ひどく嫌な夢を見て目が覚めた。
その日はどんよりと曇っていて、今にも雨が降りそうで。
起きてから暫く経ってもモヤモヤして。
どうしても気になって、あの人の部屋へ向かった。
「サイちゃん?」
とんとん、と扉を叩いて、呼び掛けた。
なかなか返事が帰ってこなくて、一気に不安がつのる。
まさか、本当に、夢のとおりにーー
「何ィ〜?」
気の抜けた声。
サイちゃんが、顔を覗かせた。
ほっと安堵した。
「姫様じゃん。どうしたんですかァ」
顔が見たかっただけ、と曖昧に笑うと、
不思議そうにサイちゃんが首を傾げる。
よっぽどぎこちない笑い方だったのかな……
「…何かあった?」
俯いていると、サイちゃんの両手が、タオの顔を包んで。
「あのね、嫌な夢を見たの」
「ハァ、夢?」
「サイちゃんが突然居なくなっちゃう夢」
ふっと、消えるように、居なくなった。
何処を探しても見つからなくて、途方に暮れて、座り込んで泣いた。
「……夢、だろ?俺は此処に居るぜ?」
その手の温かさを、確りと感じる。
「そうなんだけど…でも、サイちゃんって、いつの間にか急に居なくなりそうで…タオ、時々不安なの」
サイちゃんはいつも賑やかで明るいけど、たまに体調を崩して塞ぎ込んでしまうことがある。
……いつまで生きられるか分からない、と、聞いたこともある。
そんな風に落ち込むサイちゃんを見てるのは辛いからーーいつも、励ますのだけれど。
本当に「その日」が来たら。
サイちゃんがタオの前から居なくなっちゃうことを想像しただけで、目が潤む。
「大丈夫だから、姫様」
小さい子に聞かせるみたいに、サイちゃんは言った。
「絶対、離れて行ったりしねェよ。……俺は、ずっとアンタのものだから」
涙を拭ってくれたサイちゃんは、いたずらっぽい顔をして。
「なァんか、いつもと逆じゃね〜?姫様がそんなこと言うのって珍しい。よっぽど離れたくないんだ、そんなに俺が好きなんだ…?」
……すき、だけれど。
とても恥ずかしくなった。
「……変なこと言ってごめん、ね」
「いや?嬉しかったけどさァ」
真っ赤になっているだろう顔を覗き込んで、ふっ、と笑うサイちゃんにとてもどきどきした。
「答えは?」
「え…」
「さっきの答え。居なくなる夢見ただけで泣いちゃうくらい、俺の事好きなの?」
さっきまでの優しさは何処へやら。
意地悪な、いつもの調子のサイちゃんだ。
「ね、姫様」
耳元で囁かれて、くすぐったい…。
「……好き。大好きだよ」
タオがやっと言うとサイちゃんは、
まるでとろけそうに、嬉しそうに、また笑った。