ゆっくり話せる
海でモンスターを倒した後、あたしたちは宿に向かおうと村の方に戻ってきた。
海岸から続く階段を上り終わると、その瞬間、凄い勢いで女の子が駆け寄ってきた。
「オネーさんたち、アバランチの分派だよね?」
ユフィだった。
彼女はティファとバレットの顔を見て、意気揚々と聞いてくる。
え、アバランチ知ってるの!?
指名手配されてるのにしても、分派とかそんなことも!?
意外すぎる展開に正直ちょっとビビる。
「お前、何で知って…」
「アタシ、すっごく尊敬してるの!本家より、ずっとずっと!」
バレットが聞こうとしたら、テンション高く掻き消される。
バレットとティファは困ったように顔を合わせた。
でもとりあえず、話を合わせることにした様子。
「あ…お、おお、よくわかってんじゃねえか」
「ねえ、あとで会える?頼みがあるんだ!お礼もしなくちゃ!ね!ね!」
「じゃあー…明日、宿に来い」
「りょ〜かい!そんじゃ、またね!」
バレットと適当に交わした約束。
ユフィは満足したように、またどこかに駆けて行った。
「いるんだよな、尊敬詐欺が。まあ、まだガキだ。適当にあしらうさ」
「嬉しそうだったけど?」
ティファに指摘されると、バレットは隠すことなく笑う。
どうやら満更でもなかったらしい。
でもやっぱ、ちょっと詳しすぎな気もしたけど、どうなんだろう?
もしかして、目が覚めた時に目を丸くしてたの…皆が自分を見てることに驚いてと思ったけど、バレットとティファを見たからだったのかもしれない。
まあ当初の予定通り、とりあえず休もうと。
あたしたちは再び、宿に向かって歩き出した。
「おお、お客さん、聞きましたよ。海で大活躍だったとか。ロドナーから聞いてます。しっかりとおもてなしするようにって。ええと、5部屋でいいですか?」
宿屋の店主さんは凄く丁寧に迎えてくれた。
でも5部屋…それは多分、失言です。
グルルルル…と唸ったレッドXIII。
「どうどう…」
それはやめんしゃい…とあたしはしゃがんで赤毛に触れる。
「6部屋でお願いします」
その様子を見ながらエアリスが訂正してくれて、あたしたちはひとりずつ個室を用意して貰えることになった。
しかもプリシラを助けたお礼ということで、お代も構わないとのこと。
なんとまあ贅沢な話である。
「えーっと、あたしの部屋はー…っと」
あたしは渡してもらったキーを手に、自分の部屋を探した。
部屋は1階と2階に分かれている。
あたしは、2階の一番奥の部屋だった。
「わ!結構ひろーい!」
扉を開けてすぐ、テンションが上がった。
店主は狭い部屋ですがなんて言ってたけど、全然そんなことない。
ひとりでこの部屋使っていいとかとんでもない贅沢じゃん!
「わーい、ベッドー!」
早速ボスンとダイブ。
ああ、やっぱ戦ったからちょっと疲れたな。
あたしはごろんとベッドの上を転がった。
「そうだ、お水、貰ってこようかな」
そう言えば喉が渇いた。
フロントで言えば貰えるかな。
一度ベッドから起き、扉に向かう。
でも、そうしてカチャ…と扉を開いた時、ある会話が聞こえてしまった。
「俺も…」
「うん?」
「カームの事を、謝りたい」
「…どうぞ」
た、タイミングー…。
これは水差しちゃいけないやつ…!
スー…と静かに扉を戻す。
会話はクラウドとティファのものだった。
2階に上がってすぐのところがティファの部屋。
ティファはクラウドを招き、ふたりは部屋の中に入っていった。
「もう、大丈夫かな…?」
数秒待って、あたしはひょこっと廊下を覗く。
ふたりの姿はない。
よし…!
確認したところで、あたしは水を貰いにフロントへ向かった。
「…よいしょと」
コップとピッチャーを手に、階段を上って部屋へと戻ってきた。
テーブルに置いて、水を注ぎながら…少し、考える。
カームでのこと、謝りたい…か。
クラウドに存在を疑われたと、そう言ってたティファ。
クラウドの方も…やっぱり気になっていたんだろうなと思う。
でも、謝るというのなら、それは一歩前進だ。
わだかまり、無くなると良いんだけど。
そんなことを思いながら、コップに口をつける。
こくん…と喉を通る水は冷たくておいしい。
するとその時、コンコン…とノックの音が聞こえた。
「どーぞー」
音に反応し、扉に視線を向けながら応える。
すると扉がカチャリと開き、見えたのはクラウドだった。
「あ、クラウド」
「…邪魔する」
「うん、いらっしゃーい」
にこりと、クラウドを迎える。
でもその裏で考える。
ふむ、ふたりが話そうとしたのなら、少なくとも後ろ向きでは無いよな。
なら、ちょっと…聞いてみようかな。
「クラウド。ティファには謝れた?」
わりとストレート?
すると彼は、驚いたように目を丸くした。
「知ってたのか?」
「んー、ま、ちょっとだけ?あと、廊下で謝りたいって言ってたの聞こえたから」
「そうか…」
「うん」
「……どう、だろうな」
スッキリはしてない顔。
どうだろう、ってことは話せはしたけど、解決はしてない感じかな。
まあでも別に、そんなにぐいぐい聞こうとも思ってないし。
「そっか。まあ、お互いにどうにかしたいって思えてるなら、大丈夫だよ、きっと」
「…そう、だといいな」
「うん。ふたりが納得出来る答え、見つかるといいね」
「ああ…」
「探し物なら、あたしも手伝うしね」
「ナマエ…」
ふっと微笑む。
うん。
多分、今言いたいことは言えた気がする。
何かあれば、手を貸すよって。
まあ、この話はこれくらいにして。
あたしは流れを変えるように、ポン、と手を叩いた。
「さて、クラウド。あたしに何か用?」
クラウドが訪ねてきた理由はなんでしょうか。
あたしは首を傾げてそう聞いた。
「あ、ああ…いや、まあ、様子を見に来ただけだ。ひとりずつ見て回ってる。あんたで最後だ」
「えー、あたし最後ー?後回しー?」
「部屋が一番奥なんだ。そうなるだろ」
ちょっと拗ねたフリ。
いやわかってるけど。
見回りしてることも、最後の理由も。
だからすぐにふふふと笑う。
すると、クラウドも釣られたみたいに少し笑った。
「…まあ、でも、そうでなくとも、あえて最後かもな」
「ん?」
「最後なら、ゆっくり話せる」
「えっ」
どきりとした。
そ、それは…どういう意味で言ってんだこのおにーさん。
ちょっと、言葉に詰まる。
なにか、特別ゆっくり話さなきゃいけないことって、あったかな…。
「なにか、大切な用事、あった?」
「あ、いや…」
聞いたら、何故かクラウドも言葉に詰まってた。
…な、なぜに…。
大切な話とか、大事な話…。
そういうことじゃ、ないの…?
いや、見回りに来ただけ…とは言ってた…か?
だとすると…。
…なんだか、ちょっとだけ、都合よく捉えそうになる。
「じゃ、じゃあ…ゆっくり…話す?」
「あ、ああ」
首を傾げて、聞く。
クラウドもどこかぎこちなく頷いた。
…あたしは、沢山ある。
クラウドと話したいなって思うこと。
でもどれもこれも、そう中身のない、くだらないものばっかりだ。
あたしは…それがすごく楽しいけど…。
それで、いいのかな…。
「ね、ひとり部屋とか、すごい贅沢だよね」
「ああ。この先、こんな機会そうそうないかもな」
「だよねー。あ、そういえばあのユフィって子、明日本当に来るのかな?」
「さあな…でも、向こうから持ち掛けてきたからな」
「うん…分派とかまで知ってたから、何事かと思ったよ」
「ああ…確かにな。そうだ、ナマエ。なんでも屋の依頼、まだまとめてるか?」
「ん?うん、見る?」
「ああ、ちょっと見せてくれ」
「はーい」
いくつかの話題。
雑談は重なって、続いていく。
なんでも屋の依頼は、ミッドガルを出てからもちょいちょい受けていた。
そういうのもちゃんと、引き続きまとめてる。
助手なので勿論、その辺きちっとやりますよーってね。
ぱらりぱらりと手帳を見ていくクラウド。
その姿に、ああ、役に立ててて嬉しいなーって思う。
…なんでも屋の話、ゆっくりしたかったのかな…?
そうしながらあたしは、手帳と一緒に適当において置いたクイーンズ・ブラッドのデッキに目がいった。
「あっ、そうだ、クラウド。それ見終わったら、クイーンズ・ブラッド、またする?」
「…さっき外で俺がやってた時、やりたかったんだろ?」
「あははー、バレた?まあ、やっぱ見てるとね」
さっき買い物と情報収集をしてた時、クラウドは何人かのパウダーに声をかけられて勝負を受けていた。
うーん、そういうの見てたら、やっぱやりたくなってきちゃうよね。
「でもほら、カームで約束したよね?」
「ああ、次は手加減無しだったか?」
「そうそう!」
「ふっ…いいだろう。けど、あんたこれ好きなんだな」
「クラウドだって嫌いじゃないくせに〜」
クラウドはパタンとなんでも屋の手帳を閉じる。
互いに不敵な笑み。
クイーンズ・ブラッド三番勝負!
結果は一勝二敗…。
「い、一勝だけもぎとれた…」
「…くっ、完勝は逃したか」
「なんで勝ったのに悔しそうなのクラウド!?嫌味だな!?」
「全勝してねじ伏せようと思っていたからな」
「なんだとー!そうはいくかー!」
そんなこんなで、宿での時間はあっという間に溶けていったのでした。
To be continued
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