かくれんぼ



車両倉庫を抜ければいよいよ七番街は近い。
…そのはずだったんだけど、どうも事はそう上手くは運ばないらしい。





「ええ…通れないじゃんコレ…」





目の前の景色にうんざりした。

車両倉庫を抜けた先。
そこにも廃列車がいくつも並び、あたしたちの行く手を塞いでいた。

…どうやらここからもまだ、回り道をしなくてはならなそうだ。





「列車、動かせないかな?」

「調べてみよう」





行く手を塞がれているのなら、いっそ動かせないだろうか。
エアリスの提案にクラウドが列車の操縦室に入り、その機器類を見てくれた。





「読みが当たったな。まだ動きそうだ」





どうやら動くらしい。
それを聞いたあたしたちも操縦室の中に入った。

クラウドがレバーを引けば確かに列車が動き出した。

お、やった!
でも長いこと放置されてた分、その車輪の動きは鈍く…中はガタガタと結構揺れた。





「うぐっ」

「大丈夫か」

「だ、大丈夫…」





揺れにぐわんってなって変な声出したらクラウドが心配してくれた。ら、ラッキー?

いやでもやっぱり可愛くない…いやもうあたしに可愛さを求めてはいけない。
とりあえずどっかぶつけなかったのが不幸中の幸いだ。





「…あれ?」





その時、何かジジ…と変な音が聞こえた。
どうやら列車が動いたはずみで無線機が起動したらしい。

無線機からは、人の声が聞こえてきた。





『プレート解放の緊急コードは……覚えたな?』

『ハイハイ。いつでも落とせるぞ、と』





何か、傍受してる…?

聞こえたふたりの男の声。

片方はちょっと特徴のある話し方をしていた。
これ、知ってる…。レノの声?

それじゃ、神羅…?
プレート解放の、緊急コード…。

…落とす。

声は音割れが酷かった。
だけど、ところどころ聞こえる単語を繋げると…今、何が起きているかが十分に見えてくる。






「ナマエ…ティファ…」





ブツンと切れると、クラウドが声をかけてくれた。
それはきっと、あたしとティファの顔が真っ青になっていたからだろう。





「計画は、本当だったんだ…」

「嘘…、っ、早く戻らなきゃ…」





七番街スラムの街並み。
そこで一緒に過ごしてきた、沢山の知り合い。

その光景が、一気にブワッと脳裏に蘇った。

…全部、消えちゃう…。
大切なもの、無くなっちゃう…。

現実味を帯びた感覚。
余裕が、途端に無くなったような気がした。





「バレットたちが、簡単にやられるはずがない」

「うん。七番街はもうすぐ。行こう」





クラウドとエアリスがそう言って励ましてくれた。

そうだ。今、きっとアバランチの皆が必死に抵抗してくれているはず。
まだ、柱は落ちてない。まだ、七番街はそこにある。

あたしは不安を振り払うように頭を振った。





「…うん、そうだね!ティファ、まだ諦めるのは早いよ!まだ間に合う。絶対阻止する!すればいい!」

「ナマエ…、うん。お願い、間に合って…」





あたしたちは列車を飛び降りた。
飛び降りて、とにかく早くと七番街の方へ走り出す。





「あ!見えてきた!」

「うん!近いよ!急ごう!」





しばらく走ると、ちょっと開けた場所に出た。
そこは列車墓場の端。そこからはもう七番街の柱が見えた。

本当に、目と鼻の先。

だけどその時、もうずっと見かけていなかったゴーストたちが突然、あたしたちの周りに現れた。





「っ、クラウド!」

「エアリス!!」





ゴーストは大きな渦となってあたしたちを襲った。
そしてエアリスに纏わりつく。

エアリスはクラウドに助けを求め、クラウドもエアリスに手を伸ばしたけど、その手が届くことはない。

その光景を見たあたしは、思い出した言葉があった。





「黒い…風…?」





思わず呟く。

それは黒い風だった。
何も見えない、真っ黒な渦。

それはエアリスだけを飲み込むと、その場からヒュ…と消え去ってしまう。





《黒い風に連れて行かれた子はね、ず〜っと列車墓場を彷徨うんだって》





いつかのマリンの言葉。

その場から姿を消してしまったエアリス。
黒い風に…連れて行かれた?





「っ、…エアリス!エアリス!エアリスーっ!!!」





あたしはエアリスを必死に呼んだ。
でも声は返ってくることが無い。

何処かに連れて行かれた…。





「クラウド!」

「ああ、探すぞ!」





あたしが振り向けば、クラウドも頷いてくれる。
ティファも同じ。

エアリス、早く助けなきゃ!!

あたしたちは急いでエアリスを探すべく来た道を引き返した。





「エアリス!!」





探して探して、やっと見つけたエアリスは広場の列車の影に座り込んで小さくなっていた。
そこにクラウドが向かい、エアリスの肩を抱いて一気に駆け出す。

その理由はエアリスに巨大な何かが襲い掛かろうとしていたから。

黒い風を纏い、この列車墓場を支配していたその存在。
それは前足は馬のようで後ろは車輪がついているエリゴルというモンスターだった。





「見つけた、エアリス」

「もういいかい!ってね!」





黒い風が辺りに渦巻く中、ティファとあたしもエアリスに駆け寄った。
ティファは手を引いてエアリスを立ち上がらせ、あたしはぎゅっとに抱き着いた。

まったく、大掛かりなかくれんぼだね。
まあ見つけてからもういいかいってのも変な話かもだけど。





「見つかっちゃった」





エアリスは笑ってくれた。

でも、気づいてた。
…エアリスの瞳に、少し涙が滲んで見えたこと。

エアリス、見つけた時も顔を覆って小さくなっていた。

だからあたしはエアリスを抱きしめた。
たったひとりで泣く事など何もないんだって、そう伝えるのに一番の方法だと思ったから。





「行くぞ!!」





クラウドの声で武器を構える。

モンスターは今にも襲い掛かって来ようとしていた。

こいつを倒したら、きっと黒い風は消える。
エアリスが言うようにゴーストたちが囚われているのなら、こいつが消えれば解放されるはず。

乗りかかった船だ。
ここまで来たら、片付けてやろうじゃないか!





「ナマエ!車輪を先に壊す!」

「わかった!」





クラウドが指示してくれる。
うん!そうやって呼びかけてくれるのは、やっぱり嬉しいね!

言う通り、先に車輪からぶっ壊す。

さっさと倒して、七番街に行くんだから!!
そう燃えていたあたしたちを相手にするこいつは案外運が悪かったかもね。





「皆、今行くね!いい加減、退いて!!」





最後のトドメはティファだった。
駆け出したティファは見事なサマーソルトを決めた。

その一撃は本当に綺麗だった。
あの体からは信じられない威力で大きなエリゴルをふっ飛ばして見せる。





「ティファ!さっすが〜!」





その華麗さにあたしはパチパチ拍手した。
すると振り返ったティファも「ふふっ」と嬉しそうに笑ってくれる。

さあでも、ここで喜ぶのはこれくらいだ。





「「行こう!」」





あたしとティファはそう声を揃えた。

するとその時、ふわっ…と辺りに優しい緑の光が満ちはじめた。

「あ…」として見上げれば、その光に包まれているのは此処にいたゴーストたち。
その中にはエアリスが気にかけていたあのゴーストの姿もあった。

ゴースト達と光は、ゆっくりゆっくり空に融ける。
それはまるで、捕われていたモノから解放されていくみたいに。





「すごい…」

「うん、とっても綺麗…」





ティファとあたしはそう声を漏らした。

その緑の優しい光は、純粋に凄く綺麗だった。
思わず惹かれてしまうような、美しい光景。





「またね」





そしてエアリスが消えゆくゴーストにそう囁く。

これできっと、この列車墓場の呪縛は解かれた。
どうか安らかに…って、今、あたしは心からそう思ってた。





「ついた!」

「うん!ティファ!まだ柱、ちゃんと建ってる!そこにあるよ!」





そしてあたしたちは遂に七番街の前、フェンスを一枚隔てたところまで辿りついた。

ティファはカシャンッとフェンスに手をつき柱を見上げる。
そんなティファを見たエアリスは隣に寄り添い、その肩にそっと触れていた。

あたしも、震えそうになる手をぎゅっと抑えた。

絶対、絶対…食い止めないと。





「ナマエ…」





その時、隣から小さな声で呼ばれた。
それはクラウドの声。

あたし、情けない顔してたかな。

きっと、そんな顔でクラウドを見上げた。
クラウドもこっちを見てくれていて、目が合うとコクっと頷いてくれた。

力になる。

その瞳は、そう言ってくれていた。





「クラウド…ありがと」





大丈夫。まだ、間に合う。

焦り、不安…。
あたしは渦巻く嫌な感情を振り払うように、そう、強く決意で塗り替えた。



To be continued



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