甘く触れる



「えーっと…これで全部かな」

「ティファのリストにある分も揃ったか?」

「うん、大丈夫!」





上の街に行く前に、準備を整えることになったあたしたち。

情報収集にバレットとティファ。
買い出しにクラウドとあたし。

あたしたちの方は必要な物は全部買い揃えることが出来た。

とりあえず時間を決めて落ち合う事にはなってるけど。
約束していた時間までは、まだ結構余裕があった。





「時間、余っちゃったね」

「ああ。まだ約束の時間までだいぶあるな」





流石はウォールマーケットというところか。
品揃えは悪くなく、買い物はちゃちゃっと終わってしまった。

これといって特にすることもないしな…。





「まあ、余裕持って戻っておくのもいいと思うけど」

「そうだな。合流したらすぐ出発出来るし、戻るか」

「うん。買った装備確認しようよ。穴も増えたし、マテリアどうするか考えたい!」

「ああ。わかった」





こうしてあたしたちはちょっと早めに待ち合わせ場所である壁の前に戻ることにした。

人気のない、開発地区。
じゃらっと装備を広げても、誰にも迷惑掛からない。

戻ってくるとすぐ、あたしたちは装備を確認した。





「じゃーん!いいね、このバングル!」

「マテリア、どうするんだ?」

「うーん、支援系のやつとか結構試してみたいんだよね」

「そうか。それなら…」

「おすすめある?」





近くにあった木箱にマテリアを広げ、ふたりで話す。

装備を確認するとき、クラウドは一緒に組み合わせを考えてくれることが多い。

構ってもらえるから、あたしはいつもこの時間が好きだ。

ていうか普通に為にもなるしね。
真剣に、色々と話が出来るから、そういう意味でも夢中になれた。





「あ、面白いかも。この組み合わせ」

「ああ。まだ空きがあるか。他はどうする?」

「んー、育成したいやつつけてもいいよ?何かある?」

「そうすると候補は…、っ…」

「クラウド?」





急にクラウドの声が止まった。
どうしたの、と装備品から顔を上げてみる。

するとその理由はすぐに分かった。

ばち、とぶつかった視線。
とても、すぐ近く。

見上げたことで、余計に。

わっ、顔、近い!





「あ、ごめん…っ」





びっくりして、パッと咄嗟に離れた。
でもその瞬間、がしっと二の腕の辺りを掴まれた。

うっ!?!?





「…そんな勢いよく離れなくてもいいだろ」

「はえ!?」

「…あんた、前もそうやって凄い勢いで離れたんだ。覚えてるか?」

「えっ、ま、前…?」





前?前って、いつだろう?
そんな勢いよく離れたことあったっけ…?

記憶を辿って、少し考える。

そうしていると、クラウドがじっとこちらを見ていることに気が付いた。





「あ…」





綺麗な瞳。
まっすぐこっちを見つめている。

どきりと心臓が鳴って…。
まるで時が止まったみたいな感覚になって…。

そして気が付く。

少しずつ、少しずつ…近づいてくる。





「…っ!」





こ、これ…!!
もしかして、もしかして…!!?

徐々に近づく顔の距離に、その先に待つ現実に気が付く。

えっ、ど、どうしよう!!?

緊張して、混乱して、どうしていいかわからなくなる。

…でも、同時に、焦がれている。

もっと、近づいてみたいって気持ち。

もう、重なる。
その直前に、あたしはきゅっと目を閉じた。





「……、」

「…っ…」





触れた、数秒。
合わさった唇は、少し惜しむようにゆっくりと離れた。

…唇に、まだ感触が残ってる。

そっと、開いた瞼。

視界は、少しうつろ。
目を見るのが気恥ずかしくて、相手の鼻のあたりを見てる。

…今、クラウドとキスをした…。

互いに、まだ、離れなくて…。
すごく近い、距離のまま。





「…もう一回、していいか?」





すると、クラウドがそう聞いてきた。

あたしは、こくんと小さく頷いた。

…なんだろう。
今、この人に…すごくすごく触れたくて。

そして、また唇が重なる。

あたしは、クラウドの肩に手を置いた…。
でも、それよりもう少し…。
首に腕を回して…きゅっと、すくめる。

すると、クラウドの手が、背中に触れた。
その感触を感じたと思ったら…ぎゅっと強く、抱きしめられる。

ああ…これ、凄く幸せな瞬間…かも。

幸せ、なんて。
それがふさわしい言葉なのかさえ、わからないくらい。





「……。」

「………。」





さっきより、少し長く。

そしてまた、ゆっくりと離れた。

まだ、間近に整った顔がある。

今度は瞳を見た。
視線が交じり合う。

そこで、あたしは我に返った。






「…っ…」





う…、まずい…。

ぴったりくっついているわけじゃないけど、まだ、クラウドの腕の中にいる。
向き合ったままの状態で、あたしは少し、顔を俯かせた。

いや、あたし、結構恥ずかしいことしたね!?
首に腕を回して、抱き着いて…って、まじまじ思い出すな馬鹿ぁ!!!?

だって、なんか…あの瞬間は、もっともっと近づきたくて。
大好きだって、愛おしいって気持ちを、少しでも少しでも…伝えたくて。

…もう、叫びそう!!
そんな衝動を必死に抑える。

そしてあたしは伺うようにちらりとクラウドの顔を見た。





「…ぇ…」





見て、あたしは目を見開いた。

目の前にある、クラウドの顔。
その顔は、すごくすごく…嬉しそうな顔をしていた。





「……。」





柔らかく、緩んでる…。
こっちを見て、とても…。

いや、本当に…自惚れかどうかとか考える暇もなく。
パッとすぐ思ってしまうほど、嬉しそうな顔してるから…。





「…そんな顔、してくれるの…」

「え?」

「…なんでもないです」





思わず零してしまった。
するときょとんとしたクラウド。

あたしはゆっくり首を横に振る。

…ああ、本当に、この人に想ってもらえているんだ。

そんな実感。

今またすごく。
じわりと感じた気がした。



To be continued

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