信頼してる人



七番街の崩壊により、不安や困り事を抱える人が増えているスラムの街。
あたしたちはそんなスラムの様子を見て歩き、時には手助けをしながら上の街に行くための手がかりを探していた。

上へ行くための裏ルート…。
そういう手段に詳しそうな人物で、あたしたちが一番に思いつくのはウォール・マーケットのドン・コルネオだ。

でも正直、奴の所へ行くのは気が進まないのがあたしたちの本音だった。





「本当に、コルネオのとこ行くの?」





伍番街スラムで情報が得られなかったため、結局やってくることになったウォール・マーケット。
その入り口を見るなり、ティファは表情を曇らせた。





「行くだけ行ってみよう」

「うん。あたし、もし次に会うようなことがあったらブッ飛ばしてやろうと思ってたんだ。そう考えればちょうど良いかも」





クラウドとあたしはそんな風に答えた。

そうそう。
下水道に落とされた時、あんの変態クソ野郎ってマジで思ったからね。

…いや、あたしだって行かなくていいなら行きたくはないけど。
一発ド突きたいと思うと同時にあのツラ二度と見たくねえという気持ちのせめぎ合いだ。

というかクラウドだって気乗りではないだろう。

するとそんなあたしたちの様子を見たバレットが不思議そうに聞いてきた。





「なんだよ、コルネオと何かあったのか」

「言いたくない」

「あん?クラウド…」

「覚えてない」





ティファに説明を拒否されたバレットはどういうことだとクラウドを見たけどクラウドの方からもピシャリと教えて貰えない。

そんなやり取りにあたしは「ふはっ」と思わず噴き出した。

いやだってこんなん誰でも笑うだろ!
ティファ即答だしクラウドに関しては記憶から抹消しているとか…!

で、そうなればバレットはあたしを見てくる。





「おい、ナマエ、こりゃどういうことだ」

「あはっ、ふたりがそう言うなら、あたしも何も知らなーい」

「なんだそりゃ…」





あたしも適当に答えた。
そりゃふたりが話したくねえってんならあたしだって黙りますとも。

まああたしだってわざわざ話題にしたいものではないし。
それにクラウドのこともあんまり言いふらすのは可哀想だしね。

バレットは腑に落ちて無さそうだけど、まあちょっと因縁があるっぽいって事がわかってれば十分だろう。

そんなこんなであたしたちはウォール・マーケットの奥にあるドンの屋敷に向かった。





「あれ?見張りの人、いないね?」

「ああ」





屋敷に着くと、以前は立っていた門番の手下がいなかった。

今回は穏便にする理由が無いから力づくで入る気満々だったけど、まあいないならいないでラッキーだ。

クラウドが扉を開く。
中に入ってみると、屋敷の中も人の気配が全然なかった。





「中にも、いない…」

「ナマエ、コルネオの部屋、行ってみるぞ」

「あ、うん」





ロビーを見渡しているとクラウドに呼ばれる。
あたしは頷き、皆でコルネオの部屋がある2階へと向かった。

コルネオの部屋のひとつ手前…オーディションをした部屋まで来ると、そこも静かだった。
前はあんなに下品な手下たちがいたのにな。

そう思っていると突然、クラウドが背中の剣をビュッと勢いよく振るった。

へっ、と思ったのもつかの間、すぐにその理由を理解する。

クラウドが剣を向けた先、寸で止めたそこにはこちらに銃を構えるひとりの男が潜んでいた。

その男を見てあたしはハッとした。
いや、多分クラウドとティファも。そしてきっと、銃を構えていた彼自身も。





「レズリー!」

「…お前たちか」





あたしは彼の名前を口にした。

そこにいたのはレズリーだった。
どうやら向こうもこちらのことは覚えていてくれたらしい。

いやまあ結構色々と大暴れはしたからそりゃ覚えてるだろうけど。

クラウドとレズリーは互いに武器を引いた。





「何の用だ」





レズリーは顔をしかめて聞いてきた。

彼はあたしたちの目的がティファの救出だったことを知っている。
それが叶った今、もうこんなところに用はないだろうと。





「私達、プレートの上に行く方法を探してて。コルネオなら何か知ってるかもって」

「…成る程ね」





ティファが説明すれば、レズリーは納得したように頷いた。
そして何故か、何か見定めでもするようにあたしたちを見てきた。

…な、なんだろうか。





「それなら、俺も知っている」





そして彼はそう言った。

レズリーが、上に行く方法を知っている…。
え、これはもしや運がいい感じ?

確かにコルネオのところにいたレズリーなら、なにかルートを知っていてもおかしくはないかもしれない。





「本当か、教えてくれ!」

「こっちに来い」





バレットが頼めば、レズリーはそう言って奥の部屋へと入って行った。
そっちって、コルネオの部屋…。

ここで普通に話しててもコルネオが出てくる気配は無かったから、もしかしてこの屋敷には誰もいないのかな。

どうするかと視線がクラウドに集まる。





「話だけは聞こう」





クラウドのその判断を聞き、あたしたちはレズリーを追いコルネオの部屋へと向かった。





「あ、梯子ついてる」





部屋に入ると、以前あたしたちが落とされた穴が開いたままになっていた。
ただ前と違うのは、穴に梯子が取り付けられており自分で降りられるようになっていたこと。

部屋にぽっかりと空いた穴に、バレットは首をひねっていた。





「何だこの穴?」

「この先に用がある。あんたたちが手伝ってくれるなら、上に行く方法を教えてもいい」





交換条件。
レズリーの目的を手伝えば、上に行く方法を教えてくれる。

だけど、この先に…用事?

あたしは穴を覗き込み、あの時の臭い記憶を思い出す。





「この先って、下水道だよね?何しに行くの?」

「コルネオの隠れ家がある。そこまで行きたい」





一体どういう事だと思ってたら、ちょうどティファが思っていた事を聞いてくれた。

コルネオの隠れ家…。

え、下水道にそんなのあるのか。
でも確かに好き好んで行くような場所じゃないから隠れ家としてはおあつらえ向きなのかもしれない。





「俺たちをハメるつもりじゃねえだろうな」

「そう思うならそれでいい。俺は別の助っ人を探す。お前たちも他の方法を探すんだな」





バレットが疑えばレズリーは平然とそう言った。

レズリーからしてみれば、別に手伝うのはあたしたちじゃなくてもいいと。
あたしたちが信じられないなら、それまでの話…か。

あたしは、乗ってみても良い気がするけど。

クラウドはどう思うかな。
結局、こういう最終判断ってクラウドになってくる気がする。

あたしはチラッとクラウドを見た。





「わかった。手を貸そう」





するとクラウドはそう答えた。

お。結構すんなり。
でもクラウドもレズリーが他の手下たちとは少し違うの、多分接してて感じてたと思う。





「いいのか?」

「裏切れば、斬る」





バレットに確認されたクラウドは背中に収めた剣にまた触れながらそう言った。

それは軽い脅し。
レズリーは小さく笑った。





「それで構わない」

「信じるよ?」





ティファもレズリーを真っ直ぐ見つめて彼を信じることに賭けた。
レズリーがサポートしてくれたあの場面を見ているから、ティファも異存はないのだろう。





「うん。あたしも、レズリーは信じてみてもいいと思う」





そして、あたしはそう笑った。

わりとストレート。
そんなトーンだったから、レズリーもちょっと面を食らったような顔をしてた。





「おい、ナマエ。おめえ、えらく軽いな」

「そう?でも大丈夫だろうなって思うから」





バレットにも突っ込まれたけど、けろっと返した。
だってそう言える理由は、指折り数えられるくらいにはあるから。





「詳しくは地下に降りてからだ」





とりあえず、交渉は成立。
レズリーは梯子に向かっていく。

唯一あの場にいなかったバレットは穴を覗き込んで怪訝そうな顔をしていた。

梯子は後付された簡易的な物だし、普段はついていないのは容易に想像がつく。
そもそも扉のすぐ近くに穴があるのは位置的に不自然さを感じたらしい。





「何なんだこの穴」

「侵入者用の落とし穴だ」





クラウドが簡潔に言う。
あれだね、経験者は語る〜って感じ。





「生きて戻った奴はいない。いや…いなかったと言うべきか」





レズリーはそう言うと、梯子に手を掛けて穴を下りて行った。

ま、目の前に生きて戻ってきた奴がいるしね。
でもきっと…この穴に落とされてあの怪物の餌食になった人がたくさんいるのだろう。

レズリーに続き、バレット、ティファも順々に下に降りて行った。





「随分とはっきり信じたな」

「え?」





梯子の傍にしゃがみ、皆がある程度の所まで降りていくのを待っていると、そう声を掛けられた。
もうここに残っているのはあたしとクラウドのみ。

あたしはしゃがんだままクラウドを見上げた。





「うーん、まあ助けてもらったしね」

「助け?」

「そう。アニヤンから服預かって、渡してくれたのレズリーだよ」

「ああ…」

「あの時ね、上手くやりなって言ってくれたの。レズリー」

「……。」

「それにクラウドが男だって知った上で目を瞑ってくれたりもした。どう考えてもコルネオにプラスじゃないのに。あとどうなっても知らないぞって言ってくれたでしょ。あれって本当にどうでもよく思ってたら出てこない台詞だと思うんだ」





全員ドレスアップして屋敷に入った時、レズリーはそう言ってくれた。
実は影で色々と助けてくれてたんだよね。





「気に入ったのか」

「ん?」

「…あいつのこと」

「え?」

「…、なんでもない」

「うん?」






気に入った?
そう聞いてきて、でもすぐにそれを取り消すクラウド。

はて。いや別にいいならいんだけどさ。





「うーん、でもさ、クラウドだってどっかしらで信用してみてもいいって思ったから手伝おうって言ったんじゃないの?」

「…別に、信用はしてない。裏切れば、言った通り斬る。まあ、ワケありのように見えたのは確かだな」

「でしょー?ティファも信じるよって言ってたし、聞いてみる価値はあるよね!」





あたしだけじゃなく、ティファやクラウドもレズリーに対しては他の部下やコルネオとは違う真っ当な部分を感じていたはず。
もしエアリスがここにいたら、きっと同じようなことを言ってくれるんじゃないかなと思う。





「ま、でもあたし基本的には腹の探り合いとかは得意じゃないなー」

「ああ、得意そうでは無いな」

「うわあ、グサッ」

「…自分で言ったんだろ」

「あははっ、まあね!じゃあ次またもしこーゆー事があったらクラウドどうしようーってクラウド任せにするから、よろしくね!」

「丸投げか?」

「へへっ、だって頼りにしてますから。クラウドのことは信じてもいいんでしょ?」





笑いながらそう言ってみる。

思い出しているのは、昨日のこと。

クラウドはちょっと目を丸くした。
でもきっと、クラウドも思い出している。





「好きにしろ」





クラウドは短くそう言った。
でもその顔はふっ、と笑っていて、ちょっと楽しそうな柔らかな表情だった。





「うん、しまーす!あははっ、先、行っていい?」

「ああ。俺が最後に行く。気をつけろよ」

「ハーイ!」





ちょっと待ちすぎたかもしれない。
もうすっかり、皆は地下に潜ってしまっている。

そろそろ行かないとね。

あたしはクラウドに見送られつつ、梯子に手を掛けて、再びあの下水道へと向かったのだった。



To be continued


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