ドレスアップ



無事、最後のボーナスマッチにも勝利したあたしたちはゲートキーパーからマムの言伝を聞いた。


『よくやった、あとでうちに寄りな』


これでやっと約束を果たしてもらえる。

そうと決まれば迷う事はない。
あたしたちは闘技場を出て、まっすぐマムの手揉み屋に戻った。





「来たね。お召し替えの準備は整ってるよ」





店に戻るとマムは既に準備をしてくれていた。

どうやら約束事はキチッとしてくれるタイプらしい。
うん、有り難い限りだ!

だけど支度に入る前に、マムはちらっとクラウドに目を向けた。





「でもその前にあんた、なんでも屋のクラウドだってね」





言われたのはなんでも屋のことだった。

ウォールマーケットに来てからなんでも屋の話ってしてなかった思うけど。
どっからか噂が流れてきたんだろうか?





「伍番街では随分ご活躍したって噂だ。人間、働いてナンボ。働き者には福が来るって言うだろ。人助けの縁は巡り巡ってイイコトがあるのさ。ナマエとエアリスにはとびっきりのドレスを用意するから楽しみに待っときな」





マムはそう笑ってくれた。

伍番街での話がこんなところまで流れてくるのか。
まあこんな世界でマムみたいな人だと人脈とか色々あって噂もいっぱい知ってそうなイメージはあるかもしれない。

なんにしても評判が広まるのは良い事だ。
おかげでドレスも良いのを用意して貰えてるみたいだし。

御縁はお金より大事!
ティファの言ってた通りだね。

あたしはにんまりクラウドに振り返った。





「クラウド!結構評判になって来たね!」

「そうだな」

「へへへー。助手としては嬉しい限り!ね、あたしもわりと役に立ってるでしょ?」

「まあ、そこそこな」

「おお!やった!」

「そこそこで嬉しいのか?」

「クラウドのそこそこは、結構な高評価でしょ?」

「都合のいい解釈だな…」

「ふふふー!」





でもさ、否定しないって事は前向きに捉えていい気がするんだよね。
「どう思う?」ってエアリスにも聞いてみれば、「そう思う!」って言ってくれたし!ね!

そうこうしているとマムが雑談はそこまでにしろと言うように扇子を叩いた。





「ほら、そうと決まったら早速取り掛かるよ。女の支度は男が思うほど楽じゃないんだ」





時間を使うんだから早くしろとマムは言う。

ドレスアップか。
確かにそれ相応の時間は掛かるものかもしれない。

でもそうするとあたしとエアリスは良いけど待ってるだけのクラウドは退屈なんじゃないかな。
いやドレスアップとか縁無さ過ぎてどれくらいの時間を要するのかあたしもイマイチわかってないんだけど。

だけどマムはその辺もちゃんと見越していて、クラウドを見るとにやりと笑った。





「そうだねえ、その間あんたは…女連れじゃ、出来ない事もあんだろ?今のうちに遊んで来たらどうだい?思ったより、この街に馴染んでるようだし」





マムがクラウドにした提案。
それを聞いて思わずぴくりと反応してしまった。

女連れじゃ、出来ない事…!

それって、それってつまり…!
やばい!今ちょっと頭の中がモザイク関連になった!ちょ、馬鹿、落ち着け!

ふう、とひとつ深呼吸。

するとマムがちらりとこちらに振り返った。
そして扇子で軽く口元を隠しながら、今度はあたしにだけ見える様にまたにやりと笑ってくる。

えっ、なに!!?

でもマムはあたしに何か言うわけでもなく、そのまま視線をクラウドに戻してしまった。





「安心しな。あんたひとりで時間が潰せるとは思っちゃいないさ。男のことは男同士。サムに話をつけておいたからね」

「勝手に話を進めるな」

「煮え切らない男だねえ。折角の機会さ。その腑抜けた男っぷりもついでに叩き直してきな!」





クラウドにも有無を言わせない。

ただチョコボ・サムに会いに行くようにとだけ伝え、ちゃっちゃと話を進めてしまった。

ううん…強い…。
この押しの強さは流石である…。

そしてマムはあたしとエアリスに声をかけるとお店の奥に向かっていった。





「さてと、それじゃナマエ、エアリス。ついてきな」

「どんな服かな、楽しみだね、ナマエ!」

「う、うん、なんかドキドキするけど」

「服だけじゃないさ。そうそう、その素人くさい化粧と髪もガッツリ手を入れるからね」

「わお!」

「わーお…」





…ガッツリってどんなだろう。
何かここにきてどんなことになるんだってちょっとだけ怖気づいた。





「じゃあクラウド、あとでね!」





エアリスはとても楽しそうにウキウキしてる。
だからクラウドに軽く手を振ると意気揚々とマムについていった。

あたしも行かなきゃね…。
でもその前にあたしも一度クラウドに向き直った。





「じゃあ、行ってくるね」

「ああ、頃合いを見て戻る」

「うん、気をつけて」





手を振ればクラウドも少しだけ頬を緩ませて頷いてくれた。

でもその直後。





「ナマエ!早くしな!」





奥の部屋からマムに怒鳴られた。
思わずビクリ。





「…怒られた」

「…早く行ってこい。余計怒られるぞ」

「だね…。じゃあね、クラウド」

「ああ」





こうしてクラウドは入り口の扉を開け、あたしも慌てて奥の部屋へと向かった。
部屋に入ったらマムに「遅い!」ってまた怒られた。





「わあ、エアリス綺麗…!」

「うーん、こんなの着た事無いからなんか変な感じだね」





部屋の中では既にエアリスはドレスを身に着けていた。

胸元が結構あいててセクシーだけど、裾がティアードになっていて上品にも見える真っ赤なドレス。
まだ髪とかはいじってないけど、凄く似合っててあたしは思わず目を輝かせた。





「ほら、ぼけっとしてないであんたも着替えな。あんたはこっちね」

「えっ、わ…白のドレス?」





見惚れているとマムがあたしにもドレスを渡してきた。
それはふんわりとした印象の真っ白なドレスだった。

どれどれデザインはと…。
あたしは手渡されたそれの上の部分を持ち、ひらっとその全体を見てみた。

…が、しかし。
それを見た瞬間、ぴしっと固まった。





「うわあっ!そのドレスすっごい可愛い!」





あたしが広げたのを一緒に見たエアリスが高い声でそう言った。

そう。そのドレスは間違いなく可愛いかった。

真っ白で、レースが沢山あしらわれてふんわりとしている。
それが全体的な印象だ。

丈は膝上。裾に向かいふわっと広がる形。
そしてオフショルダー。その部分にもレースが使われて、透け感を出しつつひらひらと柔らかくまとまっていた。

…ちょっとお待ちよ。この丈が短くて肩の出たひらひらふわふわドレスをあたしが着るってのかい?





「ナマエ!早く早く!着てみせて!」

「ちょ、ちょちょちょ!待って待って!?」





エアリスがずいっと急かしてきた。

でもいや待って待って!?
だってほらあたしね!?さっきも言ったけどまずは動きやすさに重点を置くわけさ!
それがいきなりこんなふわふわひらひらドレスですか!?

あ、どうしよう。こんなひらひら最近めっきりすぎてめちゃくちゃ恥ずかしいよ!!?





「ストーップ!エアリスちょいタンマ!!」

「ん、どーしたの?」

「いやあのですね、こんなひらひら最近めっきりすぎてめちゃくちゃ恥ずかしいですわたし!!?」

「うっさいよ、さっさと着な」

「あで!!」





マムに扇子でズベシと頭を叩かれた。痛い!
しかもこのあと髪やって化粧してまだまだやることあるんだよモタモタすんなと眼光で物申される。怖い…。





「いやでも、ねえ!これも結構胸元、気になるデザインじゃない!?胸元レースとかエロくなるやつ!いやあたしが着てもならないか!?」

「だからうるさいって言ってんだよ!いいデザインじゃないか!無いわけじゃないんだ!あるもんはなんでも使いな!それでクラウドを悩殺しておやり!」

「クラウド!?なんで!?なんでそこでクラウド!?これコルネオ用だよね!?」

「うんうん!クラウド、きっと喜ぶね!」

「いやどういう事!?」





マムとエアリス、ふたりががりで詰め寄られる。

ちょ、なんか話がおかしな方向にいってませんか!
なんでそこでクラウドよ!クラウド関係ないよね!?

ていうかこのふたりに詰め寄られるのはなかなか怖い!

た、助けてクラウド…!!!!

そう彼に助けを求めても仕方ないことはわかりつつも心の中で叫び、あーれーというかの如くあたしはドレスに着替えさせられたのだった。





「わあ!ナマエ、とっても可愛い!」

「うん、いいじゃないか。あたしの見立てに間違いはなかったね」

「…うう」





着替えさせたあたしを見て満足そうに笑うふたり。

肩が…肩ががっつり出てるんですぜ…。
ああああ…慣れない、慣れない…恥ずかしい…!

あたしはそれを隠すように腕をクロスしてさすさすと肩をさすっていた。

でもそうすると「胸を張りな!」ってまたマムに引っ叩かれた。





「ほら、次は髪だよ」





そしてマムは次にヘアメイクの準備を始めた。

うーん…でも賞金100万の件があるとはいえ、本当にきっちり面倒見てくれるなぁ…。

いきなり訪ねて推薦してくれ〜って、そうするしかなかったとはいえ無茶苦茶なお願いしてるとは思うからここまで手を貸してくれるマムには本当感謝だなあと思う。





「そう言えば、ちょっと面白い話があってね」

「面白い話?」





そして髪をセットして貰っている間、マムはあたしたちにひとつ耳寄りな情報を教えてくれた。
なんでも、さっきのコルネオ杯でクラウドの事を目に掛けた御仁がいるとかなんとか。





「蜜蜂の館のアニヤン・クーニャンさ。3人の代理人のうちのひとりだね」

「え、アニヤン・クーニャンって…あ!人気ナンバーワン!?」

「確か予約3年待ちとかって言われてた人、だよね。そんな人がクラウドを?」





マムの話にあたしたちは驚いた。

そういえば受付の人がたまにアニヤン自身が気に入ったお客を呼ぶことがあるとか言う話をしてくれたけど、もしかしてそのお眼鏡にクラウドが適ったってこと?

はー…クラウドすげえ…。
納得できる部分もある気がするけど、いやでもやっぱり凄いな…。





「アニヤンが目をつけるなんて滅多にないことさ。それにあいつは人格者だからね。あんたらが真っ当に理由を話せば手を貸してくれるだろうさ。そしたら、むしろ3人揃って入れるだろうね」

「3人…」

「揃って…?」





マムはにやりと笑った。
その笑みにあたしとエアリスは顔を合わせる。

3人ってことは、まさかクラウドも入れるってこと?





「元々はね、サムに恩でも売ってそれぞれの枠とは別に合同って枠を作ってあんたらふたりとも推薦してやろう考えてたのさ。流石にあたしだけじゃふたりの推薦は無理だからね。クラウドをサムの所に行かせたのもその為。暇つぶしってのもそうだけど、なんでも屋にサムの手伝いをさせて協力するよう言おうと思ってね。けど、そこにアニヤンも加わるなら代理人3人の合同。もうひとりくらい増やせるだろうさ。それに代理人3人のほうが違和感も少ない。フフッ、どうせクラウドだってあんたらふたりで行かせることには抵抗あるだろうしね。いい案だろ?」

「えっ…!」

「わあっ!ほんと!?」





マムの計らい、驚いたけど、でも物凄く有り難い話だ!

ていうかこれってつまり、クラウドに女の子の格好させるって話だよね。
なるほど。マムがにやにやしてる理由これか。

クラウドに、女装させる…。
あ、それはなんだかめちゃくちゃ面白そう…!!





「エアリス、どうしよう。あたしワクワクしてきた…!」

「ふふっ、私も!クラウド、きっと似合うよね!」





エアリスも楽しそうである。
いややっぱテンション上がるよね、これ!

こりゃ凄い展開になってきた!

でもクラウドって中性的な顔立ちしてるし、結構いける気がする…!
ていうかめっちゃ見てみたい!!

もう正直好奇心がうずいてうずいて仕方ない。

でも、クラウドも一緒に入れるならそれって普通に心強いしベストではあるんだよね。
ただ、マムたちにとっては面倒なだけなはずなんだけど。

どうしてそこまでしてくれるのかってマムに聞いてみれば「面白そうだしね。ま、気まぐれさ」なんて言われた。

多分それは本音なんだろう。
でもこういう気まぐれをさらっとやっちゃうところがオトナって感じがする。





「はー…、なんか流石だなあ、マム」

「なんかナマエ、ちょいちょいマムのこと慕ってるよね?」

「え!そ、そうかな。そんなふうに見える…?」

「うん。流石マム!って顔、よくしてる」

「アッハッハ!いいじゃないか、悪い気はしないね!ナマエ、あんたクラウドの助手なんかやめて此処で働くかい?」

「そ、それは大丈夫」





確かに初めて会った時も大人の女…!みたいに思ったけど、そんな丸出しだったか。

気を良くしたらしいマムにもおふざけでスルっ…と頬を撫でられる。
いやだからコレ、手つきがえろいんだって…。

ここで働くってねえ…。まあクラウドをあんなにした手揉みを習得するのはちょっとそそられるものがある気もするけどね…。





「……。」





クラウドか…。

ふと、髪をいじられながら思い浮かべた彼の事。

クラウド、今頃どうしてるのかな。

女連れじゃできないこと…か。
サムに連れられてあくなき夜を過ごしているのだろうか。

うーん。気になる。でもそれだと聞いてみてもいいものかどうなのか…。

何気なく窓に目を向ける。
こうして館に潜入するための作戦は、少しずつ、着実に進んでいったのだった。



To be continued


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