腹が減っては戦は出来ぬ
「ここ、伍番街スラム駅の近く。駅の近くなのにモンスターが出るんだ」
「ふん」
「うわあ…だからどうしたって顔してる」
「街のモンスターなんて、たかが知れている」
「えー、ナマエもそう思う?」
「うーん、まあ比較的そうかなー」
屋根伝いから降り、普通の道に出た。
そこはエアリス曰く伍番街駅の近くなのだという。
モンスターが出るらしいけどクラウドは何食わぬ顔をしていた。
でも、あたしもそんなに心配はしてない。
だってクラウドの言う通り、街に出るモンスターはそう厄介ではないはずだし、それにクラウドが一緒なら苦戦はしないだろうからね。
「クラウド、スラムのことはあまり知らないんだよね?」
「あんたに比べれば、多分な」
「ナマエは?詳しい?」
「んー、住んでるから多少なりとは。でも行く場所って決まってるから行かないところは全然かな。伍番街とかはまったくわかんない」
「ふーん、そっかあ」
「クラウドは任務とかで外に行ってた時間も多そうだよね」
「そうだな。訓練場、宿舎、現場…それが俺の世界だ」
「なんか、かっこつけてる?」
「……。」
「ふ…あはははっ!いいじゃん!カッコイイよ、クラウド!」
エアリスはクラウドにズバズバとモノを言い放つ。
なんだろう。なんかこう色々とエアリスの方がウワテで転がされてると言うか。
それがおかしくてあたしはさっきからだいぶ笑ってた。
してやられて笑われて、クラウドの方は物凄く微妙そうな顔してたけど。
そうして話しながら歩いていれば、流石近くと言うだけあって駅にはすぐにつくことが出来た。
「どうか皆さん、落ち着いてください!」
「おいどうなってんだよ!」
駅には結構な人が集まっていた。
そして同時に、なんだか混乱していた。
ざわざわとする人々。
それをなだめる駅員さん。
なんでこんなにざわついてるんだろう?
「騒がしいな」
「うん…なんだろうね」
クラウドとあたしはその様子を不思議に見ていた。
するとエアリスが教えてくれる。
「魔晄炉、よく見えるからね、ここ」
言われて見上げる。
そこで確かに、気が付いた。
本当だ…ここ、魔晄炉が見える。
騒ぎの理由はわかった。
それは、爆破された魔晄炉か…。
あたしはその視線をちらりとクラウドに向けた。
クラウドも魔晄炉を見上げていた。
「野次馬か」
「みんな、心配なんだよ」
「…うん」
エアリスの言う通り、みんな心配してるのだろう。
あたしはこくんと頷いた。
エアリスはここで何人かの知り合いに声を掛けられていた。
教会帰りで破片が落ちてこなかったか。
電車の他に上に行く方法がないか。
心配と混乱。
でもうん…。
爆破、したんだよね。
昨日から知っていた事。
やっぱり、こう混乱する様子を見ていると…思う事はあった。
ただ前の作戦のように悲惨な状況にはなっていないようだ。
被害、抑えられたんだろうか…。
それに、クラウドも無事でよかった…。
それは素直に思う事で…。
知り合いと話すエアリスを待ち、あたしたちは駅を抜けた。
「待て」
駅前を抜けてすぐ、クラウドがあたしとエアリスを呼び止めた。
どうしたのかと彼の視線を追えば、空に浮かぶヘリが見える。
全然意識してなかったけど、そこでさっきからバラバラというプロペラの音がしていたことに気が付いた。
機体には、神羅の文字。
ていうかスラムでそんなもん見かけるとしたらまず神羅でしかないけど。
見ていればヘリの扉が開き、垂らしたロープを伝って兵士が数人降りてきた。
そしてその最後に、真っ黒なスーツを着たスキンヘッドでサングラスの男がひとり。
あれ。黒いスーツって、もしかして?
見つからないよう物陰に隠れて様子を伺いつつ、あたしはクラウドに聞いた。
「ね、クラウド?あれってもしかして?」
「ああ、タークスだ」
頷いてくれたクラウド。
あたしは「やっぱり」と手を叩いた。
神羅で黒スーツ。
それで浮かんだのはさっき教会で会ったあの赤髪スーツだ。
どうやら今のサングラスはあいつと同じ所属って事で良いらしい。
「働き者だね」
「ね」
「よほど大事な用らしい」
大事な用…。
エアリスと感心していればクラウドがそう言う。
でも確かに聞いてるとタークスって何かちょっと精鋭と言うか、そんな感じはする。
それが駆り出されてるっていう事は、何か重大なことなのかも。
エアリスは首をひねった。
「私?クラウド?それともナマエ?」
「いやあたしは無いでしょ」
あたしはいやいやいやと手を首を振った。
エアリスと元ソルジャーのクラウドはわかるとして、なんであたしだ。
…でもまあ、さっきの赤髪スーツはエアリスが目的だった。
だから多分あのサングラスさんの狙いもエアリスなのだろう。
赤髪スーツが怪我をしたから、代わりに出動…とか?いやわからんけども。
「なんにせよ、見つかると面倒だ」
「うん」
クラウドに頷いた。
赤髪スーツもなんだかんだ強かったもんね。
だから多分あのサングラスさんも強いんじゃないだろうか。
まあ神羅となんてぶつからなくて済むならそれが一番だ。
「じゃあ、裏道、行こうか。モンスター、いるけど」
「神羅よりはマシだ」
「だね。援軍呼ばれても面倒だし」
裏道だという方を指差したエアリス。
クラウドとあたしはそちらに進むことに賛成した。
なんでもその道は神羅指定のごみ捨て場らしく、スラムの人も奥へは滅多に行かないらしい。
人が寄り付かなければモンスターが寄りやすい。
さっきまでと種類は変わらないし、そんなに強いモンスターってわけじゃない。
だけど数は一気に増えた。選んだその裏道はいわばそんな感じだった。
「ほら、あれ、スラムの中心」
しばらく進むと、ちょっとスラムを見渡せる高い場所に出た。
エアリスが教えてくれたスラムの中心は、まだだいぶ距離があるように見える。
「わー…あそこかー…遠いね」
「ああ、まだかなりあるな」
「回り道、したからね。疲れた?」
「まさか」
「クラウド流石ー。あたしはちょっとくたびれた感あるかも。まだ平気だけどね」
うーん、と体を伸ばしてみた。
教会を抜けての屋根伝いから合わせれば、まあ結構な距離を歩いただろう。
戦いながらだし、まだ別に平気だけど足がちょっと重くなったなーというか。
まさか、と涼しい顔してるクラウドは流石である。
すると聞いてきたエアリスはふう…と息をつきながらそっとお腹に手を当てた。
「私、お腹すいてきちゃった。ふたりは?」
「あー、それは、すいたかも!」
「だよねだよね!」
「うん!ぺこぺこ!」
「…のんきだな」
言われてみれば確かにお腹はすいたかもしれない。
何かおやつでも食べたい気分だ!
だよねだよねそうだよねとエアリスと盛り上がっていればクラウドが呆れ気味であたしたちを見てた。
いやいや生きていればそれだけでお腹はすくものですよ!
「うち、ついたら御馳走するね!」
「えっ、いいの?」
「もっちろん!」
「そんな暇はない」
「ええー…クラウドー…」
「お母さんの料理、おいしいよ?よし、そうと決まれば、早く帰ってごはんごはん!」
「ごはんごはーん!」
「…ナマエ」
エアリスのおうちでごはんだ〜!!
わーいと喜んでたらクラウドがあたしを見て頭を抱えてた。
い、いいじゃないか!ごはん御馳走になるくらい…!
腹が減っては戦は出来んのですよ!
それに、エアリスとももっとゆっくり話したいし。
なんだか元気出てきた。
そうして気合を入れ直し、あたしたちは歩みを再開した。
モンスターを蹴散らしては進み、蹴散らしては進み。
やがて、モンスターの数が減ってきた。
それは人がいる場所が近い証拠だ。
「無事、抜けたね」
エアリスが明るい声で言った。
見ればもう目前にスラムの町が見える。
やっとかー…なんて、なんだかちょっとホッとした。
「礼はいい。報酬が貰えればな」
でもクラウドは特に喜ぶことなく。
うーん、リアリスト?
するとエアリスはひょうひょうと答えた。
「ん?支払中ですけど」
「ん?」
「ん…?」
「んん?」
何故かみんなで「ん?」のオンパレード。
支払中…?
あれ、エアリスの報酬って…。
そういえば、と教会での出来事を思い出す。
《じゃあねえ…それぞれにデート、1回!》
指を一本立てて、可愛らしくそう言っていたエアリス。
それを思い出して、ハッとした。
「ああ!」
「ああ…」
クラウドも思い出したらしく、ふたり同時に納得の声。
いやなんか意味が分かってスッキリしたと言うか腑に落ちたと言うか。
でもこれがデートなのか…。
まあデートって言えばデートなのかもしれないけどね。
「うーん…ダブル、ん?3人…トリプルデート?」
「どれも違うだろ」
「あれ…じゃあこれ何…?1対2…二股?二股デート?」
「なーんか酷い言われよう、だね」
頭空っぽの頭の悪ーい会話。
いやごめん、頭悪いのはあたしだけだけど。
今ホントに何も考えないで喋ってたな。
「ここまで来たら、もう安心」
「タークスを忘れるな」
「あっ…」
「何処から来るかわからない。気は抜くな」
裏道を抜けたことで気を緩くした会話が増えた。
エアリスは頭からタークスのことが抜け落ちていた様子。
かく言うあたしもちょっと忘れてたけど。
そういやそのための回り道でした。
「こっちが遠回りしたなら、向こうは先に此処に来てるのかな」
「かもな」
「待ちくたびれて帰ってくれてたりしないかな〜」
「さあな」
目的がエアリスならば。
そうだったらいいのにね〜なんて。
クラウドの返事は適当だ。
いやあたしもだいぶ適当な事言ってるんだけど。
さっきから頭スッカラカンでごめんなさいね。
むしろ返事してくれてありがとう?
ともかく、こうしてあたしたちは無事に伍番街スラムに辿りつくことが出来たのでした。
To be continued
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