思い出の崩れる音



ひとつずつ、ひとつずつ、大切なものが欠けていくような嫌な感覚がする。
もうこれ以上、辛いことが起きないように…ただ、ひたすらにそれを願って階段を上がり続ける。

そしてあたし達はついに、柱の最上階へと辿り着いた。





「うぉおおおお!!クソッタレがぁ!!お前らの思い通りになんかさせるかよ!」





そこにはひとり戦うバレットの姿があった。
ティファがここに来たことを伝えるように叫ぶ。





「バレット!」

「ティファか?」





バレットもこちらの存在に気が付いた。
そして腕の銃を構えながら物陰に隠れる。

最上階には神羅兵の姿はない。
だけど、さっきみたいにヘリからの銃撃が降り注いでいる。

あたしたちはひとまず合流すべくバレットのいる物陰まで一気に走った。





「いつまでもここにゃ居られねえ。準備はいいか?」

「ああ」





その場にいる全員が揃ったところでバレットが確認してくる。
クラウドが答え、あたしとティファも頷いた。

うん、全員異存ない。
ここで戦って、柱を守る!

そう決意が固まった時、盾にしていたタンクに激しい銃撃が浴びせられた。

あ、これやばい…!
そう咄嗟に判断したあたしたちは走ってその場から離れる。

ドンッ!!と間一髪のところでタンクが爆発した。

…ほんと、冷や汗かく。
でも絶対負けられない!此処で引いたら女が廃る!

そう気持ちを鼓舞する。

するとヘリが近づいてきた。
扉が開いてる…。

そこに立っているのは、レノ。





「お仕事だぞ、と!」





叫んだレノはロッドを構えてヘリから飛び降りてきた。

狙う先はクラウド。
クラウドは剣を盾にしレノの攻撃を防いだ。

そして弾き返すとふたりは睨みあう。





「はあっ!!」

「、っと」





互いに走り出しまた武器ぶつかる…そう思った。
でもレノはクラウドが振るった剣を避け、横を過ぎて一直線に走って行った。

向かう先は、中央にある操作パネル…!?

クラウドはすぐに追おうとしたけどヘリの銃撃がそれを許さない。

バレットがヘリに応戦した。
でも空を飛ばれていてはこちらの方が分が悪かった。





「あんたら、喧嘩売る相手を間違えたぞ、と」

「レノ!!待って!!駄目ぇーっ!!!」





レノは操作盤の前に立つと素早くパネルを打ちこみ出す。
あたしはそんなレノに向かい駆けだした。

多分その操作盤には何かプログラムがあるんだ。
きっと、この柱を壊せる爆破プログラム…。

それを起動されたら終わってしまう。

それだけはなんとしても止めないと。

だから走った。




『緊急コードの入力を確認。機動ボタンを押してください』




モニターに表示されたWARNINGの文字。
そして繰り返し流れ出す不吉なアナウンス。





「はい、おしまい」

「レノ!!」





あたしは叫び、レノを止めようとした。

とにかくレノをパネルから離して、解除しないと!

そう思ってレノの背中に手を伸ばす。
でもその時、レノがくるっとこちらに振り返り腕を掴まれた。





「おう、ナマエ。相変わらず威勢がいいぞ、と!」

「わっ!ちょっ!!?」





そのままグイッと腕を引かれ、引き寄せられる。
振り払おうと必死に力を込めるけど、やっぱり男の人の力は強い。

こ、こいつ…!!

指の長い手に、あっという間に手を束ねられてしまう。





「ナマエを離せッ!!」

「おっと!邪魔!するなよっ、と!!」

「クラウド!!」





その時、銃撃を抜けたクラウドもこちらに走って来てくれた。
でもレノは器用にあたしの手を掴んだままクラウドにロッドを振るう。
クラウドは咄嗟に剣でガードしたけど弾き返されてしまった。

でも、その隙をつく!

クラウドが来てくれたから拘束が甘くなった。
だからあたしはその瞬間にサッと剣に手を伸ばそうとした。

でもレノはそれを察し、あたしの体を突き飛ばした。





「おイタは駄目だぞ、と!」

「うわっ!?」

「ナマエっ!!!」





男に加減なく突き飛ばされれば、衝撃は強い。
足がもつれてバランスが取れない。

あっ…やば…!これ体打ち付ける…!!

腕とかすりむくかな…。
でも頭は守らなきゃとなんとか受け身を取ろうとする。

だけど衝撃は来なかった。
代わりにあったのは、ポスっという優しい感触。





「、平気か?」

「…え…クラウド…っ」





そっと目を開ければ目の前にはクラウドがいた。

優しい声と、ぬくもり。
どうやらクラウドが抱き留めてくれたらしい。






「ご、ごめっ…ありがと…!」

「無事なら良い」





あたしは慌ててクラウドから離れた。
いやだって何お前抱き着いちゃってんのって話だし!!

それに今、そんな状況じゃない!

ちょうど銃撃を抜けてバレットとティファも傍に来てくれた。
全員で並びレノに向き合う。





「タークス舐めんなよ」





レノは不敵に笑う。
その瞬間、全員で武器を構えて一斉に走り出した。

最初はヘリからの銃を避けつつレノを相手にする。
でもその間にバレットと魔法でなんとかヘリを落とし、ルードを屋上に引きずり出した。

レノもルードも一度戦ってるけど、やっぱりちょっとタークスとの戦いは厄介だった。

しかも今度はふたり同時。
相棒、なんて呼び合ってるだけあってふたりの息はかなり噛み合っていた。

だけど、こっちだって皆強いんだから!
バレットがいてティファがいて、それにクラウドがいて、負けてなんかたまるか!

あたしたちは一気に攻め、タークスふたりにどうにか膝をつかせた。





『緊急コードの入力を確認。機動ボタンを押してください』





変わらず繰り返すアナウンス。

ティファは急いで操作盤へと走り、パネルのあちこちを見渡した。
でも、何をどう押していいのかわからないようでその場で困惑してしまっていた。





「解除方法は?」

「…言うかよ」





クラウドは横たわるレノの喉元に剣先を突き付けて脅したけど、レノが口を割る事は無い。
多分、流石はタークス…なんだろうな。そしてその場で意識を手放してしまう。

その瞬間、バレットが見ていたルードが隙をついて操作盤に向かって走り出した。

バレットが銃を放つけど、上手くかわして走っていく。

まずい…!
気付いたあたしやクラウドもルードを追おうとした。

でもその時、その行く手を阻むようにまたあの幽霊のようなものがブワッと現れた。





「嘘…!なんで!」





タークスと戦ってる間は一度だって出てこなかったのに!

なんでよりによってこのタイミングで!

しかもビッグスやジェシーの傍にいた時は2〜3匹だったのに、今回はまた朝の七番街スラムを襲った時みたいなとんでもない数が渦巻いていた。





「どけ!」

「またウジャウジャかよ!」

「なんで!消えてよ!」





クラウド、バレット、あたしは何とかどかすように攻撃をする。
でも、量が量で全然どうにもならない。





「きゃあ!」





そんな時、遮られた視界の奥でティファの悲鳴が聞こえた。

嘘!ティファ!?
ルードに何かされた?!





「ティファ…!」





そう焦って剣を振るった時、さっきまでの状況が嘘みたいに奴らはふっ…と一気にその場から消えた。





「えっ…!」

「なっ…んだぁ?」





攻撃を仕掛けたあたしやバレットは宙を仰いだ感覚に困惑する。
壁が無くなったことでクラウドは一気にティファの元へと走っていた。





「ティファ!!!」





あたしもティファの名前を叫び、クラウドを追うように走り出した。

ティファは操作盤の傍で横たわっていた。

ルードは操作盤の前にいる。
その手はまっすぐ、迷うことなくスイッチへと伸ばされて…。

っ…もう、間に合わない…!

クラウドもあたしも間に合わず、ルードがスイッチを押す。
するとモニターの表示は切り替わった。

WARNINGからDANGERへ。
繰り返されていたアナウンスも…。





『プレート解放システム機動完了。プレート解放システム機動完了。最終シークエンスに移行します。第一区画の分離を開始。すみやかに退避してください』

「う、そ…」





流れてくるアナウンスは恐ろしく不吉なものに変わった。

退避…って。
この場にいたら、どう…なるの…。

思わず体が動かなくなる。





「てめぇ、何しやがったぁ!!」





あたしが立ち尽くす中、バレットは叫びクラウドは再びルードとティファの元に走り出す。
ルードはクラウドの攻撃をすり抜け、倒れているレノの元に向かった。

クラウドもティファを放っては置けない。
ルードを追う事を断念し、ティファの元に駆け寄る。

ルードはレノを担ぎ上げると迎えに来ていたヘリに乗り込んでいってしまう。

多分もう、タークスを追いかけても仕方がないのだろう…。
あたしもクラウドとティファの元へと走った。





「危険…」





モニターの前に集合したあたしたちはその画面を見た。

真っ赤な画面…。
それだけでももうただ事じゃないのがわかる。

どうしようと思ったその時、画面がパッと切り替わりひとりの男性が映った。





『システムの解除はもはや不可能だ』





髪の長い、タークスの様なスーツを身にまとった男。
男は静かな声でそう語る。





「お願い!止めて!」





クラウドに起こされたティファはそう懇願する。
すると、その声に答えたのはその男では無く…。





『ティファ!マリンは大丈夫だから!』





画面の中で、そう言いながら男の前に飛び出してきたのはピンクの似合うよく知る彼女…。





「エアリス?」

「なっ、なんでエアリス?!」

「マリン?マリンだと!?あんたマリンを…!」

「そこはどこだ!」





エアリスの姿と言葉に全員が動揺した。

バレットはマリンと言う名前に。
あたしとティファとクラウドは、エアリスがタークスらしき男といる事実に。





『私は…っ、』





エアリスはあたしたちに何かを伝えようとした。
でも男はそれを阻止するように神羅兵に指示を出し、エアリスは画面外へと連れて行かれてしまう。





『君たちの活動が巡り巡って我々に古代種をもたらしたと言うわけだ。その点に関しては礼を言おう。だが、申し訳ないが居場所は…』





男はそう言って人差し指を唇に立てる。

居場所は教えない…。
でもきっと、神羅に関連するどこか…。





「古代種…?」

「クラウド…?」





男の話を聞いたクラウドはある単語に反応する。
その横顔を見れば、クラウドは何か心当たりがありそうな…そんな顔で眉をひそめていた。





『逃げて!早く逃げて!!』





そして聞こえたエアリスの声。





『アバランチに逃げ場などあるかな?』





男はあたしたちを嘲るように薄い笑みを浮かべる。
それを最後に映像は途切れてしまった。





「エアリス!」

「エアリスっ…!」





クラウドとあたしは彼女の名を呼んだ。
でも、画面がDANGERという赤い文字に戻ってしまった今、それはきっともう届かない。

それに今あたしたちに振りかかる目の前の現実が、これ以上この場でエアリスを心配することを許さなかった。





『最終警告、最終警告、このエリアはまもなく崩壊します』





無情なアナウンス。
併せてどんどん崩れ、落ちてくる瓦礫。

本当に柱が壊れる…。
ここにいたら、確実に死ぬ…。

ガダンッと物凄い音を立てて落ちてきた瓦礫に、ひやりとした現実を感じた。





「ここにいたらペシャンコだ。とにかく脱出方法を探すぞ!」





バレットの言葉にあたしたちは動き出した。

そう、このままじゃまずい。
とにかく、とにかくこの場から脱出することを考えないと…!

今しなきゃいけない正しい順序、最優先すべきことは間違いなくそれだ。

今はクラウドとティファとバレットと、とにかくこの場にいる全員を。
それが今出来うる精一杯の最大限。

だからあたしは何か使えそうなものがないかを探し始めた。





「チクショウ…チクショウ…!」





でも、そう指示を出してくれながらも…悔しくて苦しそうな…そんなバレットの声が耳に届いていた。

ううん…あたしだって、ちょっと気を抜いたらブワッと心が黒く塗りつぶされそうな感覚がしてた。
嫌だ、嫌だって…、思いっきり喚きたくなるような…そんな衝動に駆られる。

そしてその時、欄干の傍で下を見て蹲るティファの姿が目に入った。

七番街が…潰れてしまう。
どうしようもない現実に、膝をつく背中…。

ティファ…。

そんなティファにクラウドが駆け寄った。
ティファの様子を見たクラウドも、どう言葉を掛けていいのかわからなそうに歯を食いしばっていた。





「おい!こっちだ!このワイヤーで脱出だ!」





その時、脱出の手立てを見つけてくれたらしいバレットの声がした。

ワイヤー…。
安全な方法とは言えないけど、多分それ以外に道はない。

だからあたしとクラウドは頷いた。
でもティファは…呆然と下を見て座り込んだまま。





「行こう」





クラウドはそんなティファの腕を引いて支えながら立たせた。
そして肩を抱き、走り出す。





「ナマエ!」

「うん!」





クラウドはあたしにも声を掛けてくれた。

それは多分、あんたは平気だな?走れ、みたいな感じ。
だからあたしは頷き、バレットの元に走り出した。





「急げ急げ!行くぞ!」





障害物を壊し、降りやすくしてくれていたバレット。

あたしたちはワイヤーに飛び込むようにしがみ付いた。
その勢いで一気にワイヤーは滑走し始める。





「…っ」





あたしはぎゅっと目を閉じた。

それは、怖くなったから。

崩れていく柱。落ちてくるプレートの瓦礫。
黒い煙と、爆発の真っ赤な景色。

360度、見渡す限りのその光景が…あまりに恐ろしくて。

爆風と爆音。
熱を肌に感じて…。

あたしは、思い出が壊れていく音を聞いていた。



To be continued


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