幼き日の部屋で



目の前にあるはもふもふの赤毛。
あたしはそれを前に、湧き上がるうずうずとした感情を抑えきれずにいた。





「……なんだ」





あまりに見つめてそわそわしているから、その赤い彼に怪訝そうに見られてしまった。

ううぐ…。
そんな変なモン見るような目で見ないでほしい。

だがしかし、向こうから話しかけて来てくれたのは好都合かもしれない。
あたしは彼の傍にしゃがみ、キラキラとした目で話しかけた。





「ねえ、撫でてもいい???」

「……それが聞きたくてそわそわしていたのか」

「だあってもっふもふなんだもん!ねえねえお願い!触らせて!」

「…もう触っているのはどういうことだ」





やっと聞けた!やっと言えた!
そんな満足感を得たあたしは彼の返事を聞く前につい目の前のもふもふに手を伸ばしてしまっていた。

おかげで呆れたようにため息をつかれる。

でもその場から逃げたりとかそういうことはないからどうやら撫でることを許してくれてる様子。

それならお言葉に甘えて…!
あたしはえへへ〜と頬を緩ませながら赤毛をなでなでと堪能した。





「ナマエ…と言ったな」

「あ、覚えてくれてる」

「まあな…君たちは仲間を救いに神羅ビルに乗り込んだのか」

「うん。そうだよ。ほんと、無事に再会出来て良かったよ」





撫でさせてもらいながら、彼…レッドと少し話す。

本当に喋ってるなあ。
レッドが最初に喋った時も驚いたけど、やっぱりなんだか不思議な感じ。

でもなんとなく、わりと仲良くなれそうな気がするんだよなあ。
根拠はって言われたら、それは完全にカンだけどね。





「…なかなか目を覚まさないな」

「…うん」





そうしてレッドは少し顔を上げ、傍にあるベッドを見つめた。
あたしもベットをちらりと見て、こくんと頷く。

今、ベットで眠っているのはクラウドだ。
彼は先ほど、突然気を失って倒れてしまった。

そんな彼を休ませる為、あたしたちはエアリスの案内で彼女が幼少期に過ごしたと言う一室に連れて来てもらっていた。





「ねえ、エアリス。あのらくがきって、エアリスが描いたの?」

「うん。そうだよ。懐かしいなあ。結構センスあるでしょ?」

「うん!やるなちびエアリス!めっちゃ大作じゃん!」

「ふふっ、まあね!」





小さな部屋。でもそこには確かに誰かが過ごしたあとが残されていた。

あたしが見上げたのは、ひとつの壁一面に描かれたらくがき。
それは幼い日のエアリスが描いたのモノだという。





「ナマエ」

「ん?」





その時、レッドが何かに反応してあたしを呼んだ。
見れば彼はくいっと顎でベットを示す。

あ…っと、あたしもそれで気がついた。
あたしは見ていた壁から離れ、クラウドのベットに歩み寄った。





「うっ…」

「クラウド!起きた!」





顔を覗きこめば、眉をしかめてクラウドが呻く。

気が付いた!!

ゆっくりと開かれていくクラウドの瞼。
ぼんやりとした瞳と目が合う。

するとクラウドが掠れた声で呟いた。






「ああ、…また、会えた…な」

「…へ?」





会え、た?
言われた言葉にきょとんとする。

ぼんやりとした瞳が映しているのは、あたし…だよね?

いや、というか…そう言った時のクラウドは穏やかで優しくて…。
凄く柔らかい表情をしていたから、思わずドキリと心臓が跳ねた。

え、あ、え…!

でも、そうしていると、クラウドはハッとしたように目を大きく開いた。





「クラウド?」

「っ、…ナマエ…」





名前を呼ばれる。ハッとする。

どうやら寝惚けていた…?らしい。
クラウドも寝惚けることがあるんだなあなんてちょっときゅんとしたのは内緒。

でも、何か夢でも見てたんだろうか。

そんなことを思っていると、ティファも様子を見に来てくれた。





「クラウド」

「よかった、目覚めた」





顔色を見る様に覗きこんだティファと、その後ろでエアリスの声もした。
バレットとレッドもホッとしたように息をついてる。

意識がはっきりとしたクラウドはゆっくりとベットから体を起こした。





「ここは?」

「子供の頃、ここで暮らしたの」





エアリスがクラウドに説明する。
クラウドはそれを聞きながらベットから立ち上がり、部屋の中を眺めた。

そして静かにエアリスに歩み寄っていく。





「お母さんとふたりで、ここで眠ったんだよ。部屋、あの頃のまま。毎朝お母さんだけが連れて行かれて、よくひとりで泣いてた」





エアリスはクラウドにもこの部屋の思い出を話した。
それは、どこか懐かしく…だけど、やっぱりきっと…辛い記憶。

クラウドがエアリスに歩み寄った理由。

エアリスはきっと…ううん、此処にいる全員が、その意味をわかっていた。





「エアリス。脱出の前に話してくれ。色々あるはずだ」





クラウドは言う。
そうすれば、その場の視線がエアリスに集まる。

エアリスは少しだけ俯き、でもすぐに顔を上げ、ゆっくりとあたしたちに話しはじめてくれた。





「私は、古代種の生き残り。それは、もういいよね?あ、古代種って言うのは、神羅が付けた名前ね。本当は、セトラって言うの」





セトラ…。
多分、初めて聞く単語だったと思う。

だけどそれを聞いた時、ひとり反応を示した人物がいた。





「我ら、星より生まれ、星と語り、星を開く。そして、約束の地へ帰る。至上の幸福。星が与えし定めの地」





何かの言い伝えみたいなものなんだろうか。
それを語ったのはバレットだった。





「すごい!」

「まあな。でも、おとぎ話だと思ってたぜ」





エアリスも感心するほどの知識。
まあ、そこは流石なのかもとは思った。

でもきっと、知っていてもおとぎ話であろうと大抵の人が思う話。

エアリスはゆっくり首を横に振った。





「神羅は、違う。約束の地、ずっと探してる」





そう。だから神羅は、エアリスを狙う。
約束の地…それこそが、豊かな土地であると、そのエネルギーを追い求めてる。





「エアリスは知っているの?約束の地…」

「なーんにも。いつか、わかるのかもしれない。でも、今は全然」





ティファが聞けばエアリスは小さく笑って答えた。

それを聞いて、なんとなく理不尽さを覚える。
だって、そんなに不確かなモノ…一生掛かっても、見つかるかも、きっとわからない。

そのためにエアリスは、自由を奪われているってことだから。





「もしわかってもそれは古代種、いや、エアリスの約束の地だ!たとえ魔晄が噴き出す豪勢な場所でも、神羅には何の権利もねえ!横取りしようってか。ハッ、性根が浅ましいぜ!」





いつもの調子のバレットの言葉。
まあでも、それは確かに…かな。

その勢いのまま、バレットはクラウドに言った。





「よし、お前はエアリスを連れて脱出しろ。俺は連中をひねり潰してから帰る!」

「バレット、あのね、違うの」





エアリスは言葉を挟んだ。
今、ちゃんと説明しなきゃってちょっと慌ててるみたいに。

だけどエアリスが言葉を続けようとしたその時、またどこからかあの黒い幽霊みたいなモノが現れて部屋の中を飛び回り始めた。





「え!またこれ…!」

「ったく、なんなんだよこいつらは!神羅製のバケモンか!」





外だろうが建物の中だろうが、どこにだって現れるソレ。
いやでも、宝条博士がなんだこれって言ってた時点で神羅とは無関係な気がするんだけど…。

そうしてあたしやバレットが困惑していると、その問いに答えてくれる声があった。





「フィーラーだ。運命の番人と言う理解が最適だ。運命の流れを変えようとする者の前に現れ、行動を修正する」





落ち着いた声に視線を向ける。
その声はレッドのものだった。





「フィーラーって、言うのこれ…?」

「うんめいって、運命?」





あたしとティファが尋ねる。

フィーラー。
その存在の名前を、はじめて知った。

それに…運命の番人?

レッドは続けて説明してくれた。





「言い換えれば、この星が生まれて消えるまでの流れ」

「その流れは、もう決まっている。そういうこと?」





決まっている、流れ…。
ティファが聞けば、レッドは頷く。





「ああ、星は力尽きてしまうらしい」

「んな真っ暗な未来に向かって俺たちを送り込むのか、フィーラーはよ。待て待て待て、そもそもなんでお前はそんな事知ってるんだ!難しい顔して適当な事言ってんじゃねえのか!さてはてめえ神羅の犬だな!?」





突然レッドを疑い出すバレット。

いやいやいや…。
今更んなわけないだろうとあたしはレッドの傍にしゃがんで味方した。





「いや、どう考えてもそれはないでしょ…」

「犬では無い」





レッドも少し面倒そうにそう言った。

…それどっちの意味。
ちらりとそんな事を思ったけど、今そんな空気じゃないからとりあえず黙る。それくらいの空気は読めますあたし。

まあでも確かにどうしてそんなこと知ってるんだろうってのは気になるけど。

ただ話の内容的に、今までのことと照らし合わせても辻褄は合うと言うか…。
突然現れたり消えた理由は、それで説明がつくような気がするからあたしはそれをでまかせだとは思わなかった。





「エアリスが私に触れた時、フィーラーの知識もそこにあった」





レッドはエアリスを見上げた。

エアリスが、レッドに触れた時…。
それってあのエレベーターの通路でのこと?

あの時はただレッドを落ち着かせるために触れたんだと思ったけど…。

でもその言葉で再び皆の視線がエアリスに集まった。





「あのね、聞いて」





そしてエアリスは説明しようとしてくれた。

だけどエアリスが口を開こうとすると、フィーラーの動きが激しくなる。
まるで邪魔するみたいに、エアリスの周りをぐるぐると飛び交っていく。

エアリスはそれに負けぬ様、意思をしっかりと持って話しはじめてくれた。





「私たちの敵は、神羅カンパニーじゃない。きっかけは神羅だけど、本当の敵、他にいる。私、どうにかして助けたい。皆を、星を」





敵は、神羅じゃなくて…他にいる。
星を滅ぼすのは、神羅じゃないって事?





「エアリス…大丈夫?」

「エアリスは、何を知ってるの?」

「今は、迷子みたい。動くほど、道がわからなくなる。フィーラーが触れるたび、私の欠片が落ちていく…。黄色い花が、道しるべだったんだ…」





あたしとティファが声を掛ければ、エアリスはそう悲しそうに目を伏せる。

感じる不安。
でも、どうしていいのかわからなくなる。

再会の…あの花言葉の花が、道しるべ…。

その瞬間、エアリスの周りを囲うフィーラーの動きがより激しくなった。

エアリス…っ!





「っ、ああもう邪魔!!」

「っ!」





それを見たあたしとティファは、咄嗟にフィーラーの渦に手を突っ込み、そこからエアリスを引っ張り出した。

繋がれたままの手。
それぞれ強く握って、あたしとティファはエアリスを励ました。





「エアリス、ひとりで悩むことなんかないよ」

「うん、大丈夫。一緒に考えよ」

「…うんっ!」





エアリスは嬉しそうな笑みを零してくれた。
だからあたしとティファもそれを返す。

もし、あたしがエアリスの助けになれるなら…助けたいって思うよ。

正直、わからないことだらけだ。
だけど今は、きっとそれで十分だって、思ったから。



To be continued


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