あの日の気配



神羅の追手はすべて振り払い、倒した。

ハイウェイを駆け抜けて、果てまで来る。

バイクとトラックと止めて、見つめた先…。
そこには、舞い落ちる黒い羽根の中で薄く笑う…セフィロスがいた。





「てめえ、さっきは…!」





バレットが食って掛かろうとした。
フィーラーが助けてくれたけど、バレットは神羅ビルでセフィロスに刺されたから…。

でもそれをエアリスは止める。

そして代わるように、セフィロスに言葉を向けた。





「違う。あなたは、間違っている」





強い、否定の言葉。

するとセフィロスも低く返してくる。





「感傷で曇った眼には何も見えまい」

「あなたは間違っている!」





エアリスは再び否定を口にした。
強く、強調するような声。

セフィロスはまた薄く笑った。

…わからない。
あたしには、何も。

でも、ただひとつ…。
今そこにいる英雄の事を、あたしはきっと…怖いと感じた。





「命は星を巡る。だが、星が消えればそれも終わりだ」

「星は消えない。終わるのは…お前だ」





隣にいるクラウドが剣を抜き、セフィロスに構えた。

クラウドは、何かセフィロスと因縁がある。

セフィロスは、倒すべき相手?
色んなこと、まだ全然わからない。

でも、きっと放っておいていい存在ではないって、それだけはわかる気がした。

だからあたしも剣を構えた。
皆も、同じように身構えた。

だけどその時、異変が起きた。





「来るぞ」





遠くを見たセフィロスが言う。

その時、パッと神羅ビルを囲っていた多くのフィーラーが弾けた。
一斉に、うねるように大きな渦を生み、それはあたしたちに襲い掛かってくる。





「うっ…」





とても目を開けていられなかった。
そして同時に、耳をつんざくような悲鳴が響いた。





「運命の叫びだ!」





セフィロスは高らかに叫ぶ。

この悲鳴が、運命の叫び?

そして、風は止む。
そっと目を開けば、セフィロスの前には渦巻くフィーラー達がいた。

セフィロスは長い刀でそれを切り裂くと、その渦の中にひとつの入り口が出現した。





「早く来い、クラウド」





一度だけ振り向き、クラウドを呼ぶ。
そしてひとり、その渦の中へと姿を消していった。





「…。」

「クラウド…?」





あたしはクラウドの背中に声を掛けた。
それはクラウドがセフィロスの後を追うように歩き出したから。

でも、それをエアリスが腕を掴んで引き留めた。





「ここ、分かれ道だから」





振り返ったクラウドにエアリスは言う。

分かれ道…?

エアリスはクラウドの腕から手を離すと、そっと目の前の渦に手をかざす。
その指先からは光が溢れて、渦にある入り口を白く照らした。





「運命の、分かれ道」





エアリスは全員の顔を見渡して行った。

運命の、分かれ道…?
言ってる意味は、やっぱりよくわからなかった。





「どうして止める」

「…どうして、かな」





どうして引き留めたか問うたクラウドにエアリスは瞳を揺らした。

渦の先…。
こんなの、進む方が戸惑う。

でもきっと、エアリスが引き留めた意味はそう言う事じゃなくて…。

だからティファが尋ねた。





「向こうには何があるの?」

「…自由」





エアリスは一言、そう言った。

自由?

それだけなら、何も引き留めるようなことはない気がする。
だってそれは前向きな言葉で…。

でもエアリスは、少し怯えているみたいに続けた。





「でも、自由はこわいよね。まるで、空みたい」





空。
それは、広くて…きっと自由の象徴だ。

あたしには、そんなイメージ。

でもエアリスはそれをこわいと言う。
どこまで続いているか分からないのは、こわいと言うイメージにもとれるだろうか?





「星の悲鳴、聞いたよね?」





エアリスは聞いてくる。

星の悲鳴って、それはさっきのつんざくような悲鳴?
あれは星の悲鳴だった…?



「かつて、この星に生きた人たちの声。星を巡る、命の叫び」

「…セフィロスのせいなんだろ?」





クラウドが聞けばエアリスはこくんと頷いた。





「うん。あの人は悲鳴なんて気にしない。なんでもないけど、掛けがえの無い日々。喜びや幸せなんて、きっと気にしない。大切な人、なくしても、泣いたり、叫んだりしない。セフィロスが大事なのは、星と自分。守るためなら、何でもする。…そんなの、間違ってると思う」





星と自分以外はどうなっても…。

なんでもない…掛けがえの無い日々。
セフィロスは、そんなものは欠片も気にしない…。

確かに、自分の目的の為ならば…手段は選ばない。
そんな印象を受けたのは確かだ。





「星の本当の敵はセフィロス」





そして、エアリスが幼少期に過ごしたという部屋で言いかけていたこと。
その、本当の名前を今ここで聞くことが出来た。





「だから止めたい。それをクラウドに、皆に手伝って欲しかった。このみんなが一緒なら出来る」





エアリスは皆の顔を見渡した。
クラウドにバレットにティファにレッド…それに、あたしも。

此処にいる皆が一緒なら出来る…。
なんだかまるで確信しているみたいな感じ。

でも、エアリスはあの渦を再び見て目を伏せた。





「でも、この壁は、運命の壁…。入ったら、越えたら、皆も変わってしまう。だから、ごめんね…引き止めちゃった」





エアリスは寂しそうに呟く。

するとその時、またつんざく悲鳴が聞こえた。
さっきよりも強い、思わず耳を抑えてしまうくらい、きつい音。





「…迷う必要は無い。セフィロスを倒そう。悲鳴は、もう聞きたくない」





悲鳴が止むと、クラウドはそう言った。

それは迷いない声だった。
そして、その気持ちはきっと皆同じ。

こんな悲鳴、もう聞きたくないって。

だからあたしは、同意するように頷いた。





「うん、行こう。クラウド」

「ナマエ…」





隣でクラウドを見上げ、微笑む。
一緒に行くよって、そう伝えたかったから。





「あたし正直、運命とか…よくわからない。うん、わからないことだらけ。でも、こんな悲鳴は聞きたくないって、それはあたしも思うから」

「ああ…」

「それに、エアリスが望んでる。それなら力になりたいって思うし…それとクラウドが行くというなら、うん、きっと理由はそれでいいって思ったんだ」

「え…?」

「一緒に行く」

「ナマエ…」





そんなに、難しい理由はいらないんじゃないかなって思った。

運命なんてわからないけれど…。
あたしにとって大事なことを、考えればいいだけじゃないかって。

ただ…エアリスが、友達が望むことを。
そして、クラウドの…誰より大切な人の傍で、力になりたいって。





「…ああ、来てくれ。一緒に」

「うん!」





クラウドがそう言ってくれたから、あたしは大きく頷いた。

でも、そんな時…ふと、気が付いた。
フィーラーが、こちらをうかがっていたこと。

そして似たような感覚を…前にも感じたことがあったこと。





「…ナマエ?」





クラウドに声を掛けられる。

そう…前も、そうだった。

エアリスの家の花畑で、クラウドと話した時。

想い、通じ合った…あの時。

あの時は、気のせいかなって思った。

でも、違う…。
きっと…あの時も。

あの時、感じた気配も…きっと、フィーラーだった。





「運命、って…」





どうしてあの時、フィーラーは現れたんだろう?

フィーラーは運命の番人。
運命の流れを変えようとする者の前に現れ、行動を修正する。

…それってつまり、あの時何か…運命の流れが変わりそうだった、もしくは…変わったって事?





「……。」





ちょっと、変なことを考える。

もし、もしも…クラウドと想いを通じ合えたことが…運命では無かったら。

ううん…。
そんなわけ、ないよ。

…あれは、あたしにとっては奇跡だった。
本当に、何度も夢だって疑ってしまうくらいの…凄い奇跡。

でも、世界の運命になんて…。
そんなことに影響があるわけ、ないじゃん。

そう思う。
そんなこと考えるなんて、馬鹿みたいって。

…でも、なんだか少しだけ…。

怖いなって、思った。



To be continued

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