神羅は変わる



「折角の晴れ舞台だ。メットを取ったらどうだ?クラウド・ストライフ。素晴らしいパフォーマンスだった。流石、慣れたものだ」





社長賞の授与。
壇上に上がり、顔を合わせたルーファウスに、あたしたちの正体はバレていた。

だから4人って、わざわざ指名してきたのか…。

クラウドはメットを外す。
それを見てあたし、エアリス、ティファも同じようにメットを外した。





「なっ、貴様らは!」





ハイデッカーは驚いていた。
詰め寄ろうとするハイデッカーをルーファウスは制す。





「下がれ」

「しかし、若!」





無言のルーファウス。
それを見たハイデッカーはしぶしぶ身を引いた。

じゃあこれ、社長の独断ってこと?

ルーファウスは視線をこちらに戻し、話を続けた。





「クラウド・ストライフ。少々、調べさせてもらった。なかなか興味深い経歴だ。気に入ったよ」





クラウドの事を調べた…。
確かにソルジャーだったクラウドの記録は、神羅の中にあるだろう。





「そこでだ、私と取引をしないか?私は、ミッドガルの復興に集中しなければならない。市民の生活が元に戻らなければ、神羅は大いに信頼を失う事だろう。その事業に集中するために、面倒な雑事を切り離したいと考えている」





取引がしたいと持ち掛けるルーファウス。

こういう探り合い、あたしは苦手。
しかも神羅の社長相手なんて、厄介でしかなさそうで。

クラウドは顔をしかめながら聞く。





「どういうことだ?」

「オヤジの代から引き継いだ、負の遺産。本社ビルから奪われた古代種の奪回、奪われた研究素材の回収、そして、アバランチの逮捕と処罰。それらすべて、私にとっては雑事だ。出来ることなら、解放されたい」





エアリスのこと、レッドXIIIのこと。
そしてティファやバレット、アバランチのこと。

それらをすべて、彼は解放されたい雑事という。





「もう、私たちを追わない…そう言ってるの?」

「ああ」





ティファが恐る恐る尋ねると、その通りだと頷くルーファウス。





「もっとも市民感情までは操作できない。しばらく、ミッドガルには近付くな」





しかも、そんなアドバイスまで…。
これって善意…?





「私も、もういらない?」





エアリスも尋ねる。
母親と共に、ずっと囚われていた幼少期。

ルーファウスは空を見つめ…。





「神羅は変わる」





そう一言。

本当に、神羅が変わる…?
社長が変わって、考え方も、何もかも?





「取引だと言ったな。条件は?」





クラウドが聞く。

そうだ、これは取引。
なにかとんでもない条件を突きつけられてもおかしくはない。

でも、提示された条件はあまりにシンプルなものだった。





「セフィロスを任せる。古き神羅が生み出したモンスター。過去の遺物。処分したいところだが、社内の調整が面倒だ。受けてもらえるかな?」





セフィロスを任せる…。
そんなの、頼まれなくても…あたしたちは追うつもりだ。

そしてそれを受けるだけで、エアリスもティファも…皆が追われなくなる。

あたしたちにとって、マイナスな部分がひとつもない取引。





「引き受けよう」





クラウドは静かにその条件を受けた。
するとルーファウスは尋ねる。





「手掛かりはあるのか」

「黒マントの連中を追う」

「いい線だ」





ルーファウス…神羅側も黒マントの存在は把握している。
しかもいい線ということは、あの人たちがどういう存在なのかも知っているという事?





「あの人たちは、なんなの?」

「あれはセフィロスの、言ってみれば分身。追えば、セフィロス本人に辿り着く。宝条博士の仮説だ」





ティファが聞くと、ルーファウスはそう答える。

セフィロスの…分身?
宝条博士の、仮説…。

正直、宝条博士の名前を聞くだけで、嫌な予感しかしない。

でも、黒マントを追う事は…やっぱり間違いではないと確信になった。





「取引は、成立だな」

「約束、だよ。会社中に伝える?宝条博士にも、タークスにも」

「ああ、勿論だ」





こちらを見逃すかどうか。
パレードに参加してまで聞きたかった目的。

社長自ら、今、追わないと約束した。

エアリスにとっては、特に切実だろう。
幼少期からずっとずっと…神羅に追われ続けてきたのだから。





「約束、絶対に違えないで」





あたしに言えるのは、それだけだった。

あたしは…皆の苦しみとか悲しみに対して出来るのは、ただ寄り添うことくらいで。
ただ、味方でいるくらいしか出来ないから。

するとルーファウスはフッ…と小さく笑う。

でも、その時だった。





「若ーーー!!!」





ハイデッカーが叫び、ルーファウスに飛び掛かる。

その瞬間、ハイデッカーの背中から血しぶきが飛んだ。
宙を舞ったのは…大きな手裏剣…!?





「おい、警備兵!」





怪我を負いながらも、ハイデッカーは警備兵に呼びかける。
兵士たちはすぐさまルーファウスの周りを囲った。

ルーファウスは冷めた目でこちらを見る。





「これがお前たちの答えか?」

「いや、これは」

「舐めるなよ、野良犬ども」





クラウドは弁解しようとしたけど、結局は言葉など見つからない。

飛んできた大きな手裏剣…。

これ、ユフィだよね…!?
一瞬見えただけだけど、あの手裏剣はユフィが持ってたやつだった。

ユフィの任務はルーファウスの暗殺。

でもちょっとこれ…タイミング、すごく悪い…かも。

約束違えないで…ってどの口がー!?みたいになってない!?





「若、避難を!」





ハイデッカーに促され、ルーファウスはこちらを一睨みし、下がっていく。





「襲撃者を見つけ出せ!」

「襲撃者を捕まえろ!」





襲撃はパレードに参加していた兵たちの全員の前で起きた。
会場中の兵士たちが襲撃者確保に向けて走り出す。

と、とんでもない騒ぎになってきちゃった…。





「今の、ユフィだよね」

「多分な」





壇上に誰もいなくなったところでティファが確認してくる。
クラウドは頷いた。

あたしも、頷く。





「うん…あれ、ユフィが持ってたのと同じだった」

「どうしよう…」





隣にいたエアリスにきゅっ…と腕を掴まれる。





「ここから離れよう」





クラウドはそう言ってあたしたちを促す。
ひとまず、あたしたちは人目につかぬよう壇上からエルジュノンの連絡口まで移動した。

するとそこに、どこかでパレードを見ていたであろうバレットとレッドXIIIも来てくれた。





「クラウド!ルーファウスの野郎は?」

「逃げた」

「さあ、どうする?」





バレットは聞いてくる。
うん…本当に、これからどうするべきか…。





「たった今、黒マントを見た。港へ行くらしい」





レッドXIIIは黒マントが港へ向かっていることを教えてくれた。

もうここに長居は出来ない。
する理由もない。





「俺たちも行こう」

「警備がヤバいぜ。強化された」





バレットは警備の強化を危惧する。

社長が襲撃されて、あれだけの兵士が揃っていたらそりゃ当然だろう…。





「変装でしばらくは行けるだろう。あんたたちは先に行ってくれ。俺は残って、第七歩兵連隊を港から引き離す」





クラウドはそう言って、ひとり危険な役を買って出た。

確かに第七歩兵連隊は引き離さないと、後々面倒なことになる。
でも、クラウドひとりでその役やるの?





「ひとりで、大丈夫?」

「ああ、ひとりのほうがやりやすい」





尋ねたティファに頷くクラウド。





「本当に?」





もうひとりくらい、残っても良いんじゃないか。

あたしも兵士の服着てるし、部下で通るはず…。
あたしは自分も残ると言い掛けた。

でも、クラウドは首を横に振った。





「大丈夫だ。こっちは任せてくれ。ナマエ、もし戦闘になったら…そっちはあんたに任せる」

「…わかった、気を付けて」





あたしが頷くと、クラウドは微笑んだ。
そしてトンと軽く肩を叩かれる。

するとその時、バタバタと足音が聞こえてきた。





「隊長!!」





振り返ると、そこにいたのは数名の第七歩兵連隊だった。
クラウドは小声で言う。





「港で会おう」





そうしてあたしたちはクラウドを残し、その場から離れた。

港まではそう遠くない。
回り道せず進めばすぐに着く。

クラウドの言った通り、変装のおかげか、怪しまれることもなく進めた。





「ついた!港!」





あたしたちは戦闘もなく、無事に港に辿り着くことが出来た。
あとはここでクラウドが来るのを待つだけ…。





「この船に乗るのだな」

「レッド」





その時、レッドXIIIに声を掛けられた。

傍に座る彼は目の前の船を見上げている。
あたしも一緒に見上げた。

連絡船…。

黒マントたちは、これに乗ってセフィロスを追う…。
セフィロスは、海の向こうにいるのかな。





「クラウド!」





しばらく待つと、クラウドに気が付いたエアリスが手を振った。
その声にハッとし、あたしたちもそちらを見る。

クラウドが駆け寄ってくる。
どうやら無事に第七歩兵連隊を離れられたみたい。





「無事だった?」

「ああ」





ティファが声を掛ければ、クラウドは頷く。

本当に良かった。
結構遅かったし、何かあったのかもってちょっと落ち着かなかったんだよね。

これで一安心。
あたしはホッと息をついた。

ああ…安心したら、気が抜けて…。





「クラウド…」

「ナマエ…?」





あたしはふら…っと、ゆっくりクラウドに近づいた。

クラウドはどうかしたのかと心配そうにこちらを覗く。
皆もどうしたどうした…?と見てるのがわかった。

うん、わかってる。自分の挙動が不審なことくらい。

でも、今あたしは自分を抑えられずにいた。
ていうか正直、ずーっとずーっとそわそわしてた。

クラウドが隊長に選ばれたあの時、メットを外した姿を見て、思わず目を見張った。

だから、ずーっとずーっと抑えてた!!!





「ごめん…クラウド」

「え…?」

「お願いっ!!今の姿ちょっと、もっとよく見せて!!!!」

「……は?」





凄い怪訝な返事返された。

うん!わかってる!わかってるよ!
変なこと言ってるのは!!

でも多分、目はキラキラ。

あたしはじっと、今の目の前にいるメットだけ取った神羅兵姿のクラウドをこれでもかというほど見つめた。




「あっ、もしかしてナマエの初恋のお兄さん?」

「ああ…!」

「なんだそりゃ」





閃いたらしいエアリス。
ティファは納得したように手を叩く。

ふたりには話したことあったよね。

一方、そんな話したことないバレットは顔をしかめてる。

そしてこの話を知ってるもうひとり。
目の前のクラウドはすんごい微妙な顔をしていた。





「うん…!ほんっとそっくり!記憶が蘇るーっ!って感じ!」





ぐっとこぶしを握って力説。
いや力説されても困るだろうけど。

まあ目の前にこんなのがいれば微妙な顔にもなるだろう。

でもさあ!!でもさあ!!

本当にそっくりなんだよな、クラウド…。

それにやっぱり、あの日の思い出はあたしの中で特別で…。
自分でも少し不思議なくらいだけど。

ああ、思い出が疼く…!





「へへへへ…!うん、よし!ごめんね、ありがと、クラウド!」





うん、まあいくらでも見てはいられるけど、とりあえず満足。
興奮に付き合わせてしまったクラウドに謝罪とお礼。

そんな姿にエアリスやティファは笑っていて。

クラウドは「はあ…」とドでかいため息をついていた。



To be continued


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