俺がついている
「わかった。俺たちは中央端末を目指す。連絡するまでそこにいてくれ」
第三研究室の前に着いたティファとエアリスから連絡が入った。
それは第三研究室の扉が開いていないという報告だった。
先程、宝条博士が言っていた準備。
それはどうやら自分たちで中央端末を操作し、扉を操作しろという話だったようだ。
準備の方も手伝ってもらおうって、そういうことね…。
なんだかいいように使われて、ムカつくなあ。
でも話が進まないのなら仕方がない。
だからティファたちには一度その場で待機してもらい、あたしたちが中央端末で第三研究室のロックを解きに行くことなった。
「なんの研究だよ、ったくよ」
バレットがイライラを隠さず舌打ちする。
でも正直同意でしかないんだよな…。
本当、こんな薄暗いとこでなんの研究をしてるのやら。
するとレッドが静かに口を開く。
「空から来た災厄ジェノバ。宝条の半生はジェノバに捧げられている」
「…ジェノバって」
あたしはレッドを見た。
ジェノバ。
それはここに落とされる前、なんだか特殊なポッドの中に入っていた…あれ?
宝条博士は、半生をあれに捧げてるの?
しかも、空から来た災厄って…。
「伝記なんか聞きたくねえよ」
バレットはケッとそっぽを向いて後ろ頭を掻いた。
まあ神羅の幹部に関してのバレットの態度はいつもこんなもんだろう。
活躍とか偉業とか、そんなの聞きたくないカンジ。
でも別にレッドも宝条の偉業を語ろうとしたわけではないだろう。
だからあたしは「なに?」とレッドの傍にしゃがむ。
するとレッドは話を続けてくれた。
「この施設で行われているのは、ジェノバ由来の生体情報を生物や機械に埋め込んで、強化を試みる研究だ」
「生体情報…?って…んん?え、なに。それ埋め込むと強化、されるの…?」
なんだか話が専門的になってきてよくわからない。
だからそもそもジェノバって何なのよ。
半生を捧げるほどとんでもない何かがあるって?
そんなこと言われても、あたしにとってはさっぱりだ…。
「宝条は実験体の仕上げを我々にやらせる気のようだ」
レッドは中央端末に視線を向けながらそう言った。
するとバレットがまたも怒りを露わにする。
「あの野郎、どこまでふざけてやがる!」
「すでに実験体の運命は決まっている。楽にしてやろう」
レッドの最後の一言、それはなんだか耳に残った。
実験体の運命は決まっている、か。
機械はともかく、生物にも生体情報を埋め込む実験…。
会議を覗き見したときから思っていたけど、宝条博士は命とか…そういうのどうでもいいんだろうな。
超えてはならないと普通の人が思いとどまる一線を、何事もなく踏み越えていく。
人を人とも思わない…。
エアリスを助けに行くべきだとエルミナさんを説得していたクラウドの言葉が、ここでまた染みた気がした。
「ついた!中央端末!えっと、スイッチいくつかあるけど」
中央端末まで移動してくると、あたしは皆に振り返った。
そこにはスイッチがいくつか設置されている。
番号も割り振られてるから、多分それぞれの研究室に対応してるって感じなのかな。
「ティファたちがいるのは第三研究室の前だったよな」
「スイッチは4つ。研究室も4つあるらしい」
「クラウド」
「ああ」
声を掛けると、03と書かれたスイッチの前に立ったクラウドはそれを起動させた。
すると「輸液確認、サンプルテストを開始します」というアナウンスが流れだす。
多分これで第三研究室の扉は開いたのだろう。
中央端末のところにも通信装置はあったから、クラウドはロックを解除したことと無理はするなと、ふたりに声を掛けた。
「はあ…もう…気が滅入ってきちゃうな…」
あたしは中央端末の通路につけられた欄干に寄りかかり、ストン…と座り込んだ。
暗くておどろおどろしいし…。
空気が悪い気がして気分悪くなりそう。
すると、クラウドが傍まで来て話しかけてくれた。
「大丈夫か?」
「…だいじょーぶ。今大変なのはティファとエアリスだしね。でも、あたしたちが出てきたとこが第一研究室だとすると、あと第二と第四もあるわけだよね」
「ああ。多分全部やらされるだろうな」
「だーよねー…」
あたしたちが通ってきた第一研究室。
今、ティファとエアリスが進んでいる第三研究室。
研究室は4つだから、多分残りのふたつのサンプルテストも宝条博士はやらせるつもりだろう。
「不安か?」
「うーん、まあ得体の知れないモンスターだからね。多少なりとも不安はあるかも」
「そうか…。でも、そんなに心配するな」
「え?」
「俺がついてる」
「へっ…」
俺がついてる…!?
言われた言葉に心臓が飛び跳ねる。
ていうか今ズギューン!!って物凄い音したぞ!!
「え、あ、ありがと…」
動悸と動揺でぎこちないお礼しか出てこない。
でもクラウドが優しい顔で頷くから、またも心臓だけ激しくなる。
うん…ま、でも…。
クラウドがついててくれるって、そう言ってくれるのは心強いよね。
だからあたしは頷いて笑った。
「うん、頼りにしてます」
「ああ」
そんな風に言うと、クラウドもちょっと嬉しそうに笑ってくれた。
そういう顔してくれると、こっちも嬉しく感じる。
よし、頑張ろう。
気合の入れ直し。
あたしはしゃがみこんでいた腰を上げ、立ち上がる。
そしてにっこり、クラウドに向けて笑って見せた。
To be continued
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