「ん...」

重たい目を開けると見慣れない景色が広がっていた。

(ここは...どこだ)

体を起こすと気怠さはあるものの体には痛みはない。

ふと違和感を覚え、右手に視線を向けると見ず知らずの女が自分の手を握っていた。

驚きのあまり手を乱暴に引き抜く。

状況に頭がついていかず目を見開いたまま固まっていると、女が目を覚ました。

『あ、寝ちゃってた。起きたんですね』

そう言って微笑む彼女に眉間のシワが深くなる。

「貴様は誰だ」

ギロリと女を睨み付けると、小さく女の身体が跳ねた。

『え?英語?!えっと...I can't speak English』

そう言うと彼は無表情のままベット脇にある自分の杖を振る。

呪文と共にリナの体の周りを白い光が包んだ。

「貴様は何者だと聞いている」

突然の出来事にリナは驚いた表情を見せたものの、言葉が通じた理由はあえて聞かず不服そうにリナは口を開いた。

『....貴方が首から血を流して倒れていたから看病しようと思ってうちに連れてきたんです。怖いからそんなに睨まないでください』

怯えながらも心配してこちらを見る表情にどうしたらいいのかわからなくなる。

しかし彼は今しがたの彼女の言葉を思い出し、目を再び見開いた。

(そうだ、私はナギニにやられて.......確かに死んだはずだ)

周りを見渡すと自分の国とは違いすぎる光景に言葉を失う。

「今は何年...いや、ここはどこだ」

『日本です。』

「日本?私は...死んだはずだ」

そういう彼にリナは今までの経緯を説明した。

彼は固まったまま動かない。

リナはどうしたらいいかわからないことと、居心地の悪さから部屋を後にした。

彼はリナが去ったのにも気がつかないほど、呆然としていた。

ーー確かに私は死んだはずだ。

しかし女が言っていた発見場所と今の状況が記憶に一致しない。

ましてや私が無傷だと?

どうなっている...。

ここが死後の世界でないことは実証済みだ。

手のひらを捻った時、確かに痛みがあった。

ならば現実と考えるしかない。

日本という国は知っている。だが先程聞いたこちらの日にちと私が死んだ日にちが合わない。

考えれば考えるほど混乱していく。

どれほど時間が経っただろう。ふと嗅ぎ慣れない臭いが鼻を刺激した。

腹の虫が盛大に悲鳴をあげる。

女は2つの皿を持ってくると、『考えるより先ずは落ち着きましょ』と言って、私の目の前に見たこともないグロテスクな食べ物を出してきた。

「....正気か?」

『なにが?』

「貴様は排泄物を口にするのか?」

そういうとリナはポカンと口を開けた後、大きな声で笑った。

「あーごめんなさい。これはカレーという食べ物でスパイスが入っているからこんな色だけど味は保証しますよ」

そう言って楽しそうに笑う彼女をみた後に、見たこともない食べ物に再び目を落とす。

確かに匂いは悪くない。

恐る恐る口にすると意外にも刺激があって美味しかった。

無表情な彼を見てクスリと笑うと『私はリナ。日本人です』と言って私の目をまっすぐ見てきた。

東洋人には珍しい猫のような大きな目。特別美人と言うわけではないが.....顔は整っている方だろう。しかし彼女の瞳は不思議な色をしていた。

しばらくの沈黙ののち「セブルス・スネイプだ」と小さく答える。

リナは満足そうに笑った。

「外人なのに黒髪黒目って珍しいですね。身長高いから手持ちの服合うかわからなかったけど、どうにか入ってよかった」

そういうリナの言葉に違和感を覚えた。

恐る恐る自身を見てみると手足のサイズ感が合ってない洋服をまとっていた。

「.....私の服はどうした?」

無表情は変わらないものの目がかなり動揺していた。

『血だらけの泥だらけだったので全部脱がして洗ってます。さっき使った木の棒はよくわからなかったからベットにーー』

「見たのか?」

『そりゃあ見なきゃ洗えないです』

カチャンとスプーンが落ちた。

相当ショックを受けているようだ。

リナは申し訳なさそうに笑った。

『ごめんなさい。不衛生なままだと細菌感染とか起こしそうだと思ったから。結局傷はなかったんですけど』

「...貴様は女としての恥じらいがないのか」

ムスッとしながらカレーを口に入れるスネイプさんをみてリナは苦笑した。

『悪かったとは思いますが26にもなると恥じらいより人命を心配してしまいまして』

「26だと....?」

『26です』

せいぜい20くらいかと..とボソリと呟かれた。

リナはまた苦笑する。


『あなたは?』

そう聞くとスネイプは眉間の皺を増やす。

『私だけ教えるのはフェアじゃありませんよね』

そう言ってニヤリと笑うとスネイプは舌打ちして、「37だ」と言った。

表情に似合わず意外と素直だった。こんなに分かりづらい人は初めてだ。

『そうだったんですね。じゃあ職業はマジシャンとか?』

「マジシャンが何かは知らんが、私は魔法使いだ」

『まさかあ〜』

そう言ってリナが笑うと不機嫌そうに「これだからマグルは」と呟く。

『マグル?』

「魔法を使えないもののことだ」

『へー......ねぇ!何か使ってみてよ!』

フンと鼻を鳴らすと彼は勿体ぶった口ぶりで杖を振り「ウィンガーディアムレビオーサー」と唱えた。

するとリナの身体が宙に浮いた。

『えっうそ?!』

同様する彼女が面白くてスネイプの口角が上がる。

「この魔法は軽いものほど容易で、重いものほど難易度が上がる」

『魔法使いってほんとだったんですね。凄い.....スネイプさんは凄い魔法使いなんですか?』

「......凄くはないが魔法学校の教授をしている」

『教授?!』

「.....なんだ」

『凄いんですね!教授だなんて』

カッコいいなあ、そう言う彼女の言葉に不思議な気持ちになる。

決して不快ではない気持ちだった。

自然と頬が上がる。

「............................もし貴様が学びたいと思うのなら教えてやらないこともない」

『え?』

自分の発した言葉にハッとしたように口元を抑える。

馬鹿馬鹿しい。今日の私はどうかしている。そう思って言葉を発しようとしたら『教えてください!』と瞳を輝かせながら手を握られた。

顔の近さにリナの肩を乱暴に後ろに押し返す。

一瞬びっくりしたような顔を見せたが、不器用だなあと呟きながら微笑む彼女に、スネイプはなんとも言えない気持ちになったのだった。




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