特別ということ



ティファとバレットとも合流し、あたしたちはワイヤーガンを使ってプレートの上に登った。

七番街ではまだアバランチの残党狩りが続いている。
戦いも強いられたし、少しの衝撃で簡単に崩れてしまうその道は険しかったけれど、そんなの今に始まったことじゃないよね。

手段があるなら、進むのみ。

こうしてあたしたちは、無事に神羅ビルの中へと潜入することが出来た。





「わ!ティファ凄い!」

「ふふっ、ありがと、ナマエ。あ、これでセキュリティを解除できるかも」





神羅ビルのセキュリティはカードキーで管理されてるようだった。

エントランスに人の気配はない。
それをいいことに、ティファの活躍で受付に侵入し、ちょろっと置いてあったカードキーを拝借した。

そしてついでに受付のパソコンで研究施設のフロアは65階であることを突き止めた。

クラウドが言うには、エアリスがいるのは恐らく科学部門の研究施設だろうと。

だから目指すべきは上の階。
して、その上の階に行くための方法というのが…。





「マジかよ…」

「うん…これは、ヤバイね…」





今、目の前にある光景。
それを見上げてバレットと絶句した。





「正面突破よりは人目につかない」





クラウドは冷静に返してきた。

いやまあ、そうっちゃそうなんだけども…。

今、あたしたちの目の前にあるもの。
それは、どこまでも続いているように見えるとんでもなく長い非常階段だった。





「たった59階だ」

「そうだね」

「たった…かなあ」





たったと言ってのけるクラウド。
それに頷くティファ。

そして思わず引きつるあたし。

科学部門の研究施設は65階。
だけど階段とエレベーターでは59階までしか上がることが出来ないと言う。

まあ言い方変えればこの階段で59階までは行けるってことなんだけど…。





「ま、まあ…行くってんなら…うん…頑張るけど…」

「尻すぼみだな」

「うーん…流石にこれ見て階段だー!ひゃっほー!とかはならない…」





明らかにしぼんだ声。
クラウドに突っ込まれたけど、でもやっぱりマジか…って気持ちはね、あるよね。

ただ、ここで駄々をこねるつもりはない。
エレベーターよりこっちの方が安全なのもわかるし。

うん…エアリスの為なら、頑張りますか…。

なんとかそう気持ちを前向きな方にもっていく。

そうしてあたしたちは非常階段を上り始めた。





「上はどんな感じなんだろう」

「重要施設も増えてくる。これまでのようには行かないだろう」

「ついた頃には俺たちもヘロヘロだしな」

「うう…そう言う想像したくない…!」

「ペース配分を考えながら行こう」

「そろそろ休憩にしねえか」

「バレット早い…でも気持ちはすんごいわかる」

「バレット…ナマエ…」





まだとりあえず、下層階は軽快に上がっていける。

でもだからって飛ばしてはいけない。
重要なのは、クラウドの言う通りペース配分をしていくこと。

そしてそのペースというのは人それぞれ違ってくるわけで。





「ティファはやーい…」





あたしは自分より少し上の方から聞こえる足音を聞いてそう呟いた。

一番早いのはティファだった。
流石、鍛えてるだけあるし、やっぱり身軽だよね。

逆に一番遅いのはバレット。
さっきから何かと弱音が多いし…って言うのはあまり人のこと言えないんだけど、ちょっと大丈夫かねって心配だ。いや、本当、人のこと言えないけど。

あたしとクラウドはそのふたりの真ん中くらいのペースを保っていた。





「クラウド、もしかして剣重い?もうちょい早いペースで行くかと思ってたよ」

「…まあ、そうだな」

「そっかあ」





顔を見て話せる位置。

正直、元ソルジャーたる彼があたしと同じ位置ってのは意外だった。

でもよくよく考えたらクラウドってすんごい大きな剣背負ってるわけだしね。
それでこの階段上ってるんだから、それって凄いよなと思い直した。





「クラウド!ナマエとバレットをお願いね!」





その時、上の階からティファの声が響いてきた。

…これ一階とかじゃなくて数階上だよな…。
どんどん進んでいくティファが凄い。

逆にバレットは…差が開いて数段下っぽい。





「ああ、ナマエの事は任せてくれ!バレットは知らない」

「え」





すると、ティファにそう答えたクラウド。
あたしは目をぱちくり。

それを聞いた上の階からは「あはっ…」というティファの笑い声が聞こえて、下からは「んだとコラァア…」っていう若干元気のないバレットの怒りが聞こえた。





「あたしの面倒は見てくれるの?」

「ああ、あんたはな」

「バレットは?」

「知らない」

「あははっ!」




またも知らないときっぱり。
なんかちょっと言い方が子供みたいな。

たまにこういうとこあるよね、クラウド。
ちょっと可愛い。そういうとこも凄くいいと思います。大好きです。

でもおかしくて笑ってしまった。

あたしの数段先を歩いているクラウド。
ひとつ階を上り終えると、振り返って手を伸ばしてくれる。

その手を掴むと、ぐいっと引いてくれた。





「えへへ、報酬もなにもなしで?」

「何かくれるのか?」

「んー、どうだろ。そんな大層なものは持っていないしなあ」





なんだかちょっと適当な会話。
でもそんな会話に、クラウドはふっと笑ってくれる。





「ふっ…別に何もなくていい」

「え?」

「普通なら、見返りなしなんて御免だ」

「うん」

「でも、あんただけは特別だ」

「特別…」




そう言ってくれたのが、結構心に残った。

クラウドはいつも、契約や報酬がないなら俺には関係ないって顔をする。
そんなクラウドが、何の見返りもなしに助けてくれると言う。

実際のところクラウドは、口ではそう言っても、なんだかんだで手を差し伸べてくれる人だ。
何かの礼だと理由をつけたり、子供たちなら値段を破格にしたりしてね。

あたしはそういう優しいクラウドが大好きだ。
勿論、なんでも屋は商売だから、当然報酬も重要だけどね。

ただね、基本姿勢がそうというか…。
関係ない、興味ないっていつも言ってるのに、特別だから助けるって、そう言ってくれることが嬉しくて。




「あはは、そっか!うん、あたしも、クラウドのこと助けるよ!無償で、なにより最優先!」

「ふっ…そうか」





こちらからも返したい。
特別だって気持ちと、助けになりたいっていう想い。

なんでも屋さん、最初はちょっと勢いでみたいなところもあったけど…。
でも今は、クラウドの役に立ちたいって心から思ってるしね。

それはふたりだけの階の会話。

なんだか気分が良くて、トントンと上る。

でも体力というのは誤魔化せないもので…。





「ううっ…」

「…どうした」





足を止める。
胸を押さえて、肩で息をする。

ああ、もう…だいぶ、だいぶきてるぞ…あたしのスタミナ…。

クラウドも気にしてか足を止めてくれる。
ああ、クラウド、気に掛けてくれてありがとう。好き。

でも、こいつはきつい…。

もう結構良い階まで登ってきたと思うけど、恐ろしくて今何階なのか見れませんて…。





「ナマエ…ほら、もう少しだ」

「…クラウド、絶対今何階にいるのか言わないで」

「……わかった」





息切れしながらも、多分あたしは必死な形相だったのだろう。
クラウドの返事からなんかそれは感じた。

かくいうクラウドも結構疲れてきてるのか肩で息してるけど。

いっつもバトル後でもわりと涼しい顔してるクラウド。
そんな彼だから、こういう姿はわりと新鮮というか。

ていうか、うん。
あっ、なんかちょっと色っぽい…!





「……。」





すげえ馬鹿。
すげえ馬鹿っぽい感想。

しかも息苦しいのに自分で余計に息苦しくしてどうすんだ。

そんな自分に呆れつつ、再び足を動かし始める。

これも、エアリスの…ためっ!!!

そう心を鼓舞し、あたしは59階を目指したのだった。



To be continued

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