ハーディ=デイトナに乗って



「ナマエ。落ち着くのは早いぞ。次にすべきこと、わかっているな」

「うん!クラウドたちが来るまで退路の確保!」





レッドに言われ、あたしはそう答えた。

一先ず、あたしたちは追っ手である機械兵器を破壊出来た。
だけどそこで落ち着いてはいられない。

クラウドとティファが来たらすぐ、このビルを出られるのがベストだ。

だからあたしたちは休憩を呼吸を整えるくらいに抑え、そのまますぐに出口の方に向かった。





「受付!やっとここまで戻ってきた!」





戦っていたフロアからエレベーターで一気に下まで降り、非常階段の入り口があったところまで戻ってきた。

そこはティファが身軽に飛び移った、あの受付が見える場所。

見渡せば相変わらず受付の所には人の気配が無かった。
まあそれはやっぱりこっち的には好都合だから全然いいんだけど。





「ここまで来れば、一安心?」





受付の前、エントランスまで降りるとあたしはそう軽く息をついた。

ゲートはすぐそこ。
これであとはふたりが来てくれれば、すぐに脱出は出来る。





「ああ。あとはあいつらと合流して」





バレットも頷いてくれた。
だけど、その時だった。





「「「「!」」」」





全員が気が付いた。

人の気配。
大量の足音が近づいて来る。

ハッと見れば、一気に周りを取り囲まれた。





「包囲、完了しました」

「よし、よくやった!まあ、俺にかかればこんなものだな!ガッハッハッハッハ!」





周りをぐるりと取り囲む神羅兵と、高らかに笑う一人の大男。

この人、あれだ…。
重役の…確か、治安維持部門の統括…ハイデッカー。





「しかし、なんだ貴様らは。どういう組み合わせだ?」





ハイデッカーはあたしたちの顔を見渡すと、余裕の表情でそう聞いてきた。

その態度は大きく、まるであたしたちを小馬鹿にしたような物言いだった。
まるでもう勝利を確信しているみたい。

いや確かに今そちらさんの方が有利だけど!

でもなんかこう露骨だとイラッとしてくるのが人ってもんですよ!





「アバランチ!」

「スラムの花売り!」

「実験サンプル!」

「なんでも屋…助手!」





だからバレットを筆頭にドーンと自己紹介してやった。
こう、ドーンとね、ドーンと!!

まああたしちょっと迷ったけど。
いやでもあたしの肩書きこれでいいよね?
あたしクラウドの助手だもん!!

でも、聞いてきた当のハイデッカーはそれを「へっ」と鼻で笑う。失礼な奴だ。

まあこれが全員ではないというのはあちらさんも把握しているようで、ハイデッカーはその事について聞いてきた。





「他の奴らはどうした」

「さあな」

「まあいい。どうせ袋の鼠だ。古代種の女は捕らえろ。後は殺しても構わん」





バレットが適当に答えたけど、聞いておいてどうでもいいって感じ。
本当、茶番ってか。

ハイデッカーは神羅兵たちに銃を構えるよう指示してきた。

エアリス以外は殺して良し。
そんなこと言われたって、エアリスを渡す気も死ぬ気も無いんですけど!

さあ、どうする…。
何か打開策…どうすればこの状況を突破できる?

…正直わりとピンチかもしれない…。

あたしがそう考えていると、バレットが小声でエアリスに声を掛けた。




「エアリス。あんたはマリンを守ってくれた。今度は俺が、あんたを守る番だ」

「っ…待って」

「おいナマエ。お前、エアリスを連れて駆け抜けろ。出来んだろ」

「え、バレット…!」





チャ…とバレットのギミックアームが鳴る。
それはバレットの覚悟。

…つまり、自分が暴れるから逃げろ。

そんなの出来るわけない。
でも、この状況の突破口は思いつかない。

どうしよう…。どうしよう…。

クラウド…!

思わず心の中で助けを求めた、その時だった。



ブォォオン…。





「え…」





突然辺りに響いたエンジンの音。

あたしたちもハイデッカーも兵士も、なんだと辺りを見渡した。

これ…バイク…?
その音はドンドンと近くなってきて、そして…。





「うわあ!」

「わああ!!」





兵士たちが叫んだ。

突如、ダアンッ!と激しい音を響かせ、エントランスに現れたバイク。
それはあたしたちの目の前…いや、あたしたちと兵士の間に割って入るように着地した。

その乗り手は…。





「クラウド!」

「クラウド…っ」





あたしとエアリスはその名を口にする。
バイクに乗り、颯爽とエントランスに現れたのはクラウドだった。

クラウド…!

あ、どうしよう…。
その姿を見て、何か今、胸が凄くじわりとした。
ホッとしたから?格好良くて?

理由なんてよくわからない。
でも、クラウドが来てくれた…その事実が確実に流れを変えてくれた気がして。

クラウドはバイクを器用に操り兵士たちをなぎ倒していった。

それは間違いなくこちらにとってチャンス。

その時、バイクとはまた別のエンジン音がした。





「皆乗って!」





それはティファが運転するトラックの音だった。

呼び掛けに従い、皆、トラックに乗り込んでいく。
でもティファはあたしにだけ制止を掛けた。





「あ、ごめん、ナマエは乗っちゃ駄目」

「駄目!?なんで!?」





乗車拒否!?駄目とは!?

しかも追い打ち掛けるように「エアリス、閉めて」「うん」とか言ってバタンと扉を閉められた。

エアリスもそんな躊躇なく扉閉めちゃう!?

いや運転席と助手席しかないしバレットとレッドも荷台だし!
別に閉めたところでそこに押し入ろうとかはしませんけど!

でもちょっと!
今のバタンはなかなか疎外感凄かったぞ!?





「心配しなくてもすぐわかるから大丈夫!」

「いや大丈夫って!?」





あたしは切なさに打ちひしがれてますが!?

大丈夫とは一体!
置いて行かれるパターンしか頭に浮かんでこないんですけど!?





「ナマエ!」

「えっ」





その時、クラウドに名前を呼ばれた。
振り向くとバイクに乗ったクラウドがあたしの傍にやってくる。





「乗れ」

「へ?」





え、の、のれ…?
一瞬思考停止。





「後ろに乗れ。早く」

「え、あ、え、は、はい」





早くと言われたのでとりあえずバイクの後ろに跨った。

あ、大丈夫ってそういうこと?
クラウドが後ろに乗せてくれるって話?





「しっかり掴まってろ」

「え…わっ」





ギュンッとクラウドバイクを急発進させた。
突然だったから思わずぎゅっとクラウドの腰にしがみ付いてしまう。

うおおおおっ!!
こ、これは…!ちょっとどさくさ!?
いやでも不可抗力だし!

…ゴメンナサイ幸せです!!

いや自分でもアホっぽいなとは思った。
でもバイクの後ろで腰にしがみ付くとか!
なにそれそんなのキュンキュンしちゃうでしょ!?

欲には正直だ。
ちょっと幸せ噛みしめた。

けどすぐに、そんな場合では無かったのだと気づかされる。





「やるぞ」

「え」





前からしたクラウドの声。

…やるとは?

その意味を考える余裕も無い。

クラウドは地面に大剣を突き刺した。
そしてそれを軸にし、バイクの車体を浮かび上がらせる。

それは車体で残った兵士を一掃するための手段だった。

結構、いや、かなりかなり無茶苦茶。
後ろに乗っていたあたしは当然、思わぬ事態に叫んだ。





「ぎゃあああああああ!?!?!」





幸せ噛みしめるじゃねええええ!!!?
余裕は消え失せ、とにかくしがみ付くしかねえという状況。

感じた浮遊感の後、タンッ…とバイクは着地する。

あたし、落ちてない?落ちてないよね?無事だよね!?





「行くぞ」





全ての兵士を片付けたクラウドはティファ達にそう声を掛けて走り出してた。
とても余裕そうだ。でもあたしは心臓がバクバクしていた。

いやもうちょ…まじ、今の寿命絶対縮んだ…!!!!





「く、クラウド…!今のはちょっと、ひ、酷い…!」

「やるぞって言っただろ」

「言ったけど!そりゃ言ってたけども!」

「あんたならあれくらい平気だろ」

「なにその謎の信頼…!ちょっと嬉しいありがとう!」

「…礼言うところなのか」





あれ、おかしいな。
文句言ってるつもりがお礼言ってるの何で。

でもちょっと満たされてしまったんだから仕方ないじゃないか!

もうあれだね…クラウドマジックだもう…。
まあ、無事だったからいいけどさ…。

バイクとトラックはビル内を駆け抜ける。

そうするとその先にまたひとりの兵士がいた。
でも、ひとりだけ。

それなら正直恐れるに足りない。
むしろ兵士さんの方が怖気づいてる感じだ。





「ナマエ、やるぞ。いいか」

「どーぞー」





今度、クラウドはさっきより気を回してくれた。
まあ今は普通に余裕があるからかもだけど。

さっきのは急すぎたからビックリしただけ。
今はあたしも何する気なのか想像つくし。

あたしのOKを確認したクラウドはエンジンをふかす。

そして剣を構えるとぐるりとその場でバイクを回転させて、その遠心力を使い思いっきり剣を兵士に向かって投げ飛ばした。





「ひっ…」





大剣は兵士のスレスレをいった。
ガシャンッと激しい音を響かせ、無情にガラスに突き刺さる。

それを見た兵士は腰を抜かしたようにその場から逃げかえって行った。





「さっすが〜」

「ふっ」





見てたこっちとしてはお見事、って感じだよね。
だから褒めるとクラウドも小さく笑ってくれた。

さあ、ここまで来たらもう前に邪魔するものはない。

傍らのトラックの皆ともアイコンタクトを取る。
よし、行こう。

そしてクラウドはバイクを発進させ、さっき剣を突き刺したことで脆くなったガラスに車体をぶつけて外に飛び出した。

宙に舞うガラス。
そして剣だけキャッチすると、そのままハイウェイに落下していく。

勿論、トラックも一緒。





「ナマエ。このまま奴らが大人しく逃がしてくれるとは思えない。追っ手が来たら俺たちは食い止めながら走るぞ」

「うん!わかった!頑張るよ!」

「ああ」





そこであたしだけトラックじゃない理由を教えて貰った。

どうやら追っ手が来ることを見越してクラウドがティファに言っておいたらしい。
うん、御指名光栄!やる気十分だね!

さらば、神羅ビル。

まだ安心は出来ない。
だけどこうして、あたしたちは神羅ビルから脱出することが来たのだった。



To be continued


prev next top



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -