白紙の未来



運命の分かれ道。
ハイウェイに現れた入り口の向こう側へと、あたしたちは皆で進んだ。

先は見えない。
でも、ただ前に真っ直ぐと進む。

そうするとやがて、景色は開けた。





「…ハイウェイ?」





ぽつっとその景色を見て呟いた。

フィーラーの扉を抜けた先、そこは先ほどと何も変わらない…夜のハイウェイの景色が続いていた。





「なんだよ、別に普通じゃねえか」





そう言ったバレットの言葉には同意する。

確かに、ちょっと…拍子抜け?
何か待ち構えてるのかなって、ドキドキしてる部分はあったから。

何も変わらない景色に拍子抜けして、でもやっぱりちょっとホッとしていたかもしれない。





「あっ…、見て」





だけどその時、エアリスが空を見上げた。
その声に反応し、皆で空を見る。





「え…」





そこにあった光景に、思わず声が漏れた。

エアリスが指した上空にあったモノ。
それは、幾つものフィーラーが渦巻いている光景。

神羅ビルを覆っていた時にも似てる。

今はその束が、雲となり、風となり…竜巻のようになってあたしたちに迫って来ていた。

…って、うん!?





「おいおい、嘘だろ!」





バレットがそう叫んだと同時に、クラウドが退けと皆に手で合図した。
その瞬間、あたしたちは竜巻から逃げる様に後方に向かって駆け出す。

竜巻はハイウェイの道路さえも破壊して、空へと巻き込んでいく。

ちょ…!あんなのに巻き込まれたら、どうなるかわかんないよ!!!

だけど、駆け出した足はすぐに止まる事になる。
それは引き返した後方にも、同じ竜巻が迫って来ていたから。





「ちょ、嘘嘘嘘っ!?」





目の前からも背中からも迫ってくる竜巻に狼狽える。

竜巻の挟み撃ちとか聞いてない…!

ハイウェイじゃ横には逃げられない。
やがて竜巻はあたしたちに追いついて、その体を飲み込む。





「うっ…ちょ、うわっ…!」

「っ…ナマエ!!」

「クラウド!」





為す術も無く体が浮き上がった瞬間、クラウドの声がした。
手を伸ばしてくれたのが見えて、こっちも必死に伸ばしたけど、その指先すら触れることはない。

全員、体が風にさらわれて、バラバラになる。

そしてそのまま、まるで導かれるみたいに…あたしの体はフィーラーの渦の中に飲まれていった。





「うわ…っと…!」





攫われて、どれくらいの時間宙を漂っただろう?

やっと浮遊感が消えて、あたしはトッ…と足を地につけた。
いや、正直ここを地っていいのかはわからないけど。

辺りを見渡せば、そこは瓦礫が漂う空間だった。

飲み込んだハイウェイとかの残骸が、重力でも失ったみたいにそこらじゅうに浮かび上がってる…そんな感じ。
あたしが今立っている場所も、その瓦礫の一部だろう。





「皆は…」





とりあえず命はある。
だからあたしは辺りを見渡した。

此処に飲み込まれたのは、きっとあたしだけじゃないはずだ。

だって皆、同じ竜巻に飲まれたわけだし。
フィーラーの仕業なら自然現象ってわけじゃないから、皆も一緒に飲まれてる可能性は高い、はず。多分。

ていうかこんなところでひとりぼっちなんて御免だ!
そうとなれば皆を探すべし。

あたしは瓦礫を何とか伝い、歩き出そうとした。

だけどちょうどその時、ひとつの声に名前を呼ばれた。





「ナマエ!」

「えっ…あ!レッド!」





声に振り向けば、そこには瓦礫を器用に駆け抜けてこちらに来るレッドの姿があった。

あああっ、良かった!会えた!!
ひとりじゃなくなったことにどっと安堵する。

あたしの方からも急いでレッドに駆け寄った。





「レッドー!」

「無事だったか」

「レッドも!ああー!よかったよー!!」





駆け寄って、思わずその赤い毛に抱き着いた。

だってやっぱ心細かったし!!
万が一、一生会えなかったらどうしようかともチラリとは思ったわけさ!
すぐ考えないようにしたけども!

だけどあんまりに赤い毛を撫でまわしていたから「そろそろ離れないか」と低く言われた。
はい、すみません。

あたしはレッドから身体を離し、今の状況を尋ねた。





「ねえ、レッド。他の皆は?わかる?」

「…いや、最初に見つけたのがナマエだ。足が着いて、すぐにお前の匂いを見つけた。だからこうして辿ってきたと言うわけだ」

「匂い…。へえ…流石」

「どうやら運よく近くに流れ着いたらしいな」

「そっか…」





レッドもまだ他の皆には会えていないらしい。

でも、最初にレッドに会えたのは結構ラッキーだった気がする。
だって今の話を聞く分だと他の皆も匂いで探せるかもしれないからね。

だけどその前に、此処に辿りついてから気になっているものがひとつあった。





「ナマエよ、勿論気が付いているな」

「うん…あれ」





あたしたちは少し遠くの空を見た。
そこには、まるで巨人のような姿の大きな何かがいた。

この場にいてまず気が付かないはずが無い、大きな存在。





「あれも、フィーラー?」

「無関係ではあるまい。一種と考えるべきだろうな」





あたしたちが見てきた今までのフィーラーとは圧倒的に違う。
でもきっと、この先に進むのなら…戦わなきゃいけないんだろう。





「あっ、ナマエ!レッド!」





その時、またひとつ声がした。
あたしとレッドが振り向けば、そこに見えたのはなびくピンク色のスカート。





「エアリス!」

「良かった、無事だったんだね」





声の主はエアリスだった。
エアリスは慎重に瓦礫の道を渡ってこちらにやってくる。

良かった、結構良いペースで再会出来てる。

ひとまず無事に合流出来たこのメンバーで、他の3人をどう探すかを話しあった。





「あのね、クラウド達も、きっと近く、いると思うの」

「うん…。ねえ、もしかしてさ、アレの近く…だったりする?」

「目印には打ってつけだな」





これだけ合流出来たなら、きっとクラウドたちもここにいる。

ともかく、ここでぼんやりと立ち尽くしている気はさらさらない。
あたしたちはあの巨大なフィーラーを目印に進んでいくことにした。





「腕…落ちていく?」





近づいていくと、巨大なフィーラーの一部が少しずつ崩れていくのが見えた。

やっぱり、クラウド達が戦ってる?
そう予感がして足を早めると、銃声や剣の音が聞えてきた。





「あっ!レッド!エアリス!いた!」

「当たりだな」

「うん!みんな!」





見えた3つの見知った人影。
クラウド、ティファ、バレット、皆いる!

急いで駆け寄って声を掛ければ、3人もこちらに振り返ってくれる。





「良かったー!探したんだよ!」





あたしは思わずそう笑みを零した。

これで正真正銘、全員無事だった。
それは確かな安心だもん。

いや、多分笑ってる場合じゃないんだろうけど。

やっぱりクラウド達は、フィーラーと戦ってたみたいだから。

するとその時、クラウドと目が合った。





「…ナマエ。何ともなかったか?」

「うん。レッドとエアリスとは結構すぐ再会出来たし、こっちは何ともないよ」

「そうか…、…無事でよかった」

「…うん!クラウド達も」





そしてクラウドはそう言ってくれた。
だからあたしも、やっぱり笑って頷いた。

本当に、会えてよかった、無事で安心した、ってそう伝えたくて。

でもやっぱり、うかうかはしてられない。
だからこうして全員が揃ったところで、あたしは少しでもその場の状況を把握しようとした。

どうやらクラウドたちが戦っていたのはあの大きいのじゃなくて、また別のフィーラーみたいだった。
それも、いつも見てた奴とは違う感じだったけど、でも大きさはいつものより少し大きいくらいだったと思う。

あたしたちがクラウド達を見つけた時、トドメを刺したところだったからチラッとしか見えなかったけど。

ただ、それを倒した瞬間、またあの大きい方の一部が崩れていた。
もしかしたら、あの大きい奴から分裂したとか、そういうやつなのかもしれない。





「あっ…!」





その時、ふとあの大きなフィーラーを見上げたら、さっき崩れた部分から光が漏れてこちらに向かってきているのが見えた。

えっ、な、なに!?

そう思っても避けるには遅い。

飛んできた光はパチッとあたしたちの頭の近くで光る。
その瞬間、また、何かの光景が脳裏に浮かんできた。


…場所は、荒野。
そこを駆け抜けていく、赤い獣。

……レッド?


その光景はパッとすぐに消える。
でもその直後、皆の視線がレッドに集まった。

それは今の光景を此処にいた全員が一緒に見たと言う、何よりの証拠だった。





「なんだよ、今の?」

「……我々が捨てようとしている風景だ」





困惑するバレットの言葉に、自身も戸惑いながらレッドは答えてくれた。

あたしたちが、捨てようとしている風景…。

それはつまり、この先にあった…未来の光景を見たと言うこと。
そしてそれは、フィーラーが導く運命の先にある未来。

だからあたしたちがフィーラーと戦うのなら、その未来に続く道が変わる…。

あたしたちが、捨てようとしている…未来。





「あっ!」





そう少し呆然としていた時、あの大きいなフィーラーの片腕がこちらに襲い掛かってきた。

あたしたちは急いで避けたけど、その衝撃でまた分断された。

クラウド、バレット、レッド。
あたし、ティファ、エアリスか。

そしてそれぞれの元に、いつものとは違うフィーラーが現れた。

これ多分さっきチラッと見えた、クラウドたちが戦っていた奴だ。

あたしは武器を構えながら、一応確認のためティファに聞いた。





「ね、これ、ティファ達がさっき倒した奴だよね?」

「うん!そう!まさか復活するなんて…」

「きっと、本体、向こうなんだよ。あっち、倒さないと、何度でも出て来るんだと思う」





エアリスの言葉に納得した。

そっか。やっぱり、向こうの大きいのの一部みたいな感じなんだ。

でも、まずはこれを倒さないとあいつにも向かえないね。
見ればクラウド達も自分たちの方に現れた同じフィーラーを倒そうとしてるし。

だからあたしたちも一先ず、目の前のフィーラーを倒すことにした。
こいつを倒してクラウド達と合流することが第一!





「ティファ!エアリス!倒そう!」

「勿論!そのつもり!」

「さっさと倒しちゃおう!」





3人でそう気合を入れて、あたしたちはフィーラーに向かって行った。

あたしとエアリスは初めて戦うフィーラーだったから、ティファが戦いながら敵の攻撃の種類とかを教えてくれた。
その分対策しつつ戦う事は出来たけど、今まで戦ってきたいつものフィーラーよりも強敵だった。

だからって、負けないけどね!





「喰らえっ!!」





あたしは隙を突き、思いっきり剣を振り下ろした。
するとその一撃は効いたようで、グラッ…とフィーラーの体が揺れて少し距離を置くように飛び去って行った。

よし…!

ひゅ…と剣を振るい、付いていた砂埃を払う。
そうして本体であろう大きい方を見上げれば、また体の一部が崩れ出していた。

どうやらクラウド達の方は、仕留めることが出来たらしい。

そしてその崩れた部分から先ほどの様に光が漏れてくる。
それはまた同じようにこちらに向かって来て、頭の近くで弾けた。


宇宙…。
そこに浮かぶ、大きな隕石。

それが少しずつ、星に向かって落ちていく。


今度見えたのは、そんな光景だった。





「これが星の未来…?」





景色が脳裏から消えると、ティファが呟いた。

さっきと同じ。
ティファとエアリスも、同じ隕石の光景を見たようだった。

あの隕石が、いつかぶつかる?
それが、この星の終わりなの?

きっとみんな、そんな同じ疑問を抱いた。

でも、だから気を取られた。
その、ほんの一瞬。

さっき怯ませたフィーラーが、一直線にティファに向かってきた。





「ティファッ!!」

「っ!」





反応が遅れたティファ。
あたしは叫んで、思わず咄嗟に庇うようにティファに飛びついた。

うっ…、やばいかも…。

そう思ったけど、痛みは来なかった。
代わりに聞こえたのはガキンッという金属音。





「てやッ!!」





見ればそこには剣を盾にしてあたしたちを庇い、フィーラーを弾き返してくれたクラウドの姿があった。

く、クラウド…。

どうやら自分たちの方のフィーラーを倒した後、急いでこちらに向かってくれていたらしい。
少し遅れてバレットとレッドも来てくれる。

こうしてまた全員が揃った。





「未来は、白紙だよ!」





大きなフィーラーを見上げ、エアリスはそう言う。

あんな光景、気にする事なんかいない。
きっと、そういう意味を込めて。

そう…もし、あれがフィーラーの導く未来なら、そんなの御免だよ。
それなら真っ新の未来に希望を見たい。

そうして望む未来を掴んでいけばいいと、きっと、あたしはそう信じてた。



To be continued


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