新社長暗殺計画



ドンドンドン
朝の宿に、少々雑なノックが響き渡る。

この部屋の主は、まだ寝ているのだろうか。

しばらく待つと、中から扉が開いた。





「皆、入って!」





中から顔を覗かせたのはクラウド。

開いた瞬間、その中に押し入っていったのは昨日会った女の子、ユフィ。
まるで自分の部屋のようである。

ユフィはクラウドの部屋に入ると、後ろに控えていたあたしたちに手招きした。

戸惑うクラウドを余所に、ぞろぞろと皆部屋に入っていく。





「おい…」

「あはは…おはよー、クラウド」

「ナマエ…どういう状況だ、これ」

「さあ?」

「さあって…」





挨拶したらクラウドに聞かれた。
いやでも、実際あたしもよくわかってない。

朝、部屋でボーっとしてたらユフィが訪ねて来て、とりあえず全員集まってって、こうして集合させられた。

クラウドも諦めたのか大人しく中に戻っていく。

全員揃ったのを見たユフィは満足げに笑い、まるで演説でもするみたいに台の上に飛び乗った。





「よ〜し、これで皆揃ったね!じゃあ、まずは自己ショーカイ。アタシは、ウータイ暫定政府の精鋭部隊、マテリアハンターのユフィ!邪智暴虐の神羅カンパニーと戦うために、はるか遠方よりやってきたシノビの末裔なのであーる!」





マテリアをまるで手品みたいに器用に身体の上で転がし、元気に自己紹介してくれたユフィ。

これ…この自己紹介、もしかして一生懸命考えたやつなんじゃないかなー…。
だって邪智暴虐とか出てこんでしょ、フツー。

なんか愉快な子だなあ…なんて、そんな印象。
まあ皆も多分、似たり寄ったりな感想抱いてるだろうなーとは思う。





「ウータイ?」





ティファは優しい。
とりあえず当たり障りなく、皆も気になるであろう部分を聞き返してくれた。

ユフィも「そ!」と頷く。





「それで、頼みって言うのは他でもない。どう、アタシと手を組まない?アタシさ、手を組むなら本家より分派だと思ってたんだよね」





そういや七六分室に乗り込んだ時、ビッグスが本家はウータイと組んでるって噂があるみたいなことを言ってたような。

つまりその話は本当で、そのウータイのひとりがユフィってこと?
それなら本家だの分派だの知ってるのも頷ける気もする。





「忍者の仕事といやあ、スパイか暗殺だろ。俺たちがやってるのはそういうことじゃねえんだよなあ…」

「へんけ〜ん!」





バレットの言葉にユフィはびしっと指さしながら言う。

忍者かあ…。
まあたしかに、スパイとか暗殺のイメージって強い?

しかしユフィからすると、それは心外だと。





「あー…でも、今回はアタリかも」





偏見だと言った彼女は、今回は、と意見を翻した。

そしてこっそり話すからと、あたしたちにもう少し近くに集まるように手招きしてくる。

クラウド、バレットあたりは凄く面相臭そうな顔。
でも気になるし、あたしたちは素直にユフィの近くに寄った。





「故郷ウータイから遠く離れたユフィちゃんは、健気にも活動資金を自分で稼ぎながら反神羅活動を続けてるわけ。んで、ここで稼げないかな〜と探ってたら、ロドナー村長、暗殺の仕事があるっていうんだよね。そのターゲットが!」





ロドナーさんが持ち掛けた、暗殺のターゲット…。
ユフィの立てた人差し指に視線が集まる。

ユフィは溜めて…溜めて…。





「誰だと思う?」





ガクッとズッコケた。
言わないんかい…!





「もったいぶるな」





クラウドが呆れたように怒った。
ユフィはへらと笑い、遂にその正体を語る。





「なんと大胆、神羅カンパニーの新社長、ルーファウス神羅その人だ!どう、びっくりした?」





ルーファウス…。
思いのほか…っていうか、それは確かにまさかのビッグネーム。

神羅のトップの暗殺…。

溜めた意味も少しわかる。
これはビックリ、かも…。





「もうすぐルーファウスがジュノンに来るんだって。この村の真上。暢気に就任パレードなんかやるらしいよ。ここの人たちは国と太陽を奪われてから、ずっと神羅を憎んでるんだよね。だから、この機会に…カッ!」





首を狩る手の動き。
ロドナーさん、ユフィにそんな依頼をしてたのか…。





「そりゃ、すげえ」





バレットはそう言う。
でもそれは感心ではなく、馬鹿馬鹿しいと言ったニュアンス。

ユフィはむっとした。





「村長、アタシに払う報酬欲しさにアンタたちを神羅に売る気だよ」

「ああ?」





バレットは驚いたようにユフィを見る。
ちょうどその時、宿の外からバイクの音が聞こえてきた。





「あー、残念!もう売れちゃったみたい」





あっけらかんと言うユフィ。
売れちゃった…って、これ神羅!?





「じゃ、手を組むってことでいいよね!」





ユフィはそう言いながら窓に向かって駆け出す。
え!言いたいことだけ言って行っちゃうの!?

そう思った瞬間、外から聞き覚えのある男の声がした。





「いるんだろう、マイフレンド!」





ビクッとした。

こ、この声は…。

あたしは恐る恐るクラウドを見る。
するとクラウドも同じようにこちらを見ていて、目が合った。

これは…多分、考えていること同じだね…。

わーい、クラウドと以心伝心。
でも、全然嬉しくねえ…!!

あたしは「うう…」と呻いてて、クラウドは「はあ…」とため息をついた。





「上に行く方法は、プリシラに頼んでおくから!あとはヨロシク!」





ユフィは最後にそう言い残して、窓から飛び出していった。
あっ…と思ったけど、外からする男の声がそれを追う事を許さない。





「早く出てこないとバイクごと押しかけちゃうぞ!いいのか、マイフレンド!」



「ああーーー、もう!!」





あたしは頭を掻きむしった。
出来ればもう会いたくなかった!二度と!





「誰?ナマエも知ってるの?」





ティファがクラウドとあたしに聞いてくる。

さっきちらっと思い出した、七六分室での出来事。
ああ、その部分は忘れたままでいたかった…。





「知ってる…とは言いたくないけど知ってる…」

「はあ…室内は不利だ。外へ出よう」





集まった皆の視線にあたしたちはそう答える。

もしバイクでこんなところに突っ込まれたら、宿屋さんにもとんでもない迷惑が掛かる。
それをやりかねないってのが最早恐ろしいところだよね…。

ソルジャーのローチェ。

プレートの上の七番街へ行く途中と、七六分室でクラウドが戦った。

聞こえてくるこの声は、間違いなくアイツのものだった。





「やっと来たか、マイフレンド!おや、あの時の可憐なレディも一緒じゃないか」





宿屋から出ると、クラウドを見つけるなり両手を広げて近づいてくる。
どうやらあたしのことも覚えているらしい。

ううん…でも今ちょっと、ぞわっとした。

クラウドの視線は、物凄く冷めている…。





「アッハ〜、相変わらずつれないなあ!そんな友に朗報だ!このたび、エアリス救出特命部隊に抜擢されてね。そのことを伝えに来たってわけだ」

「えっ?」





エアリス救出特命部隊…。
エアリスは「え、私?」と戸惑ったように顔を指さす。

とりあえずそれは、救出じゃなくて誘拐です。

あたしとティファはエアリスを庇うように立つ。
クラウドも同じように前に出てくれた。

クラウドは尋ねる。





「ひとりで来たのか」

「アッハッハ!今回は挨拶に寄っただけだからね!ここは、我々が踊るには少しばかりヤボすぎる。不完全燃焼はお互いに避けたいだろ?上に!最高の舞台を用意してある!そこで、君が来るをの待っているよ、マイフレンド!」





ローチェはそう言うとバイクに跨り、そして高笑いしながら去って行った。

…とりあえず一先ずは危機、去った…?
思わず「はああ…」と、とデカいため息が出る。





「めんどくさそうな奴だな」

「うん…すっごく…」





バレットのその言葉には、頷くしかなかった。

上に行ったら…またアイツと会うかもしれないのか…。
ああ、すっごく、ものすっごく嫌だ…。

出来れば避けて通りたいと願わずにはいられない。





「ここ、離れた方が良いよね。村にも迷惑が掛かるし」

「うん…その方が良いと思う。もしかしたらカームみたいに、ぞろぞろ押し寄せてきちゃうかも…」





ティファの提案にあたしは賛成した。

ロドナーさんがあたしたちを売った…。
その真偽はよくわからないけど、神羅に場所を把握されてるのは事実だ。





「上に行くならプリシラを頼れって、ユフィ、言ってたよね」





エアリスはユフィの言葉を思い出す。

プリシラなら、海岸の方にいるのかな…。
そんな風に考えていると、こちらに近づいてくる足音がひとつ聞こえた。





「神羅の相手、ご苦労さん」

「俺たちを売りやがって。やってくれんじゃねえか」





近づいて来たのはロドナーさんだった。
バレットは声を低く、睨みつける。





「ほら、少ないけど取っときな」

「なんだよ、この金」





ロドナーさんはバレットに袋を手渡す。
中身はお金。

ロドナーさんはフッと笑った。





「あんたたちに掛かった懸賞金さ。元々、あんたたちにもいくらか渡すつもりだったのさ。反神羅同士でいがみあっても仕方ないだろ」

「本当に捕まったらどうすんだよ!」

「その時はその時さ。うまくいったんだからいいじゃない」





つまりロドナーさんは本当にあたしたちを売ったと…。

うーん…ちょっとショック。
まあでも確かにロドナーさんからしたら、その時はその時だろうなあ…。





「あとは、ユフィが上手くやるように祈るだけだね…」





そう言ったロドナーさんの目は、本当に祈るようだった。

神羅が憎い。
その気持ちは、心の奥底、ずっと重たくあるんだろうと。

そんな心は、伺える気がした。

とりあえず、アンダージュノンは出た方が良い。
色々な事情も考えたうえで、やっぱり上に行くのがいいだろうという意見でまとまる。

上に行くならプリシラを頼れ。

ユフィの言葉を信じ、あたしたちはプリシラに会いに海岸へと向かった。





「あ、お兄さん達!」





見つけたプリシラの姿。
近づくと彼女も気が付いてくれて、こちらに大きく手を振ってくれた。





「上へ行きたい。お前を頼れとユフィから聞いてきた」

「嬉しい!任せて!」





クラウドが頼っていいのかと聞くと、プリシラは笑って頷いた。





「あのね、ユフィが調べたら、ジュノンに行くにはあの船を使うのが一番ラクチンなんだって。ほら、あそこで船を操作できるの」





プリシラが指さしたのは上と繋がる位置に安置してある船だった。
その近くに操作室があり、そこで船を海まで下ろすことが出来るらしい。





「誰かが操作室に行き、船を下ろす。残りのメンバーが船に乗り、引き上げるというわけか」

「問題は、どうやって操作室まで行くかだな」





レッドXIIIとクラウドが状況をまとめる。

問題の、操作室の場所。
操作室も、船と同様高い位置にある。





「電流注意…」





ティファが柱に書いてある文字を読み上げる。
プリシラは頷く。





「うん、侵入者が登れないように、電気が流れてるの」

「死ぬじゃん!?」

「無理じゃねえか!」





バレットと言葉が重なる。

いやだって、死ぬじゃん無理じゃん!?
海で感電とか一ミリも笑えないよね!?





「そこで、イルカさんの出番!」





プリシラはジャジャーンとイルカを指し示した。

イルカもキュイッと鳴く。
あらやだ、可愛い。

でもどういうことか、ちょっとよくわからない…。





「イルカさん凄いんだよ!えっとね…あっ、そうだ!私がイルカさんと出会った時の話、聞く?あのね、海を泳いでたらキュイキュイって声が聞こえてー」

「…悪いな、急ぐんだ」





クラウドバッサリ言ったー…!

あ、これ…ちょっとまずいパターンかもとは思ったけど!
どう切り出すべきかなあって、多分皆悩んでたけど!

思いのほかクラウドがバッサリだった…。

プリシラは「ぶー…」とむくれる。

エアリスはそれをフォローした。





「ごめんね、プリシラ。用事済んだらまた来るから、イルカさんのこと、その時聞かせて?」

「じゃあ、約束!」





プリシラとエアリスは互いの腕をトン、と合わせ、次の約束をしていた。

うん、でも、普通に時間があったらちょっと聞いてみたいなとは思う。
このイルカ、凄く人懐っこいし。プリシラには特に懐いてるみたいだから。





「それで、どうすりゃいい?」





バレットがプリシラに聞く。
プリシラはイルカの傍にしゃがみ、その方法を説明してくれた。





「イルカさんの力を借りて、ジャンプするの。そしたら、きっと届くよ」

「ああ、そういえば昨日もクラウド、イルカの力借りてモンスター倒したよね」





そういやそうだったと思い出す。
昨日もイルカのジャンプ力に助けられたばかりだったわ。





「誰がイルカさんに飛ばされる?」





プリシラは尋ねてきた。

誰かひとり…。
イルカさんに飛ばされる人…。

すると皆の視線は自然とひとりに集まる。

あ…今、あたしが言った昨日の話のせい!?

いやいや!
してなくても、絶対同じ結果になってる!はず!多分!

バレットはドンとクラウドの肩を叩いた。





「頼んだぜ、なんでも屋」

「はあ…俺が行こう」





クラウドはため息をつきつつ、すぐに了承した。
まあ面子を考えても、自分が一番適任だろうとクラウド自身もわかってるんだろうなとは思う。

クラウドは海に入り、イルカの背びれに掴まった。

イルカは海を泳ぎ、助走をつけるように勢いを上げていく。
操縦室が近づいてくると、クラウドは少し身を乗り出して飛ぶ構えに入る。

クラウドのその指示を察し、イルカがぐんっと海を飛び跳ねた。





「わっ…!」





思わず声が出る。
クラウドは綺麗にイルカと呼吸を合わせて、すたんっと見事に操縦室前に着地する。

決めポーズもバッチリ。





「ナーイス!!」





バレットの大きな声。
ティファとエアリスも笑って親指を立て、拍手して。

あたしも「おおーっ」と目を輝かせた。

でも多分あれ、本人もフッ決まった…みたいなこと思ってそうだ。

そんなこと考えたらちょっと笑いそうになった。

いやでも実際決まってたし、すっごい格好いいけどね!!





「じゃあ、皆はこれに乗って」





船を下ろしてもらったら、今度はあたしたちの番。

プリシラはあたしたちにもボートに乗るよう説明してくれた。
このボートもイルカが引っ張ってくれるらしい。

なんて有能なんだ、イルカさん…!





「まったねー!」





プリシラは手を振って見送ってくれる。

こうしてあたしたちはクラウドが下ろしてくれた船へ向かう。
そして上の街、ジュノンへと乗り込んだのだった。



To be continued


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