推薦の条件



「さてと、誠意はしかと見せて貰ったよ」





クラウドが手揉みを受けた事によって、マムの言う誠意というものを見せることが出来たらしい。
一番高いコースにした甲斐もあったのかな?





「あんた、ナマエだっけ?あんたも面白かったしね」

「へ?」

「いいよ、頼みってやつを聞こうじゃないか」





マムはカウンターの方に戻りながらそう言ってくれた。
その際、あたしはぺしっと扇子で軽く頭を叩かれたけど。

…お、面白い?

もしやポロッと零れたお綺麗だなあ発言か?
お世辞でもなんでもなく本心を言っただけだけど、エアリスの言う通り上手く世の中渡れちゃった感じなんだろうか?

まあ、気に入って貰えたのなら悪い気はしない…というか嬉しいけどね。

なんにせよ、話を聞いて貰えるなら有り難い。
マッサージでぼんやりしてたクラウドもそろそろ落ち着いて来たみたいだし。

あたしとエアリスはマムのもとへ行き、改めて推薦状のことをお願いした。





「私とナマエをコルネオさんのオーディションに推薦して欲しいんです!」

「貴女が代理人だと聞きました!どうかお願いします!」

「そりゃ随分と物好きだね」





頭を下げたあたしたちに変わり者だと言うマム。
そして「ふーん…」と少し品定めするような感じでまじまじと見てきた。

う…ちょっとドキドキだ。

でも、そうしてマムは頷いてくれた。





「まあ、いいだろう」

「え!」

「ほんと?」





聞いてもらえた!!やった!!
そうあたしとエアリスは顔を合わせた。

だけど喜んだのも束の間。
どうやら話はそんな簡単にトントン拍子にとはいかないようだ。





「ただし、枠はひとり。あんたらのうちどちらかだよ」

「「どちらか…」」





そう言われてあたしとエアリスはまた顔を合わせた。

ひとりだけか…。でもそうなると、あたしでも推薦してもらえるならやっぱり完全に巻き込んでるだけのエアリスは避けるべきだよね。

そう思ったあたしは「はい!」と手を挙げた。





「はい!はい!じゃああたしを推薦…もがっ!」





だけど、エアリスに口を塞がれた。
むぐむぐしながらエアリスを見ればあたしの口を抑えたままぷくっと頬を膨らませている。あ、これはダメって顔だ。

でもじゃあ、どうにかしてふたりとも推薦してもらう…?どうやって?
わざわざマムが枠はひとりって言ってきたんだからそれは厳しい気がする。

もうちょっと粘って、とにかく頭を下げてみる…?
まあ、ここで諦めるよりかはもう少し頼んでみるのもアリかもしれないけど。

エアリスに解放して貰いながらそう考えていると、マムと目が合って顔をしかめられた。





「なんだいその、どうしようかなもう少しだけ頼んでみようかなみたいな顔は」

「…あたし何も言ってないです」

「顔に書いてあるよ。ったく、ほんと正直だね、あんた」





図星を突かれ思わず視線を逸らす。するとマムにため息をつかれた。

ていうか待って。そんな顔に出てる?
ちょいと的確すぎやしないか?心読まれてるみたいで怖いんですけど!?

なんかショックでズーンとする。

でもそうしているとマムは「ふーむ」と何か少し考えてくれていた。





「まぁ、どうしてもって言うなら少し考えてやらないこともないよ」

「え?」





あたしはパッと顔を上げた。
ふたりとも推薦する何かいい案でもあるのかな?

するとマムは何やら妖しげに笑う。
その笑みは少し怖い…とかはちょっと黙っておこう。
それが賢明なのはわかる。

でも何かしらの方法があってふたりで入れるのならそれはこちらのベストではあるから。





「けど、どちらにせよその格好のままじゃ駄目だよ。あんたらふたりともね。そんな貧乏くさい格好をした女を連れてったとあっちゃあ代理人としての信用に傷が付いちまうからね」





色々話していると、服装についても指摘された。

び、貧乏くさい…。
その容赦ない言葉にグサッときつつ、あたしとエアリスは互いの格好を見た。





「この服、ダメ?気に入ってるんだけどなあ」

「うん。ピンク可愛いよ。エアリスに似合ってる」

「えへへ、ありがとう!私もナマエの格好、好き!動きやすそうだけど可愛いの選んでるよね」

「ほんと?へへへ〜、うん、まぁあたしも自分なりに気に入ったのは着てるよ」





エアリスに褒めて貰えてちょっと照れ笑い。
でもあたしもエアリスの格好は可愛いと思ってた。

あたしは基本的に服を選ぶ時は動きやすさに重点を置く。
モンスター退治とかやってる以上はそれが一番だしね。

でも、その上で自分の好みというか、可愛いな、カッコいいなと思うものを着ているわけで。
そりゃ多少はお洒落したいし、好きなモノを着たい。

まあもともと動きやすいのが好みなのもあるし。

だからそれを好きだと言ってもらえるのは素直に嬉しく思う。

するとその時、エアリスは何を思ったのかニヤリと笑った。
その顔に「ん?」と思ったのとほぼ同時、エアリスはあたしの肩を掴んでマムと向き合っていた体をくるりと反転させた。そうして今度、あたしの視界に映ったのはクラウド。

エアリスはそのままあたしをクラウドの方に押しやると楽しそうな声でこう言った。





「ね!クラウド!ナマエの格好、可愛いよね!」

「え!?」





突然、クラウドにあたしの服の感想を求めたエアリス。
あたしはビックリしてぎょっとした声を上げた。

いや、ちょっと待って!?女の子同士でこれ可愛いね〜あれ可愛いね〜うふふ〜するのは楽しいよ!?
けどクラウドにファッションチェックされる心の準備はできてませんけど!?

あたしのそんな焦りなど知ってか知らずか、いや多分知らないね!?
でも尋ねられれば自然とクラウドの視線もあたしの服装にいくわけで…。

待って待って!!そんなまじまじと見られると緊張するよ!?
でもエアリスに肩を押えられてるから逃げるに逃げられない。

クラウドは顎に手を当て、素直に「うーん…」と服の感想を考え出す。

ちょちょちょ!好みじゃないとか言われたら普通に泣くぞ!?
ひいいいいっと心で悲鳴を上げていると、クラウドはこくりと頷きながら答えた。





「ああ。俺もいいと思う」

「え、」





あ、え、結構普通に…。

正直意外?
いや、じゃあどういう反応が返ってくると思ってたのって、そう聞かれるとわからないけど…。

可愛いよねに対して、頷く…。
…俺も、いいと思う、か。

なんだか胸の奥がじんわりした。
あ、どうしよ…。かなり嬉しいかも…。

どう言葉を返そうか、少し悩んだ。
だから少し戸惑いがちになっちゃったけど、あたしはお礼を言った。





「あ、ありがとう…」

「あ、ああ…」





変な返し方しちゃったからかな。
頷くクラウドも少しだけどもっていた。

すると後ろからエアリスがクラウドに向かって「うん!上出来!」と言った。

じょ、上出来…?
あたしは首を傾げる。一方で、クラウドはちょっと顔をしかめてた。





「ふうん…、あんたらの関係性、わかった気がするよ。鈍感ふたりかい」





そしてその様子を見ていたマムがそう言う。

関係性…?鈍感…?
振り返ればマムはまた緩やかに扇子を仰ぎながら何故か呆れ顔をしていた。





「なんにせよ、イチャつくなら店の外でやっとくれ」

「いちゃ…」





その一言に固まった。

い、イチャつく…。
そんなつもり毛頭ない。ていうかそんな事象が起こるわけがない。

けどマムからすればそんなもんどうでもよくて今のやり取りはただの茶番でしかなかっただろう。
だからとりあえず「す、すみません…」と謝り、話を推薦の事に戻した。

うん、まあでも貧乏くさい云々はともかくで、そういえばティファもドレス着てたよなぁと思い出した。
大人っぽくてセクシーで、あんなドレスがバッチリ似合うティファすげぇよみたいな…って、なんかまた話脱線してるな。

とにかく、要は着飾らなきゃいけないってことなのだろう。

あたしとエアリスは再び顔を合わせ、どうしようかと悩んだ。





「でも、服…どうしよう」

「うん…ドレスなんて持ってないよ、あたし。持ってたとしても取りに戻れないし」

「心配しなさんな。あたしがコルネオのハートを射抜く服を身繕ってやるよ。払うもんさえ払えばね」





するとマムはその面倒も見てくれると言った。
でもやはりタダというわけにはいかない。

クラウドが金額を尋ねた。





「いくらだ」

「ざっと100万」

「ひゃ…」





提示金額にあんぐり口が開いた。

ひゃ、100万…!?
え、ついさっき3000のマッサージで悩んでた一行なんですけど…!





「と言ったところで、あんたらが払えないってことは百も承知さ。だから提案があるんだよ。それを飲めば、ふたりいっぺんの件も考えてやるさ」





マムはあたしたちが狼狽えるであろうこともちゃんと見越していた。

提案…。
あ、さっきのふたりとも推薦の条件もここに掛かってくるのか…。

そうとなれば聞くしかない。





「この街には地下闘技場があってね、クラウド、あんた、あたしの推薦で出場しな。そこで優勝出来たら、ナマエとエアリスをとびきりの美女に仕上げてやるよ」

「賞金が出るのか」

「推薦人のあたしにね。どうだい、乗るかい?」

「わかった」

「良い返事だ」





条件は地下闘技場での優勝。

バトルとなればクラウドにはこれ以上に無い得意分野だ。
そうとなれば勿論自信があるわけで、特に迷う事なくすぐに承諾していた。

その返事にはマムも機嫌が良さそうだった。

でも、バトルなら得意なのはクラウドだけじゃない。





「それ、推薦に人数制限とかあります?あたしも出たいな。出れませんか?」

「なんだい、あんたも腕に自信があるのかい?」

「まあ、それなりにはです!」





むんっと拳を作って主張してみる。
マムは「ふーん」と言いながら腰に差した剣を見ていた。





「ま、何人だって構わないさ」

「お、やった!クラウド、いいでしょ?」

「まあ…」

「よっし!じゃあ決まり!あたしも出る!」





よーし、なんかちょっと燃えてきた。
慣らすように腕をぐるりと回す。





「こいつを受け取りな。もう受け付けは始まってるからね。急いで闘技場に向かいな」





そしてマムはクラウドに出場券を渡した。
覗いてみれば『コルネオ杯出場券』と書かれている。

なんか、どこでもコルネオって感じだなあ、この街。

まあ、今はとにかく闘技場だ。
マムに急かされたこともあり、あたしたちは急いで闘技場…コルネオコロッセオへと向かった。





「今からエントリーか?ったく、ギリギリだな」





闘技場に着くと、受付のお兄さんに舌打ちされた。
なんだかそんなガラの悪さにも少しずつ慣れてきてしまっている自分がいる…。
それが良い事なのかどうなのかは知らんけど…。

でも急かされたのも納得だ。どうやらもう受付ギリギリだったらしい。





「3人で出るのか?」

「いや、俺とこっちの…」

「3人でお願いします!」





人数を数えたお兄さんの質問にあたしを見ながらクラウドが答えようとすれば、エアリスがその声に被せる様に先に答えてしまった。

え、3人?って、エアリスも出ると…!?

あたしはエアリスの肩を叩いた。





「え、エアリス、出るの?危ないよ?」

「もう、そんなのナマエも同じでしょ?それに、推薦してもらうの、私もなんだから。だったら、私も出る権利、あるよね?」





エアリスはそう言い切り、ニコッと笑う。
出る権利…確かに、そりゃそうなのかもだけどね。

チラッとクラウドを見れば、クラウドも仕方ないなって顔してた。

まあ、なんだかんだエアリスって魔法とか強力だし、いてくれたらいてくれたでそのサポート力は絶大だろう。





「あはは、うん、じゃあ、3人でがんばろっか」

「ふふ、そうこなくっちゃ!」

「じゃあお三方、地下の控室へ進んでくれや」





こうして3人でのエントリーを済ませたあたしたちは地下へと続くエレベーターに通された。

何階、とかそう言うのは無く、ただ闘技場のある場所に向かうだけのエレベーター。
でもそのわりには結構な距離を降りて行ったような気がする。





「思ったより、降りるね」

「ねー。飽きてきちゃうよね」

「どこまで、続いてるんだろ」

「うーん…わかんない。かなーり降りてるのはわかるけど」

「うん。ところでナマエ。クラウド、緊張してるのかな?」

「ん?」

「だってほら、口数、少ないから」

「あー。クラウド、緊張してる?」

「…してない。でも、あんたたちはもう少し緊張した方がいい」





長い長いエレベーター内で交わされるゆっるーい会話。
でも本当に結構長くてまだかなーって感じだった。

何メートルくらい降りただろう。

しばらくして、ガタン…とエレベーターが止まった。





「おい、こっちだ!急げ!」





扉が開いて外に出れば、そこはいくつかの控室が並ぶ一つの通路のような作りになっていた。
あたしたちの控室はこっちだと、係の男の人が呼んでくる。

その声に従い控室に向かおうとすれば、その時ちょうど通路の一番奥…闘技場のステージへと続く扉が開かれる音がした。





「眠らない街、ミッドガル!」

「中でもひときわ輝く綺羅星ウォール・マーケット!」

「あなたの欲望を受け入れ叶える街ウォール・マーケット!」

「あまたの誘惑に目移りすることなく集いし皆さま!ようこそお越し頂きました!」

「ご安心ください!今宵、世界で最も熱い場所は、ウォール・マーケットのまさに今ここ!地下闘技場で間違いありません!」

「優勝賞金はなんと100万ギル!ルールはたったひとつ!相手を叩きのめす!」

「完膚なきまでに!」

「ぶちのめす!」

「容赦なく!」

「血反吐を吐かせ!」

「舐めさせた者だけが!」

「最後まで立っていた者だけが!」

「賞金と名誉を得るのです!」

「さあ血に飢えた野獣どもが放たれる瞬間を今か今かと待ち望んでいます!」

「大変長らくお待たせいたしました!異種格闘デスマッチ!コルネオ杯を開催いたします!」





会場ではふたりの男が場を盛り上げている声が聞こえた。
そしてその盛り上げにワッと沸く歓声もまるで雄叫びみたいに響いてくる。

本当に、なんだか欲望のままに…というか。





「なんだか、すごいとこに来ちゃったね…」

「うん…。思ってたより、凄いのかも…」





エアリスとふたりでちょっと呆気。
別に怖気づいたとか、そういう事はないけど。





「この街の大会だ。ろくなものじゃないだろうな」

「うん、だろうね…。この歓声聞いて改めて思ったよ」





クラウドの言葉に頷く。
ろくなものじゃなさそうなのは、今の雰囲気で凄くわかった。





「優勝できそう?」

「そこは心配していない」





クスッと笑いながら自信を尋ねたエアリスにクラウドは平然と頷く。
おお、自信たっぷり。流石だ。そんな姿は頼もしい限り。

何が来ても大丈夫。
必ず優勝を掴み取ってやる!

ティファにも、着実に近づいてるよね?

そう気合を入れ直し、あたしは剣に触れたのだった。



To be continue


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