顔を上げて歩けば
「あんたには世話になりっぱなしだ。この恩は忘れねえ。俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ」
「困った時はお互い様さ」
朝が来た。
リビングに集まったあたしたちは改めてエルミナさんにお礼を伝えた。
マリンのことにウェッジのこと、バレットは特に頭を下げていた。
そうして頃合いを見て、あたしはクラウドと顔を合わせた。
昨日、クラウドと話をした。
やっぱり、エアリスのことは助けに行きたい。
その話を今度はあたしからもお願いしてみるからと、一緒にもう一度、話をしてみようって。
「エルミナ」
切っ掛けを作る様にクラウドが声を掛けた。
するとエルミナさんは何の話をしようとしているのかを察し、ふっ…と小さく息をついた。
でもそれは昨日のように話を逸らそうとする感じでは無い。
エルミナさんは向き合うようにクラウドに視線を向けた。
「あれから考えてみたよ」
「…呼ばれている気がするんだ。だから…」
今日はクラウドも、理屈では無く自分の心音を伝えた。
そこに重ねる様に、あたしもエルミナさんに自分の気持ちを話す。
「エルミナさん、あたしたち、エアリスのこと迎えに行きたいです。…上手く言えないですけど、誰かが迎えに来てくれるって…凄く嬉しいから。エアリスに、そうしてあげたいんです」
クラウドと話してて、思った。
迎えに行くって凄く素敵だなって。
そう…子供の頃とか、誰かが迎えに来てくれるのって…なんだか嬉しかったでしょう?
「私からも、お願いします。助けたいんです、友達だから」
するとティファも言葉を重ねてくれた。
でもきっと、ティファもそう思ってくれている。
まだ出会ったばかりだけれど、あたしたちは間違いなく友達だ。
そんなあたしたちの視線にエルミナさんの瞳が細められる。
そしてエルミナさんがバレットを見れば、バレットもまた同意見だというように頷いた。
「薄々わかってたのさ。いつか、こういう日がくるんじゃないかってね。それでも…、エアリスを助けてやっておくれ」
エルミナさんは少し考えた末、そう言ってくれた。
その願いに応えるように、あたしたち4人はしっかりと頷いて返した。
これで、エアリスを助けに行ける。
それにクラウドだけじゃなくて、ティファとバレットも来てくれる。
4人で、必ず取り戻すよ。
「父ちゃん!」
するとその時、2階へ繋がる階段からパタパタと小さな足音が聞えてきた。
振り向けばそこには降りてくるマリンの姿がある。
「マリン」
「行っちゃうの?」
バレットが声を掛ければ、マリンは駆け寄って寂しそうに父を見上げる。
「ナマエ、クラウド、私たちは先に出てようか」
「うん、そうしよ」
「ああ」
神羅ビルに乗り込むのなら、そう簡単には戻ってこられない。
またしばらく、バレットとマリンは会えなくなる。
なら、別れを惜しむ時間を少しくらい。
そう考えたのは皆同じで、だからあたしとクラウドとティファはエルミナさんに軽く会釈して先に外でバレットを待つことにした。
「んん…いい朝だ…っ」
外に出れば、朝の白い光が降り注いでくる。
それを浴びたあたしはうんっと軽く腕を伸ばした。
そして家の中から聞こえてくる、バレットとマリンの会話に耳を澄ませた。
「マリンが助けてくれたお姉ちゃんを、今度は俺たちが助けに行くんだ。助けてもらったお礼、ちゃんと言わねえとな!」
「うん!あのね、あのお姉ちゃんね…」
「どうした?」
「…ううん、助けてあげて!」
「任せろ!」
マリンは良い子だ。
いってらっしゃいって、大好きな父ちゃんを笑顔で見送る。
その笑顔は、バレットにとって何よりの原動力になる。
「バレット…」
マリンに見送られ、外に出てきたバレットにティファが声を掛けた。
するとバレットはサングラスを掛ける。
それはもしかしたら、少しの名残惜しさを隠すものだったかもしれない。
「マリンは大丈夫だ」
でも、そう言ってのける。
それはきっと、何よりバレットが一番わかっていることだから。
あたしは頷いた。
「うん。マリンは逞しいよ。だってバレットの娘だもん」
「おう。わかってんじゃねえか」
「まあねー」
軽く頭を小突かれて、あたしは「ふふっ」と笑った。
「よし、神羅ビルに乗り込むか」
「目的を忘れるな」
「わかってるよ、エアリスの救出だろ?」
クラウドとバレットが軽く言いあえば、全員の決意は固まる。
こうしてあたしたちはエアリスの家の敷地から出るべく、スラム街の方へと歩き出した。
「でも、上までどうやって行く?鉄道は動いてないよね」
「うん。あの騒ぎだったしね。しばらくは動かなそう…」
歩きながら、ティファと話した。
とりあえず街の方へとは言ったものの、それからどうやって上にある神羅ビルまで行くかは今のところ考えが真っ白だ。
「んじゃ、線路を歩くか!」
「今は非常事態だ。表立ったルートは封鎖されていると思った方がいい」
あたしたちの話を聞いていたバレットやクラウドも会話に加わる。
でも確かに、今は色んなところで警戒態勢になっていそうだ。
神羅が爆破しておいて神羅が警戒するって変な話だけどね。
「じゃあどうすんだ。裏ルートがあんのか」
裏ルート…。
多分バレット自身は何気なく言ったであろう言葉だけど、ちょっと考えてみる。
「裏ルートかあ…ティファ、心当たりある?」
「うーん…そういう事知ってそうな人って…」
ふたりで悩む。
するとそこにクラウドの一声。
「…コルネオか」
「うげっ!?」
クラウドが口にしたその名前にあたしは隠すことなく顔を歪めた。
え!マジで!ここでコルネオ!?
まあ確かにあいつならそういうの知ってそうな気もするけど…。
ていうかあたしだけじゃなくてティファだって嫌そうな顔してた。
いや、クラウドだってきっと同じ気持ちだろう。
そんな風に目的を定めつつ、あたしたちは街へ出た。
「はーい!注目!情報屋キリエの大スクープだよ!!」
街に出ると、何やら人だかりが出来ていた。
何だろうと見れば、人々が注目しているのはちょっとした高台の上にいる一人の女の子。
情報屋のキリエ…そう名乗ったその女の子はスラムの人々にある情報を提供していた。
「反神羅グループのアバランチが壱番と伍番のあと、調子に乗って七番魔晄炉まで爆破したんだけど、素人の悲しさで爆弾の威力を把握していなかった。その結果が、この大惨事!しかも!ウータイから莫大な資金援助を受けてたんだって!反神羅なんて大層な看板を掲げてるけど、実際はウータイの手先!というかただの使いっぱしり。これが真相。上で仕入れたばかりの最新ニュースだよ!はーい、5ギル!5ギルちょうだい!」
それは、神羅の良いように改変されたニュースだった。
情報操作なんて、神羅ならお手のものだろう。
でもそれを聞いてちょっと腑に落ちた事があった。
それは神羅が支柱の爆破をアバランチの仕業だとアナウンスしていたこと…。
あれは、つまり…こうなるように仕向ける為だったのか。
そして矛盾の無いその情報を、人々は容易く信じ込む。
爆弾の威力…ジェシー…。
ウータイの手先ではないし、今回の惨事の責任を…押し付けられる。
あたしはティファやバレットの顔色をうかがった。
「…ウータイの手先じゃねえ!他はともかくそこだけはハッキリさせねえと」
バレットの口調は怒りに満ちていた。
そして情報を訂正しようと人だかりに向かって行こうとする。
だけどティファが慌てて腕にしがみ付き、その足を止めさせた。
「私たちの主張なんて…もう、誰も聞いてくれないよ…」
「……。」
「……ごめん」
弱音を吐いたティファは、小さく謝る。
そしてバレットの腕からそっと手を離した。
でも、もうバレットも人だかりに向かって行こうとはしない。
「ティファ。なあ、ティファ。俺たちは、反省も後悔も許されねえ身だ。こっから先はもう、ただただひたすら前進あるのみ。何があろうと、反神羅の火は消さねえ」
「…うん。でも、今は…前だけじゃなくて、周りも見て。皆、怯えてる…。だから、お願い…」
そんなバレットとティファの会話を、あたしとクラウドは少しだけ距離を取って聞いてた。
だって、掛ける言葉が…正直見つからなかったから。
今の状況に、人々が怯えている…。
不安で不安で、たまらない。
ティファの言うそんな様子も、離れた場所では…よく見えた。
「…ねえ、クラウド。クラウド、言ってたよね。伍番魔晄炉で…神羅はこっちを利用しようとしてるように見えた、って」
「…ああ」
「そっか…」
あたしは小声で、クラウドにそんな事を聞いた。
確か、クラウドがそう言っていた事を思い出して。
アバランチを利用し、潰しながら…敵国ウータイへの人々の意識を操作する…か。
だって現に街の人々には「魔晄が妬ましいんだろう」「また戦争になるのか」「仕掛けてきたのは向こうだ」なんて…そんな声が広まっていたから。
「困ってる人がいたら、出来るだけ助けてあげたいな…」
ティファがぽつりとつぶやく声が聞こえた。
それを聞き、あたしはクラウドを見上げた。
「なんでも屋さん、出番?」
「報酬次第、だけどな」
「あははっ、そっか」
素直に言わない。
でもクラウドもきっと、助けることに異論はない。
それがわかったから、あたしは少しだけ笑った。
エアリスを助ける方法を探しながら、人々の様子も見て歩こう。
「ティファ、バレット。行こう」
あたしはふたりに声を掛ける。
そっと、顔には笑みを浮かべて。
そして先を歩き出す。
すると、合わせるように一緒に歩き出してくれたクラウドが声をかけてくれた。
「なんか、元気になったな」
「ん、そう?でも、そうだね。なんとなく、心にあった錘みたいなの、小さくなった気がする」
「そうか」
「うん!クラウドのおかげ」
「え…」
そう伝えれば、クラウドは何だか驚いた顔をした。
でも、事実そうだし。
昨日の夜、クラウドが傍にいて、優しく声をかけてくれた。
多分ちょっと…変な気、張ってた。
それがきっと、クラウドと話していて解けた。
それに…一緒にいることを、互いに好ましく思っていると…知れた。
ああ、なんて贅沢。
だからなんだか今は、どんな暗闇でも立っていられる気がして。
「思うんだ」
「ん?」
「きっと、俯いててもはじまらない。むしろどんどん悪い方向に落ちていく気がして」
「…そうかもな」
「だから、少しでも顔を上げるきっかけを探そうと言うか…うん、笑う門には福来る、ってね」
「それ、確か前にも言ってたよな」
「あ、覚えててくれた?」
「まあな」
笑う門には福来る。
確か、モグヤのところでだっけ?
前にもクラウドに言ったよね。
覚えててくれてなんだか物凄く嬉しい!
でもきっとね、上を向く事は、良い空気を呼び込むから。
こうしてあたしたちは困っている人達にも声を掛けつつ、ウォール・マーケットを目指した。
To be continued
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