一夜明けて



カームでの一夜が明けた。
朝を迎えると、みんなそれぞれ好きなように街の外に出ていった。





「んー…綺麗な景色だ…」





あたしはと言えば、先に行くと言ったティファとエアリスを見送って、まだちょっと部屋の中に残っていた。
窓から見えるカームの街の景色は、穏やかでとてもいい雰囲気だ。

あたしが街に出ていない理由は、別にそうたいしたものではない。

下ろしていた腰をベッドから上げて、手にしていた雑誌をラックへと戻す。

あたしがまだ街に出ていないのは、この雑誌を読んでいたからだ。

宿のサービスとして置かれていた観光雑誌。
これが意外と読みごたえがあって、もう少し読みたいからとふたりには先に行ってもらったと言うわけだ。





「よし、じゃああたしも行ってみようかな」





雑誌を読み終えて、大変満足。
剣を腰のホルダーに収め、あたしは部屋の扉を開けた。

するとその時ちょうど、隣の部屋の扉も開いた。





「あれ?クラウド、おはよー。まだ宿にいたんだ?」

「ああ…あんたこそ、まだいたんだな」

「うん、部屋に備え付けられてた旅雑誌読んでて。ティファとエアリスには先行って貰った」

「そうか」





部屋から出てきたのはクラウドだった。

そういやバレットが出る時一度声掛けに来てくれたけど、クラウドはまだ寝てるって言ってたっけ。
でもそれからそこそこ時間経ってるし、クラウドもとっくに外に出てるものだと思ってた。

あたしはクラウドに歩み寄る。
すると、クラウドの手にとある何かが握られていることに気が付いた。





「ん?クラウド、それって、クイーンズ・ブラッド?」

「ああ…宿のサービスのひとつらしい」

「なんと。気前のいい。でも流行ってるよねー。一戦やる?」

「持ってるのか?」

「うん。なんとなくいつもデッキは持ち歩いてるよー」





あたしはケースを取り出し、自分のデッキをクラウドに見せた。

クイーンズ・ブラッドは世界中で大流行のカードゲーム。
流行ってるならとあたしもやってみて、今じゃ結構ハマってたり。

クラウドはやったことないみたいだったから、お試しにということで聞いてみたら案外興味はありそう。

ということで、あたしたちは部屋に入り、一戦、カードバウトすることにした。





「うわ……負けちゃった…え、クラウドほんとに初心者?強くない!?なに!?」




結果、勝者はクラウド。

クラウドのゲームへの理解との見込みは恐ろしいほど早かった。
初心者相手だし、ちょっと甘めに…とは思ってたけど、気づいたら全然ひっくりかえせなくなってた。

驚くあたしにクラウドはちょっと得意気に笑う。





「ふっ…でもあんた、手加減してただろ」

「あー…いや、一応初心者だしと思って…でも全然いらなかったね」

「ああ。次にやるときはそうしてくれ」

「うん、そうする。じゃあまた今度、暇見つけてやろ。楽しかったし!その時は手加減なし!」

「ああ、受けて立つ」





手加減してたのもバレていたか…。
でも本当に楽しかったし、またやりたい。

クラウドと何か約束事が増えるのも嬉しいし!

こうして一戦終え、あたしたちは立ち上がった。





「じゃ、そろそろ街行こうかな。雑誌で見て、気になったとこいくつか回りたいんだ。クラウドは装備とか見るの?」

「ああ、そのつもりだ。ナマエは装備、どうする?一緒に来て見てみるか?」

「んー…じゃあ武器屋さんは一緒に行こうかな」

「わかった、じゃあ行こう」





ひとまず、武器屋さんまではクラウドと一緒に。
あたしたちは階段を降り、宿のロビーに出る。

するとそこで、宿のオーナーさんに声を掛けられた。





「おはようございます。ご挨拶が遅くなりました。私はブロード。この宿のオーナーです」

「あ、おはようございます。昨夜はお世話になりました」

「いえいえ。皆さんは、すでにお出かけですよ」





オーナー、ブロードさん。
彼は穏やかに微笑み、丁寧に挨拶してくれた。





「ああ、そうだ。バレットさんから伝言を預かってます。寝坊助のソルジャーさんよ。今日は一日、自由行動だ。今のうちに装備の点検でもしておくんだな…とのことです。まずは武器屋に行かれてみてはいかがでしょう」

「はい、実はそのつもりで。そうだ、場所、教えていただいてもいいですか?」

「ええ、もちろんです」





バレット、そんな伝言残してたのか。
まあ一日自由行動はあたしは知ってたけど。

あたしはブロードさんに武器屋さんの場所を聞き、「いってらっしゃいませ」とまた丁寧に見送られ、クラウド共に外に出た。





「えーっと、あっちだね」

「ああ」





今聞いた案内を思い出し、その先を指さす。
するとそんな時、トットッ…と、人のものではない静かに足音が近づいてきた。





「起きたか。よほど疲れていた様だな」

「あ、レッド」

「ナマエも、雑誌は読み終わったのか」

「うん!ばっちりー!」





近づいてきたのはレッドXIIIだった。
あたしは少し視線を合わせるように屈み、イエイとピースしてみせる。

するとクラウドは少し辺りを見渡し、それから彼に目を向けた。





「俺を待っていたのか?」

「感謝を伝えていなかったと思ってな。クラウドたちのおかげで、宝条から逃げられた」

「なりゆきだ」

「うん。こっちもいっぱい助けてもらったよ。ビル脱出できたの、レッドの力かなり大きいもんね」

「だとしても、恩は必ず返す。しばらくは一緒に行く」





レッドはわざわざお礼とこれからのことを言いに来てくれたらしい。

なかなか律儀な性格である。
でもしばらく一緒にいられるの、あたしは嬉しい!

「やったー!」と思わず抱き着いたら、レッドも慣れてきたのか「フッ」と小さく笑ってた。





「ナマエ。お前たちはこれから装備の点検に行くのか?」

「うん、武器屋さん見たいし、そこまではクラウドについて行こうと思って」

「そうか。装備の点検に行くなら、私の装備品も頼む」

「だってさ、クラウド」

「わかった」





あたしはレッドから体を離す。
するとレッドはひとりどこかに歩いていった。

そんな姿を見ながら、クラウドは小さく笑う。





「偉そうな新入りだな」

「いーじゃない、頼もしくて」

「まあ、戦力にはなるな」

「ね。レッド強いよねー」





そんな話をしながら、あたしたちも歩き出す。

並んで歩いて、あたしは少し、クラウドの横顔を伺っていた。

うーん…、ま、クラウドの方は…見た感じ、普通?
まあ、あたしと気まずいわけじゃないし…そりゃ普通だろうって感じかもだけど。

やっぱり気になったのは、昨晩のティファとのことだった。

もっともティファも、朝起きたら普通にはしていたけど。
でも、やっぱりどことなく元気が無いようには感じた。

というか、実は今朝、あたしはティファとエアリス、それぞれとふたりで話す機会を設けたりしていた。
まあどちらも、話題は昨晩のことなんだけど…。





《エアリス…。ティファとクラウド、なんか大丈夫かな…。あたしたち、ちょっと間に入った方が良かったりする…?余計なお世話…?でもこれから旅もはじまるし、ううん…単純に、ふたりが気まずいのは気になるというか…嫌、だよね…?」

《うん、私も同じこと思う。うーん、そうだなあ、うん、じゃあ私、クラウドと少し話してみるよ》

《なんて?》

《ううん、そんな大したこと、言わないよ。私やナマエ、思ってること、ちょっと伝えるだけ》

《ちょっと…》

《うん。ちょっと。それより、ナマエは、昨日言ってたこと、大切にして欲しいな》

《昨日言ってたこと?》

《うん。クラウドとティファ、ふたりのこと、信じてるって》

《それは別に…まあ、うん、わかった》

《うん!》





エアリスと話したのは、そんな話。
その次に、ティファとも話した。





《ティファ、なんか、大丈夫?》

《…うん、ごめん、ちょっと気持ち、整理つかなくて。やっぱりわかる…よね》

《んふふ!まあもうそれなりの付き合いですからねー!って、別に謝ることは無いけどさ。ま、何かあったら言ってよ。話くらいなら聞けるし》

《うん…、ありがとう。…ナマエ。じゃあ、ちょっとだけ、いい?》

《ん?》

《クラウド、私が偽物なんじゃないかって…》

《………はい?》

《クラウドの記憶だと、私はあの日、セフィロスに斬られた。だからあの日、助かるはずなかったんじゃないかって…》

《なんだそりゃ…。だってティファ、胸に傷あるよね?昔の傷って聞いてたけど、それ、その時の傷でしょ?話聞いてて合点がいったよ》

《うん…。ごめん…何度かナマエには、昔のことちゃんと話そうと思ってたんだけど…。なかなか話せなくて…》

《別にいいよ。あんまり口にしたくないことだろうし》

《…と言うよりかは…私、ナマエといる時は…楽しい気持ち、優先したかったの》

《え?》

《楽しいから…、一緒にいる時、昔のこと…あんまり思い出したくなくて》

《ティファ…》

《でも、やっぱり話すと…ちょっとすっきりする。ふふ、ありがとね、ナマエ》





ティファはそう言って少しだけ表情を明るくして笑った。

ティファが、偽物なんじゃないか…か。

いやいやそんなわけないだろと。
それはクラウド、失言?…とは思う。

でもティファも、クラウドの話に疑問を持っていた。
だから『お互い様…だよね』とも言っていて。

ああ、もう…こういう時、本当、気の利いた事ひとつ言えないこの頭よ…!

でも、やっぱりあたしは、ふたりのことが好きだし。
どっちかを疑うっていうのも、やっぱりあたしの中では無いから。

まあ、これ以上拗れるというのなら…また少し考えものだけど…。

多分…最後の部屋の前のやり取りは、バレット達にも聞こえていたかもしれない。
エアリスも少し、話してみるって言ってた。

それにクラウドもティファも、本当はお互いを疑うとか…したくないだろうし。
きっとそれは絶対だから。

それなら今は、あたしはそっと、いつも通りでいいかな。

ただし、もし確実に自分に出来ることがあれば、その時は全力。
力になれることはしたい。それは、目一杯やろうって。

それが今の、あたしの素直な気持ちだった。





「あ、クラウドクラウド。これ、レッドにどう?」

「ああ。いいかもな。ナマエは?新しい装備、気になるのあるか?」

「うん!目星はつけた!でもふたつで悩んでて。クラウドさんのご意見聴きたいなーと」

「どれだ?」

「えっとねー」





武器屋に着くと、早速いつものように色々吟味が始まった。

いや、あたし武器屋さん普通に好きだし。
クラウドいっぱい相談乗ってくれるから、もう楽しゅーて楽しゅーて…。

うん、クラウドと武器屋さん来るの好き。
いやま、クラウドとならどこでも大抵好きだろうけどそれはとりあえずいいでしょうということで。





「ありがとうございましたー」




買い物を終え、店員さんの声に見送られながら店を出る。

ミッドガルに近いのもあるのかな。
カー厶の店の品揃えはなかなかだった。

色々と満足のいく買い物が出来たような気がする!

これなら多分他のショップも期待出来そうだ。





「ナマエ、次は本屋に行こうと思うんだが…」

「あ、クラウド本屋さん行くの?じゃあ、あたしは雑誌で気になったお店、いくつか回ってくるね」

「え」

「ん?」





じゃ、ここで別れようかーって手を振る。
でもそしたら何故か、え、ってちょっと驚かれた。

んんん???





「来ない、のか…?」

「え、うん。気になるとこいーっぱいあってさ!」





いや、正直ちょっと揺れた。

一緒に行っていい?って聞こうかなとか。
このままクラウドとどさくさカーム巡りするのも良いかも!って。

そりゃ思いますよ。だって好きな人とぶらぶらとかそれだけで幸せでしょうて!

でもさあ、やっぱさっきの雑誌面白くて…。
気になったとこ行きたーいってそわそわしてるわけよ。

まさかそんなあたしの趣味丸出しにクラウド付き合わせるわけにはいかないし。
というか付き合わんでしょ、とも思うし。





「そ、そうか…」





クラウドは何故かちょっとしゅん…としていた。
え、何故に。え、気のせい?





「じゃあ、またあとでね」

「ああ…」





さて、じゃあどこから行きましょうか。
あたしは大きく手を振りながら、その場を後にしクラウドと別れたのだった。



To be continued


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