悪魔の家ヘルハウス



「残念だけど、もう1戦やってもらうよ」

「…はい?」





控室に入ってきたマムに告げられた言葉。
もう1戦…やってもらう。その言葉を聞いたあたしはきょとんとした。





「どういうこと?」

「あんたらは盛り上げ過ぎちまったのさ。白熱する試合に客の賭け金も膨れ上がった。コルネオがこの機会を逃すはずが無いんだよ」

「つまり?」

「コルネオが推薦する最後の敵を倒して、ようやく優勝になるってわけさ」





エアリスとクラウドも聞けばマムは詳細を教えてくれる。

確かに大会は盛り上がっていた。
試合が進むたびに歓声も大きくなっていって…。

でもだからってもう1試合?
さっき盛り上げ役もこれがラストって煽ってたのに!





「そんなあ!」

「話、違う!」

「それはあたしが言いたいよ!!キイイイイイイッ!!!」





あたしとエアリスがそんなのってない!と訴えればそれを遥かに上回る勢いでマムの方がブチ切れた。
あまりの剣幕にこっちがビビる。マムは怒り狂っていた。





「ごうつくばりめ!くそ――!!―――!!――――!!!」





発せられる言葉は確実に放送禁止用語である。
ピーって感じだ、ピー。

まあマムだって賞金が掛かってたわけだから、納得いかないのは同じなんだろう。

でもあまりの勢いだったからこりゃ下手に口を出しちゃいかんぞと。
あたしたちの方は「あー…」とむしろちょっと消沈した。





「…でも、仕方ないのさ。この街ではコルネオがルールだからね」





しばらく叫ぶとマムも落ち着いたのか「ふう…」と息をついた。

ドン・コルネオ。
この街ではすべて彼がルール。

この闘技大会も、他のものも全部。

欲望の街すべてに通ずる権力者…か。
マムですら従うしかないって、やっぱりちょっとすごい。

改めて凄い人の所に乗り込もうとしてるんだなあと今更ながらに考えた。





「ただ、次勝てば流石にコルネオだって渋らないだろう。観客が黙っちゃいないさ」

「次が最後だな」

「ふっ、そう願いたいね」





まあ、こちらに拒否権は無い。
いくら文句を言っても、きっとどうにもならないだろう。

仕方がないと、あたしたちはもう1試合出ることを承諾した。





「うわあ、凄いね。クラウド様江だって。ファンクラブとかも書いてあるよ」

「あんたにも来てるぞ。祝・ナマエ様江」





控室を出ると、入り口の傍には花輪とかが飾られていた。
どうやら試合を見ていた誰かが送ってくれたらしい。

クラウド様江、ナマエ様江、エアリス様江。

全員分。それぞれに宛てて目一杯届いてた。





「うーん…確かにこういうの見ると盛り上がってるなあって気がするね。ドンからすると、良い稼ぎ時?」

「こっちにはいい迷惑だな」





クラウドとふたり、はあ…とため息をついた。

ああもう、またティファが遠のいた…。
手を伸ばしても伸ばしてもどんどん遠のいていく。
ああ、早く会いたいよティファ〜…。

なんか、えらいティファが恋しくなった。





「ナマエ、クラウド、お待たせ」

「あ、エアリス」





その時、ちょっと髪を結び直したいと言ったエアリスが控室から出てきた。

花輪を眺めていたのはエアリスを待っていたからだ。
これで全員揃った。準備は完了だ。

それではいざ…覚悟を決めて、向かいますか。

コルネオ杯、ボーナスマッチ。

これに勝てば今度こそ終わり!
そう自分たちを鼓舞し、あたしたちはゲートへと向かった。





「異例の盛り上がりを見せましたコルネオ杯。どうでしょう皆様、このまま終わるにはあまりに惜しいとは思いませんか」

「そこで、ドン・コルネオより皆様へ、ボーナスマッチをプレゼントさせて頂きます!」

「勿論、出場するのは今宵の主役。地下闘技場に突如として舞い降りた新星3人組!クラウド&ナマエ&エアリス!」





流れは同じ。盛り上げ役に紹介されながら開いたゲートをくぐる。

舞い降りた新星て…。
本当、1試合目の台詞とはえらい違いだ。

でもそれは観客たちの声援も同じ。
ブーイングなど一つも無い。その盛り上がりはまさに最高潮だった。





「クラウドー!こっち見てー!かっこいいー!かわいいー!」

「惚れたぞクラウド!」





クラウドには黄色い声も飛んできた。
まあこの容姿でこれだけ強ければお姉さま方のハートも…いや、男もいたな。会場中からモテまくりである。

でもちょっと楽しそう…。
あたしもキャー!クラウドー!とか声援送ってみたい。

そんなこと言ったら呆れられそう?
声に出してないからセーフセーフ!

だがしかし、そんな声援を送られるのはクラウドだけでは無い。





「エアリス!結婚してくれー!」





エアリスに至っては求婚されていた。
いやどこから叫んでんのかまったくわからんけど!

でもエアリス可愛いもんなあ…。
正直気持ちはわかる。うんうん。

そうどこにいるかわからない男に共感していれば、あたしの名前も叫びに混じっている事に気が付いた。





「ナマエー!!俺の心はお前のもんだー!」

「お前になら斬られてもいい!ナマエー!!」





ビクッとした。
いや斬られてもいいってどういう事!?

こういうのってタイミングなのか、他にもたくさん歓声があるのにたまにひとつ響いて聞こえたりすることあるよね。
さっきのクラウドこっち向いて〜とかエアリス結婚してくれ〜も然り。

でも、こんな人気有名人みたいな歓声浴びたことないからどうしていいかわからなくなる。
いや別に反応する事もないんだろうけど気にしないってのも難しいなと…。無表情?キツイぞそれ。

クラウドとかはどうしてるのかな?
そう思ってちらりとクラウドを見てみれば、その眉間にはなかなかのシワが寄っていた。おう!?





「え、あの、クラウド…なんか怒ってる?」

「…別に」

「そ、そう?」





聞いてみるとそう返される。

するとその時またちょうど「ナマエー!!」という声が一際目立って聞こえた。
どこから聞こえてるのかはやっぱりわかんないんだけど。

そんなことを考えていると見ている傍からまた更にクラウドの眉間にしわがよった。
いや!やっぱなんか怒ってるよね!?





「対しますは、地下闘技場のさらに地下!地中深く封印されしモンスター、今、解き放たれる!」

「我らがドン・コルネオの秘密兵器!」





そうこうしていれば対面側の紹介がはじまった。

モンスター…やっぱり人じゃないのか。一体何が来るんだろう。

コルネオの秘密兵器って、とっておきって感じ?
決勝より厄介な可能性の方が大きいし、それなりに緊張しながら対面側の扉を見る。





「「ヘルハウスの入場です!」」





盛り上げの男二人が声を揃える。

ヘル…ハウス?

聞いた事無い名前だ。新種の何か?
コルネオが名づけたの?

そう見ていると開いていったのは対面の扉では無くあたしたちが立っているフィールドのど真ん中だった。

え、そんなとこに開く仕掛けあったの!?
一歩間違えたら落ちちゃうじゃないか!

じっと穴を見ていれば開いたそこから床がせり上がってくるのが見える。
演出なのか白い煙も出ていて対戦相手は良く見えない。

床が上がりきり、煙が晴れていく。
そうしてくっきりしてきたシルエットは…一軒の家だった。

立って…いや、建って?

…家?あ、ハウス!え、家?





「あの、クラウド、エアリス…家?」





指差してふたりに振り返る。

いや確かにハウスって言ってたけど!え、解体工事…?

あたしのそれはボケですか?
いやでもそうとしか思えないよね!?なんでここで家!?

でも決して、誰もボケていたわけではなかった。

それがわかったのはその直後。
家からゴウッという炎が噴き出した時だった。





「わ!?」

「ただの家じゃないようだ」





驚いたあたしの隣でクラウドが剣を構える。
あたしとエアリスもそれに続いて武器を手にした。

ひとりで動くのこの家…?
ていうか火出すって…家なのに!?火事じゃん!?

やっぱり意味はわからない。
でも、油断は禁物だろう。

だって、ただ家の形をしてるだけで兵器だって考えたら見え方も全然変わるもんね。





「謎多き悪魔の家vs両手に花の最強3人組!これほどシュールな対戦が今まであったでしょうか!」

「ありません!あるわけがありません!」

「歴史に刻まれるのは確実でございます!」

「余所見!まばたきは厳禁でお願いします!」

「それでは最終決戦…レディファイッ!!!!」





盛り上げ役が高らかに叫ぶ。
そうして遂にボーナスマッチが始まった。

ヘルハウス。
そのおうちは確かに悪魔の家と言うにふさわしい仕掛けが満載だった。





「クラウド!ナマエ!はあっ!!」

「助かった」

「ありがと、エアリス!」





まずは底なしに搭載されているミサイル。
エアリスが魔法でこちらに来る前に爆破してくれる。

だけど、避けても避けても、いくらでも湧くように飛んできた。





「ぎゃあっ!?」

「ぐっ…」

「もう!また属性、変わった!!」





じゃあ飛び道具がメインかと思えば家なのに本体の機動力も抜群。

手足が生えて凄い勢いで迫って来たり、飛び跳ねて、ドガーンッ!!とこちらを押し潰そうと落下してきた。

間一髪で避けて、落下時の衝撃にゾッとした。
空飛ぶ家かこんにゃろう!!

それなら動かさぬように攻めてしまえと攻撃を繰り出せば、次々と属性を変えて弱点を見抜くのが大変だったり…もう色々無茶苦茶だった。

そして、さらに厄介なものがもうひとつ。





「わわっ!!ちょっ!?」





狙いを定められた。
家の正面がこちらを向き、バッと扉が開く。

何か出て来るのかと身構えればその逆だった。
吐き出すのではなく吸い込む。

開いた扉からとんでもない力で体が吸い寄せられた。

ちょちょちょ!これ踏ん張れない!!?
逆方向に走っても全然進まずむしろどんどん下がってる。

想像出来る結末はただひとつ。このまま家に引きずり込まれる!?





「ちょちょちょちょ!まっ、いやあああああああっ!!!?」

「ナマエッ!!!」

「ひゃっ…!」





もう無理!!
そう思った瞬間、横から何かが飛びこんできた。

その何かはあたしの身体を抱きしめる様に包んで吸引の範囲から救い出してくれた。

ズザッ…とフィールドを擦れる音がする。
でも、あんまり痛くない…?

そっと目を開けば目の前に魔晄の目が映った。





「大丈夫か?」

「クラウド…!」





クラウド起き上がりながら、そう声を掛けてくれた。
そしてあたしのことも起こしてくれる。

クラウドが助けてくれた…。
痛みが無かったのも、クラウドが庇ってくれていたから。





「ごめっ…クラウド、ありがと!」

「いやいい。それより行けるな」

「うん!」





ぼーっとしてる場合じゃない。
礼は短く急いで立ち上がり、ヘルハウスを見る。

その時、回復魔法が飛んできて、エアリスが傷を癒してくれた。

よし、体制を戻したところでもう一回攻める…!

もうそれなりにはこちらもダメージは与えてるはずなんだ。

多分あともうひと踏ん張り…。
そう考えていると、クラウドがひとつ策を投げかけてきた。





「ナマエ。魔力、まだ残ってるよな」

「え、うん。大丈夫だよ」

「じゃあ俺がアレを引きつけるから、エアリスと一緒にありったけの魔力で炎を放て。さっき属性が変わったからしばらくは炎が効くはずだ」

「うん、わかった!やってみる!」





それがトドメだ。
そうふたりで頷き、一気にそれぞれの役目に走り出した。

クラウドはヘルハウスへ、あたしはエアリスの元へ。





「エアリス!魔方陣張って!それでふたりでファイガ!」

「わかった!」





エアリスはひとつの詠唱で二発分の魔法を発動させられる魔方陣を張る事が出来る。
その中でふたりで魔法を唱えて、それで一気に片を付ける!

詠唱に時間はかかるけど、クラウドは言ってくれた。
「あんたたちには近づけさせない」って。

ああもう格好いい限りだな。
それならこっちも、ちゃんとトドメを決めないと。

助けてくれたお礼も、後でもう一度ちゃんと言おう。

そのためにも、さっさとこいつを倒す!!





「「ファイガ!!!」」





クラウドが作ってくれた隙を逃さない。
エアリスと並び、共に炎放つ。

魔方陣で威力を増した炎はヘルハウスに直撃する。

これで、終わり…!!
もろに弱点魔法を喰らったヘルハウスはその場でガクッ…と勢いを失った。

倒した!

でもそう思った瞬間、最後の悪あがきと言わんばかりにヘルハウスは残っていたミサイルを辺り構わず放ち始めた。





「はっ!」

「それっ!!」





観客席にも被害が及ぶ。
それを防ぐべく、あたしとエアリスは客席の方に向かったミサイルを魔法で撃ち落とした。

その隙に一直線にヘルハウスへ向かって行くクラウド。
彼は襲いくるミサイルを見事に剣でいなし、ヘルハウスとの距離を詰める。

そして踏み込み高く飛び上がると、そのままヘルハウスに剣を一気に突き刺した。





「くっ!」





クラウドが剣を引き抜き再びヘルハウスと距離を取れば、今度こそ本当に終わり。

タンっ…とクラウドは身軽に着地する。
それを合図にしたように、ヘルハウスはその場で爆発して崩れた。

その瞬間、誰もが勝者を認識した。

わあああっという歓声が会場中に響き渡る。





「クラウド!エアリス!」





勝者への花火と色紙が舞う中、あたしはふたりに振り返った。
その顔はきっと、満面の笑みだったはず。

駆け寄れば、ふたりも歩み寄って来てくれた。





「やったよ!勝ったよ!あたしたち!」

「うん!やったね!」

「ああ」





ふたりの顔にも笑みが浮かんでる。

うん、だって今は心の底から晴れやかで嬉しいもんね!

あたしは自然とふたりに両手を挙げていた。
そしてそれはエアリスも、クラウドも。

三人の手が合わさり、パンッと響いた気持ちの良い音。

今度はちゃんと、息ピッタリのハイタッチだ。





「コルネオ杯!」

「優勝は…」

「「クラウド&ナマエ&エアリス!!」」






大きな歓声ともに、その場に勝者の名前が響いたのだった。



To be continued


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