5年前の記憶



5年前のニブルヘイム。
ティファをガイドに迎え、魔晄炉調査に出向いたクラウド、セフィロス、2名の神羅兵。

魔晄炉は村の奥にあるニブル山の中腹にある。

その道のりは険しく、途中、悪天候に橋が崩れ、川に落ちたこと。
兵士がひとり流され行方不明になってしまったこと。

辿り着く前でにもいくつかトラブルがあったようだ。





「橋、崩れて川に落ちたの…?うわあ…」

「うん…私は、セフィロスに助けられて…」

「俺は兵士をひとり助けた。でももうひとりいた兵は、助けられなくて…流されてしまった」





聞くと、ふたりはその時のことを苦々しく語った。

魔晄炉にあと少しで着くというところでの出来事。

クラウドたちを休ませ、セフィロスはひとり、流されてしまった神羅兵を探しに行ったけど、結局見つけることは出来なかったらしい。
あいつの運に期待しよう。セフィロスはそう言葉を掛けたと言う。

橋から落ちてしまったことで、ティファも魔晄炉までの道はわからなくなってしまった。
しかし任務を放棄するわけにはいかず、ティファをひとりで村に帰すわけにもいかない。

セフィロスの判断でティファも引き続き同行させ、一行はそのまま、魔晄炉を目指すことになったと言う。



…しっかし、ここまで色々聞いてると…。
あたしはちょっと、疑問を覚える。





「あのー…なーんか、こんなこと言っていいのかわかんないんだけど…ちょっと色々イメージしてたのと違うと言うか…」

「おう、わかるぜ、ナマエ。セフィロスのことだろ」

「うん…」





どうやらバレットも同じ疑問を抱いていたらしい。

だって、因縁の話…だよね、これ。
でもそのわりにはさっきから聞く話のセフィロスは…。





「…なんか、いい人…だよね?」

「おう。さっきから聞いてればよ、セフィロスはずいぶんと御立派でいい奴に聞こえるじゃねえか」

「実際、その通りだった」





クラウドは否定しなかった。
セフィロスは人格者で、いい人…ってこと?





「星の敵じゃねえか。悪のカタマリだろうが!もっと憎くて憎くて、怒りが爆発しそうな話をくれよ!」





バレットはストレートだ。

そりゃま…確かに気になるのはそこの部分なんだけど…。

ティファは俯いた。
本当なら、憎くて憎くて怒りが爆発しそうな記憶なんて…思い出したくないだろう…。





「…ああ、そうだな」





クラウドは小さく頷く。

そして、話は再開される。
次は、無事に魔晄炉についてからの場面だ。

魔晄炉は神羅の関係者以外、立ち入り禁止。

ティファは兵士と共に外で待たされ、中にはセフィロスとクラウドのみで入ったと言う。

本来魔晄炉とは、都市開発部門の管轄になる。
でもニブルヘイムの魔晄炉は科学部門に貸し出されていた。

魔晄炉内には実験用ポッドが大量にあり、また奥には、JENOVAと書かれた部屋があった。

実験用ポッドからは、エアが漏れて噴出していた。
それが異常動作だと踏んだセフィロスは、クラウドにバルブを閉めさせた。

その間…セフィロスは、実験用ポッドを破壊して回っていた。

セフィロスは気が付いたのだと言う。

魔晄炉内にあるポッドは、人工マテリアの生成装置。
でも、宝条博士はその中に動物をいれ…魔晄と共に圧縮した。

それが、村の近くに現れていた、新種のモンスターの正体。

そして…装置の中に入れられていたのは、動物だけではなく…人間も。





《母の名は、ジェノバ。まさか、俺も…?》





その事実に触れた瞬間、セフィロスの様子はおかしくなった。

まさか自分もこうして生み出されたのか。
俺はモンスターと同じだと言うのか。

俺は、人間なのか?





「そして、俺たちは村へ戻った。でも、セフィロスは部屋に籠ってしまった」

「その夜はね、ソルジャーたちと食事会だって村長が楽しみにしてたの。それが中止になったから、パパにぐちぐち言ってた」





クラウドに補足するように、当時の出来事を思い出し、ティファも語る。

嫌な記憶と結びついて、当時のことはよく覚えてるのかな。
こびりつくようで…それって辛そうだなと、そんな気持ちになる。





「んなことより、セフィロスは?そのあと、どうした」

「夜のうちに、宿から姿を消した」





バレットが尋ねれば、クラウドは短く答える。
姿を消したセフィロスは、村にある古くからある神羅屋敷という建物の中に向かっていたと言う。





「神羅屋敷は、村で一番大きな建物で、魔晄炉より古くからあるの。神羅カンパニーがまだ小さかった頃の研究施設だったんだって。その地代が、村の重要な収入だったみたい」





ティファは神羅屋敷について詳しく教えてくれた。

神羅がまだ小さかった頃って、本当に結構前だよな…。
ニブルヘイムって、そんな建物もあるのか。

漠然と、クラウドとティファの故郷ってことしか考えてなかったけど。
聞いていると、昔から神羅とは関わりの深い村なのかもしれない。

クラウドはセフィロスを探しに神羅屋敷へ向かった。

屋敷には地下室があって、地下があることにクラウドはその時初めて気が付いたと言う。
勿論ティファも知らず、今話を聞いて初めて知ったようだった。

セフィロスがいたのは、その地下室の奥。

その部屋は、研究資料や蔵書で溢れていた。
セフィロスは薄暗い部屋の中ひとり、その資料を読み漁っていたらしい。



2000年前の地層から見つかった仮死状態の生物。
その生物の名前を、ガスト博士はジェノバと命名。

ジェノバを古代種と確認。

ジェノバ・プロジェクト承認。



セフィロスの読み上げていた資料の断片。

クラウドが声を掛けても、ひとりにしてくれと拒絶するだけ。

そこからセフィロスは、何日も地下室に閉じこもる。
何かに取り憑かれたように、資料を読んで…。

クラウドも色々考えたけれど、結局はセフィロスと話すしかない。

だからまたある日、セフィロスに会いに…地下室に向かった。

それが、運命の日だった。





『なあ、クラウド。実に興味深い記録だ』





その日、クラウドが地下室を訪れると…セフィロスは笑っていた。





『2000年前の地層から発見されたその人は、優美な微笑みをたたえているように見えた。やがて私はその人こそが太古の時を生きたと言う伝説の古代種だと気づいたのだ。私はその人をジェノバと命名した』




記録を読み、セフィロスは立ち上がる。
それは、まるで何かを悟ったように。





『やがてジェノバ・プロジェクトが始まった。プロジェクトの目的は、古代種の再生。そして、俺が創り出された。ジェノバ・プロジェクトの責任者…天才科学者ガスト博士が俺を造り出したんだ』





セフィロスが辿り着き、導き出した答え。
その考えに至ると、彼は『母に会いに行く』と口にした。

クラウドはセフィロスの手を掴んで止めようとした。

だけど、それはいとも簡単に振り払われ…クラウドは壁に叩きつけられる。
その場でクラウドは、意識を失ってしまい…。





「あの時、俺が早く意識を取り戻していれば…。もしそうだったら、村を守れたかもしれない。…いや、どうかな」





そう語るクラウドの声はやるせなさそうで…。

ここは、ティファに少し…聞いたことがあった。

もう帰れない理由。
村は、焼き払われた…。

クラウドが意識を取り戻し、外に出ると…そこは、辺り一面が火の海だった。

倒れる人、泣き叫ぶ人。
クラウドは炎の中、母親の身を案じて実家に向かった。

でも、家はもう炎に包まれていて…。

クラウド自身、燃えた瓦礫に足を取られたり、炎に煽られ怪我をした。
重たい体を引きずりながら、手を伸ばす先で…セフィロスは村人たちの命を奪っていく。





「俺はセフィロスを追って、魔晄炉へと向かった」





セフィロスはニブル山の魔晄炉に向かう。
クラウドはそれを追いかけて…。

そして、その魔晄炉内には…ティファもいた。





「私は、パパと避難してたの。でもパパは、セフィロスと話そうとして…追いかけて」





ティファのお父さんは、セフィロスによって…。
倒れたその傍で、ティファは泣き叫ぶ。



セフィロスね…セフィロスがやったのね。
セフィロス、ソルジャー…魔晄炉、神羅…ぜんぶ…ぜんぶ大キライ!!



そしてティファは、お父さんの傍らに落ちていたセフィロスの刀を持ち、敵を討とうとする。
でも、英雄と呼ばれた最強のソルジャーを相手に、敵うはずもない。

ティファは逆に斬りつけられ、階段を転がり落ちた。

酷く、深い傷。
クラウドは、そっとティファの体を抱き上げ、フロアの隅に避難させた。

そしてクラウドは剣を手に、セフィロスと対峙する。





『母さん、一緒にこの星を取り戻そうよ。俺、いいことを考えたんだ。約束の地へ行こう』





ニブル魔晄炉に安置されていたジェノバ。
セフィロスは母に語り掛ける。

クラウドはそんなセフィロスの背に剣を向け、振り向いたセフィロス自身もまた…クラウドに剣を構える。

だけど、クラウドの話はここで終わりだった。





「俺の記憶は、ここで終わりだ。あとは覚えていない」

「えっ…お、終わり…なの?」





あたしは思わず聞き返してしまった。
クラウドはこちらを見て「ああ」と頷く。

いや、だって正直手に汗握っていたと言うか…。
でもその結末わからずじまい。

ちょっと、拍子抜けしてしまったと言うか…。





「おいおい、おいおいおい!」





バレットも不満そうに声を上げる。
まあ、多分、全員そんな…ちょっとモヤッとする感じは残ったと思う。





「英雄セフィロス。訓練中に行方不明。そんなニュース、お母さんと見たよ。そして、何日かあとに実は戦死だったって発表されたよね。うん、そうそう!」

「あっ、あたしもそれ見た気がする。うん、そうだった!」

「ね!」





エアリスのおかげで少し記憶が喚起される。

そうだ。エアリスの言うニュースはあたしも見た記憶がある。
あたしは特別セフィロスとかソルジャーに興味はなかったけど、英雄セフィロスと言えば普通に有名人だったから、へえ…って思ったくらいは覚えてる。

エアリスとうんうん頷き合うと、そこに怒りでヒートアップしたバレットから一声。





「ニュースを作ってるのは神羅だ!奴ら、やり放題だからな!信じるほうがどうかしてる!」

「はいはい!私、信じてましたけど」

「ああー…あれだ、とにかく神羅がぜんぶ悪いってこった…」





エアリスの自分は信じてた発言にバレットの勢いは失速した。
あたしは思わず鼻で笑ってしまった。

バレット、失言だわね。

まあでも実際のところ、信じてたのはエアリスだけじゃないし。





「あたしも信じてたよ。ていうか、普通はそんなこと疑わないよ。でもまあ確かに、神羅なら捏造なんて簡単にできちゃうし、簡単にしちゃうかもってのは、今なら思うけど」





うん、まあ結局のところ、報道に関しては神羅の都合のいいように作られてるだろうとは思う。
つまり、実際のところはどうかわからない。





「5年前の真実はともかく、俺たちはミッドガルでセフィロスと戦ってきた。あいつは、生きている」





クラウドは今自分たちが見てきた真実を述べる。

確かに、一番信じられるのは自分自身の目だ。
あたしもセフィロスは見た。

ハイウェイで、運命の壁の前にいて…。
クラウドと一緒に戦って、あたしも…剣、交えた。





「生きているっていうか、いる?」





エアリスはそんな風に首を傾げる。

う、うーん?
なんだろ、その微妙なニュアンスの違い?

あたしはエアリスを見て「いる…」と、その言葉を繰り返したら、エアリスも「いる」とこちらを見て返してくれた。





「どうして、今になって現れたんだろう」





そんな時、発せられたひとつの声。
その声は、その場の空気を少し変えた様に思う。

それはティファの言葉だった。





「5年間、何をしていたのかな」





クラウドを見つめ、尋ねるティファ。
クラウドは少し考え、そして答える。





「セフィロスは、あの日の続きを始めたんだ。ジェノバと共に、この星を取り戻して、支配者になるとかいう計画の続きを」

「5年ぶりに?ごめんね、しつこくて。でも、気になって…」





ティファの少し必死な声に、クラウドも言葉に悩んだ様子。

あたしも、いくつか可能性は浮かばないか考えてみる。
だって、ティファの力になってあげたいと思う。

でもきっと…今のあたしたちの知る中にその答えはまだないから…。





「うーん…クラウド、セフィロスやっつけたんじゃないの?でもトドメは刺せなかったから、5年間傷をいやしてたとか、力を蓄えてたー…とか?」

「…どうだろうな。でも、実力から言って俺がセフィロスを倒せたとは思えないんだ」

「そっか…」





うーむ…。
あたしの頭ではこれくらいが限界です…。

ていうか今の話だって、ついていくのわりと精一杯だったし。





「ジェノバってのも、よくわかんねえな…」





バレットが呟く。

うんうん。そうなのさ。
結局のところ、そのジェノバってのが話を余計にややこしくしてんのさ。

答えがわからない。
重たい話に、掛ける言葉にも悩む。

そんな空気で、しん…と部屋が静まり返った時、エアリスが「うーん」と背筋を伸ばした。





「ごめん。荒野?慣れてなくて疲れちゃった。背中、ガチガチ」





その言葉で空気が少し軽くなる。
ああ、エアリス流石で。

おかげでティファの顔にも少し柔らかさが戻る。





「あ、ちょっと触らせて」

「ヒイッ!」

「大変。でも、なんとか出来るかも。部屋、行こう?ナマエも」

「うん。あたしも疲れたー」





あたしも微力ながら、空気変えのお手伝い。
あたしも椅子から立ち上がり、うーんと身体を伸ばした。





「んじゃ、今日はこの辺にしておくか。結局、セフィロスが何してたかなんて俺たちにわかるはずねえしな」





バレットがお開きを口にし、皆それに頷く。
最後は、重くなり過ぎず終われてよかったと思う。





「おやすみ」

「おやすみなさい」

「おやすみー!また、明日ね」





エアリス、ティファ、あたしは部屋を出る。

最後に出たあたしは、扉を閉めるときにクラウドと目が合った。
閉じていくドアの隙間から、最後にひらっと軽く手を振れば、クラウドは少しだけ頬を緩めて頷いてくれた。

こうして、全員での話し合いは幕を閉じたのでした。



To be continued


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