その声で呼んでくれたなら



第四研究室の奥にあったエレベーターで落とされる前にいた階まで戻ってくることが出来た。
全員揃ったし、とりあえずは良かったな。

でも、戻ってきたその階は…先ほどと様子が違っていた。





「どうなってやがる」





バレットが言った。
その視線の先は、ジェノバという生物が入れられていたサンプルケース。

そう…入れられていた。

さっき、確か中に入ってた生物はいなくなり、その中は空っぽになってしまっていた。





「誰が…」





ティファが呟く。

誰かが持ち出した…。
だとすればそれは、一体。

…いや、予感はあった。

でも確信がないから、ティファは言葉を止めたのだろう。

…セフィロス。
確信はないけれど、その名前は全員の頭に浮かんでいたと思う。

なんにせよ、今は進むしかない。

あたしたちはそのフロアにあるエレベーターに向かった。





「うげ…キモチワルーイ」





エレベーターの扉が開くと、あたしは思わず顔を歪めた。

通路には、謎の不気味な色の液体が垂れていた。
その液体はエレベーターに向かって伸びており、当然中にもべったりだった。

なんだこれ…ジェノバの血とか…?
血にしては明らかに色おかしいんだけどさ…。

踏まないように気を付けながらエレベーターに乗り込む。
そうしてあたしたちは社長室に向かった。





「プレジデントの奴どこ行きやがった」

「セフィロスは…?」





最上階についた。
降りたバレットとティファが辺りを見渡す。

エレベーターは社長室に直結している。
だから皆身構えていたけど、拍子抜け…?

そこにはプレジデント神羅の姿も、セフィロスの姿もなかった。





「誰もいないね…」

「ああ…」





一応確認の意味で傍にいたクラウドに声を掛ける。
でもその時、つんつん…とレッドに足をつつかれた。





「ん?レッド?」

「ナマエよ。クラウドも。何か聞こえないか?」





何か…?
そう言われ、あたしとクラウドは耳を澄ませた。

会話は皆にも聞こえていただろうから、自然と静かになり、皆も一緒に。

すると確かに、誰かの声のようなものが聞こえてきた。





「誰か!助けてくれ!おーい!」





男の人の、声?
助けを求めてる。

あたしはクラウドの顔を見た。





「声…どこから?」

「部屋の中じゃない…、向こうだ」





クラウドが指さす先を見れば、そこには屋上へと続く扉があった。

屋上は目的の場所でもある。
だからあたしたちは屋上に出てみることにした。





「おーい!助けてくれ!おーい!」





屋上に出れば声は近づいた。

でも、聞こえてくるのって…どこ?

声は聞こえるのに、姿は見えない。
だって声がするのって、欄干の向こう側?

恐る恐る近づいてみると、その状況を理解した。





「こりゃ愉快な状況だ」





バレットはそう言った。

助けを求める男の声…。
それは足場に両手を掛け、今にも落ちそうになっているプレジデント神羅のものだった。

なんで、プレジデントがこんなことに…。





「頼む、手が限界だ…謝礼ならいくらでも」





こちらに気が付いたプレジデントは助けを求めてきた。

この状態…。
このままだと、そう長くは持たないだろう。

見ていられなくなったであろうティファは助けようと近づこうとした。

でもバレットはそれを制する。
そして自らがプレジデントに近づいた。





「金じゃねんだよなあ」

「助けてくれ…うわあっ」





バレットが見下ろすと、限界が来たプレジデントは手を離してしまった。
でもバレットはその腕を掴み、プレジデントの体を引き上げた。

だけど、簡単に助ける気は…勿論ない。





「助けてくれ。望みを、叶えてやろう」

「俺の望みはささやかでよ、お前が死ねば九割がた実現したも同然」

「残りの、一割の話をしないか」

「大したもんだぜ。この状況で交渉するつもりか?」





腕を掴んだままの宙吊り状態。
そんな状態で会話を交わすバレットとプレジデント。

バレットはプレジデントの腕から手を離し、今度は襟に持ち替えた。

これじゃ首が締まっちゃう…。




「バレット!」

「やめて!」





ティファとエアリスが悲痛に叫ぶ。

その声を聞いたからかはわからない。
でも直後、バレットはプレジデントの体を欄干の向こう…こちら側に放り投げた。

プレジデントの体は叩きつけられ、転がる。





「ミッドガル中に放送するんだ。まずあんた自身の口から七番街の真相を伝えて貰おう。それから、俺たちの名誉の回復!アバランチは誰の手先でもねえ!」





立ち上がり後ずさりしながら逃げるプレジデント。
バレットは脅しながら追いけていく。

ふたりは建物の中へ…社長室へと入った。

でも、それを見たあたしは胸がざわついていた。

一見、まだバレットが優勢に見えるよ。
だけど…。





「プレジデントは、冷静な気がする…」

「ああ…」





ぽつりと呟けば、クラウドが頷いてくれた。

あたしはクラウドの顔を見る。
目が合ったその顔は、同じようなことを考えているのだとわかった。





「クラウド…どうしよう」





クラウドの腕に触れ、不安をこぼす。

プレジデントがどうするのかはわからない。
でもきっと、あの人は勝算があって社長室の方に逃げたはず。





「とにかく、俺たちも行こう」

「うん」





ふたりで頷き合う。
そしてあたしたちも急いで社長室の方に向かった。





「今一度、正義とは何かをよく考えたまえ。持ち時間はほとんどないがね」





中に入ると、プレジデントがバレットにピストルを突き付けていた。

なるほど…。
あれがあるから社長室に逃げたのか。

確かに、社長の部屋ならピストルを隠していてもおかしくないよね。

やっぱり、プレジデントは冷静だった。





「ひとつ教えてくれ。てめえの正義は何だ」

「馬鹿め。すぐにゴミになる包み紙などいらんのだ。重要なのは決断と実行!好機はまず掴め。邪魔者は即座に排除。やれることは躊躇なく」





邪魔者、自分に仇なす者に容赦などしない。
そこに何の躊躇いも無い。

そしてプレジデントは引き金を引こうとする。

だけどその瞬間、あたしたちは目を疑った。





「え…」





漏れた声。
一瞬、時が止まったようにさえ感じた。

突然、プレジデントの背後に現れた影。
それは長い刃でプレジデントの体を容赦なく貫いた。

カタッ…と落ちるピストルの音。

刀が引き抜かれる。
プレジデントの体は床に落ちた。

背後になびいたのは…長い長い、銀色の髪…。






「てめえ!!」






目の前に現れたセフィロス。
バレットは向かっていこうとする。

辺りにはフィーラーが渦巻きだす。

また、何が起こったのか分からない。

気が付いた時、今度はバレットの体が刃に貫かれていた。





「バレット!!!」





ティファが悲痛に叫んで、走り出す。
レッドとエアリスも。

嘘…嘘…。

あたしは頭が否定を探して、でも、体中がぶわっと熱くなって。





「バレットーッ!!!!」





あたしも叫んで駆け出した。

嘘だ…!
だって、マリンに帰るって言ってたじゃん…!

一番に駆け寄って傍に膝をついたティファ。
あたしも同じように膝をついた。

だけど、忘れてない。

目の前の脅威。

なびいた銀髪、黒コート。
冷たく微笑んだ…かつての英雄。

周りには黒い靄が渦巻いている。
それはどんどん大きくなって、セフィロスを包んで…大きく広がっていく。

そしてその中から現れた異形の存在を、あたしたちは見つめた。





「こいつは…」

「あれが、すべての始まり」





レッドとエアリスが言う。
それを聞きながらあたしとティファも立ちあがった。

すると、目の前に金髪の背中が駆けつける。





「クラウド…」





あたしたちを庇う様に、前で剣を構えたクラウド。

そこにいる…異形な存在。
あれが…あれが、ジェノバ。

よくわからない。
でも、感じる。

これ、とんでもないモノだって。

戦わなきゃ…。

そう思い剣を構えて、あたしは前に立ってくれているクラウドの横に走った。





「ナマエ」

「!」





その時、声を掛けられた。
それは隣に立つクラウドの声。

視線を向ければ彼は頷いた。

それを見たら、少しだけホッとした。

多分、ちょっと臆してた。
いや…あまりに未知の存在過ぎて。

身体のすべてで感じるほど、とんでもない存在だって思ったから。

クラウドは、それを見透かしたのかもしれない。

ひとりじゃない。俺が傍にいる。
そんな風に名前を呼んでくれた。

うん、今のでかなり緊張解けたよ。





「行くぞ!」





クラウドの掛け声で皆が走り出す。

襲い来る、いくつもの触手。
巨大で獰猛な腕。

あたしたちは必死に、未知の存在にへと向かった。



To be continued

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