ひとつずつ欠けていく音
怪我をし気を失ったビッグスの傍を離れ、あたしとクラウドは再び足を動かし始めた。
早く上に行って、七番街を守る。
そしたらまた、きっと皆で笑える。
大変だったねって、こんなの笑い話に出来る。
あたしはきっと、そんなことを考えながら足を動かしていた。
「くっ…」
「まぶし…っ」
階段を上っている時、突然、パッと眩しい白い光が目を差した。
それは柱の周りを飛んでいる神羅のヘリからの光。
今、一機のヘリがあたしたちの目の前を飛んでいた。
『アー、アー、そこのアバランチ!あんたらが支柱をブッ壊そうとしよーが、ター…じゃなかった、神羅か。は、ビビったりしねえ。とっとと支柱から出て行けよ、と!』
向こうにもあたしたちが見えているらしい。
ヘリのスピーカーからそんなことを言われた。
いやあたしアバランチじゃないし!!
…っていう突っ込みはしても仕方ないからしないけど。
でも、その声を聞いてちょっと引っ掛かることがあった。
今、こいつアバランチが柱をブッ壊そうとしているって言った?
それは逆だろう。壊そうとしているのは神羅なのに。
『こんな感じでいっかぁ?』
そして、このどこかひょうひょうとした話し方。
語尾にも特徴があった。
あたしたちは最近、この話し方をどこかで聞いた。
頭に浮かぶ、真っ赤な髪と黒スーツ。
…レノ?
でも、どうやらそんな事考えてる場合じゃなさそうだ。
ヘリに備え付けられている銃口があたしたちに向く。
「走れッ!」
「っ!」
クラウドが叫ぶ。
嫌な予感を察していたあたしもすぐに反応する。
ヘリから放たれるマシンガンに、あたしちたちは一気に階段を駆け上がった。
「くっ、」
「わっ…と!」
「大丈夫か?」
「うん!」
ひとつ上の階には太めの鉄パイプが何十本も立てかけられていた。
あたしとクラウドはその影に逃げ込み、鉄パイプを盾にして何とか襲い来る銃撃を耐えた。
「マズイな…」
「どうしよう…」
ヘリは休むことなくパイプを撃ち続けている。
このままじゃここから動けない…。
『諦めて投降しろ。極悪非道のアバランチ』
スピーカーからまた声がした。
でも今度はレノじゃない。
この声は…ルード?
そしてまた撃ってくる。
あまりに連射してくるから、次第に並んでいたパイプの一部が崩れてごっそりと下に落ちていってしまった。
もう、あまり長い事は持たない…。
「限界か…」
「…どうする?」
「…心配するな。あんたは、絶対俺が守る」
「クラウド…」
銃声の中、目が合うとクラウドはそう言ってくれた。
さっきも、言ってくれた言葉。
それはきっとビッグスに頼まれたからだって、そう思った。
でもクラウドは、そんなんじゃないって言った。
それってどういうことだろう。
どうして、そんな風に言ってくれるんだろう。
ねえ、でもね、それはあたしだって同じなんだよ。
クラウドのこと守りたいって、あたしだって思ってる。
『そろそろ決着つけようぜ〜?』
またレノの声がした。
本当、ひょうひょうと嫌な感じ…。
でもこのままじゃ本当にやられてしまう。
どうする?
考えろ、考えろ。
そう思った時、下の階段からタッタッタッと誰かが駆け上がってくる音がした。
「っ!」
「え…?!」
あたしとクラウドは目を見開く。
音の先を見れば、そこには階段をひとりで駆けあがってくるティファの姿があった。
な、なんでティファがここに!?
ていうか今このまま走ってきたらまずい!
「ティ…っ!」
焦ったその時、何故か突然ヘリの機体がぐらりと揺れた。
おかげで銃の軌道も明後日の方に向く。
え!?
その隙をクラウドは見逃さない。
クラウドはすぐさまティファに手を伸ばした。
ずれた銃の軌道はティファの上っている階段に当たり、足場がぐしゃりと崩れていていく。
「クラウド!!」
「くっ…」
クラウドとティファの手は届いた。
握った手をクラウドはぐっと引き、ティファの体を引き寄せる。
うわ、お見事…。
そして3人で階段の影に隠れた。
「ティファ!?」
「ティファ、どーして…!?」
「おまたせ」
突然の登場にあたしたちが驚けばティファはニコッと笑って見せた。
「ひとりでここまで来たの?無事でよかったけど…」
「無茶だ」
「お互い様!ナマエたちも無事でよかった。このまま走ろう!」
多分ティファもじっとはしていられなかったんだろう。
きっと、心が焦ってたまらなかったのだと。
正直その気持ちは、痛いほどわかる…。
無理言ってクラウドに着いてきたあたしだって同じだから。
でもひとまず、これでヘリの死角に入る事が出来た。
と言ってもあんまりのんびりはしてられないけど。
もうここまで来たら一気に突き進むのみ。
あたしたちはティファに下の状況を聞きながら走り出した。
「エアリスは?」
「セブンスヘブン。マリンを頼んだ」
「マリン、今ひとりだよね。心細かっただろうな…」
「ウェッジ」
「エアリスと一緒にいるはず」
「そうか」
ふたりの治療のおかげか、ウェッジもだいぶ動ける様になったみたいだ。
それならきっと、ウェッジは下の人達の避難を促しているはず。
皆を助けたいって、その気持ちは全員一緒だ。
だからそれぞれが精一杯に。
あたしたちはとにかく上へ走り続けた。
しばらく進むと、ひとつ上の階から何か大きな爆発音が聞こえた。
「え…!」
「……。」
「何?」
なんだか、今までにない音。
違和感に3人で顔を合わせる。
でもその時、あたしはちょっとした予感みたいなものを感じた。
爆弾…。
ウェッジとビッグスがいたのなら、きっと…もうひとり絶対いるはず。
「もしかしたら…」
「ナマエ?」
「…急がなきゃ。クラウド、ティファ!早く行こう!」
胸の奥がザワザワする。
あたしはそのザワザワと押さえつける様にふたりを急かし、上の階に向かった。
そして階段を上がりきった時、その予感は…的中した。
「ジェシーッ!!!」
あたしは彼女の名を叫んだ。
やっぱり、やっぱりジェシー!!
その階には思った通り、ジェシーの姿があった。
だけど彼女は倒れていて、その身体の上には瓦礫が覆いかぶさっている。
あたしは慌てて駆け寄った。
ほぼ同時に、ティファも駆け出す。
すると、その道を塞ぐようにまたあの幽霊みたいなのが現れた。
でも、そんなのになりふり構ってられない。
あたしとティファはそいつらを無理矢理掻き分け、ジェシーの傍に膝をついた。
「ジェシー!しっかりして!ジェシー!」
あたしは目を閉じている彼女に呼びかけながら、瓦礫をどかそうとした。
重さに手間取っていると、クラウドが急いで手伝ってくれた。
声に気が付いたのか、ジェシーはゆっくり瞼を開く。
その顔は、小さな笑みを浮かべていた。
「やだ…ティファってば…変な顔しちゃって…」
視線の先にいたのはティファ。
そう言われたティファは震えて俯き、まるで必死に涙を耐える様に首を横に振った。
「ナマエも…そんな、情けない声…してさ…」
「ジェシー…」
あたしがジェシーの顔を覗けば、ジェシーの視線もこちらを向く。
目が合うと「あんたも酷い顔…」なんて、弱々しい声で笑われた。
瓦礫を全てどかし終わったクラウドが肩を抱いてジェシーの体を起こす。
ジェシーの倒れていた場所の近くには爆破の影響かで炎が上がっていた。
クラウドは足を怪我した時のようにジェシーの体を抱きかかえ、炎から離すように移動した。
「最期の話し相手…クラウドか…うん…悪く、ないぞ…」
「最期と決まったわけじゃない」
「ううん…いいんだ…。私の爆弾…大勢…殺したからね…償わなくちゃ…」
弱気な声…。
クラウドが励ましてもジェシーは悟ったみたいにそんな事を言う。
クラウドは壁際にジェシーの体を下ろした。
あたしとティファも傍に膝をついた。
「また、助けられちゃった…」
「何度でも助けるさ」
「…ふふ…しみるー…」
当たり前のように助けると言ってくれるクラウド。
その言葉は優しくて、心強くて、あたたかくて、格好良くて。
胸に、しみる。
ジェシーは微笑む。
じんわりとする…そう言う意味、凄くわかった。
「ね…、本当はね…皆でまた…ママの料理、食べられるって…どっかで、信じてたんだよね…」
「あんたのピザも…」
「ふふふ…そうだね…」
あの夜…上の七番街に行った日に、話してたこと…。
そんな何気ない会話を思いだし、ジェシーは小さく笑う。
するとその視線があたしの方に向いた。
ジェシーは力なくそっと手を上げ、あたしの頬に触れる。
その指先も…力が、弱かった…。
「ナマエ…女子会…やろって…言ってたね…」
「っうん…言ったよ!やろうよ…!」
あたしは頬にあるジェシーの手に自分の手を重ねた。
そうだよ。あの日、あたしも約束したよ。
ピザ女子会やろうって。
するとジェシーはまた笑った。
「…ナマエ…ありがと、ね…。あんた…結構、人の気持ち…汲むの上手いから…いつも、助けられてたよ…。爆弾の被害…やっぱ結構、引っ掛かってたから…。この間も…それ、汲んで…くれてた部分、あるでしょ…?」
「……。」
七六分室に乗り込んだあの時、大きな被害を出してほしくないからって…手伝う事を決めた。
あたし自身が、被害を小さくしたいと思ったから。
…でも…ジェシーだって被害を気にするだろう…。
それは、確かに思ったことだった。
「…ほら、ティファが…泣いてる…」
ジェシーはティファを見た。
それを聞いたクラウドとあたしの視線も自然とティファに向く。
ティファの瞳は涙でぬれていた。
ぽたり…地面にしずくが落ちる。
ティファは顔を背けた。
すると、頬からするっ…とジェシーの手が抜けた。
ハッとするとジェシーはポンとあたしの頭を一撫でし、そしてそのままグーを作り、クラウドの拳にトン…と当てた。
「そろそろ、行ってくれない…?見られてると、恥ずかしくて…」
ジェシーはそう言って、ふっ…と意識を手放した。
くたっ…と首や、手の力が抜け落ちる。
「ジェシー…」
「っ…ジェシー…」
その光景に、ティファはまた大粒の涙を流してぎゅうっと両拳を握りしめていた。
あたしも…。
あたしも、抑えられなくなって、ぽろ…と頬に伝う水を感じた。
「ナマエ…ティファ…」
気付いたクラウドが声をかけてくれる。
でも、止まらない。
あたしとティファは瞼を覆うように手を当てた。
…どうしてだろう…。
変だな…。
あたしだって、思ってた…。
皆が作戦から帰ってきたら…。
七番街に、帰ったら…。
またきっと、当たり前に笑ったりするんだろうって。
でも、そんなのは幻だったみたいに…今目の前にある現実は、冷えて、冷えて…真っ暗だった。
To be continued
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