屋根伝いの冒険



エアリスを連れ、無事に教会の屋根裏の穴から脱出することが出来た。
色々あったからか、触れられた外の空気は何だか清々しい。

その嬉しさと爽快感に、あたしはワーッと両手を挙げて喜んだ。





「やったー!おーそーとー!!」

「ふふ、うん、やっと外!ね、屋根の上、行こう。ほら、あの柱のそばに駅、あるの」





エアリスは指をさして駅の方向を教えてくれた。

ほう、柱のそば。
言われた方を見てみる。

あたしは正直、伍番街の土地勘はあんまりない。
だからエアリスの案内は素直に有り難かった。

まあとりあえず、もう神羅も追ってくる気配はなさそうだし、少し落ち着いても大丈夫そう。

そうとわかればウキウキを抑える必要も無いよね。

だってほら、屋根の上歩くとかワクワクするじゃない!





「よし、じゃあ行こーう!」





あたしは上がったテンションに突き動かされるまま、ぴょんっとその場から一番乗りで飛び降りた。





「あ、おい、ナマエ!だから、ひとりで突っ走るな!」





でも、タンっと軽く着地したとほぼ同時。
後ろからクラウドの注意の声が飛んできた。

な、なぜに…。





「ええ…別に突っ走ってないよー。…なんかクラウド、怒ってる?」

「…そうだな。無茶するなって言っただろ」

「無茶なんかしてないよ?」

「さっきもひとりで先にあの足場渡っただろ」

「え、あれ無茶?」

「無茶だ」





そう言いながらクラウドも降りてきた。
エアリスもそれに続く。

無茶するな、って確かに言われてたけど。

どうやらクラウドの中ではさっき教会の中にあったあの細い足場を一番に渡った事が無茶と言う事になるらしい。
うーん、お兄さん心配性では…。





「ねえ、ナマエとクラウドって、どういう関係なの?」





そんなやり取りを見ていたエアリスがそう聞いてきた。

どういう関係?

それを聞きあたしはクラウドを見る。
クラウドもこっちを見てた。

お互い顔を合わせ、数秒。

あたしは頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。





「ボスと子分」

「ボス?」

「…おい」





エアリスは首を傾げ、クラウドからは若干の低い声が返ってきた。
えー?だってそうじゃんね?

まあでも頭の悪そうな説明してる自覚はあるからオホンとひとつ咳払いをしてもう少しちゃんと説明した。





「えーっと、なんでも屋さんと、その助手してます。ね」

「…ああ」

「それだけ?」

「それだけとは…」





ちゃんと正しい説明したのに、何故か首を傾げられた。
え、なにゆえ。でもそれだけって言われちゃうと…。

あたしは「うーん?」と頭を捻らせもう少し考えてみた。





「あとは、ええと…つい最近引っ越してきたご近所さん?」

「ご近所さん?」

「うん。同じアパートなんだよ。あたしが1階でクラウドがその真上。ね、クラウド」

「ああ…」





同意を求めればクラウドも頷いてくれる。
うんうん、そうだ。ご近所さんだよね、クラウド。

これもなかなか的確な説明なのでは?





「ふーん…成程…そう言う感じなのね」





するとエアリスはコクコクと頷き、ひとり何かに納得していた。

そう言う感じ?…って、どういう感じ?

あたしは首を傾げてクラウドをちらり。
クラウドも反応に困っている様子。

あ、うん。だよね。そうだよね。
おっけー、困惑してるのはあたしだけじゃない。それが分かれば十分だ。

エアリスはくすっと笑う。
そしてこれからのことをあたしたちに尋ねてきた。





「ねえ、これからどうするの?」

「しばらくはボディーガードだ」

「そうでした」

「うん!あたしも助手なので!お守りします!」

「ふふ、うん。よろしくお願いします」





屋根伝いを進みながら、今後のことについて話す。

とりあえず今はエアリスを安全なところへ?
ひとまずは駅だけど、ゴールは家かな?

じゃあその後は…と考えると、クラウドが続けた。





「そのあとは、七番街のスラムに帰る」

「うん、そうだね」





あたしも頷いた。
まあ、普通にあたしたちもおうち帰りましょうって話だ。

…というか、何か色々あって聞きそびれてるんだけど、クラウドってアバランチの作戦行ってたんだよね。それってどうなったんだろう。ていうか何で落ちてきたの。ティファとバレットは?

物凄く気になるけど…、今はエアリスの手前グッと堪える。
流石に今はアバランチのこと聞けないよね。

でもとりあえずクラウドはそう焦って無さそうだから大丈夫だとは思うんだけど…。
まあ、エアリスを送り届けて二人になったら聞いてみるか。

そう自分の中で区切りをつけたところで、エアリスに聞かれた。





「帰り道、わかる?」

「ああ…」





七番街への帰り道。聞かれたクラウドはわかると頷く。
けど、なんとなく濁しているような。





「あやしい」

「うん、あやしいね」

「ね〜」





濁しているのはエアリスも感じたらしくすぐにそう突っ込み、ふたりで頷いた。
うん、今のはあやしいぞクラウド。

クラウドは何も言わずにスタスタ歩いていく。

でも反論しないところを見ると多分わかってないんだろうな〜と思う。





「ナマエは?わかる?」

「うーん、この辺の土地勘はないからなー。でも教会まで歩いてきた道のどこかに出られればそこから来た道戻ればいいわけだよね。遠回りしてないって自信はないけど、まあつけるんじゃないかな〜」

「なんかすっごく適当だね」

「へへ、ま、ミッドガルの中だしどうとでもなるでしょーって感じ?」




なんだかゆっるい会話だ。
いやそうさせてるのはあたしなんだけど。

でもあれじゃん。あれこれ考えるような事でもないし。
力を抜けるところは気楽にいこうぜ〜ってなもんですよ。

そうして気ままなペースで歩いていると、今度はクラウドがエアリスに尋ねた。





「さっきの男、あれは神羅カンパニーのタークスだ。タークスがあんたに何の用だ」

「さあ?ね、タークスってソルジャー候補をスカウトするんでしょ?」

「それは仕事のごく一部。タークスの仕事は他にも色々あるんだ。暴力を匂わせて、」

「脅迫、拉致…最低だよね」

「えええ〜!神羅コワ!ていうかなにその物騒集団…聞けば聞くほどヤバいんだけど」





あの赤髪スーツは神羅のタークスと言うらしい。
とりあえず一般兵を従えるくらいの立場ではあるっぽかったけど、そういう人だったのか。
ふたりの話を聞いて「へー」と色々納得した。

でもクラウドに知識があるのはともかくで、エアリスは一体?
少なくとも、あの赤髪と顔見知りではありそうだった。

まず普通に生きてたらそんな奴らと知り合う機会なんて無いだろう。
確かにエアリスに何の用が…。





「最初の質問に戻ろう。あんたとあのタークスとの関係は?顔見知りに見えた」





タークスがなんたるか、全員の認識が同じになったところでクラウドは改めてエアリスに聞く。
でもそれに対するエアリスの返答といえばあたしに負けず劣らず適当だった。





「ソルジャーの素質、私、すっごくあるのかも!」

「え、あ、え?そう…いう?」

「…もういい」

「あれ、怒った?」





呆れ気味に話を切ったクラウド。
あ、やっぱそうだよね?一瞬、え、わかる人にはわかる何かがあったりするの?とか思ったけどんなこたなかった。

でもまぁ言いたくない、というか何か事情があるのなら無理に詮索するのもあれだしね。

それ以上、この場でその話をすることはなかった。





「こんなところ、私、歩くの初めて」

「あ!あたしも!」

「だよねだよね!」

「うん!」

「普通はそうだろうな」

「なんだかワクワクするよね」

「するね〜。なんかこう心擽られるよね!」

「まあ、最初はな」





廃屋の屋根の上を歩きながら、エアリスと一緒にはしゃぐ。
クラウドは素っ気なかったけど、でも共感はしてくれてるみたいだからちょっと嬉しい。

普段通らない、通っちゃいけないところっていうのかな。
そう言うちょっといけない事してる感じ、そういうのって何か楽しいよね。

所々ぼろぼろだし、本来人が歩くように作られていないそこは飛び移ったり飛び降りたり。

クラウドは流石の運動神経でなんてことなくスイスイと進んでいく。
無駄がなくて格好いいな〜とかそんな事を考えながらあたしもその背中を追い掛ける。

先頭を進んでくれるのは通れる証明をしてくれているみたいだ。

だかしかし2番目を歩いている身としてはこう後ろも気になるのです。
うーん、あたしは平気だけど…ちょっとペース、早いかな…。





「クラウドー!ストップ!」

「なんだ?」

「あれ」





あたしはクラウドを呼び止めた。
そして振り返り、ちょっと後方を見るよう指をさした。





「待って、ちょっと待って!」





後ろを見れば、そこには屋根の間を飛ぶのに戸惑っているエアリスの姿。
あたしはクラウドに手招きし、ふたりで引き返せばエアリスは意を決すように屋根を飛んだ。





「…ふたりで先、行っちゃうんだもん」

「ソルジャーの素質があるんじゃなかったか」

「いじわる」

「あははっ!」





さっきのエアリスの言葉を逆手にとっていじるクラウド。
エアリスはわざとらしくぷくっと頬を膨らませる。

そんなやり取りにあたしは思わず声を出して笑った。

するとふたりもあたしの笑いに釣られる様に頬を緩ませて、結局3人で笑ってた。





「このあたりは誰も住んでないのか」

「うん。怒られないから安心して」

「住んでたらドタドタバタバタ超迷惑だよね、あたしたち」





今更だけど無人であることを確認してなんだかちょっとホッとした。
いや、住んでないんだろうな〜とは思ってたけど、確信に変わって良かったなと言うか。

住んでないのわかってても、こう、なんとなく本当に大丈夫だよね?みたいな心理はあったからね。





「ほら、壁」





しばらくすると、辺りを見渡せるくらいのちょっとしたスペースに出た。
そこでエアリスはあたしたちに教える様に少し遠くを指をさす。

見えたのはエアリスの言うように壁。

それはミッドガルと外の世界との境だった。





「一度、外に出ようとしたことあるんだ。でも、結局行かなかった」

「危険だからな」

「ミッドガルの外、自然、いっぱいなんでしょ?私、そんなところで生きられないかもって、時々思うんだ」





落ちない様に設けられている柵に肘を置き、景色を眺めていればエアリスはそんなことを話してくれる。
ミッドガルの外の世界…か。それを聞きあたしも頷いた。





「あたしも、生まれてから一度もミッドガルの外には出た事無いや」

「ナマエも?」

「うん。だからちょっとわかる。怖いって気持ち。でも興味はあるよね。まあ今のところ外に出る必要が無いから、ずっと中にいるけど」





外の世界からミッドガルに来た人っていうのは、結構いると思うんだよね。
でもその逆っていうのは…。

勿論ずっとずっと広い世界があることは知ってる。
でも、出る必要性を感じないのもまた事実。

出たところで宛てもないしね。





「この風景、私、嫌いじゃない。スラム、好きなんだよね。皆、強く、強く生きてる。時々、それ感じて、嬉しくなるんだ」

「うん、わかる気がする」





景色を眺めて微笑むエアリスの言葉に頷く。

エアリスの言っている意味、何となく分かる気がした。
逞しく…というか、本当に皆強く生きてるって、そういう感覚。

上に住んでたって言うと、上の方が便利だなんだって話になっちゃうんだけど…。
でも、あたし、スラムでの今の生活も好き。

それは、紛れもない本音だった。





「今度は私が先。クラウド、待ってくれないんだもん」





進んで、今度は両足を並べるのがやっとくらいのパイプの道が出てきた。
さっき置いて行かれたエアリスは自分が先に行くと前に出る。

まあこれはさっきの教会の足場と違って崩れ落ちたりすることは無さそうだけど。

クラウドはちょっと心配そうだ。





「大丈夫か?」

「よゆ〜、よゆ〜。じゃ、ナマエ、手、繋いでて!」

「えっ?あたし?」

「うん、一緒にいこ!」





エアリスに手を差し出される。

その笑顔は明るくて、優しくて。
だからあたしは「喜んで!」とその手を握った。

そしてエアリスを先頭に、クラウドより先にふたりでパイプを渡り始めた。





「ほらね!ね、ナマエ!このままクラウド置いて、先行っちゃおうか!」

「あはは!いいね〜!置いてっちゃう?」

「って、うわっと…!」

「うわあっ!?エアリス!」

「口を閉じたほうが良い」





ふたりで笑っていたら、エアリスがバランスを崩してその身体が揺れた。
あたしは釣られてよたりそうになりながらもなんとか耐えてエアリスの腕を掴む。

すると後ろのクラウドからは調子に乗ってるからだと言わんばかりの突っ込みが飛んできた。うう…。





「じゃあ、クラウドの話、聞かせて?」





でもエアリスはめげない。
体制を持ち直した彼女はあたしの手を掴みながらくるっと首だけ振り返り、クラウドに向かってそう言う。
あたしも一緒にクラウドを見た。





「…業務外だ」

「ええ…」

「ケチ!」





あたしたちに続いてパイプに足を掛けたクラウドは何も教えてはくれなかった。

えー、あたしもちょっと聞きたかったな。
残念がるあたしとわかりやすくむくれるエアリス。

まあこんな足場の悪いところにいつまでもいるのもアレだ。
あたしはエアリスを促し、ふたりでうまくバランスを取りながらパイプを渡りきった。





「は〜…よかったよかった」

「あんたもわりとドジだよな」

「なんですと…!」





渡りきって安堵してるとクラウドからドジ呼ばわりされた。
なんてこったい…!





「そ、そんなことないよ!」

「この間、何もないところでズッコケてただろ」

「…なんで見てるの」





否定して、でもすぐに説得力が無くなった。

確かにこの間クラウドと歩いてた時、ちょっと足グニッてなったけど!
パッて見たらクラウドこっち見てなかったからセーフと思ってたのに見てたのか…!

なんかあの時の微妙な恥ずかしさが戻ってきて何とも言えない気持ちになった。





「クラウドー!ナマエー!早く早くー!」





その時、下の方からエアリスの声がした。

下の方、とは。
それはこの先にある滑り台のようになっている鉄のトンネルの下。

エアリスは一足先に、そこを滑って降りていた。





「行くぞ」

「はーい」





クラウドとあたしも後を追い、そのトンネルを滑り降りる。

これがまた楽しくて「やばい、もっかいやりたい」って言ったらエアリスは「じゃあもっかい上る?」って言ってくれた。
クラウドには「勘弁してくれ」って呆れられたけど。

そんなやり取りにまた、エアリスとふたりで笑った。

ああ、なんかこのほのぼのとした感じ、凄く良いなあ…。

エアリスとはまだ会ったばかりだけど、今こうして一緒にいる時間がとても楽しい。
なんだか凄く、そう思ってた。





「っと…」





そしてついに、屋根の道の終わり。
梯子や階段が見当たらず、飛び降りるしか手段の無いところ。

当たり前だけど、クラウドは難なく飛び降りた。
飛び降り方すらスマートでカッコイイなとかちょっと思う。

あたしは…ま、ちょっと高いけどこれくらいなら平気かな。
淵に立って見下ろして、高さを確かめるとあたしも軽く飛び降りた。





「大丈夫か?」

「うん。平気!」





着地の衝撃を和らげるようにしゃがんで手をついた。
立ち上がりながら手の土をパンパンと叩いて落とし、声を掛けてくれたクラウドに頷く。

そして残りのあとひとり…。

あたしとクラウドは残っているエアリスを見上げた。





「エアリス、大丈夫?」

「飛べるか?」

「…もちろん!」





彼女はそう笑顔を見せた。

…けど、多分あんまり大丈夫ではなさそう…。

下を見て、勢いを乗せる様に腕を振って。
何度も意を決すけど、でもやっぱりなかなか飛び降りられない。

あたしはちらりとクラウドを見た。





「…手伝ってあげないの?」

「飛べるんだろ」

「意地悪だなあ…」

「…本当に無理だったら言うだろ。今手伝ったら平気だったのにとか言われそうだ」

「あー…あははっ、確かにね」





小声で話してくすりと笑う。

確かにそれは言われそうだ。
まあクラウドの言うように絶対に無理だと思ったら言うだろうし、出来そうなことは自分でとはエアリスも思ってそうな気はする。

だけどその瞬間、突然、建物の隙間から鳩が飛び出してきた。
鳩はエアリスのすぐ傍を飛び抜け、それに驚いたエアリスは屋根の淵でバランスを崩してしまう。





「きゃあっ!!」

「っ…!」

「エアッ…!」





クラウドは咄嗟に駆け出した。
悲鳴みたいな声でエアリスの名前を呼びかけるしか出来なかったあたしとは流石のえらい違い。

クラウドは見事、落ちてきたエアリスの体を抱き留めた。





「…頼もしい〜」





ぎゅっと目を閉じていたエアリスはこなかった衝撃にそっと目を開け助けてくれたクラウドにそう言った。

いや、うん…まったくもって同意だ。
頼もしすぎる…カッコイイよクラウド。

けど、そんなことに見惚れてる場合じゃない。あたしも慌ててエアリスに駆け寄った。





「エアリス、大丈夫!?」

「えへへ、ごらんのとおり」





クラウドに抱き留められたまま、へらっと笑ったエアリス。
するとクラウドが「はあ…」とため息をついた。





「…あんたといると退屈しない」

「ほめられてる?」

「皮肉だ」





クラウドはそう言いながらエアリスを下ろした。





「早く慣れてね!」





エアリスはやっぱりめげない。
彼女はウインク付きでクラウドにケロッとそう言ってのけた。

クラウドの方は、やっぱり呆れ顔。

それを見て思う。
あ、うん。あたしは、やっぱり凄く楽しいかも。





「あははっ!ほんと、退屈しないね!」

「あー、ナマエも皮肉?」

「ううん!あたしは褒めてるよ!」

「ほんと?」





「ナマエー!」とエアリスはあたしに抱き着いてきた。
あたしもエアリスを抱きしめ返して、またふたりでキャッキャと笑った。

その時クラウドを見れば、あ、やっぱり呆れ顔。
でもふっと、ちょっとだけ笑ってた。

ボディーガードの依頼。
なんだか楽しいお仕事になりそうです。



To be continued


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