビスケットの貸しは付けておくからな」

食べ物の恨みというか、なんとも小さな貸しがついてしまった。私は少し頬を緩めて、今度ビスケットかクッキーを焼いてあげようと頭にメモを貼る。





静まり返るアジト。アクアパッツァもサラダも、お酒と一緒に瞬く間になくなった席には、無造作に置かれた皿やグラスたち。空き瓶の数々。床へ落ちてしまったフォークを拾って流しへ投げ込めば、見事にぽちゃんと軽い音を立てて波紋を広げた。

「私、もう少しだけ賢くならなくちゃいけないわね」

しっかりとした足取りで部屋へ帰っていった特徴的なカーリーヘア。私がカトラリーを持つ度に目を少しだけ冷たくさせ、分かりやすく酔ってないんだぞとアピールする彼は、一体何を言いたかったのだろうか。信用は1日で掴めるシロモノではないにしろ、1年と言う短い時間は待ってくれない。
なんとかしていい機会を得れればいいのにな…そう思いながらも、あまり危険なことは出来ない事も理解している。

じゃぶり。
少しだけ泡立つ水面に、先行きの不安を感じずにはいられなかった。

prev / next
21/28


[ Back ]