崩壊した街



エアリスは以前、あたしとクラウドに教えてくれた。
公園の遊具の中に七番街スラムに続く隠し通路があると言うことを。

それを思い出したあたしたちは七番街に戻るために公園を訪れた。

公園にはその通路を使い六番街まで脱出してきている人が大勢いた。

無事に逃げ切る事が出来た人がたくさんいる。
その事実は今のあたしたちにとって間違いなく希望だった。

そうしてあたしたちは通路を通って脱出とは逆に七番街スラムへと向かった。

穴を抜けた先にあった光景は…まだあちこちから火の手が上がる、瓦礫しかない…暗い世界だった。






「もう少しだよ、頑張って!」

「う、動かねえ…!」





穴を抜けてすぐの所には、瓦礫に体を挟まれて動けなくなっている女の人がいた。
その人の傍には瓦礫をどかそうと踏ん張る男の人と、女の人を必死に励ますマーレさんの姿があった。





「手伝うぜ」





この人数なら動かせるだろう。
そう思ったあたしたちは急いでその救助を手伝いに向かった。





「マーレさん」

「マーレさん、無事だったんですね」

「アンタたち…」





その際、ティファとあたしは軽くマーレさんに会釈した。
あたしたちの顔を見たマーレさんはその顔を柔らかく綻ばせてくれた。

ともかく、今は救助が先。

クラウドとバレットが加勢し、男の人たちが瓦礫を持ち上げる。
それで出来た隙間からあたしとティファが女の人の体を引っ張り出した。





「本当に、よく無事だったよ」





救出して一段落してから、改めてマーレさんは再会を喜んでくれた。





「これから、どうするんだい?」

「さあな。俺たちに出来ることを見つけるさ」

「店へはもう行ったのかい?」

「いや…」

「確認してきたらどうだい」





バレットが答えると、マーレさんにも店を見に行ったらどうかと勧められた。

まあ…まずはやっぱり、お店を見に行くのが一番なのかもしれない。

バレットと、そして当事者であるティファを見ればティファもこくんと頷いた。
あたしやクラウドにも、特に異存はない。





「じゃあ、まず店だ。それから考えようぜ」





道なんてないようなもの。
だから気を付けていくようにとマーレさんに見送られ、あたしたちは一先ずセブンスヘブンの場所を目指して歩くことにした。





「…本当に、道なんてないなあ…」





歩きながら、あたしはぽつりと小さく呟いた。

そこは、確かに七番街スラムだ。
うっすらと見覚えある景色もあるけれど、それが余計に痛々しさを感じる気がする。

目の前にある瓦礫の光景は、記憶の中とあまりにも変わり果てていたから。





「あ…」





そして、なんとか瓦礫を掻き分けて進んで…あたしたちはやっとセブンスヘブンのあった場所にたどり着く事が出来た。

けど、もうそこに建物なんか無い。
ここがセブンスヘブンだったとそう教えてくれるのは、折れて頭文字だけを残した看板だけだった。

お店を切り盛りしていたティファには、とても酷な光景だろう。
ティファは呆然と、お店の看板を見上げていた。

その時、ガタッ…と瓦礫が崩れる音がした。





「あっ、ティファ!」

「離れろ!」

「きゃっ…!」





それに気が付いたあたしは名前を叫び、クラウドはティファの体を引いた。
今ティファがいた場所にガラガラと落ちてきた瓦礫。

もう、何もかもボロボロ…。

瓦礫に気づくことが出来なかったティファの心も、きっと…。





「ちきしょう!」





バレットは瓦礫をどかし始めた。
その間、あたしは以前はお店の前から続いていたはずの道の先を見た。

お店から出て、当たり前に…何度も何度も通ったはずの道。

方向的には、この先に天望荘がある。
あたしと、ティファと、それにクラウドの…家。

でももうきっと…それを見に行っても同じなのだろうなと思った。





「ナマエ…?」

「ん?ううん、何でも無いよ」





その時クラウドが声を掛けてくれた。
それを最後にあたしは天望荘の方を見るのをやめ、ふるっと首を横に振った。






「ティファ…大丈夫?」

「…ナマエ」





そして瓦礫に気が付かない程にショックを受けているティファの傍に寄り、その肩に触れた。
ティファもあたしの手に触れてくれて、少し…痛みを分け合った。

するとその時、どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。





「ウェッジの猫だ」





声の姿を見つけたクラウドがそう言った。

覗きこめば、そこにいたのは一匹の三毛猫。
猫はニャアと鳴いて、まるであたしたちを呼ぶようにどこかへと歩きはじめる。

もしかして、近くにウェッジがいる?

その可能性を考えたあたしたちは猫を追いかけて見ることにした。





「え、なに…この穴」





追いかけた先はウェッジの家があった場所だった。
でも当然今はそれも無くなっていて、代わりにあったのは何やら地面にぽっかりと空いた大きな穴。

覗きこめば、奥は結構深そうと言うか、広そうと言うか…。

まさかこの奥にウェッジがいるってこと…?

穴の中は明かりが点いていて、簡易的な階段なども設置されている。
つまりは自然に出来たものじゃなくて、人工的な地下施設だということ。

とりあえず猫の事もあるし、中にウェッジがいるか確かめよう。
そう決めたあたしたちは穴の中に飛び込んでみることにした。





「ウェッジ…?」

「ウェッジ!」





ティファとバレットが呼ぶ。
入って少し進むと、予想は当たり倒れているウェッジの姿を見つけた。

早く助けないととあたしたちは急いでウェッジに駆け寄ろうとする。

だけどその時突然、立っていられなくなるほどの大きな揺れに見舞われた。





「くそ!こんな時に!」





苛立つバレットの声。
いやでもちょっと待って、これ結構まずい気がする!

あたしたちが今いる足場は金網になっていた。
そしてその足場は揺れに耐えきれず、カンッ…とネジが飛んだような音が鳴り…。





「ひっ…」





ガシャンと音を立て、底が抜ける。
地に足が付く感覚が消えて、ひゅ…ッと落ちていく身体。

ちょっともう…本当、落ちるの何回目だってば。

頭にそんな文句が浮かぶ。
だってなんだか最近、何度もこの感覚味わってる気がする。

でも、いつも同じ。こうなってしまえば出来ることはない。
突然の浮遊感に心臓がきゅっと止まりそうになって、襲い来る恐怖に咄嗟に目を閉じる。

そして暗闇を落ちる中、意識を手放した。

だけど、今回だけは足場が抜けたその瞬間、がしっと何かに腕を掴まれるような感覚があった。
でもそれがなんだったのか、確かめる余裕も無かったけど。





「う、ううん…」





手放した意識がぼんやりと少しずつ頭に戻ってくる感覚がした。

ああ…うん、あたしたち揺れで落っこちて…。
でもなんか毎回悪運強い?どうも毎回とりあえず打ちどころは悪くないらしい。いや痛いけど。

…あれ。

そうして意識を手繰り寄せていると、なんだか今身体があたたかいものに触れていることに気が付いた。

指先にはリブ生地の感触が触れる。
いや、頬にも?そうして触れている部分は全部あたたかい。

そっと瞼を開けば、暗い色の布生地がぼんやり見えた。
これ、クラウドの服と似てるなぁ…。





「…ナマエ、大丈夫か…?」





声がした。
この声ならあたしは間違えない。クラウドの声だ。

…って。

そう気が付いた時、あたしはガバッと体を起こした。





「く、クラウド!?!?」





起き上がって、思わずズザッと距離を取った。

な、な、な…はっ!?

あたしは仰向けになったクラウドの胸に頭を預ける状態で彼の上に倒れ込んでいたらしい。

あたしが起きたのに合わせてクラウドも体を起こす。
それはつまりあたしが邪魔をして起き上がれなかったということだ。

勢いよく離れたあたしを見て、クラウドはなんだか眉間にしわを寄せていた。

えっ!そ、その表情は一体…!
はっ!!重かった…!?いやそりゃそうだよね…!?
いやでもそれはショックだ…!!

って、もうなんか、もう!

ちょっ…待ってほんと!!
色々キャパオーバーすぎるんですが…!!?





「う、あ…ちょ、クラウド、ご、ごめん!大丈夫!?」

「…ああ、平気だ。あんたこそ、何ともないか?」

「う、うん、あたしは何も」

「そうか、ならいい」





あたしはとりあえず謝った。
いやどう考えてもそれは最優先事項だ。

するとクラウドは何ともないと答えてこちらに心配をしてくれた。
何も無いと答えれば、クラウドは安心したように息をつく。

ていうかこの状況…どう考えてもクラウドが庇ってくれた気がするんだけど…。

そういえば…落ちる瞬間、誰かに腕を掴まれた。
そっと掴まれた場所に触れてみれば、その感触はまだ残っている気がする。

…あれ、クラウドだったのかな…。





「…クラウド、もしかして…助けてくれた?」





立ち上がりながら尋ねてみる。
するとクラウドは少しバツの悪そうな顔をした。





「…助けたって程の事じゃない。突然だったから庇い切れなかった。頭を打たないようにしたくらいだ」

「え、いやそれ十分庇ってくれてるのでは…」





クラウドの100点満点がわからない…。
頭を打たないように、しかも自分が下敷きになってくれていた。

…なんで、あたしのこと助けてくれたんだろう。
まあ、近くにいてあたしくらいしか手が届かなかった…のかな。

ああ、列車墓場では3人いっぺんに助けてくれたりもしたし、庇い切れなかったってそう言う意味もあるのかも。
なんにせよ、あたしは助けてもらった身だし、感謝の気持ちでいっぱいだ。





「ありがとう、クラウド」

「…いや」





それならちゃんとお礼を言うべし。
そう伝えれば、クラウドはゆっくり首を横に振った。

…はあ。なんだかまたひとつ、気持ちが募った気がした。





「…で、クラウド…ここ、どこかな。ティファとバレットもいないし…。どこまで落ちちゃったんだろう」

「わからない。とりあえず上に繋がる道を探すしかないな」

「うん…。ウェッジも、大丈夫かな」

「ウェッジが倒れていた場所は足場がしっかりして見えた。だが、意識が無い状態で放っておくのは危険だな」

「うん。じゃあ、とりあえず歩いてみようか」

「ああ」





人工的な施設。ここがどんな場所なのか、階があるのならどこまで落ちてしまったのか、今の状況では何もわからない。
だからクラウドが一緒にいてくれて、心強い事この上なかった。

でも、もしティファとかひとりっきりだったら大変だ。
向こうも向こうでバレットと合流出来てたりしたらいいんだけど。

とにかくふたりを探して急いでウェッジのところに戻らなきゃ!

こうしてあたしとクラウドはふたりで未知の地下施設を歩き始めたのだった。



To be continued


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