誰かを想う気持ち



「うう…やっぱくさーい…」





レズリーに連れられ、再び訪れた下水道。
相変わらず鼻につく酷い臭いにあたしは思いっきり顔をしかめた。





「本当に上に行く方法を教えんだな」

「あんたらが仕事をしたらな」

「俺はまだ信用しちゃいねえぞ」





下に降りてもバレットはまだレズリーを疑っていた。
少しでも妙な真似をしたら撃つと、ギミックアームを見せて脅してる。

レズリーの方は「それはモンスターに頼む」と軽く返していたけどね。





「さっさと済ませよう」





クラウドの声に、あたしたちは頷いた。

こうしている間にもエアリスはきっと神羅で嫌な思いをしている。
そんな思いを胸に、あたしたちはレズリーの指示で薄暗い下水道を歩き出した。





「こっちだ。近くにコルネオのしるしがついた扉がある」





レズリーに言われまず目指したのは、前にも目印にした七番街との境の大水路。
話によればその近くにコルネオの隠れ家に繋がる道があるのだと言う。

とりあえず言われるままについていって、あたしとティファは思い出した。





「あ、ここ!」

「うん、ここ、前は閉まってた」





ふたりで「だよね!」と頷いた。

そうだそうだ。大水路まで来て、じゃあどうやって七番街側に渡ろうかって辺りを見渡していた時、ひとつ開かない扉があったんだった。

でも今はその扉が開いている。
これ、コルネオの隠れ家に繋がる道だったんだ。





「安全確保、よろしく」

「はいはい」





先に行けと促され、バレットが渋々返事をして歩いていく。
クラウドもそれに続いていった。

あたしもついて行こうとしたら、その時ティファがレズリーに話しかけているのが聞こえた。





「聞いてもいい?オーディションの時、どうして助けてくれたの?」





それを聞いて、ぴたりと止まる。
あたしは振り返った。





「あっ、それ、あたしも聞きたい」





そう言って、ティファの隣に立った。
ふたりにじっと見られたレズリーは軽く息をついた。





「…アニヤンに頼まれたからだ」

「それだけ?」

「うん、それだけであそこまでしてくれたの?それって超お人よしだと思うんだけど」

「…俺はあそこまで捨て身にはなれなかった」

「「え?」」





ぽつりと、呟くように零したレズリー。

あそこまで…捨て身?
それってどういう意味だろう。

ふたりで聞き返したけど、でもレズリーはそれ以上何かを語る事は無く「ほら、早く行ってくれ」と誤魔化されてしまった。

ふむ…。





「どうした?」

「へ?」





先に進みながらも少し考えていたら、クラウドに声を掛けられた。

おおと。
ぼーっとしてた。反省。

あたしはゆっくり首を振った。





「あ、ううん。レズリーも、誰か助けようとしてたのかな…」

「え?」





あそこまで捨て身になれなかった。
その言葉が指すのは多分、屋敷に入るためになんでもやったあたしたちのことだろう。

あたしはチラッとクラウドを見る。





「…捨て身…。ふふっ…」

「…今何で笑った」

「ふはっ…ごめん、なんでもない」





捨て身。
そう言われて浮かべたのはあの時のクラウドの女装姿。

いや、あれは確かに捨て身かもね…!
なんて、そんなこと思ったらつい笑ってしまった。

でもちょっと睨まれた!まずい!
あたしは慌てて首をぶんぶん横に振った。

だけど、思うのだ。





「助けたいとか、自分のことを誰かがそういう風に思ってくれるのって、きっと嬉しいだろうね」

「え…?」





くるっと振り返り、少し後ろを歩いているティファに目を向ける。

多分、ティファは嬉しかっただろう。

ティファがコルネオの所に乗り込んだのは自分の意志だし、来なくていいとも言っていた。
だけどそれでも心配して、助けに来てくれた。

それってきっと、嬉しいだろうなって。

クラウド、ジェシーにも《何度でも助けるさ》って言ってた。
あの時のジェシー…嬉しそうに笑ってたな。

エアリスも…。
今こうして動いている事を知ったら、きっと。





「…あんたのことだって、助けるさ」

「え?」





すると、クラウドがぽつりと呟いた。
その声にあたしはクラウドを見る。





「助けるよ。ナマエのことも」

「クラウド…」





まっすぐ、見つめられていた。
そんな眼差しで、クラウドは言う。

そんなこと、言われるなんて思ってなくて。





「あ、ありがとう…」





上手い言葉が出てこなくて、ただそう返す。
するとクラウドも少し気恥ずかしそうにに「ああ…」と言った。

でもその時の心の中にはじわりじわりと、息苦しくなるくらいに嬉しいという気持ちが溢れてた。





「ここか」

「ああ」





しばらく歩くと、ひとつの頑丈そうな扉の前までやってきた。

バレットが尋ねればレズリーは頷く。
どうやら、目的だった場所まで辿りつけたらしい。





「プレートの上へ行く方法は?」

「中だ」

「最後まで付き合えって?」





話はコルネオの隠れ家まで行きたいだった。
でもまだ上に行く方法は教えないレズリーにクラウドはじとっとした目を向ける。

レズリーは軽く笑った。





「悪いね、だがあんたたちには」





レズリーがそう言い掛けたその時、背後からタッタッタッタッ…という何かが近づいてくる音がした。人の足音じゃない。

振り向けばそこにはあたしたちの膝くらいの丈の小さなモンスターの姿があった。

そいつは一直線にレズリーに向かい、ドンッと体当たりを喰らわせる。

小さくても丸いフォルムで重量はありそうなモンスター。
もろに喰らったレズリーはその場にどさっと倒れ込んでしまう。

その際、レズリーの懐から何か小さな袋が飛んでしまった。





「それは…!」





モンスターはその袋を拾い上げる。
それを見たレズリーは焦った。

でも起き上がるには間に合わず、モンスターは袋を持ったまま下水道の奥へと逃走してしまった。





「待て!あいつを追う!」





レズリーは慌ててあたしたちにそう言ってきた。

な、なんか、切羽詰まってる?





「大事なものなんだ!ここの鍵が入ってる」






それを聞いてあたしたちもハッとした。

ここの鍵!?

それはつまりレズリーも目的を果たせないし、中に入れなければあたしたちも上に行く方法を教えてもらう事は出来ない。





「追うぞ!」





クラウドが言う。
その声に弾かれる様に、あたしたちは急いでそのモンスターを追いかけた。





「ああもうっ!すばしっこい!!」





モンスターは小柄のため、タンタンっと素早く身軽な逃げ足だった。
此処を住処にしてるなら移動などお手の物だろう。

追っても追ってもスイスイ逃げるから、なんかすんげえイライラしてきた…!





「ねえ、あれ、なんか前に戦ったでっかい奴と似てる?」

「ああ、恐らくコルネオのペットだろうな」

「うっわ、あんにゃろう…!」





追っている最中、そのフォルムを見ていて思ったこと。

いや、なんか前に落とされた時に戦ったあの馬鹿でかいヤツによく似ているなあって。
なんというか、アレをそのまま小さくした感じ。子供みたいな。

クラウドに聞けばその想像で合ってるだろうと頷いてくれる。

それを聞いて更にイライラが増した。

いやほんと、あのゲス野郎ぜってーぶちのめす…!!





「はあっ!!クラウド!!」

「任せろ!」





何とか追い詰め、バトルにまで持ち込んだ。

あたしが足を狙えば、その隙をクラウドがしっかりと取って決めてくれる。
モンスターの体はドサッと落ち、握っていたレズリーの袋を手放した。





「……。」

「それ…」





クラウドが袋を拾い上げ、確認した中身を一緒に見る。
中には小さな金物が入っていた。でも、それは鍵じゃない。





「返してくれ!」





その時、レズリーがそう少し声を張って言った。

真剣な目。

別に拒否する理由も無い。
クラウドは差し出したレズリーの手にその中身…ネックレスを手渡した。





「鍵じゃねえのか」

「…すまない」





バレットが問えば、レズリーは弁解をすることもなく頭を下げた。

鍵、っていうのは咄嗟についた嘘。
でもきっと大事なものって言っていたのは本当なんだろう。





「おまえのもんじゃねえよな。身内の形見か?」

「家族はいない」





レズリーの手の中に光るのは、花とハートがモチーフの可愛らしいネックレス。
男の人がつけるようなデザインでは無かった。

もうここまで付き合ったのだから、隠す事も無い。

レズリーはそのネックレスの持ち主とコルネオとの因縁について話してくれた。





「半年前…彼女はコルネオの嫁に選ばれた後、そのまま姿を消した。その時突っ返されたんだ。酷いだろ?結構いい値段したんだけどな」





持ち主は、レズリーの恋人。
それはレズリーが贈ったネックレスだった。

そして、そこに繋がるコルネオとの関係…。
レズリーの恋人も…コルネオの嫁に選ばれた。

つまり…。





「じゃあ、レズリーは…」

「あなたの目的って…」

「復讐だ」





あたしとティファが聞けば、レズリーははっきりとそう答えた。

そこで色々と繋がった。

コルネオの部下をしていながら、あたしたちをサポートしてくれた事。
俺はあそこまで捨て身になれなかったの意味。

きっと、あたしたちと重ねあわせていたんだろう。

それはすべて、コルネオへの復讐へと繋がっていた。





「今更だって事はわかってる。それでも片を付けないと、俺はどこにも行けないんだ…」

「好きにしろ。俺たちは上に行ければそれでいい」





手を握りしめ胸に押し当てたレズリーにクラウドは淡々と言う。

興味はないって声。

あくまで利害の一致。
でもそれは、最後まで付き合う同意でもある。





「わかってる。そっちは任せてくれ」





そしてレズリーは改めて約束してくれた。

上へ行く方法を知っているのは嘘じゃない。
事が済めば、ちゃんとその方法を教えてくれると。





「気に入ったぜ」





話を聞いたバレットはレズリーの肩に手を置き、そう声を掛けていた。

どうやらバレットもレズリーを信じたらしい。
まあ、ここまで聞けばもう疑う理由も無いよね。





「うん、じゃあ行こう!あたしもコルネオのぎゃふんとした顔見たいもん!」

「ああ、こっちへ進もう。近道だ」





レズリーは元の場所へいち早く行くための道を案内してくれる。
こうしてあたしたちは再びコルネオの隠れ家へと向かったのだった。



To be continued


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