夢小説「La mia utopia」 | ナノ


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保存用の瓶やタッパー、他にも家事に必要で足りてなかった物を一通り揃えると、もう昼はとうに過ぎてしまった。
昼食の準備が全くできていない事と、乾燥機に洗濯物を入れっぱなしな事が気掛かりで、私はリゾットの腕をとりあえず引く。

「早く帰りましょう。他の方達のお昼も作らなければ…」
「その前に少し話がある」
「え?」

ついてこいと人通りがない裏路地へ入ったリゾット。何となく嫌な予感がしなくもないが、きっと必要な事なのだろう。彼は無駄なことはしない性格だから。

ネズミが時折足元を通り過ぎるたび、私は大袈裟なほど肩をビクつかせてしまっていた。何しろ生きてきた中でああも大きなネズミを、しかも野生のどぶネズミを間近で見ることなど今までなかったのだから。

生ゴミの匂いが鼻につくようになり、三方向を壁に囲まれた場所へ辿り着いて、ようやく彼の長い足は止まった。万が一でも逃げられないようにする為なのかそれとも他の理由があるのだろうか。私には全く分からなかった。

「名前・苗字だったな」
「そうです」
「年齢は16歳」
「今は。この世界に来る前は24でした」
「チーム以外には16で通せ」
「わかりました」
「スタンド能力の使用は控えろ。使いどころはこちらで見極める」

それは困った。
できれば使い慣れておきたいと思っていたのに。

不満そうな私の心を察したのか、やれやれという風に一つ短く息を吐くリゾット。彼もそういう仕草をするのだなぁと、どこかずれた感想が思い浮かんだ。

「あの2人を戻した事に関しては感謝する。しかし他のものを我々が知らない時に戻されると困る」

なるほどそれは確かにそうだ。
例えば私が暗殺チームの天敵のような人物を生き返らせてしまうといけない、という事だろう。まだ信頼を勝ち取ってないのだから疑われるのも仕方がない。私はスタンドを使用する時は誰か他のメンバーの側でという条件をつけて、乱用しない事を承諾した。

リゾットは暫く黙り込み、やがて、恐る恐ると言った風に口を開く。

「最後に…これから俺たちのアジトで暮らすにあたって、組織には俺の娘という事で通す。間違っても苗字を使うな」

言われた内容は、あまりにも嘘くさくて、いっそ冗談だと言って欲しいくらいのものだった。全く予想していなかった事に、私はついつい笑ってしまう。

「リゾットさんの、娘?」
「そうだ」
「流石に無理があるんじゃあ…」
「…なら姪だ。要するにお前の身元がないまま引き入れる事が難しい。ならば作ってしまった方が楽だ」

これ以上の話はないとばかりに、彼は私の横を通り抜けて、この悪臭漂う路地裏を抜け始めた。私はそれに続いて大人しくついていく。頭の中はしっちゃかめっちゃかになっているが、荷物を全て持たせてしまっている身で迷子になるわけにもいかない。1人の時間になった時にじっくり考えればいい事だ。

今分かっていなければならないのは、次から私はネエロと名乗らなければならないという事だけ。それだけで暗殺チームに居座れるのなら、安いもの。元々家に執着がある訳ではないから抵抗も少ないし、何より嘘だとしてもリゾットと親戚だということは素直にテンションが上がる。これでようやくトリップ小説みたいな感じがしてきたなぁとしか思わなかった。

アジトに帰ってきて、リゾットはテーブルの上にどさりと紙袋を置く。その中には購入した物が入っており、やはり私1人ではとてもではないが運べなかっただろう。彼にお礼を伝え、私はまず昼食を急いで作った。ペペロンチーノを手早く作っていると、匂いにつられたのか、続々とメンバーが集まってくる。ペッシもプロシュートのお遣いから帰っていたらしく、腹が減ったとお腹をさすりながら階段を降りてきた。

「Grazie、名前」
「Prego、ペッシ」
「おーい、お前の分は?」
「先に食べてください、ジェラートさん。洗濯物しちゃわないといけないので」

そっかとあっさり頷いて、ジェラートはフォークをペペロンチーノへ差し入れた。ソルベをはじめとする他3人も黙々と口にしており、私はこっそりとほくそ笑む。イルーゾォはまたしても鏡の中にいるようで、リビングの姿見の前に置いた皿が気付けば無くなっていた。辛いものが苦手だというペッシに合わせて作ったパスタは、存外他の人達の口にもあったようだ。

私はそれらの光景を見届けてから、宣言通り地下へ降りて洗濯の様子を見る。すっかり乾いたそれらを端から畳んでいき、思い出せる限りで仕分けていく。下着に関しては全く見分けがつかなかった為、全部ひとまとめ。

リビングに戻れば皆もう既に食べ終えており、それぞれコーヒーやジュースを飲んで寛いでいた。丁度いいと思い、私は買った商品をガサゴソと漁る。

「皆さんの洗濯物、地下に畳んで置いておきますから、自分のものは持って行ってくださいね。あと、今後洗って欲しいものは私に言ってもらって、血とか汚れが酷くついたものはここに入れておいてください」

掲げたのはプラスチックのバスケットで、水洗いOKのもの。汚れものを他の普通洗濯と混ぜると何度も洗い直す羽目になってしまう。それは水も電気も労力だって無駄遣いになってしまうので避けたい。

面倒だなと小さく呟くプロシュートだったが、理由を説明すれば仕方がないと納得してくれた。実行してくれるかどうかはわからないが、そうしてくれることを祈ろう。

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