夢小説「La mia utopia」 | ナノ


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「おはようございます」
「おお」
「おはよう、名前」

冷凍庫に眠っていたブルーベリーとラズベリーを鍋でジャムにしていると、ソルベとジェラートが起きてきた。キッチンのワークトップに皿を2枚出して、クロワッサンを乗せる。牛乳をレモン汁で分離させて作るカッテージチーズに出来立てのジャムを添えれば、朝のワンプレートが出来上がった。カプチーノも添えれば完璧だろうけれど、あいにくエスプレッソマシンなんてここにはない。インスタントのコーヒーにお湯を注いで差し出せば、Grazie(ありがとう)と頭を撫でられた。

ソファにはまだプロシュートが寝転がっており、座る事は出来ない。仕方がないので私達は立ったままの朝食だ。
起きているだろうに、なぜ起き上がらないんだろうか。それともきっちり起きる時間も自分で決めているのかもしれない。下手に起こすのはやめておこう。

苦いコーヒーが苦手な私は、コーヒーにミルクを更に入れてもはやカフェ・オ・レ。砂糖も3袋入れてしまった。毎日これじゃあ節約にならない。明日からは水にしようと心に誓う。
時計が8時を知らせる頃、ペッシがようやく降りてきた。まだ寝ぼけているのか、おはようと柔らかく笑う彼のなんとまぁ可愛らしいこと。こちらまで笑顔になる。彼のお皿にはクロワッサンを2つ乗せ、チーズもスプーンに山盛り3杯入れた。いっぱい食べていっぱい大きくなるんだよ。
ペッシが降りて来るのと入れ替わりで、ソルベとジェラートは部屋へ戻っていった。

「名前、兄貴の分も用意してくれないか?」
「わかりました。ちょっと待ってくださいね」

綺麗なもので空いてる皿がなく、私は自分の皿を急いで空けた。きっちり洗ってふきんで拭きあげて、もう一度そこに朝食を盛り付ける。ペッシにはコーヒーを先に持って行ってもらった。

「Grazie、名前」
「おお!名前、このカッテージチーズ美味いよ!」
「Prego、召し上がれ。ふふ、気に入って頂けてよかったです」

牛乳を飲みながらカッテージチーズを食べるペッシ。牛乳の摂取しすぎでお腹壊さないかしら?
プロシュートは優雅にコーヒーを一口飲んで、クロワッサンを千切って口に入れていた。なんでも絵になるトクな人生だ、なんて少しばかり面白くない。

イルーゾォの分も用意しておこうと振り返ると、キッチンにある鏡から上半身が飛び出ていた。

「きゃぁ!」
「うぉ…っ!なんだよ…驚かせるな」
「い、イルーゾォさん…おはようございます…」
「おう」

貰っていくと言って残りのカッテージチーズが入った器にジャムを乗せて、更にそこへクロワッサンを乗せた。神経質な性格かと思ったが、全部が全部そういう訳ではないらしい。意外とワイルド。
昨日は直接手にとっているところを見れなかったが、今日は見れた。嬉しい限りで、また明日も美味しい物を作ろうとやる気が湧いてくる。

「さてと、後片付けの後は洗濯かしら」
「ついでにこれも洗って貰えるか?」
「あ、はい!そこの椅子に…」

失礼な態度だったかもしれないが、最後まで言う事は出来なかった。知らない人の声がしたと思い、咄嗟に手元にあったナイフを握りしめる。泥棒だったらどうしようと言う恐怖はあったが、意を決してちらりと肩越しに振り返った。

そこにいたのは無表情で黒目がちな、長身の男。
リゾット・ネエロ、その人だ。

「次はそのままナイフを使った方がいい。躊躇うな」
「わ、分かりました…」

黒い上着を椅子にかけて、その人はプロシュートの座る方へ行ってしまった。
未だにバクバクと激しく動く鼓動を押さえつけながら、深呼吸を2,3度繰り返す。まだ小刻みに震える手を叱咤しつつナイフを置き、昨夜も使った木箱を引き寄せて、洗い物を開始した。

怖かった。
ただ何を考えているのかが分からなくて、怖い。いつの間にこの建物に入ってきたのかさえ私には分からなかった。後ろに立つだけでこれほどの恐怖を与えられる人物は、そういないだろう。
あの目に見下ろされた時、メタリカを使っていなくても血圧が下がるような心地だった。まさに蛇に睨まれた蛙。呼吸さえ許されない気さえする威圧感だ。やはりこの個性的なメンバーを一手に纏め上げるだけの事はある。幹部として働いても、きっとうまくできる筈だ。

私は震えが漸く止まったのに一安心し、洗い終わった皿を拭き上げる。そこではたと気がつき、コーヒーにビスケットを添えてリビングのソファへと持って行った。誰が買ったのか、すでにビスケットの袋は開いていて、勝手に出して良いか分からなかったが、共有スペースに名前も書かずに置いてある方が悪いと一人で納得する。

「リーダーさん、どうぞ。お仕事お疲れ様でした」
「…Grazie」
「Prego」

愛想よく笑顔を見せるのも忘れない。学生時代の接客バイト経験は伊達じゃないのよ。
リゾットが素直にコーヒーを受け取ってくれてよかったと一人で喜んで、私は洗濯室へと向かった。9人分の洗濯が待ってるのかと思うと、少しばかり気合を入れないと。
外の天気は素晴らしく良く、気温も安定している。きっと今日中に乾いてくれるだろう。

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12/28


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