報せは思ったよりも早い形でやって来た。
ティニティアもシャンナムカも、提案を受け入れ、密かに対テルアに向けて同盟を結ぶという。
「やったな!まずは初めの壁を乗り越えた。これで兄貴達も迂闊に侵攻する事は出来ないだろう」
「ここからどうするんスか?」
「もう一度俺が兄貴達に掛け合ってみるよ。馬鹿なことはやめて、和平の道を歩もうって」
「果たして聞き入れて貰えるんスかね?」
「…簡単じゃないだろうけど、やるしかない。その覚悟はあるよ。幸い味方も居るしな」
エリヤの隣の少女が、ぺこりと頭を下げた。
薄桃色のベールを被り、踊り子のような服を着ている。長い髪を三つ編みに後ろで結い、辺りにふわりと柔らかな空気を纏ったような、神秘的なーーエリヤ曰く、「神子」だという。
「ミリアムと言います。私もここ最近のテルアの不穏な空気には危機感を持っています。…ひと月ほど前。神様が、テルアの暗い未来をお示しになったのです。そしてその月の十六夜に…もう一つの声を聞いたのです。西より、使者が訪れ、光の道を指すと。それがきっと、あなたたちなのですわ」
「ミアは預言者みたいなものなんだ。本人によると神様からの声を聞いて、それを皆に伝えているらしいんだけど…。俺とは以前から知り合いで、今回の件についても幾つか協力をしてもらった。心強い仲間だよ」
ミリアムが微笑む。しかし、すぐに顔を曇らせた。
「アスカ様は…取り憑かれたように、勢力の拡大を唱っておられます。あのままでは、大切な物を全て失い、壊れてしまいます。私は、そんなアスカ様を見たくない。この国とともに、アスカ様も救いたい…」
こちらまで胸を締め付けられるような、悲痛な表情だった。
「…一応、婚礼の儀は明後日ということになってるけど…兄貴の反応如何に寄っては、君達がこのまま此処に留まるのは危険かも知れないな…」
「姫君を人質にする可能性もありますしね」
「えええっ!」
「明日の晩、帰りましょーか。分かんないようにコッソリ」
「それが良いだろうな。警備が手薄な場所を知ってるから」
「私も知っていますわ」
「今日もそこから入って来たんだもんな、ミア」
案内のためユエラン達は連れられ、部屋にはシャオリー、ルチルが残った。
「ルチルちゃんともお別れね。寂しいなあ」
「……ん」
「だけど、平和に事が進めば、またきっと会えるわ。私、エリヤを信じてるから」
「……うん。また一緒に遊んでね」
「もちろん!約束よ」
次の日の晩。
それぞれが馬に乗り、城を後にする事となった。
シャオリーは慣れていない為に、ユエランの馬と一緒に乗る事になった。早速ルアンが突っ掛る。
「ちょっとあんた、しっかりシャオリー様を守ってくれるんでしょうね〜。万が一何かあったら承知しないスよ」
「…君に言われなくても分かってますよ。そちらこそはぐれて迷子にならないよう気を付けて下さい」
「御忠告どーも!!」
「…ユエランといっしょなんて…」
シャオリーがため息をついていると、エリヤが歩み寄ってきた。
「シャオリー!どうか気を付けてな」
「ええ!そっちこそ」
「ああ、ありがとう。賑やかだったのがまた静かになるな…ルチルも君と友達になれて本当に嬉しそうだったよ」
「ふふっ、また会う時はあなたたち結婚してたりしてね?大事にしなくちゃダメよ」
「…そうだ。あの時の話だけど…君は、ひょっとしたら…」
「え?」
「シャオリー様!そろそろ出発スよ」
ルアンが手招きする。
「あ、はーい…エリヤ、何?」
「いや、いいんだ。また会えた時にでも言うよ」
「そ、そう?」
なるべく慎重に、素早く裏手から抜け出す。
最後まで見送りに来たエリヤ達に手を振り、別れを告げた。
馬には、シャオリーが前に乗り、その後ろでユエランが手綱を引く。
思いの外近い距離に戸惑っていることを悟られないようにと、何故か必死になってしまう。
それが逆に体を強張らせ、途中で何度も、しっかりと前を向き姿勢を保つように注意された。
翌日。
シャオリー達が忽然と姿を消し、「どうしたことか」と臣下たちがざわつく中、エリヤが事の真相を告げたーー。