夢小説「La mia utopia」 | ナノ


▼ 16

食後に話が盛り上がる辺り、日本とは異文化だなと思いながら、私は大人しく食器を洗っていた。今日はペッシも会話に加わっているようで、からかって遊んでいるような笑い声が絶えない。何とも仲のいい事で、結構結構。ソルベとジェラートは相変わらず1人用の椅子へ2人で座っているし、リゾットは表情の変わらないまま話を聞き流していて、イルーゾォはすでに鏡の中だ。そうなれば実質騒がしいのはプロシュートとペッシな訳だが、雰囲気が明るいのか、全体がそう見える。

洗い終わったお皿は拭き上げて布巾の上に置いておく。適当に切り分けた無花果と生ハムを皿の一つに盛り付けて持って行ってあげれば、プロシュートが片眉をヒョイと機嫌よく上げた。

「ワインがもっといるじゃねぇか」
「今開けている物で最後ですからね」
「つれねぇこと言うなよ」
「明日も仕事なのでしょう?」
「二日酔いなんかならねぇよ、これぐらいじゃあな」
「あらまぁ、それはそれは」

でもダメですよ、と釘を刺して私はシャワーを浴びにいこうとエプロンを外す。2階にあるシャワールームへ向かいながら、私は困ったなぁと解決策を考えていた。

着替えに関しては、プロシュートのお下がりでシャツを何枚か貰っている為しばらくは困らない。しかし問題は下着の方。こればかりは自分で買いに行きたいが…さてそれを誰に言えばいいものか…。

今日の感触から言えば、リゾットならそれほど気にせず付いてきてくれるような気がする。ソルベとジェラートも別段気にしそうなタイプには見えない。ペッシは絶対顔を真っ赤にさせてしまうだろうし、何より女性用下着がある店なんて知らなさそうだ。プロシュートだったら品のいい店を知っているだろうけれど、趣味が合わないものを買い与えられそうという非常に勝手なイメージが先行して遠慮したい。イルーゾォは論外。一緒に食事をとる事も出来ていないのに買い物なんて、ましてや下着なんて無理だ。
となればここはリゾットかソルベとジェラートに頼むのがいい。断られればプロシュートに頼めばいいだろう。

うんうんと1人で満足しつつ、縁が割れたりヒビが入ってしまっているバスタブへ入り、シャワーカーテンを引く。そして思い切りシャワーのコックを捻った。ざばっと出てきたのは冷たい水で、まだ塞がり切っていない傷口にビリっと刺激を走らせる。あまりの唐突な痛みに驚いて思わず叫んでしまった。慌ててコックを逆に回して水を止めるが、ズキズキと増していく痛みに思わずバスタブへうずくまってしまう。

「何やってんだ、お前は」

上から降ってきた声はプロシュートのもので、見上げれば呆れた風に溜息を溜息をついて、口の端をあげていた。何も身につけていない私はより一層キュッと縮こまり局部が見えない様にするしかなく、恥ずかしさと情けなさと痛みでよくわからない心境だ。

「大丈夫です、水に驚いただけですから」
「そうか。なら痛み止めと新しい包帯はいらねぇよな?」
「…意地の悪いこと」
「ワインをもう一本開けてもいいってんならこいつを渡してやってもいい」

くつくつと喉の奥で笑いながら、彼は私の服の上に包帯と錠剤の入っているらしい瓶を置いた。そして代わりにバスタオルを手にとって、蹲っている私の片腕を引く。

「傷口がちゃんと塞がるまでシャワーは我慢しろ」
「そんな…」
「風邪なんぞ引かれちゃあ、たまったもんじゃあねぇ。ほら、早く出てこい」

ばさっと被せられたバスタオルで身体を隠しながら水分を拭っていき、大人しく包帯を巻く。痛み止めの錠剤は噛むタイプの即効性があるもので、1錠だけ服用した。がりりと奥で噛み砕けば、苦みと妙な甘みが口の中に広がり、飲み込むのがきつい味だなと涙が出そう。
ようやく飲み下した時に、ニヤニヤと笑っているプロシュートと目があった。

「…何ですか」
「いいや、中身までpiccola(おチビちゃん)だなと思っただけだ」
「ならそのpiccola(おチビちゃん)の素肌を見てニヤついている貴方は一体何なんですか?」
「ハッ!言うじゃあねぇか」

何が面白いのやら、大袈裟なくらい肩を震わせ笑う彼。漫画で読んだ時の印象ではもっと紳士的かと思ったが、実際はこんな程度らしい。昨日といい今日といい、少しばかり失望の念が募る。
一頻り笑って落ち着いたのか、口の端に余韻を残しつつも、プロシュートはいつも通りの無駄に整った表情へ戻していた。

「下着やなんかは明日俺と買いに行く」

必要だろ?と問う彼。

「…リゾットさんは…?」
「仕事だ。俺も夜には出るから寝坊するんじゃねぇぞ、piccola(おチビちゃん)」
「わかりました」

がっくりと肩を落として溜息を吐いた私を、彼はまた意地悪く笑い飛ばした。

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