コルネオコロッセオ
エントリーこそギリギリだったものの、試合が始まるまではまだ少し時間があった。
試合が始まるまでの間は控室でアイテムやマテリアの確認をしたり、色々と抜かりが無いように準備をしていた。
だけど、そうした時にふと気になったのは他に出場する挑戦者たちの事。
どんな人たちが出るんだろう?
そう思った時、隣の部屋からなにやらうめき声の様なものが聞こえた。
「え、なに」
「どうした、ナマエ」
「あ、クラウド…。いや、隣からうめき声…」
「うめき声?」
あたしは壁際に設置してあるベンチに座っていた。
だから隣の声が良く聞こえたのかもしれない。
クラウドが声を掛けてくれたからそのことを伝えるとエアリスも来て3人で耳を澄ます。
するとやっぱり男の人のうめき声が聞こえた。
なんか、大丈夫だろうか…。
ちょっと気になったあたしたちは隣の部屋に様子を見に行ってみることにした。
「ううう……」
扉の向こうにいたのはひとりの男。
パイプ椅子にひとり項垂れそのうめき声をあげていたのは…。
「え!ジョニー!?なにしてんの!?」
「ううう…っ、ああ?…ナマエに…あんたたちか…ううう」
入った部屋にいたのはジョニーだった。
ジョニーはあたしたちに気がつき顔を上げたものの、またすぐに項垂れる。
そうして見えた彼の体は痣と傷でいっぱいだった。
「ちょ、どうしたの!?大丈夫!?」
腐っても彼は知り合いだ。そんな怪我をしていれば当然気になる。
あたしはジョニーの傍に膝をつき、彼の状態を確かめた。
「少しばかり金が必要になってよ…前座試合に出てみたら、この有様さ。おい、ナマエ…お前らもやべえところに足を踏み入れたな…。悪い事は言わねえからさっさと逃げた方が身の為だぜ…っ、てて」
「ああ…もう、ちょっと大人しくしてる!ケアル!!」
喋ったことで顔にある傷が痛んだのか表情を歪めたジョニーにあたしはケアルを唱えた。
うん、痛みの方はまだあるかもだけどとりあえず目立つ傷は癒えた。
あたしたちが代理人を探している時、ちょいちょいジョニーの姿を見かけていた。
サムのところも、蜜蜂の館も、マムの店の前でも。
彼は彼なりに必死にティファを救おうと走り回っていたのだろう。
その一生懸命さは、見直すものがあるけど…。
…いやま、結果がまったく伴なってないのはとりあえず置いといて。
そうしていると部屋のどこかにあるスピーカーからアナウンスが流れてきた。
『クラウド、ナマエ、エアリス組。間もなく試合が始まります。入場ゲートまでお越しください』
どうやらあたしたちの出番が来たらしい。
とりあえずあたしは最後にひとつポーションをジョニーに押し付けて立ち上がった。
これって怖気づくところ?
でも大丈夫。
あたしはクラウドを見た。
「全然、行けるよね?」
「言うまでも無いな」
クラウドはそう答えてくれる。
よし、じゃあまあここはジョニーの仇も取ってやりますか。
そうしてあたしたちはアナウンスに従い、入場ゲートまで向かった。
「さて、次はなんと両手に花!もしや三角関係か!?男ひとりに女ふたりでの出場だ!」
「なんたる場違い!」
「しかも初参戦!」
「いけすかない!」
「怖いもの知らずの3人は、はたして無事に帰れるのか!クラウド&ナマエ&エアリスの入場です!」
「さっさと負けろー!帰れー帰れー」
入場時にはどうやら盛り上げ役の男ふたりが参加者の紹介をしてくれるらしい。
それにしても言われたい放題。
好き勝手に超失礼だ。
いけ好かなくて悪かったな!
なにが三角関係だ!!
「おい男!両手に花って何だ!ふざけんなこの野郎!!」
「ねえちゃんたち!しっかりサービスしてくれよォ!」
会場に足を踏み入れれば観客からも声が飛んでくる。
こちらもさっきと負けず劣らず言われ放題。
わーわーぎゃーぎゃー下品な言葉もたくさん浴びせられる。
「…なにコレ、なんかすんごいムッカつくんですけど…!」
「うん!なんか、燃えてきた」
あまりの言葉の数々にあたしとエアリスはイラッとしていた。
舐め腐ってからに!!相手叩きのめしてこいつらぜってー黙らせてやる…!!!
エアリスの言う通り、燃えてきた。うん、なんか変な火がついた感じだ。
「対するは、ウォール・マーケットが誇る猛獣使い!今宵のリングも彼らの食卓となってしまうのか!」
「本日はデザートつき!」
「したたる赤!こぼれる悲鳴!暴飲暴食、ブラッディテイストの入場です!」
そして次は相手側の紹介。
猛獣使い…。
聞こえた単語に顔をしかめる。
ゲートが開き、入ってきたのはまさかの猛獣を二匹従えた男。
「なっ、モンスター!?」
「人じゃないの?」
「は?素人か?人じゃなきゃいけない規定なんてねえんだよ!」
驚いたあたしとエアリスを猛獣使いの男は小馬鹿にしてくる。
何言ってんだお前らって感じだ。
でも、人じゃなきゃいけない規定はない…。
なるほど…。本当にろくなもんじゃない。
やりたい放題なわけか…。
流石、欲望の街の闘技場。
しっくりきたけどちょっと頭が痛くなった。
だけど、こちとら日頃からモンスターなんて相手にしてますから。
怯える理由なんて無いのです。
「ナマエ、右の任せていいか」
「がってん!クラウドの方に手出しはさせないよ」
「エアリスは俺たちに強化魔法を。隙があれば相手に弱体魔法を掛けてくれ」
「お任せあれ」
開始前に二言三言、そう言葉を交わす。
戦いのゴングが響いた瞬間、あたしたちはそれぞれの役割を果たすべく駆け出した。
こんなの、神羅の軍用モンスターの方がよっぽど厄介なんだから!
手惑うことはない。
ケリは、すぐにつく。
「この結果を、誰が予想したでしょう!?」
「正に大どんでん返し!勝利したのは、なんとクラウド&ナマエ&エアリスチーム!」
猛獣も、使いと合わせてブッ飛ばした。
サッと軽く息と服の乱れを整えるあたしたちに会場中が騒ぎ出す。
ふんだ!これでちょっとは見返せたかな。
どうやら観客たちは賭けをしているらしく、あたしたちが勝ち上がることで大損だとブーイングも飛んできた。そんなの知らん!ざまあみろ!!
そして続いては2回戦。
ルールが曖昧なのはこの一回戦だけじゃなくて、続く試合もそうだった。
2回戦はもう準決勝で、エントリー人数むちゃくちゃの8人の盗賊チーム。
そんなの反則じゃないのか。
普通ならそう思うけど、コルネオが良いと言えばすべて良し。
それでもゴロツキなんかに負けやしない。
これならタークスのあのふたり相手の方がよっぽど面倒だ。
盗賊8人もあっという間に片付ける。準決勝も難なく終わり。
そこまでくれば、たった3人でどんどん勝ち上がる事に歓声が増えていくのも感じられた。
「皆様!大変長らくおまたせいたしました!」
「予想外の展開を見せた今宵のコルネオ杯もあと1試合を残すのみとなりました」
「ふふふふ、名残惜しいのは我々も同じです!しかし、物事は必ず終わりを迎えます!ならば、その終わりを皆で大いに盛り上げようではありませんか!」
「まずは、小柄ながら並み居る強豪を華麗になぎ倒し、大いに盛り上げてくれました驚異の3人組!マダム・マム推薦、クラウド&ナマエ&エアリスの入場です!」
決勝戦ともなれば紹介の仕方も変わる。現金なモノだね。
こちら側のゲートキーパーの人も「恐れ入ったよ!まぐれじゃなかったんだな!俺はあんたらに賭けたからな!」って凄く応援して送り出してくれた。
それはきっとこの会場の流れと同じ。
観客たちも、あたしたちに賭ける人が増えてきたのだろう。
だから当然、入場した時のブーイングの数もすっかり減っていた。
「対するは、優勝回数5回!再起不能にした相手は数知れず!」
「病院送りは当たり前!」
「ゴミ掃除はお任せあれ!」
「断罪の処刑マシン!チョコボ・サム推薦、カッター&スイーパーの入場です!」
そして決勝戦の相手も勿論普通では無かった。
向かいの扉から響いてきたのはキュイイイイン…という機械音。
ガタガタと無理矢理扉をこじ開けてきたのはふたつの兵器。
ひとつは回転カッターを、もうひとつは銃口を付けた殺人マシーンだった。
「ロボット!?」
「神羅の機械兵器か!」
「何でそんなの出てくんのさ!!」
また人じゃない感じか!
まったくバラエティに富んだことで!
でもこれは、七六分室で相手にしたのと似てるかな。
銃の付いてる方は多分同じやつだろう。
じゃあカッターの方は?アレ何よ、最新型!?
なんでそんなもんがこんなところに出てくるのか…。
だけど、倒し方は七六分室の時と同じ要領でいいよね。
あたしは剣を構えながらそっと装備した雷のマテリアに触れた。
「クラウド。サンダラの詠唱するよ」
「ああ、頼む」
「エアリス、詠唱の間、サポートお願いしていい?」
「勿論!」
役割分担は完璧。
あたしたちはマムの推薦だけど、こいつらはチョコボ・サムの推薦って言ってたかな。
それならさっきのコイントスのお返ししなくちゃね。
結構根に持つタイプなんだから!
「「コルネオ杯決勝戦、レディィィファイッ!」」
盛り上げ役ふたりの合図で決勝戦の火蓋が切って落とされる。
これに勝てば、終わり!
これでやっとティファを助けに行ける!
「うおおおおっ!!!」
「サンダラッ!!」
エアリスのサポートを受けながら、クラウドとの連携。
七六分室の時と同じようにクラウドが一気に剣で装甲を弾き飛ばし、剥き出した機体に浴びせる雷。
こうしてあたしたちは見事、コルネオ杯の頂点に立ったのだった。
「やったー!優勝ー!」
控室に戻るなり、あたしはわーいと万歳した。
うん、ルールは無茶苦茶だったけど全部叩きのめしてやったもんね!
勝ちあがって優勝とはなかなか気分が良いモノだ。
そう言う時は、素直に喜んでおくんです。
「これで、ティファを助けられるね!」
「うん!次は屋敷に殴り込み〜!」
「その前にマダム・マムだ。服を用意して貰うんだろ?」
「「うん!」」
優勝したら推薦の為の服を用意してくれる。
マムはそう約束してくれたから、早く会いに行かないと。
賞金の100万が手に入って、マムも喜んでるのかな?
そんなことを話していると、ドンドンっと控室の扉が叩かれた。
「喜んでるところ、悪いね」
「あっ、マム!」
カチャリと扉を開けて入ってきたのはマムだった。
あ、まさか向こうから来てくれるとは。
もしかして「よくやったね〜」とか言ってくれるのかな。
「マム!あたしたちちゃんと優勝したよ!」
「わかってるよ。ナマエ、その浮かれっぷりに水を差したかないけど、ちょっと聞きな」
「あてっ!」
タタッとマムに近づいたら、ぺしっと額を扇子で叩かれた。痛い…。
けど、水を差したくないってどういうことだろう。
クラウドとエアリスも意味が分からないとマムを見る。
するとマムは溜息をついてこう言った。
「残念だけど、もう1戦やってもらうよ」
「…はい?」
もう、1戦…?
言葉の意味を考えて、一瞬きょとんとする。
ルール無用の闘技場。
どうやらまだ、終わるには早いようだった。
To be continued
prev next top