XIIIの刻まれた獣



「いっちょあがり!」





ガタン、と音を立てて倒れた武装兵たち。
トドメを決めたあたしはヒュッと剣を払って腰のホルダーに収めた。

よし、これでもう邪魔するものはない!

あたしはくるっと、やっと会えた彼女に振り返った。





「エアリス〜!!」

「エアリス、大丈夫?」

「うん、ありがとう!」





ティファと一緒に駆け寄る。
エアリスは嬉しそうに微笑んでくれた。

ああ…本当、やっと助けられた…!

なんだか感極まって、あたしはエアリスに抱き着いた。
エアリスも「ふふっ」と笑いながらそれを受け止めてくれた。

でも、あまりここでうかうかもしてられない。





「ここから出るぞ」





クラウドがそう言い、全員で顔を合わせて頷く。

エアリスを取り戻したなら、もう後は一刻も早くここを脱出するのみ!

あたしたちは来た道を戻り研究施設から急いで出ようとした。
だけど、その時だった。



カシャンッ…!!



金網状の足場が鳴る。

それはあたしたちの目の前に何かが飛び出してきた音だった。





「きゃっ!」

「わあっ!?」





驚いて全員が飛び退く。

今の足場の音。
それは人間の足音では無く、身軽に降り立った獣の音。

あたしたちの目の前に現れたのは、赤い毛の獣だった。

え、もしかして、また博士のサンプル…!?
侵入者が脱出しようとしたら檻が解除されるとか!?

グルルルル…と威嚇する唸りに思わず身構える。

だけど、そんな心配は無用だった。

獣はあたしたちを警戒していたものの、すぐにそっぽを向いた。
そして軽快に駆け出すとガラスを突き破ってその場から出て行ってしまった。





「なんだありゃ…」

「う、うん…でも、なんかちょっとカッコイイね…?」

「はあ?何言ってんだお前」

「え、格好よくなかった?こう、シュタッシュタッて身軽でさ」





バレットに顔をしかめられた。

でも、今の結構格好よくなかったかな。
身軽に駆けていく姿は凛々しいというか。

いやね、そりゃグルルル言ってるから咄嗟に身構えたけどさ…。

だけど、よくよく考えると今の獣は今まで戦ったサンプルたちとは違うように見えた。

宝条博士のサンプルって、なんかおどろおどろしいのばっかりだったし。

さっきの子は別にそう言う感じは無くて、むしろ勇ましい感じがした。

…もしかしたら、エアリスみたいに捕まってたのかな。
それがあたしたちが暴れた何かの拍子で脱出出来たとか。

だったらラッキーだったのかもね、あの子。

もしあの子が街に出たらちょっと混乱招くかもだけど…。
でもまあ…達者でな〜、みたいな。

あたしはそう見送るように手を振った。





「行かなきゃ…!」

「えっ、エアリス!?」





でもその時、エアリスが赤い獣を追って急に走り出した。

え!追うの!?あの子!?
行かなきゃとは!?

まさかエアリスをひとりで行かせるわけにはいかない。

あたしたちは慌ててエアリスを追いかけた。





「あ、いた!…って、宝条博士…」





エアリスを追いかけた先はエレベーターに繋がる通路だった。

エアリスはじっと不安げに先を見つめている。
そこにはエレベーターに乗り込もうとしている宝条博士と、それを追いかける赤い獣の姿があった。

もしかして…よくも閉じ込めやがって的な感じで宝条博士を襲おうとしてる!?

でも獣は間に合わなかった。
獣が届く前に、エレベーターの扉は閉まってしまう。

ガンッ…と扉に弾かれた獣は、そのままくるりとこちらに振り向いた。

その瞳は鋭くこちらを睨んでいる。

あれ!?もしかしてこっちに狙い変わった!?
あたしたち別に敵じゃないけど!?





「ええ!なんでこっち!?別に戦う必要ないよね!?話せばわかっ…いや、わかんないか!?」

「何ゴチャゴチャ言ってんだナマエ!チッ、やんのかよ!」

「待って」





あわあわしてるあたしの横で来るならやるぞとギミックアームを構えたバレット。
でもそんなバレットにエアリスは静止の声を掛けた。





「この子は大丈夫」





エアリスはゆっくりと獣に歩み寄って行く。

獣はまた威嚇するようにグルグル言っていた。
尻尾も上向いていて、かなり警戒してるのが伝わってくる。

だけどエアリスは怯まない。
そっとその赤い毛に手を伸ばし、頭に触れようとする。

相変わらず唸ってる。
でも確かに、手を伸ばされても襲い掛かって来ようとは…してない?

エアリスはふわりと優しくその赤い毛に触れた。





「あ…」





その光景に、目を見開いた。

唸りが止む。牙が、仕舞われる。
ゆっくりと赤い瞼を閉じて、大人しくなる獣。

そして、ぴょこぴょこ…と耳が小さく動いた。

え、か、可愛い…?
なんかちょっと、その仕草にはきゅんとした。





「なんなんだよ、こいつ」

「…興味深い問いだ」





バレットの文句に答えた声。
それは知らない声だった。

…誰の声?
聞えたのは目の前から。

一瞬思考が停止。

ん!?!?!?





「「喋った!?」」





ティファとふたりで声を上げて驚いた。

え!え!?
今の声って、この赤い獣さん!?

今喋ったよね!?





「私とは何か。見ての通り、こういう生き物としか答えられない。あれこれ詮索せずに受け入れてもらえると助かる」





また、さっきの声がした。
その声と同じように動く獣さんの口。

やっぱり喋ってる…!!

それを理解した瞬間、あたしはガバッと獣さんの前にしゃがんだ。
結構な勢いだったからかちょっとビクッとされた。

後ろから「ナマエ!」ってクラウドの声もしたけど、まあ大丈夫でしょ!

話が通じるなら怖いものはない!

今、あたしの興味は全力でこの獣さんに向いていた。





「すごい!本当に喋ってる!しかもなんかめっちゃ利口そう!」

「…そんなに瞳を輝かされても反応に困るな、御嬢さん」

「おおおおおっ…!!!」

「…ナマエ、とりあえず落ち着け」

「あ、クラウド」





クラウドに肩を叩かれた。

あ、流石に興奮しすぎた?
いやでも興奮するでしょコレ。感動でしょ。

まあ困惑されてるのはわかるからとりあえず少し離れて立ち上がった。





「サーティン…?」





すると後ろからティファのそんな呟きが聞こえた。

見ればティファの視線は獣さんの脚に向けられている。
確かに獣さん脚にはXIIIの文字が刻まれていた。





「レッドXIII。宝条がつけた型式番号だ」





獣さんはそう教えてくれた。
XIII…つまり、宝条博士が刻んだってこと?





「じゃあ本当の名前は何て言うの?」





ティファは名前を尋ねた。
でも獣さんはその問いには答えてはくれず、くるりと後ろを向いた。

これは、教えてくれる気は無い…って事なのかな?

というか、どこ見てるんだろう?
獣さんの視線を追う。

その先にあったのは宝条博士が乗って逃げたエレベーターだった。





「逃げられたか」

「あの野郎どうする。追いかけるか?」





バレットがクラウドに意見を求める。

宝条博士か…。
出来るならもうあまり関わりたくないタイプの人だけど…。

でもなんとなく、放っておいたらまたトラブルを起こしそうな感じもする。
きっとエアリスのことだって狙うだろう。

ただ、深追いしない方がいい気もしてしまう。

あたしもちらっとクラウドに目を向けた。





「…うっ…」





その時、クラウドはまたいつかみたいに頭を押えていた。

…また、頭痛。
ここ最近で、もう何度目だろう。

見慣れてしまって、でも見慣れて良いモノじゃ、きっとない。





「うっ…く…」





クラウドは頭を押え、呻きながら一歩一歩エレベーターの方にゆっくりと歩いていく。

その姿に不穏さを覚えたのはあたしだけじゃない。
ティファもエアリスも、バレットも。

皆、クラウドのその姿に違和感みたいなのを感じてた。





「う…あ…」





ちょっと、朦朧としてるみたい。
どこか苦しそうにエレベーターに向かっていく。

その姿はいつものクラウドと少し違って、なんだか足が動かなくなる。

…クラウド…。

あたしは不安な気持ちに、胸の上でぎゅっと手を握る。

…不安?
あたし、今、不安なの?

いや、クラウドの様子がちょっと変で、そりゃ不安にはなる。

ううん…。
でもなんか、それだけじゃなくて。

…なんだろう。
なんだか得体の知れない、今はまだ小さいけど、少しずつ膨らんでいくような変なモヤ。

足…動け。動け。

そう、心が唱え出す。

動け!!!

クラウドがエレベーターの前まで辿りつく。
その瞬間、あたしはふっと足が軽くなったのを感じた。





「っ、クラウド!」





その勢いのまま、彼の名前を叫んで駆け出す。

なんでだろう。どうしてだろう。
でも、なんだか放っておけない。

その背に手を伸ばして、掴まないといけない。

そうしなきゃ。いや、そうしたい?

なんだかよくわかないけど、突き動かされる様に手を伸ばす。





「っ…か、あ…さ」





もう少しで手が届く!
そんなところまで来たとき、クラウドが掻き消されそうな声で何か呟いた。

でもそれとほぼ同時、彼の体は力を失ったようにぐらりとをの場に崩れ落ちていく。





「クラウドッ!!」





あたしは崩れ落ちるその身体に必死に手を伸ばし、支えた。

でも、力を失くした男の人の体は重い。
支えるなんて出来なくて、でも何とか踏ん張って、その勢いだけ失速させるような形で一緒に膝をついた。





「「クラウド!ナマエ!!」」





ティファとエアリスの声がした。
駆け寄って来てくれる。

クラウドは気を失ってしまった。

あたしは座り込んだままクラウドの体を支えるように抱きしめ、彼に呼びかけた。





「クラウド!クラウド!大丈夫!?」

「ったく、どうなってんだよ!?」





皆が来てくれて、バレットがクラウドの体を支えてくれた。

ふっと軽くなる腕。
ティファに手を引かれながら、あたしも立ちあがった。





「クラウド…気、失ってるの?」

「休ませられるところ、運ぼう。あっち、昔、私が過ごしてた部屋があるの」





とにかく今はクラウドを休ませよう。
そう咄嗟に判断したエアリスは先導を切ってあたしたちを案内してくれた。

確かに今は脱出どころじゃない。
クラウドを休ませるのが最優先だ。

あたしたちは頷き、エアリスについて行った。





「……。」





気を失ったままのクラウドを見つめる。

…走り出さなきゃって判断、間違ってなかったな。
全然支え切れてなかったけど…ドサッ、みたいなのは防げたし。

でも、なんだろう。
やっぱり、変なもやもや…不安だ。

クラウドの頭痛…普通じゃなさそうだからかな。

胸に蔓延る、ぐるぐるともやもや。

…あたしは、きっと、クラウドに自分がしてあげられること…探してる。

うん。そう。しっくりくる。
自分がクラウドに出来ること…。

力になれるかな…って、きっと、そう考えていた。



To be continued


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