ミッドナイト・サン


 雲の間から零れる太陽の光に一瞬だけ視線を送り、鮮やかすぎるほど鮮やかなその紅の瞳は、目の前の黒い瑪瑙と淡く色付く燐葉石の元へと戻ってきた。
 此処、小さき町の外れでは、魔獣貸し屋ベラの魔の風を喰った馬アニマ≠スちが時折吹く風のような声を上げて、その美しい青毛を奔るたびに風吹く草原の如く緑になびかせている。
 イリスはアニマたちのいる場所から少し離れた処で彼らの声を聴きながら、ベラへと言葉を零してしまったかのように呟いた。
「太陽の光というのは美しいものね、いつも、いつも……」
「ん……どうしたんだい、いきなり」
「太陽というのは自分を傷付けて輝くものなんだって、そう天文学の古い文献に載っていたわ。だからなのかしら、朝焼けも夕焼けも、今も──太陽の光を見つめるのには痛みが伴うのは」
 言いながらイリスはベラの色違いの両目から視線を外すと、白光に照らされるアニマの方へと顔を向けた。
 その青毛が光沢のたてがみとなるさまは、さながら夜空に星が散るようである。
 イリスはその散らばる昼間の星を眺めながら、町中の夜空のように眩しくも暗くもない落ち着いた声で言葉を紡ぐ。
「生き物が魔獣となるのは、深い……深い傷を負ったときね」
「ああ、そう──らしいね」
「……傷口から水晶の光が零れるなんて、それはまるで──」
「え?」
「……いいえ、何でもない。ただ少し、酷い人間だと思っただけ」
 誰が、と問うベラにイリスは少しばかり口元を和らげると、陽を受けて水晶が舞うように見えるアニマのたてがみからベラの瞳へと視線を戻し、それから少し困ったような色を自らの紅に浮かべては、彼女の深い黒と淡い緑を見つめた。
「私は、太陽も魔獣も美しいと思う」
「……太陽は自分を傷付けながら輝く、だったかい」
「そう。私はその傷だらけの姿を美しいと思うわ、ひどく、ひどく──」



20170108
…special thanks
ベラ・クロウ @hasu_mukai

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