プレート支柱攻防戦



響く銃声。
柱を囲うように飛ぶいくつもの神羅のヘリ。

柱が壊されるなんて、想像もしたことなかった。

でもそれは今、現実として目の前にある。





「落とす気なんだ…本気で。絶対、ダメ」

「うん、そんなの、絶対させない!」





ティファと一緒に駆け出した。
クラウドとエアリスもすぐに追いかけて来てくれる。

とにかく今は、一刻も早く柱まで!

全速力で走り抜ける。

でも、そうしてやっと七番街スラムの駅まで辿りつけた時…。
あたしたちの前に邪魔者が立ちふさがった。





「お願い!行かせて!」





エアリスが邪魔者に叫んだ。

目の前に現れたモノ。
それは伍番魔晄炉の作戦の朝や、エアリスと会った教会で見たあの幽霊みたいな奴だった。

また、こんな時に…!

よりによって、どうしてこんな時に出て来るの。
奴らはまた、あたしたちの行く手を阻むように道を塞ぐ。





「クラウド、ナマエ、ティファ!この壁、絶対に越えよう!」





エアリスが気丈に、声をかけてくれた。

うん、絶対越える!
全員、気持ちは同じ。

いくら邪魔されたって、突破以外に選択肢なんて無い!





「どっけー!!!」





あたしは剣を構え、思いっきり振るった。

でも、やっぱりこいつらは倒しても倒してもいくらでも湧いてきた。

作戦の朝に戦った時と同じ。
キリが無いのだ。

あの朝は、どうやって終わった?
教会でも、どうやって振り払った?

そう思い出した時、突然、奴らはふっと消えた。





「えっ…」





そうだ。いつだってこいつらは、突然に消える。
しつこく邪魔をしてくるのに、ある瞬間突然にふっと迫ってこなくなる。

まるでもう十分、それで役目を果たしたみたいに。





「……。」





風が通り抜けるように消えたそいつら。
あたしは去っていくその姿をじっと捉えていた。

でももう、それなら深追いしない。

去ってくれたならそれでいい。
今優先すべきなのは七番街の柱。

あたしたちは再び走り出した。
そしてやっと柱前広場まで辿りつく事が出来た。





「スラムの人達…まだたくさんいるね…」

「……うん」





ティファに声を掛け、ふたりで辺りを見る。

広場にはスラムの人たちの姿が沢山あった。
皆不安そうに柱を見上げている。

この状況、皆にはどう伝わってるんだろう。

まだ柱以外は静かなものだけど、万が一に備えて、きっと非難した方がいい。

…本当は万が一なんて、考えるのも嫌だけど。

そんな時、柱の上からひとりの男の大声がした。





「ぬああああああ!!!!!!」





聞きおぼえるのある声。
見上げればそこには階段のところで激しくギミックアームを振り回すバレットの姿があった。





「バレットだ!」





見つけた姿にティファが叫ぶ。
バレットは神羅のヘリを落とそうと応戦していた。

良かった、ひとまずは無事でいてくれた。
状況的には安心していられないけど、姿を確認出来たのは大きい。

だけど直後、バレットがいる階のひとつ下でドンッと爆発が起きた。





「うわあああああっ!!!!」





聞こえる悲鳴。
爆風に飛ばされて、人がひとり落ちてくる。

その声と姿に、あたし、ティファ、クラウドはハッとした。





「「「ウェッジ!!!」」」





爆風で投げ出されたのはウェッジだった。

ウェッジは持っていたワイヤーを使い、なんとか地面に落ちないように奮闘していた。
だけどまた爆風に襲われワイヤーを放してしまい、地面に叩きつけられた。





「ウェッジ!!」

「大丈夫か?」

「ナマエちゃん…クラウドさん…」





あたしたちは慌ててウェッジに駆け寄った。

あたしとクラウドはウェッジの体に触れる。





「大変ッス…神羅が、この柱を壊して…」

「わかってる」

「行かなきゃ…上でバレットたちが…」

「無理だ」

「ウェッジ!動いちゃ駄目!」





ウェッジは傷ついた体で立ち上がり、また柱に向かおうとした。
あたしとクラウドは動こうとするウェッジを止める。





「ウェッジを頼む。俺は上へ行く」





するとクラウドはあたしたちにウェッジを任せ、ひとり上に向かおうと立ち上がった。
そんな姿を見てあたしも立ち上がる。





「待ってクラウド!あたしも行く!」

「危険だ!」

「そんなのわかってるよ!」





一緒に行くと言ったら止められた。
けど、ちょっと強めに言い返した。

そんなの、わかってる。
わかってて言ってる。

あたしはじっとクラウドを強く見る。
クラウドはその視線に折れた。





「…わかった。でも、絶対無茶はするな」

「うん!」





頷いてくれたから、あたしはクラウドに駆け寄った。
するとまたウェッジがクラウドの背に手を伸ばそうとする。





「俺も行くッス…!俺だけ休むなんて…。ビッグスは、俺を庇って…」

「ウェッジ。上はクラウドとナマエに任せよう」

「私、治療する」





ティファとエアリスがウェッジを止め、ふたりでその体を支えてくれた。

…ウェッジ、辛そうな顔。
俺を庇ってって、ビッグスは…。

なんだか嫌な予感がする…。
するとそれを煽る様に、また上の方で爆発の音が聞こえた。





「ビッグス!ジェシー!バレット!」





ウェッジは悲痛に上に叫ぶ。

この上に…皆いるんだ。
バレットだけじゃなくて、ビッグスもジェシーも、アバランチの皆…。





「ウェッジ、いいな。ティファの指示に従え。ナマエ、行くぞ」

「うん!ウェッジ、大丈夫。ティファ、エアリスも気を付けて!」






こうしてあたしとクラウドはプレートの柱に上り始めた。

絶対、助ける!
絶対、落とさせない!

柱…絶対絶対、守らなきゃ!

途中神羅兵も多くいたけれど、クラウドと一緒ならどうという事も無い。

とにかく上へ。
あたしたちはひたすらに階段を上った。





「あっ!クラウド!」

「っ!」





しばらく上ると、兵士の気配の無い階に出た。

でもそこにはまたあの幽霊みたいな奴が2匹、ふよふよと浮かんでいる。
あいつら、一体何してるの?そう目を凝らした時、そいつらの傍に人がひとりぐったりと壁に寄り掛かって座っているのが見えた。

そしてその姿には見覚えがあった。





「ビッグスッ!!!」





あたしはそこにいた彼の名前を叫んで走り出した。

ビッグス…!ビッグス…!!

でもそれをまた邪魔するみたいに目の前に立ちはだかってくる幽霊。
ただ幸いだったのは、そこにいたのは2〜3匹だけでそれ以上は増えなかったこと。





「ッ退いて!!!」





あたしは強く叫んだ。
すると、その声に効果があったのかはわからないけどすぐにそいつらは消えた。





「ビッグスっ…!」

「ビッグス!!」





あたしとクラウドは急いでビッグスに駆け寄った。

傍に膝をつけば、その息遣いが聞こえてくる。
ビッグスはあたしたちに気が付いてゆっくり瞼を開いてくれた。





「…参った。いや…参った」





第一声は、笑い交じりのそんな言葉。
全然笑い事じゃないよ…。





「なあ、ウェッジは?」





まず尋ねてきたのはウェッジの事だった。

さっきウェッジはビッグスが自分を庇ったと言っていた。
だからきっと、ビッグスもウェッジが気になっていたんだろう。

下手したら、ビッグスの方が重傷なのに…。





「下でティファと…あと、あたしたちの友達が看てくれてるよ」

「ああ。治療中だ。安心しろ」

「…よかった。腹が、クッションになった…ゲッホゲホッ!!」

「ビッグス…!」

「喋るな…!」





ウェッジの無事を知ったビッグスはいつもみたいに軽口を叩こうとしたけど、すぐ苦しそうにむせてしまう。
あたしとクラウドはビッグスの肩に触れ、無理するなってまたそっと壁に寄りかからせた。

するとビッグスはポン…とあたしの頭に触れてきた。





「あーあ…ったく…お前も、こんなとこに来ちまってなあ…。あんま無茶すんなって…いつも言ってんだろ…」

「ビッグス…」





優しい手…。

よく、頭を撫でてくれる、いつもの手。
でも今は、いつもより力なくて…。

あたしは、自分の腕っぷしには…ちょっと自信を持ってる。
それこそ七番街スラムでは一番かも…なんて、そう言って貰えるくらいには、周りの人も頼りにしてくれた。

頼られるのが、役に立ってるのが…とても嬉しかった。

でもね、そんな中で…ビッグスはいつも言うんだ。
あんまり無茶するなよって。

本当、心配性。
いつもそうやって笑ってた。

だけど、だけどね。
そう言って心配してくれるの、凄く嬉しくて…。

何か頼まれごとをする時、あんまり無茶させたくはないってよく口を挟んでくれてた。

きっとお兄ちゃんがいたら、ビッグスみたいな感じなのかなって。
ううん…大好きな、大好きなお兄ちゃんだ。





「へへ…クラウド。ナマエ、思ったより役に立ってるだろ?」

「…ああ」

「はは…。本当、お前がナマエについてくれてて安心するわ…。まあ…守って、やってくれや…。こいつ、俺の妹みてえなもんだからな。泣かせたら…承知しねーぞ?」

「…今、泣かせそうなのはあんただ」

「はは…違いねえや」





ビッグスは笑う。
でもそんなふたりの会話を聞いて、あたしは今自分が今にも泣きそうな顔をしている事に気が付いた。

そしてビッグスはあたしの頭から手を離し、今度はクラウドの手を握った。





「…上が、苦戦中だ。頼む、クラウド。行ってやってくれ」

「任せてくれ」





クラウドはそんなビッグスの手をぐっと握り返し、力強く頷いて答えた。





「ありがとな。そう言ってくれると、心強い」





クラウドの言葉にビッグスはまた笑みを零した。

本当に、心強い。あたしもそう思った。

クラウドは強いから。
ううん…。そうじゃなくて、きっと…。

いつも捻くれて答えるけど、でも一生懸命に…力になってくれようとするから。





「ナマエ…お前も、悪いな。結局、お前にも頼っちまう…」

「ううん…。あたしだって、守りたいから。守りたいものがあるから、戦うだけ…」





あたしは首を横に振った。

大切なものを守りたい。
あたしはただ、それだけだ。

すると、ビッグスの手がするりとクラウドの手をすり抜けて…落ちた。





「…ああ、そうだ。リーフハウスって孤児院がある。伍番街の、スラムな。お前ら、時々行って子供たちの…ゲホゲホッ」

「…断る。自分でやれ」

「そうだよ…。そんなの頼まないで、自分で行きなよ…」





力ないまま、ビッグスはまたひとつ頼みごとをしてくる。

でもそこで、思い出した。

伍番街スラムの…リーフハウス。
エアリスに案内されてそこに行った時、あたし、誰かにリーフハウスの事を聞いた気がしたんだ。

…やっぱり、ビッグスだった。

するとビッグスはあたしたちににやりと笑う。





「まあ、ナマエは…面倒見るってより、同レベルで遊ばれそうだもんなあ…」

「む…失礼な」

「クラウド…お前は…子供、苦手なんだろ」

「ああ」

「お前ががまだ、ガキ…な」





すると今度、ビッグスはクラウドの頭に触れた。
そっと、優しく…その金の髪に触れる。





「…じゃあな、クラウド。星の命、任せた。ナマエ、お前は…笑ってる顔が、一番…」





そして手を下ろすと、そう言い残して瞼も落とす。
あたしはきゅっと…負担をかけないようにビッグスにしがみついた。





「ビッグス…、ビッグス…っ!」





手が震える。
涙、落ちそうで…。

何度も名前を呼ぶ。





「…ここで、待ってろ」





クラウドは、ビッグスの肩から手を離しながらそう呟いた。

ビッグスの心臓の音、ちゃんとする。
耳を押し立てた胸から、ちゃんと音、聞こえるよ。





「ナマエ…」

「……うん」





クラウドに呼ばれる。あたしは頷いた。
そしてゆっくりビッグスから離れ、立ち上がった。





「行こう、クラウド」

「ああ…」





立ちあがって、前を見る。
早く上に行って、この状況を何とかしないと…。

早く終わらせて、安心させてあげるんだ。

そう改めて気持ちを固めて、あたしは先を歩き出した。

でもその時、パシッ…とクラウドに腕を掴まれた。





「クラウド…?」

「…ナマエ」





掴まれて、足が止まった。

振り返ると、クラウドはじっとあたしを見ていた。

な、なんだろう…。
そんなに見られると、思わず鼓動が早くなる。

手も、握られているところ…妙に意識してしまう…。

するとクラウドは真っ直ぐにあたしを見たまま…声も、芯がある様な音で…。





「あんたのこと、必ず守る」

「…クラウ、ド…?」





見つめられて、真っ直ぐな言葉。

どきん、と心臓が音を立てた。

…な…に、急に…。

思わぬ言葉。あたしは思わず視線を逸らした。
そしてその気恥ずかしさを隠すように、今クラウドがそう言ってくれた意味を探す。





「あ、ありがと…でも、ビッグスに言われたからって、そんなに気にしてくれなくて大丈夫だよ」





そう。そう言ってくれたのは、今ビッグスが守ってやってくれなんて言ったから。

クラウドは律儀だ。
だから、そうやって言ってくれる。

でも…。





「そんなんじゃない…」

「え…?」





でも、クラウドはそう小さく否定した。
そしてあたしの口からも戸惑うような、小さな声が漏れる。

すると、クラウドの手がする…っと腕から離れた。





「急ぐぞ」

「うん」





そしてそう言われ、あたしも頷いた。

今は、立ち止まってる場合じゃない。
だから、早く。

その気持ちは互いに揺るがない。

あたしたちは再び、足を動かし始めた。



To be continued



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