連絡船第八神羅丸



「よし、そんじゃあ、黒マントたちと一緒に船旅としゃれこむか」





船を見上げ、バレットが言った。

ジュノン港から船に乗り、海を渡る。

新しい大陸か…。
なんだかちょっと、ドキドキだ。





「チェック、されてるね」





乗り場には神羅兵が立ち、乗客たちをひとりひとりチェックしていた。
それを見てエアリスが不安そうな顔をする。

あたしたちアレ、引っ掛かる…かな?





「後ろから乗り込もう」





船の後ろの方では橋が下ろされていた。
それを見つけたクラウドはそう呼び掛ける。

後ろは荷物や、神羅の関係者が乗り込む裏口…みたいなものかな。

あたしたちが近づくと、そこで作業していた男の人がひとり振り返った。

普通の乗組員とは帽子や服装が違う。
もしかしたら、船長さんなのかもしれない。





「君たちは、なんだ?」

「俺たちは…」





尋ねられ、クラウドは口を開く。
でも多分、どう答えようかちょっと迷ってる。

するとすかさず、エアリスが機転を利かせた。





「パレードで社長賞、貰いました。ご褒美でコスタ・デル・ソルへ行けるんです。ルーファウス社長が、この船に乗れって」

「何も聞いていないが」

「社長、気まぐれですよね」





凄いなエアリス。

よく咄嗟にそんな嘘が出てくるもんだ。
しかもルーファウスの名前まで出しちゃう。

これなら拒否はしづらいよね。





「後ろの連中もか?」





船長さんはあたしたちの後ろを見て顔をしかめた。

え、と振り返ればそこには黒マントの人たちがわらわらと集まってきていた。
おお…。ちょっとビビる。





「船長!お客様同士が揉めています。仲裁をお願いします」





その時、中から乗組員の人が出て来て船長に報告した。
それを聞いた船長さんはため息をつく。





「ワガママな客が多くてね。二等室で頼むよ。お客様は裕福な方々が多い。失礼のないようにな」





出航前で忙しいのもあっただろう。
船長さんは意外とあっさりとあたしたちに許可を出し、船内へと戻っていった。

最後に乗組員の格好をしてるバレットは「お前はサボってないで仕事しろ」って怒られてたけど。
それと、「犬は船倉だ」とのことで…またレッドXIIIがグルルルル。

まあ、乗れてしまえばこっちのもの。

船の名前は連絡船・第八神羅丸。
煌びやかに飾られたその船はコスタ・デル・ソルに向けて出航したのだった。





「それから、ファズは?」

「うんうん、どうしたの?」

「それっきり。今でも大きな人を見るとドキッとする」

「そっか…」

「うーん…まあ、確かにそれはドキッとするよね…」





船に乗り込んで、少し様子を見てくると言ったクラウドたち男性陣。

あたしとティファとエアリスは船倉に残り、貨物の影に隠れてちょっとしたガールズトークに花を咲かせていた。

今は、エアリスの昔話。

こんな話になった切っ掛けは、船に乗る前にあたしが初恋のお兄さんで暴走を起こしたから…かもしれない。





「なんでも、聞くからね」

「うん、話ならいくらでも聞けるしね!」





あたしとティファはそう言ってエアリスを励ました。
エアリスは少しだけ微笑み、うん、と頷く。

そして話は次の展開へ。





「さて次は、いよいよ大事件」

「うええ?今のも大事件じゃねーです?」

「嘘、これ以上の事件があるの?」

「それが、そうなの」





神妙な空気。
ごくりと喉が鳴って、少し緊張する。

話すエアリスも表情を硬くしていて…と思ったけど、それはふっとすぐにほぐれる。





「はつこい」






それを聞いて、あたしとティファは顔を合わせた。
そしてこっちも、思わず小さく笑ってしまう。





「うわ、大事件!」

「あはっ、それは確かにだねー!」





エアリスの初恋。
前にちょっとだけ聞いた事があるけど、そこまで詳しく聞いたわけじゃないから、今回それが聞けてしまうのかな!

おお!とワクワクする。

でもその時、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。

ハッとしたあたしたちは息をひそめる。
静かに立ち上がると、あたしとティファはいつでも飛び出せるように戦闘の構えをとった。





「俺だ」





でも、その声を聞いて緊張は解けた。

クラウドの声だ…!

あたしたちはホッと息をつき、貨物の影から姿を見せた。
その際、ティファはこそっとあたしとエアリスに耳打ちした。





「初恋編は、また今度」




あたしとエアリスは頷く。
うん、それはまた後日のお楽しみという事で!

そんな耳打ちの様子を見たクラウドは「ん?」と少し不思議そうな顔をしてた。

まあ、これは内緒の話なので!
あたしたちは3人でくすりと笑い、戻ってきた男性陣から船内の様子を聞いた。





「黒マントは二等船室に集められてる。神羅の追手の気配はない。変装は終わりだな」





クラウドは説明してくれる。

変装は終わり…。

クラウドももういつものソルジャー服に戻ってる。
うーん、あれで兵士クラウドは見納めだったか、ちょっと残念。

やっぱり乗る前に堪能しといて正解だったなー、なんて思った。

ま、ここらであたしたちもこの制服とはさよなら。
わりと馴染んでたから、ほんの少し名残惜しかったりしてね。

そんな風に笑っていると、クラウドから話を聞いたらしいバレットがルーファウスとの取引のことについて口にした。





「ルーファウスの提案、聞いたぜ。ニンジャ娘が滅茶苦茶にしちまったが、正直、俺はホッとしてるんだ。誰が社長だろうが、神羅は神羅。取引なんかしたくねえ」





取引はしたくない。
そうか…。バレットはそういう風に思うのか。

確かに、そう思う気持ちもわからなくないかもしれない…。
それなら…結果オーライだったと言えなくもないのかも。

まあもう過ぎたことだし、あたしたちは今まで通り、セフィロスを追うだけ、だよね。

そういえばユフィはあの後どうしたんだろう。
犯人が捕まったって話は、特に聞かなかったけど。

それを口にしようか悩んだ時、船内にアナウンスが響いた。





『連絡船第八神羅丸へようこそ。船長のチトフです。本船は、コスタ・デル。ソルへ向け、順調に航行中です。短い船旅をなりますが、どうぞおくつろぎ下さい。なお、船旅の余興として、クイーンズ・ブラッドの大会を開催します。参加を希望されるお客様は、この後ラウンジにお集まり下さい』





船長さんの船内放送。
あたしたちの興味を特に引いたのは、やっぱり後半の余興の部分だった。





「クイーンズ・ブラッドの大会だって!」

「おおー!それは興味深々かも!」





楽しそうに笑ったエアリスにあたしも乗っかる。

クイーンズ・ブラッドの大会とかあるんだ!
そんなの興味そそられちゃうでしょ!





「行こう!」





ティファも楽しそうにしている。
そんな彼女に促され、あたしたちはクラウド達より先に船倉を出た。

とりあえず、そろそろ服も着替えなきゃだしね。
あたしたちは二等客室に向かい、着替えてからラウンジに向かった。

ラウンジではまだまだクイーンズ・ブラッド大会のエントリーを受け付けていた。

なんでも、見事優勝したお客様にはトロフィーと豪華賞品を贈呈らしい。

豪華賞品って何だろ?
これまた興味津々になるやつじゃん!





「あ、クラウドー」





あたしはひとり歩くクラウドを見つけて駆け寄った。
クラウドも振り返り、足を止めてくれる。





「へへへ、大会楽しみだね!」

「出るのか?」

「え、逆に出ないの!?結構いい線いけると思うんだけどなー、あたしたち」

「フッ…なら、決勝戦で会おうか」

「うんっ!今日こそ、この大舞台でクラウド負かす!覚悟せよ!」

「言ってろ」





そんなことを言って、お互いに笑う。

うん、でもクラウドとは何回か遊んでるけど、わりとふたりとも本当に優勝狙えるんじゃないかなとは思ってたりして。
そんな風に話しながら、受付カウンターに向かう。

すると皆はもう既に受付の列に並んでいた。

そしてその中には、赤い彼の姿もあった。





「あ、レッド〜」

「お前も参加するんだな」

「ああ、人間の娯楽は興味深い。では、エントリーしてくる」





前のカウンターが空く。
レッドXIIIはそう言ってカウンターに向かっていった。

…けど、早々に受付のお兄さんに頭を下げられていた。





「まことに申し訳ございません。動物の大会への参加はご遠慮いただいております」

「なんだと…。悪いが、責任者を呼んでもらえるか」





カウンターに身を乗り出し、二本足で立って抗議しはじめるレッドXIII。

お、おう…。





「あ、あれは…だいじょーぶなのかな…?」

「…知らない」





レッドの背中を指を差して聞くと、ふいっと顔を逸らすクラウド。
え、他人のフリ?

レッドの抗議は続いてる。
うん…でも、まあ…下手に触れない方がいい…のかもしれない。

そうこうしてると、レッドは諦めた様に受付から離れる。

あれは…ダメだったか。

その背中がなんか切なくて、あたしはレッドに声を掛けに行った。
クラウドもついて来てくれた。





「レッド、ダメだった?」

「なぜ最初から人間限定をうたわない…ナマエ、そう思うだろう?うー…」

「ウ、ウーン…」





唸られてこっちも唸る。
いやまあ…それはなんというかー、と言いますか…。

言葉も見つからないし、今はちょっとそっとしておこうか…と、とりあえずその場を離れる。

うーん、あとで一緒にやろうって誘ってみるのはありかな…。
気休めにしかならないかもしれないけど。

そんなことを考えていると、クラウドに肩を叩かれた。





「ナマエ。受付、空いてるぞ」

「あ、うん。じゃあ、あたしたちもエントリーしに行こうか?」

「ああ、先いいぞ」

「うん、ありがと、じゃあお先に」





さっきまでレッドがいた受付が空いている。

クラウドに譲ってもらい、あたしは先にエントリーを済ました。
あたしが終わったところで、次はクラウド。

あたしは傍でなんとなくそれが終わるのを待っていた。





「では、お名前をお願いします」

「クラウド・ストライフ」

「ああ!クラウド様ですか!クラウド様宛に、メッセージカードが届いております」

「メッセージ?」





ん?クラウドにメッセージカード?
クイーンズ・ブラッドの大会受付で?

何だろう?とふたりで顔を合わせた。





「お読みしてもよろしいでしょうか」

「ああ」





ん?メッセージカードならあたし聞かない方がいいかな?
そう思ったけど、クラウドは何事もなく頷いたから、どうやら聞いてもいいらしい。

それを見た受付のお兄さんはカードを開き、内容を読み上げてくれた。





「クラウド・ストライフへ。クイーンズ・ブラッドを楽しんでいるようだな。その調子だ。ナマエと共に、もっと血に溺れろ。親愛なる亡霊より。以上となります」

「へっ…?あ、あたしも?」





メッセージカードには何故かあたしの名前も出てきた。

え、なに、誰。
親愛なる亡霊?

しかも共に血に溺れろって何さ!こわ!





「なんとも熱烈なメッセージですね。ファンの方でしょうか」





受付のお兄さんも少し困惑してる。

いや、ファン…?
クラウド、ファンいるの?





「…クラウドさん、心当たりあります?」

「あるわけないだろ…」

「ダヨネー…」





いや、ないだろうとは思ったけど。
でももしかしたらー、と思って聞いてみたけどやっぱり無いと。





「これにて、エントリー完了です。それでは、大会をお楽しみください!」





ひとまず、これでエントリーは済んだ。
バレット、ティファ、エアリスも無事に済んだ模様。

大会が始まるまで、あと少し。

あたしは自分のカードケースを取り出した。





「ちょっとデッキ、見ておこうかな」

「やる気だな」

「あったりまえでしょーよ!」





クラウドとの軽い雑談。
そんなこんなで、あたしたちは大会スタートを待った。



To be continued


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