夢小説「La mia utopia」 | ナノ


▼ 12

イタリア含む海外は、洗濯物を基本的には外へ干したりしないという。

乾燥機能つき洗濯機が凄まじい勢いでガタガタ言うのを眺めながら、私は今日の昼食をどうしようか考えていた。何を作るにせよ、一度買い物に行かなければならないのは明らかだ。ペペロンチーノでも構わなければ1食分は何とかなりそうなものの、それをすると夕食がなくなってしまう。出費を抑える為にもスーパーより市場へ行くべきだろうけど、一人で行くのは少し危ない気がする。そもそも大所帯の食材を一人で持ち帰れる気がしない。であればだれか付き添いを頼む他ないが…さて誰に頼もうか。

まず一番最初に思い浮かんだ顔はプロシュートだけれど、彼に荷物持ちなんて頼めるだろうか。現実的じゃない。イルーゾォはまだ私と2人で出掛けるほど打ち解けてる人ではないから、そもそも選択肢には入れれないだろう。ソルベとジェラートはどちらかだけを誘うことはできない為、却下。2人も要らない。リーダーことリゾットには畏れ多くて頼めるはずもなく、そうなればやはりここはペッシに頼むのが現実的だろう。力持ちだし、優しい彼の事だからきっと緊張もしないはずだ。
そうと決まれば早速声をかけなければ。市場はお昼には閉まってしまう。

ちょうど洗濯から乾燥へ移行したのを見届けて、私は地下を後にする。リビングを覗くと、そこにはまだペッシがいた。プロシュートとリゾットが話していた側から離れていないだけだろうけれど、何かする事とか趣味とかないのかしら、なんてふと思う。

「ペッシさん」
「ん?なに、名前?」
「食材を買い足しに行かないとダメなので、その…もし用事がなければ付き添いをお願いしたいのですが」
「あ、うん、俺は構わないけど…兄貴、行っても大丈夫ですかぃ?」

ペッシがプロシュートにお伺いをたてるものだから、私もついつい彼を見つめてしまう。チラリとこちらを見たのち、ペッシに対して構わないとお許しが出た。
よかったと胸を撫で下ろした時、制止する声が上がる。声の主は感情の読めない黒い瞳をこちらに向けていた。

「俺が付いて行く」
「そうかよ。ならペッシは俺のお遣いに行ってこい。買い物リストは渡してやる」

俺は用事がある。
そう言うプロシュートの声を聞いて、ようやく私の思考は動き出した。

なんだって?リゾットと2人で買い物?
緊張で死んでしまいそうではないか!

かといって私から断る訳にもいかず、奇跡的にもアジトに存在していたエコバッグをペッシから受け取る。流石に今の血に染まった服では外を歩けない為、プロシュートからシャツを借りた。ベルトを腰で緩く纏めればワンピースみたいにも見える。荒業ではあるが暫くは乗り切れるだろう。これは身長がある程度低くなったからこそできる技ではあるが、同時にプロシュートとのあまりの体格差に愕然としてしまったのも事実であった。

玄関先に向かうと、そこには既にリゾットが立っており、その威圧感たるやプロシュートの比ではない。高身長から見下ろされれば、緊張感は更に増していく。服装こそラフなものに変わっており、あの特徴的な帽子…と言えばいいのか、それはなくなり、所謂普通の人に見えるが、あの黒目がちの瞳ばかりは変えようがなかったようだ。

「お、おまたせしました…」
「行くぞ」

きっぱりと告げられたものの、彼は私が戸を潜るまで私には重いであろう扉を片手で抑えてくれていた。こんな人でもレディファーストの徹底されたイタリアーノなのだろう。意外な一面を見たようで、少しだけ緊張がほぐれたのは行幸だった。

穏やかな景色の中まるで迷路のような町並みを進む。ようやく人通りの多い場所へ出たかと思えば、またすぐに路地裏へ。若干の小走りでついていけばもうどこを自分が歩いているのかは分からなくなってしまった。
ここで置いていかれるとまずいと、必死についていく事15分。ワイワイと賑わう露天立ち並ぶ大通りへ出た。幸いにも今日は休日で、道の市場が賑わうタイミングだったらしい。

「必要なものは遠慮なく全て言え。任せるとプロシュートから言付かっている」
「予算は?」
「基準がこちらでは分からん。今回を踏まえ次から決める」
「分かりました」

なるべく節約しよう。
彼らが薄給だという事もあるだろうが、おそらく金に糸目をつけぬ豪胆さを発揮しなければならない場面が多いのだろう。貯まるはずがない。
ならば私は最低限の中でやりくりし、その都度少しずつ貯金をした方がいいだろう。もしも何かがあった時の為に。

そう、もしも幹部の誰かが死んだら、金を納めリゾットを幹部にできるかもしれないから。

「ではまず野菜から買います!」
「ああ」

何はともあれ今は食からの健康管理が最優先だと気持ちを切り替えて、私は早速朝露で輝く野菜の山へ足を進めた。

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