ふたりのすれちがい
話し合いがお開きになった後、女子部屋に来たあたしたちは寝支度をはじめた。
上着を脱いで、ベッドに倒れこんで。
背中ガチガチのエアリスのマッサージをして、あたしもついでにちょっとだけやってもらって。
ちょっとはしゃいでたけど、でもやっぱり…慣れない旅は疲れた。
あたしたちはわりとすぐ、全員横になったと思う。
「ナマエ、エアリス…寝ちゃった?」
横になってしばらく経った頃、ティファの控えめな声がした。
「ううん、ギリギリ」
「んー…夢とうつつ…半分?」
どうやらエアリスもまだ起きてはいる様子。
あたしもうとうとだけど、まだ何とか。
ふたりが起きていることを確認したティファは、そのまま話を続けた。
「クラウド…この5年間、どこで何をしてたのかな」
「それ、私たちに聞く?」
「うん…さあ、としか言えないかなあー…」
返答に困った。
ニブルヘイムの事件があってから、クラウドが何をしていたか。
そんなの、ミッドガルでクラウドと出会ったあたしやエアリスが知るわけがない。
いや…でも、エアリスの場合だと、そうとも言えないのか…?
ティファもどうやら、そう思ったからの質問だったらしい。
「エアリスは、なんでも知ってるのかなって…」
「…知ってたんだと思う。でも、取られちゃった。…消されちゃった?」
エアリスは静かに答えた。
取られちゃった。
消されちゃった。
どこか自信がなさげなのは、きっとエアリス自身もよくわかっていないから。
あたしは思い出していた。ううん、きっとティファも。
神羅ビル…。エアリスが幼少期に過ごしたと言う部屋の中で、エアリスの周りに渦巻くフィーラーの中から、あたしとティファは彼女の手を引いた。
「フィーラーに?」
「たぶん」
「そー…なんだ」
ティファの問いかけにエアリスは頷き、あたしもやっぱりそうなんだ…と小さく頷いた。
ああ…まずい、ちょっとうとうと。
でも聞きたい。
この話は聞きたい。
密かに睡魔と戦っていると、ティファが小さく呟く。
「私も、取られたのかな」
「…うん?」
「なにを?」
あたしとエアリスは聞き返す。
ティファも取られた?
フィーラーに?何か?
ティファはゆっくりと、その何かを語る。
「私の記憶では、5年前…クラウドはニブルヘイムに来なかったの」
「へっ…」
間の抜けた声が出た。でも逆に、目は冴えた。
あたしはその勢いのまま、思わずガバッと飛び起きる。
クラウドが、ニブルヘイムに来ていない…?
エアリスも体を起こした。
ふたりでティファを見れば、ティファはあたしたちの顔を見て小さく頷いた。
今のですっかり目が覚めた。
いや、それくらいの破壊力だった。
その後、ティファはクラウドと話をしてくるとひとり部屋を出ていった。
残ったあたしとエアリスは、ふたりで少し話をしていた。
「ナマエ、どう思う?」
「ど、どうって…いや、どゆこと…としか」
「うん、まあ、そうなるよね」
さっきの話。
クラウドは普通に過去のことを話していた。
それにそれは、ティファの記憶とも合致していた。
村を焼き、村人の命を奪い、何かに狂った…セフィロスの過去。
なのにクラウドはニブルヘイムには来ていない。
いやいや何をそんな馬鹿なー、と思うけど…。
でもあたしはティファがそんな嘘をつく人間じゃないと知っている。
なんなら、この一行の中であたしが一番わかってるとさえ言いたい。
「ティファは…そんな嘘つかないよ」
「うん」
「でも、クラウドのことも…あたしは、疑ったりしてないと思う…。うん、疑ってない」
「両方、信じてる?」
「うん、ふたりとも、信じてる」
尋ねられ、ちゃんと頷けた。
うん、そうだ。
きっとあたしの中での答えは、きっとそれ。
あたしは、ティファもクラウドも大好き。
だからふたりとも、心の底から信じている。
でも、そうすると…どうしても矛盾が生まれてしまう。
「うーん…何か、多分、何かあるんじゃないかな。それこそ、ふたりとも知らない何か。かみ合わない原因。見えてない真実というか」
「うーん、難しいね。でも、ナマエはそう、信じてるんだよね?」
「んー…だって、さっきも言ってたけど、あたしたちセフィロスのことも…いろんなこと、まだ全然わかってないし…。とりあえず、どっちかが嘘とか、そういう気持ちはないよ。今は、それが一番の気持ち、かな」
「ふふ…そっか!」
エアリスは微笑む。
そして立ち上がると、あたしのベッドまでやってきて、腰かけてむぎゅっと抱き着かれた。
「エアリス?」
「ふふふっ、私、ナマエ好きだなーと思って」
「え、やだ、何それ照れる。あたしもエアリス好きー!」
「きゃーっ、あははっ!」
「えへへっ!」
ふたりでじゃれて、きゃいきゃいはしゃいでた。
そんな時、廊下から足音が聞こえてくる。
あ、ティファ、帰って来たかな?
そう思ったけど、足音は部屋の前で止まって、中に入ってこない。
ううん??
あたしとエアリスは顔を合わせる。
すると、廊下から声が漏れて聞こえてきた。
「私達、幼馴染みって言うほど、仲良しじゃなかったよね」
「…かもな」
「…再会が嬉しくて、はしゃぎすぎたかな」
ティファと、クラウドの声。
そしてその直後、扉が開いてティファが入ってくる。
その顔は…まあ、御機嫌…とは程遠い。
「あ、ティファ、おかえりー」
「おかえりなさい」
「…ただいま。ごめん、疲れちゃった、もう寝るね」
あたしとエアリスはいつものトーンで声を掛けたけど、ティファは沈んだ表情のまま、布団の中に戻っていく。
こ、これは…。
クラウド…やらかした…?
あたしは不穏さを覚えながら、男子部屋のある方の壁を見たのだった。
To be continued
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