運命の分かれ道



「ナマエ、何ともないか?」

「うん、平気。ありがと、クラウド」





ハイウェイの果て。ゲートの前。
あたしたちはそこでバイクとトラックを止めた。

クラウドに気遣われながらバイクを降りて、ゲートの方を見る。

…さっき、そこにセフィロスがいたような気がした。

でも、今はもう誰もない。
あれは幻だったのだろうか。





「行こう」

「うん…」





クラウドに声を掛けられ、頷く。

もう、神羅からの追っ手も無い。

皆もトラックを降りて、ゲートの向こうへと歩き出している。
あたしとクラウドもそれを追うように、ゲートの先へと向かった。





「黒い、羽根…?」





ゲートを越えて少し進むと、目の前にふわっ…と黒い羽根が舞ったのが見えた。
何の羽根だろうと考えていると、同じように気が付いたクラウドがハッと上を見上げる。

え…、と同じように上を見れば、そこにいた人物に目を見開いた。

舞い落ちる黒い羽根たち…。
そして、なびいた銀色の長い髪…。

やっぱり、幻じゃない…。

そこにいたのはセフィロスだった。

セフィロスはゆっくりと、静かにハイウェイに降り立った。





「てめえ、さっきは…!」





先程刺されたバレットは食って掛かろうとした。
でもそれをエアリスが咄嗟に止める。





「違う。あなたは、間違っている」





そして代わる様に、エアリスがセフィロスに言葉を向けた。
それは、否定の言葉。

するとセフィロスも低く言葉を返してきた。





「感傷で曇った眼には何も見えまい」

「あなたは間違っている!」





エアリスは再び、否定した。
今度は強く、強調するように。

それを聞いたセフィロスは薄く笑った。

…わからない。
あたしには、その存在とその言葉の意味が。

でも、今目の前にいるセフィロスはきっと、良いモノじゃない。
それだけは漠然と、感じ取る事が出来た。





「命は星を巡る。だが、星が消えればそれも終わりだ」

「星は消えない。終わるのは…お前だ」





クラウドは剣を抜き、セフィロスに向けた。

セフィロスは、倒すべき相手?

やっぱり、漠然と。
だけど、放っておいていい存在じゃないのは、なんとなくわかるよ。

だからあたしも剣を構えた。
皆も、同じように身構えた。

だけどその時、異変が起きた。





「来るぞ」





セフィロスが遠くを見て言う。

その瞬間、バアッと神羅ビルを多い囲んでいたフィーラーたちが一斉に弾けた。
それはうねり、大きな渦となってあたしたちに襲い掛かってくる。

ぶわっ…と、まるで強大な風に呑みこまれたかのような…。





「うっ…」





目も開けていられない。
そしてそれと同時に、耳をつんざくような悲鳴を聞いた。





「運命の叫びだ!」





セフィロスが高らかに叫ぶ。

運命の、叫び?
この悲鳴のようなものが?

その瞬間、風が止む。

目を開けば、セフィロスの前にはうずまくフィーラー達の黒い波が出来ていた。
セフィロスはそれを長い刀で切り裂く。

すると、その渦の中にひとつの入り口が出現した。





「早く来い、クラウド」





そして、一度だけ振り返りそう言い残すと、ひとりその渦の中へと消えて行った。





「……。」





それを見たクラウドはすぐにその後を追おうとした。
まっすぐと、渦の方に向かって行く。

だけどエアリスが咄嗟に腕を掴んで止めた。





「ここ、分かれ道だから」





腕を掴まれ振り返ったクラウドにエアリスは言う。
その時のエアリスは、少し臆しているような…そんな風にも見えた。

分かれ、道…?

クラウドの腕を離したエアリスは渦に向き直り、ゆっくりと手をかざす。
するとその指先から光が溢れ、渦に生まれた扉を白く照らした。





「運命の、分かれ道」





エアリスはあたしたちに振り返り、全員の顔を見渡しながらそう言った。

分かれ道…。
運命の、分かれ道…?





「どうして止める」

「…どうして、かな」





クラウドの問いに、エアリスは瞳を揺らした。

この道の先…。
こんな渦の先なんて、進めと言われたらまず戸惑うよ。

だけど、それは何もかもがわからないから。

だからティファが尋ねた。





「向こうには何があるの?」

「…自由」





エアリスはたった一言、そう呟いた。

自由?

それだけを聞いたなら、それはとても前向きな言葉に思える。
恐れる必要なんて、まるで無さそうな…。

だけどその言葉の中に、エアリスは怯えを見ていた。





「でも、自由はこわいよね。まるで、空みたい」





空…?
確かに空は、自由の象徴みたいな気はする。

どこまでも、どこまでも青く広がる空を、彼女はこわいと言う。

確かにどこまで続いてるかわからないって言うのは、こわいとも取れる気はするけれど…。





「星の悲鳴、聞いたよね?」





エアリスは尋ねてくる。

星の悲鳴…。
さっき聞いたつんざくような悲鳴は、星の声なの?





「かつて、この星に生きた人たちの声。星を巡る、命の叫び」

「…セフィロスのせいなんだろ?」





クラウドが聞けばエアリスはこくんと頷いた。





「うん。あの人は悲鳴なんて気にしない。なんでもないけど、掛けがえの無い日々。喜びや幸せなんて、きっと気にしない。大切な人、なくしても、泣いたり、叫んだりしない。セフィロスが大事なのは、星と自分。守るためなら、何でもする。…そんなの、間違ってると思う」





セフィロスに抱く漠然とした恐怖。
そう、それは確かに、何か自分の目的の為ならば手段を選ばないような…そんな印象を受けた気がした。

星と自分以外は、どうなってもいい…。

それが本当なら、間違っていると言うのは誰が聞いても通りだと思う。





「星の本当の敵はセフィロス」





そして、さっきエアリスが幼少期に過ごした部屋で聞き逃した続き…。
神羅では無い、本当の敵の名前を今ここでやっと聞くことが出来た。





「だから止めたい。それをクラウドに、皆に手伝って欲しかった。このみんなが一緒なら出来る」





エアリスはあたしたち一人一人の顔を見渡した。
クラウド、バレット、ティファ、レッドXIII、それに…あたしも。

その瞳は確信しているみたいな、不思議な強さをしていた。

だけど、エアリスは背後にある渦を見て、ふっとその視線を伏せた。





「でも、この壁は、運命の壁…。入ったら、越えたら、皆も変わってしまう。だから、ごめんね…引き止めちゃった」





寂しそうに入り口を見つめ、エアリスはそう呟いた。

するとその瞬間、またつんざく悲鳴が耳に響いた。
今までで一番強い。咄嗟に耳を押えてしまうくらい、痛い音だった。





「…迷う必要は無い。セフィロスを倒そう。悲鳴は、もう聞きたくない」





悲鳴が止むと、顔を上げたクラウドはそう言った。

迷いはない。
でもきっと、それは皆一緒だったと思う。

こんな悲鳴…絶対に正しいものじゃない。

だから皆も、クラウドの顔を見て頷いた。

その時あたしは、ぱちっとクラウドと目が合う瞬間があった。





「…ナマエ」

「うん。行こう、クラウド」





隣にいたこともあって、クラウドは声を掛けてくれた。
だからあたしは微笑んで頷く。





「正直、運命とかは…よくわからない。でも、あたしもこんな悲鳴は聞いていたくないから」

「…ああ」

「それに、エアリスが望んでて…うん、それとクラウドが行くなら、理由はそれでいいかな」

「え…?」

「クラウド、これまでも何度かセフィロスのこと気にしてたよね。何か理由、あるんでしょ?ね、あたしに出来ることあるかな。力になれるなら、一緒に行く」

「ナマエ…」





エアリスはあたしたちに手伝って欲しかったと言っていた。
それが友達の望みなら、出来る限り力になりたいって思う。

それに、クラウドも。

あたしがクラウドに出来ることがあるのなら。

そうして目を合わせて思いを伝えた時、ひゅっ…と、一体のフィーラーがあたしとクラウドの間をすり抜けた。

突然の事に驚く。
でも、その瞬間、その驚きはすぐに別の驚きへと塗り替えられた。





《今の俺の事…ナマエに知ってほしい。それに…ナマエのことだってもっと知りたいんだ》





脳裏に浮かんだ光景。

目の前にいる、クラウド。

クラウドの青色の瞳が、あたしのことを…見つめている。

凄く、凄く優しい目…。
それはまるで、愛しいものを見つめるような…。

そして、紡がれる声も、途方もなく優しい音をしている。





《あたしも、もっと知りたい。本当のクラウドの事…ちゃんと知りたい》





そして、そう伝えた…自分。

浮かぶシーンは断片的だ。
だから、もしかしたらその間にも、いくつかの言葉はあったのかもしれない。

でも、それは間違いなく…さっきのクラウドの言葉に返した答え。
あたしは…その優しい瞳にどこか戸惑いながらも、同じように想いを返そうとして…。





「……。」

「……。」






ふっ…と、浮かんだ光景が消える。
そして映るのは、ハイウェイの…今、目の前にいるクラウド。

…今のは、一体…。

そうしてクラウドと顔を合わせていると、ティファに声を掛けられた。





「ナマエとクラウド、どうかしたの…?」

「え…、あ…」

「あ…いや」





それでハッと我に返った。
え、あ、あれ…今なにか変な光景が見えて…。

でも…クラウドも?

声を掛けられたとき、クラウドの反応も少し変だった。

…もしかして、クラウドも今の光景を見たのだろうか…。

でも、今のは…。
今の光景、思い出したとかじゃない…。

距離、凄く近くて…。
見つめ合って…。

し、知りたい…?とか…なんとか。

…なんか、あたしに都合のいいだけのアレじゃない…?
え、まさか妄想…?

待って何でこんな時に妄想見る!?

というか、そんなの見ましたか〜なんて…聞くの物凄く躊躇われるんだけど…。





「………、」





だから結局、口を開こうとして…でも開かなかった。

ただ、今…見えたのは、フィーラーが触れた時。
それって、フィーラーが見せたの?

そう思いながら、この先にある渦を見る。

凄く、都合のいい話。
…もし、もしも…だよ。

どういう状況とか、よくわからない。
エアリスの家の前でクラウドが慰めてくれた時みたいな、そう言うのに近いのかもしれない。

でももし、あれが未来にあるの光景のひとつだとしたら…?





「行く?」





エアリスはクラウドに問いかけた。

でも、もう…行くって決めてる。

運命とか、わからない。
未来の事なんて、考えたところでわかりっこないよ。

それはどちらを選んでも変わらない。

ただ、進んで…生きていくだけだから。





「ああ、行くぞ」





クラウドは頷き、進み始めた。
それに合わせて皆も一緒に歩きはじめる。

そうだよ。なにもひとりで進むわけじゃない。
皆が一緒だ。

その事実は何よりきっと、心強かった。



To be continued


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