靄の夢



街にいた。
それは、ありきたりな日常。

だけど今は、少し違う。

目の前には、ひとりの女の子がいた。





《………うううう》





その子は頭を押え、蹲っていた。
どうやら額をぶつけたか何かしたらしい。





《大丈夫か》





あまりに痛そうに呻いているから、思わず声を掛けた。

すると、その少女はゆっくりと顔を上げた。

ぱちりと目が合った。
澄んだ、穏やかな色の印象の瞳。

少女は立ち上がると、額から手を離して辺りを見渡し始めた。

もう、平気なのか…?
少し気になり様子を見ていると、額は赤くなっている。

俺はつい指摘した。





《……赤くなってるぞ》

《え?んー…うん、別に平気です。痛いけど》

《痛いのか》

《大丈夫ですよ。死にやしません》

《大雑把だな…》

《うーんうーん…》





赤くなっていると教えても、少女はきょろきょろとしている。

さっきまで悶絶していたのが嘘みたいだ。
まるで今はそれどころでは無いとでも言うかのよう。

少女はどこか、焦った様子に見えた。





《………何か、探しているのか?》

《あ!お兄さん、この辺で財布見ませんでした?》






聞けば、思いついたようにハッとして俺を見てきた少女。

表情がコロコロ変わる奴だな。
なんとなく、そんな印象を抱いた。

だがまあ、財布を無くしたのか。

それは少し不憫に思う。
だから俺は財布を探すのを手伝ってやることにした。

そうして少し一緒にいる間も、少女はくるくると表情を変えた。





《……もーネコババされちゃったかなあ…。はあ…》





落ち込んで、ため息をついて。





《あー!それ!あたしの財布!》





驚いて、目を見開いて。





《だ、だいじょーぶですか?》





不安そうにして、心配して。





《あ、あの、ありがとうございました!》





そして、笑顔。

…その笑った顔を見たときは、…目を見張ったような気がする。
なんというか、その顔は凄く印象に残ったというか。

ぱあっと、花咲くように笑う。

まあ、それは純粋に好感を持てたと言うか。
…可愛らしく、思ったと思う。





《お兄さん!》





真っ直ぐに、俺を見て笑い掛けてくれるその瞳。

それはあたたかくて、不思議と満たされるような気持ちになって。

…いつか、また会えたらいいな。

ああ、そうだ…。
俺はずっと、そんなことを思っていたような気がする。

そんな感覚の懐かしさを感じていたその時…ふと、目の前の笑みが靄に包まれた。





「え…」





戸惑った。
だけど、それもつかの間。

俺は急に意識が引き戻されるような感覚を覚えた。

…俺は、寝ている?
そう気が付く。

そうして閉じられている瞼を開こうとすると、光と共に飛び込んできた声があった。





「あっ!クラウド!起きた!」





明るい声。
そして覗き込んでくるように、目の前に現れた顔。

それは今見ていた笑顔と同じ。
ああ、靄が晴れたのか。

俺はふっと呟く。





「ああ、…また、会えた…な」

「へ?」





するときょとんとした顔と声がが返ってきた。

ハッとする。

…ナマエ…?
目の前にいる彼女の名前がパッと浮かび、寝惚けていた事を自覚した。





「クラウド?」

「っ、…ナマエ…」





目が合ったナマエはきょとんとしたまま俺の顔を見ている。

今、ナマエの顔が誰かと重なった気がして…。
でも、誰とだ…?思い出せない。

思い出そうとしても、靄がかかる。

俺、何か夢を見ていて…。
しかしその夢の内容すらもう思い出せなかった。





「クラウド」

「よかった、目覚めた」





その時、ティファとエアリスの声もした。
バレットと、それにさっきの…レッドXIIIもいる。

そして傍らにいるナマエ。

…ナマエの、夢…?




「クラウド?」

「いや…」





ナマエを見ると、どうしたのかと首を傾げられた。

いや、もういいな…。
それより、今の状況を把握することが先だろう。

少しずつ現実がはっきりしてくる。

そうだ。俺は倒れて…。
ここは神羅ビルのはずだ。





「クラウド、もう平気?」

「大丈夫?」

「…ああ」





ナマエとティファに声を掛けられながら体を起こして辺りを見渡す。
そこは、今までの神羅のオフィスとは少し違う…まるで人がそこに生活できるような、そんな雰囲気の一室だった。



To be continued


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