夢小説「La mia utopia」 | ナノ


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反射的に受け取ってしまったカッフェを、俺は少し持て余していた。

「なんだあれは」
「名前だ。昨日連絡したろ」
「いや、それは分かっているが…」

つい先程のナイフを握りしめる姿は確かに俺を敵と見なし、恐怖し、生き延びる意志を感じた。だがそんな事はまるで無かった、いつも通りの朝だと言うかのような穏やかな姿に、こちらの脳がついていかない。普通なら少なくとも今日一日は怯え、俺の顔色を伺うか接触を避けるかするはずだが…

「飲めよ。冷めるぞ」
「ああ…」

そう急かすプロシュートはと言えば、カッテージチーズとベリーソースをコルネットにつけて頬張っている。こんな風に朝食をとるのはいつ振りだろうかと、皿に乗ったビスケットをコーヒーに浸す。確かこのビスケットはギアッチョの物だった気がするが…まぁ暫く任務で帰ってこないのだから、構うまい。

とたとたと地下室の方へ駆けて行く後ろ姿を見送って、プロシュートはようやく口を開いた。

「名前の事だが、かなり信じられねぇ事だらけだ」
「というと」
「異世界から来ただとか、実年齢が24だが身体は16とか色々だよ」
「どう見ても10やそこらだと思ったが…」
「気にするべきはそこじゃねぇ」

ジャッポーネは若く見えると聞いたことがあるが、なるほどそれは事実だったらしい。
気怠げに舌打ちを打つプロシュート。しかし俺としてソルベとジェラートを生き返らせたあの娘を、どうにかしようなどとは思っていない。むしろ何か恩を返さねばとさえ考えている。

「プロシュート、お前が面倒をみろ」
「それは分かってるが、ここでの扱いについてを相談したいんだよ俺は」
「ああ、なるほど」
「ポルポの試練を受けるとなるとあの便利なスタンドの存在を上に知らせる事になって、面倒だ。だが誰かの女にするには幼すぎる」
「そうだな…それについては俺が考えておこう」
「そうかよ。じゃあ頼んだぜ。俺は物置部屋をどうにかしてくる。あいつの部屋がねぇと困るだろ」

行くぞペッシ、と席を立つプロシュートは、初めてペッシを任せた日と同じような高揚感を滲ませていた。存外世話焼きな男だ。

緩くなったカッフェを一口啜りながら、名前の事について思考を巡らせる。
一番手っ取り早いのは組織に入れる事だが、ヤツも言ったように後々が面倒だし、この時期に新しい人材を引き入れるとなるとボスも何かこちらに監視をつけるだろう。それは避けたい。それに仮にその面倒を抱え込むとしても、彼女がポルポの試験をクリアするかどうか、怪しいものだ。プロシュートから一通りの概要を聞いたが、明らかに非戦闘型のスタンド。ポルポのスタンドに抵抗できるとは思えない。さらに根本的なことを言うならば、すでにスタンドを発現させている今、あの矢は必要がないのだ。

「…ふむ、となると思うつく方法は1つだな」

彼女に伝えて、何か他の方法があればまたそちらを検討すればいいか。
齧ったクッキーが口の中でホロリと崩れる。苦いだけのカッフェで流し込めば、思ったより穏やかな朝食になったなと肩の力を抜いた。

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