ナハトオイレの子守唄


「……どうにか一命は取り留めたが、快調に向かう兆しがあるかというと……いや、このままでは……出血が酷かった上に熱が高すぎる。下がる様子も見られないし、これが続くようなら──今は何とか持ちこたえているが、いずれオレハ婆は……」
 オレハが普段贔屓にしている薬師一家の長男が、オレハの眠る寝台の横で往診用の百味箪笥から様々な漢方や薬草を床に広げて唸った。
 彼によると、オレハの傷は男の刃に微かな躊躇いがあったようでそこまで深くはなく、しかし彼女の年齢や出血の量などを考えると、これから彼女の身体が順調に回復へ向かうとはとても考えられないらしい。
 イリスは苦しげに胸を上下させているオレハを見つめると、薬草を目の前に並べて何やらぶつぶつ言っている薬師の方へと視線を移す。
 薬師はいよいよその赤の瞳からも感情を読み取ることができなくなったイリスと目が合い、まるで死地へ飛び込むことにさえ一切の迷いもないような、そんな彼女の瞳の冷えきった熱の光に思わず身を固くした。
「……何をすればいい? 何が足りない? 何でもするわ、何処にでも行く」
「待てよ。もし上手く熱が下がったって、オレハ婆が目を覚ます保証はないんだぞ。それに、目が覚めたところでこれだけの高熱だ、何か後遺症が残るかもしれない……ただでさえ盲いてるのに、これ以上どこか悪くなったら……」
「このまま逝かせてやるのがいいって、あなたはそう言っているの? 何で……オレハはこんなに苦しんでるじゃない……!」
「可能性の話だ! だが目が覚めたら、オレハ婆は今よりもっと苦しむかもしれないだろう!」
 少しばかり語気を強めてそう言った薬師の言葉に、イリスは両の手のひらをきつく握った。そうして視線を落とすのと同時に、薬師の目の前に並ぶ薬草たちの近くに何か一枚の古びた羊皮紙が置かれているのが視界に映る。
 彼女は咄嗟にその書き付けに書かれている植物の名前その数と、薬師が自身の前に置いている薬草の数を比べてみた。紙に書かれている植物名は八種類、そして今此処に在るのはどうやら七種類のようである。
 彼女は顔を上げ、口を開く。再度の問いかけはひどく静かな、しかし有無を言わさぬものだった。
「何が、足りないの?」
「……分かってるのか、私たちは魔法遣いじゃない。それに、あんただって怪我を──」
「だいじょうぶ、私は運がいいから。何とかするわ、そのために此処に立ってる……そのための身体よ」
 それは全くの自嘲に等しかった。
 彼女は苦しげな呼吸を繰り返し続けているオレハの方へと視線を持っていくと、すうっと深く息を吸い込んだ。
 こんな呼吸を繰り返してまで、オレハは生きようとしている。オレハは今も生きようとしているのだと、イリスは心の中で確認するように何度も唱えた。
 そう信じたかったのかもしれない。
 どうかそうであってくれと、彼女は心臓の奥底でねがった。
 オレハへと向けていた視線を薬師へと戻し、握り締めていた両手を一度開いてはまた握り締める。先よりも強く、先よりも痛く。
 雲に覆われて虹の輝きを失った赤の瞳で、彼女は薬師の目を見た。目の前にいる人間の瞳がどんな色をしているのかはもう分からない。強く瞳の奥に焼き付くのは、煌めく紅水晶と、飛び散る鮮血の色ばかり。
 それから彼女の発した言葉は、一体誰に向けたものだったのだろうか。
「──約束したのよ、歩いた道を教えてもらうって」
 それはまさしくねがいであり、そして違わず確かに、呪いでもあった。


*



 商業都市〈ルナール〉から少しばかり西へと向かった処に、未だ青々と植物が生い茂る森林が在り、その森の奥にはかわたれの時代に造られたと思われる、巨大な庭園遺跡が存在する。
 森を深くまで進んでゆくに連れ、木々の幹は太く、根はまた複雑に絡み合ってはまるでここらの大地一帯を支配しているようであった。
 やたらに大きく育ってしまった植物たちの姿はどこか熱滞林の植物たちの姿とも重なり、ともすると植物のかたちをした魔獣──蝕物が何処からともなく襲いかかってくるのではないかという恐怖心さえ普通の人間だったら煽られる。
 実際のところ、この森には薬師がよく訪れるため、あちこちの木に魔獣除けの香が括り付けられ、時折交換もされているので、ほとんど皆無と言っていいほどこの森に魔獣は寄り付かない。
 ただ、それを知らない人間もこの森には寄り付かないのだった。
 馬を駆りながら、イリスは森を奥へ奥へと進みゆく。
 今まで生きてきた中で馬には何度も乗ったことがあるが、馬を駆りながらその速さに感嘆することはあっても、その遅さに苛立ちを覚えるというのは今回が初めてだった。と、いうよりは動物に苛立ちを覚えるということ自体がイリスには初めての経験だったのだ。
 苛立ちの原因は馬よりも速く、風の如くに駆け抜けるアニマのヴィアといつも共に奔っているからではない。
 何故こんなにも心の臓が煮えるのか、その原因は彼女自身がいちばんよく知っていた。
 木の根が伝い絡む煉瓦の迫持を抜けると、急に視界が開けて、紅の瞳を光がきつく刺してくる。それを自覚したイリスは馬から降りて、彼を適当な木の一つに繋ぐと、振り返って目の前にそびえる庭園遺跡を見上げた。
 石灰岩を積み上げて造られた巨大な楕円の半球の背後に、その遺跡自体よりも大きな樹が腰を下ろし、その根を楕円形の半球に絡ませ、さながら薬草園であるこの遺跡すらも自身の身体の一部としているようだった。
 しかし、薬草園とは名ばかりかもしれない。
 この根を張る半球の庭園遺跡の内部はゆったりと螺旋を描く長い回廊となっているが、部屋と呼べそうなものはその回廊の中心に在る、扉を持たない巨大な広間一室のみ。
 その広間にも植物は生えているには生えているが、それは床や壁の隙間から生えた外の森でも手に入る薬草、或いは窓代わりなのか建物の楕円形に沿うようにぐるりと空いたその無数の穴から伝い遺跡内に入ってきた巨樹の根そういったものばかりであり、とても薬草園と呼ぶに相応しいとは言えなかった。
 此処はコエロフィシス薬草園=Bコエロフィシスとは、中空なかたち≠意味する先人たちの言葉である。
 この遺跡の中には隠された薬草園が眠っている。
 オレハを担当する薬師はそう言っていた。その薬草園にはこの辺りでは自生していない植物が、未だに機能する前時代機構によってかわたれの時代からあやまたず育てられ続けているのだと。
 一説によれば、この遺跡を造った人間の子孫がその秘の薬草園に立ち入り、独自に機構の調整をして環境を保っているのではないかとも云われているらしい。
 薬師は付け加えた、ちなみにその子孫というのが私たちのことだ、と。
 その事実は、家系で或る一定の年齢となった長男のみに伝えられるが、長男である彼はまだその年齢に達していなかったらしい。しかし、病を患い死期を悟った父からその旨を告げられ、機構の調整の仕方は習ったが肝心の薬草園への入口を聞く前に彼の父は急逝してしまった。
 探しに行こうにも仕事が忙しくて薬草園はそのまま手付かずになっている。
 父が遺していた薬草の貯蓄が多かったから、しばらくはこのままで問題ないと踏んだのだが、時の流れと病人怪我人の入りは彼が思っていたよりもずっと速く、解熱に最もよく作用する薬草がついに先日切れてしまったらしい。
 その薬草は遠く南方で採れるもので今取り寄せているところだが、それを待っていてはおそらくオレハの身体が持たないだろう。
 しかし、コエロフィシス薬草園ならば。
 薬草園にはこの辺りで自生していない薬草が育てられている。おそらく目当ての薬草も育てられているはずだろう、いいや絶対に。
 薬師の言葉を思い出しながらイリスは遺跡に踏み入り、横幅も大きく取られた長い回廊を進んでいった。
「……番人……?」
 扉のない巨大な広間の中心には、前肢はそのままに後肢ばかりが伸びた、何か大きなとかげのような、或いは文献で見たことがあるばかりだが翼を持たない細身の竜のような生き物が一匹立っていた。
 広間には、無数に空いている穴から白い陽光と、外の巨樹の枝が入り込んでいる。
 イリスはその生き物を魔獣なのかとも思ったが、しかしその大蜥蜴が生き物ですらないことに気が付くと、その赤を微かに見開いた。
 差し込む光によって大蜥蜴の身体は金属質に反射し、ところどころの間接には何か人工的な継ぎ目のようなものが見える。イリスが身動ぎをすると向こうも微かに動き、それに合わせて歯車が軋む音が彼女の耳に飛び込んできた。
 あれは──あれは、機械人形か!
 イリスは逸る気持ちと厭に冷たい思考を抱え、問答無用で剣を抜く。
 蜂蜜の前には女王蜂、女王蜂の前には働き蜂が在るように、手に入れたいものの前には何かしら番人が在るものだ。おそらくこいつは知らぬ者が此処に立ち入らないよう制するために造られた、薬草園の門番だろう。
 薬草園の主ならばこれを止める方法も知っているだろうが、もう知っている者がこの世にいないのだから最早こうするより他はない。
 宝の前には鍵穴、鍵穴には鍵、鍵には番人と相場が決まっている。
 この番人である大蜥蜴の人形を倒せば鍵も手に入るはずだ。
 大蜥蜴の機械人形はこちらを攻撃してくるかと思えばそうでもなく、歯車を軋ませながら何度も何度も威嚇を繰り返すばかりといった様子だった。
 イリスは首を捻る。
 故障だろうか? いいや、それもそうだろう。これは前時代の遺物だ。こうして未だ動いているという方が珍しかった。
 しかし、壊れかけなら話は簡単だ。やはり自分は運がいい。
 これまでのイリスでは考えられないような冷たい光が、虹を纏う電氣石の輝きを失った鮮紅の瞳に浮かび上がった。
 彼女は素早く機械人形との距離を詰めると、魔獣の男と対峙したときとは別人のように、何の躊躇いもなくその刃を大蜥蜴の首に向かって叩き付ける。刃と金属質の躰が触れ合い、耳を掻き毟るように嫌な音を立てた。
 彼女の瞳に分かり易く焦りと苛立ちが浮かぶ。
 イリスは刃を部品の一つに引っ掛けたまま、今度は踵をからくり蜥蜴の背に向けて思い切り叩き付けた。
 そのようにして無理やりに機械人形の動きを止めると、それを石灰岩の地面へと転がし、その腹から機械人形を動かす動力となる、一般に竜核≠ニ呼ばれている球体を抜き取った。
 機械人形から、ぼんやりと淡く光る竜核と取り上げ立ち上がったイリスは、からくり蜥蜴が鍵となりそうなものを有していないことにはたと気付き、辺りを見回す。
 それから手に有る竜核を見つめると、或いはこれが鍵なのかと検討をつけて薬草園への入口を探すべく振り返った。番人がいるのだからおそらくこの広間の中に在るはずだ。
 そう思って広間をぐるりと見回す彼女の瞳に映ったのは、しかし薬草園への入口などではなく、何か閃く白のようなものだった。
「──つまらんな。そんなものか」
 低く静かな声が広間に響く。
 いつから立っていたのか、声の正体は広間の入口近くの壁に背を預けては腕を組み、ほんとうに心底つまらなそうな様子で冷えた視線をイリスの方へと送っていた。男である。
 背丈は高いが細身、うねる髪は黒、反面纏うローブは白──強く感じるのはその程度で、何故か今は視界に靄がかかっているかのように何もかもがおぼろげな灰色に見えた。
 瞳は何色だろう、顔にも靄がかかっていてよく分からない。
 どこを見たら正しいのかが分からないイリスは、男より少し横の虚空を見つめた。
 男は背を壁から剥がすと、軽く鼻を鳴らして呟く。
「君は、俺の知っているハンターなら嫌がるたちの人間だな。自らが踏み入れる場所に敬意を払わない──まあ、俺も人のことは言えないが」
「……あなた、誰」
「人に名前を訊くときは自分から名乗るものではないのか?……それにしても随分景気よく壊したものだな。だが君、目当てはその竜核ではないだろう。一体、こんな処で何を探している?」
「……この遺跡の何処かに隠されているという薬草園を探してる」
「やはりな。つくづく笑えない」
 今のイリスの瞳には映らないが、男の瞳は深い青色を宿していた。
 男はその青に冷たく閃く光を浮かべると、こつこつと靴音を立てて広間の入口から回廊の方へと出ていく。
 広間から出て、たった数歩をいうところで男は立ち止まり、それからイリスの方を振り返っては、その背後に無残に転がっているからくり蜥蜴へと視線を向けた。
「手荒だな、いつもそうか?」
「今は手段なんか選んでいる場合じゃない、早くしないとオレハが──敬意なんて、そんなもの……」
「べつに俺は、人間の造ったものに敬意を払えなどとは一切言っていない。君のやり方は俺の知っているハンターが嫌うだろうという、ただそれだけの話だ。
 それに、この遺跡に敬意を払う必要があるか? 君も外の植物は見ただろう、此処は明らかに異常だ。地下の薬草園はよくできていると思うが、それにしても外の様子がこれでは対価があまりにも大きすぎる。まあ、使えるものは使うがな」
 言いながら男は床を見つめ、手段を選べない状況にあると言っていたな、とイリスに向けて答えを求めない問いを投げかけた。
 それから男は微かに周りの床石と色が違っている、周りより少しくすんだ白をした一つの床石の前にしゃがみ込むと、そこに在る小さなくぼみに手をやってぐっと持ち上げる。
 男はその青い瞳で怯むことなくイリスの赤い瞳を見た。
「それでも俺ならこの程度の仕掛けは見抜ける。俺じゃなくとも、目が見えてさえいればな。もう分かっていると思うが、あの機械人形は囮だ。──目は見るために付いているはずだが、君の目はお飾りなのか?」
 そう言い捨てると、床石を持ち上げることによって現れた地下へと続く階段へ彼は降りて行った。
 イリスは半ば呆然としながら引き上げられた床と、それから自身が壊してしまった機械人形へと視線を向ける。
 手にした竜核が心臓のように脈打つ錯覚さえ感じ、それを自覚した途端吐き気のようなものが胸を上った。核を取りこぼし、イリスは膝を突いて口元を押さえる。
 ──今、一体わたしは何をしていた?
 金属でできた大蜥蜴の身体に降り注ぐ陽光が、視界の隅でちかちかと白い粒を振りまいていた。それすらおぼろげな輪郭と色しか持たずに瞳に映り、そしてすべての形と色は紅水晶と鮮血へと帰結する。
 イリスは痛みすら覚えるほどに熱い息を、地面へ向けて吐き出した。
「もう何も見えないわ、オレハ……」
 小刻みに呼吸を繰り返しながら吐き気が治まるのを待っていると、先ほど床を叩いていたのと同じ靴音が階段を上って戻ってくるのを彼女は聞き取り、はっとして顔を上げた。
 男の方はいつまで経ってもイリスが下りてこないことを怪訝に思って戻ってきたのだが、彼女が青白い顔をして口元を押さえているのを見ると、今のイリスにはよく分からなかったが彼は少しばかり驚いた顔をしていた。
 それから呆れたように溜め息を吐くと、彼は再びその月白色のローブを翻す。
「体調が悪いなら下に来ればいい。薬草なら腐るほど在るからな」


*



 コエロフィシス薬草園の地下は、水を適度に含んだ涼しい風が心地好く吹いては大小様々な緑を揺らし、少し辛くも感じる香りが空間に充ち満ちている、まさに薬草たちの園だった。
 階段をすべて下りた先に在ったのはまた階段で、今度の階段は一段一段が薄いが恐ろしく横に広く、そしてその延々に続く階段の一段一段どれもに分類された薬草たちがそれぞれ規則正しく植えられていた。
 緑の階段その一段一段には必ず、透明で巨大な貯水器のようなものが備え付けられており、薬草の植わっている土を触ると少しばかりひんやりとしている。
 イリスは先ほど男から放り投げられた水筒の中に入っている香茶を口に含むと、鼻を抜けるその涼しげな香りに気持ちを落ち着けられるのを感じながら辺りを見渡した。
「辛口ね、この香茶」
「連れが淹れる。やたら辛いが目は覚めるだろう」
「そうね……少し頭に血が上っていたわ。何だかよく目も見えないし」
「人間、寝不足なら大抵はそうなるものだ。そうでないなら眼鏡を掛けることだな」
「ああ、あなたも辛口なのね」
 それを聞くと男は皮肉っぽく口角を上げて軽く笑うと、近くに生えている薬草を幾つか採ってイリスに手渡した。それが解熱作用のある薬草だ、と呟きながら渡された一房を、イリスは片手で取り、顔の前まで持ってきて眺める。
 輪郭がぼやけてよくは見えないが葉は尖り、濃い緑をしている。手のひらに伝わる感触は少しばかりざらつき、あまり長いこと触っていると手が痒くなりそうだった。
 この男に渡されたときからこれだという確信は何故かあったが、その思いは裏切られることなく、この薬草は薬師が言っていた条件にも一致している。
 イリスは男に礼を言うと、彼は今度は違う場所から何やら葉っぱを一枚採ってきて、それもイリスに手渡した。
「眠る前、何か茶にでも浮かべて飲むといい。どんなに嫌でも泥のように眠れる。俺は連れに仕込まれたことがあるが、あれはほんとうに最悪だったな。腹が立つくらい爽やかな目覚めだった、丸一日泥になっていたのだから当たり前だが」
「ありがとう。……でも、眠る気なんてあまり……」
「眠らなければその目はきっとお飾りのままだぞ、イリス。薬のことなど薬師に任せてさっさと寝てしまえばいいだろう。使うべきときに使えん目など一体何の意味がある?……連れに盛られた俺が言うのも何だがな」
 不意に名前を呼ばれてイリスは目を見開いた。
 そうして自分の名を呼んだこの男の顔をよく見ようとしてみても、瞳に映る輪郭や色は灰色がかってぼんやりと曖昧な姿をしている。
 だが、この男は誰かに似ていて、そして誰かが欠けていた。それだけは分かる。彼の隣に在るべき者が、今はいないような気がどうにもイリスにはするのだった。そしてその答えを、自分自身どこかで分かっているような……
 渦巻く思いを押し止め、何故名前を、と口を開きかけたイリスに男は呆れたような顔をして、急いでいるのだろうとだけ言った。
 その言葉にイリスははっとして一歩下がり、朧月のような彼の輪郭をしばし見つめてから、意を決したように振り返って素早く来た道を駆け戻っていった。
 その様子を見届けると彼は薬草園の地面に座って、胡坐を掻いたその膝に頬杖を突いて溜め息を吐く。それから皮肉に片方の口角を上げて、その唇から笑いを洩らした。
 彼のその姿はどこか、陽気な梟の笑い声を上げる、老錬金術師の姿に似ていたかもしれない。
「──知っているさ。だって君は、俺の風と踊っただろう」



20170328

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