一緒ならなんだって
ゲートがしまってすぐ、約束の照明弾が光った。
ジェシーが撃った、作戦終了の合図。
「よし、作戦終了だ。ひとまず、空き地まで戻るぞ」
「ああ」
「うん」
ビッグスの指示に頷く。
照明弾確認後、あたしたちはジェシーと落ち合う手筈になっている空き地にへと向かった。
「ウェッジを待たなくていいのか」
途中、近道の塀を飛び越えようとしたその時、クラウドが一度足を止めてそう聞いてきた。
あ、やっぱり気に掛けてくれてる。
またクラウドの優しさが見えた。
すると先に塀を飛び越えていたビッグスが向こうから答えた。
「待ったり探したりしたら、あいつ怒るぞ」
「わからないな」
「ソルジャーにはわからねえか。でも、あんたが気にしてたことは伝えておく。それに関しちゃあ喜ぶと思うね」
クラウドは顔をしかめてた。
うん、まあ…怒る、かな。
でも確かにクラウドが気に掛けてくれたって知ったらウェッジは喜びそうだ。
さっきウェッジはクラウドのことを庇った。
それってクラウドの為に、クラウドの役に立ちたいって思ったって事だもんね。
「…何笑ってるんだ」
「ん?えへへ、笑ってる?」
「…笑ってるだろ」
「あははっ、だね!先行くね!」
クラウド好かれてるな〜って思ってたら笑ってしまった。
いや、なんか嬉しくて。
それをクラウドに指摘されながらもあたしは塀に手を掛け、よっ…と軽く飛び越えた。
クラウドも続くようにすぐ飛び越えてくる。
そうすればもう待ち合わせの空き地はすぐそこだ。
「おつかれ〜!こっちこっち!」
空き地には既にジェシーがいた。
こちらの姿を見つけると手を振ってくれる。
あたしたちは急いで駆け寄って、空き地にあったコンテナの影に身を隠した。
「ちょっと派手にやりすぎじゃない?ま、おかげでこっちも無事…あれ?ウェッジは?」
ジェシーはすぐにウェッジがいない事に気が付いた。
…そりゃ当然だよね。
でもどこからどう説明するべきか。
まずは本家がいた事からの説明、かなあ…?
そんなことを考えていると、空き地の外でドサッ…という音がした。
え、と目を向ければそこに倒れていたのはウェッジ。
ちょ!本家さん達扱い雑すぎでは…!?
それを見たクラウドとビッグスは急いでウェッジに肩を貸して空き地の中に連れ込んだ。
「面目ないッス…」
「撃たれたのか?」
「多分流れ弾ッス…痛いッ!」
ビッグスに状態を聞かれながら座り込んだウェッジはお尻を付けたその瞬間に悲鳴を上げた。
え、お尻に弾あたったの!?
「ウェッジ、大丈夫!?」
「ううう…」
心配して、蹲るウェッジの前にしゃがんで声を掛ける。
するとビッグスは「どれ…」と言いながらウェッジのズボンを一気に下ろした。
そして覗き込むビッグスとジェシー。
「うわ、ぶよぶよ」
「屈辱ッス…!」
ジェシーの一言に悔しそうにべしべしと地面を叩くウェッジ。
まあ確かに酷い言われようである。
でも撃たれたって本当大丈夫なのかな…?
そう傷を見るふたりの言葉を待っていると、ジェシーは「ん?」と首を傾げた。
「当たってないよ、これ。弾が至近距離を通ってパンツが焼けたんだね。だからこれ、火傷。しかも軽い!」
「あ、なーんだ」
「ヒッ…うう、ナマエちゃんまで軽いッス…」
軽い火傷。それを聞いてちょっと拍子抜け。
素直に零せば、ウェッジはジェシーにぺしりとお尻を叩かれながら悲しそうにあたしを見上げてきた。
だって、撃たれたかと思ったんだもん。
でもウェッジ自身も火傷と聞いて安心した部分があったんだろう。
大丈夫だってわかったら、「腹ペコッス」とか言い出した。
その様子にビッグスやジェシーは呆れながらも笑っていて、あたしも「もーっ!」って言いながらウェッジの肩を叩いた。
「ふっ…」
すると、クラウドも。
いつもの、あ、笑ったって思う顔。
優しい、穏やかな笑み。
しかも今回はちょっと楽しそうで。
するとその笑みを見たジェシーが素早くそこに食いついた。
「あ、良い顔!」
「えっ?」
そう言われたクラウドはきょとんとする。
あ、それも良い顔…とは口に出さなかったけど。
うん、でもクラウドの笑みはあたしも良い顔と思う。
そう思って見上げていると、ジェシーは「ふーん」とニコニコしながらクラウドに近付いた。
そんなジェシーにクラウドは困惑気味。
「…、行くぞ。帰るんだろ?」
そしてその視線から逃げる様に先を歩き出した。
多分その反応も微笑ましく思われてるよ、クラウド。
現に3人は笑ってて。
「「「もちろん!」」」
「あははっ、息ピッタリ!」
声をそろえてクラウドにそう返すから、あたしも抑えることなく笑った。
うん、でもこれで本当、後はスラムに帰るだけ。
本家が動いていることをビッグスが気にしていたり、七六分室の騒ぎで街は少しざわついていたけれど…ひとまず一緒に来た皆が無事で良かった。
でも、帰るだけって言っても…問題はそのまま帰る方法なんだよね。
ジェシーは方法は考えてあるって言ってたけど…。
始発じゃないとすると、どうやって下に帰るんだろう?
ジェシーは先を走り、「こっちこっち!」と案内するように皆に手招きする。
その顔はどことなく楽しそうだ。
…なんでそんなに楽しそうなの???
よくわからなくて、あたしの頭にはハテナが溢れかえっていた。
「無事に火薬も手に入ったし、これで次の作戦もバッチリ?」
「そう願うね」
走りながら、ジェシーは本当にご機嫌だ。
一方で考えすぎる癖のあるビッグスは少しため息まじり。
「あんたの父親も、早く良くなると…」
「おい、その話は…」
そして笑顔でいるジェシーに色々と思う事があったのか、クラウドはそう言い掛けた。
でもビッグスがすぐに止めて口を噤む。
「ん…?」
「く、クラウドさんもピザ食べたかったって!」
「なに、なんか怪しくない?」
「ないない。そりゃピザは食べたいよな?」
「あ…ああ」
慌ててウェッジとビッグスが誤魔化してクラウドもそれに乗った。
そんなにジェシーが怖いか…。
それを見たあたしはバレない様に小さく笑ってた。
ジェシーもちょっと怪しんではいたけれど、それ以上は特に気にしていないようだった。
「ふ〜ん?じゃあ今度は私が腕を振るっちゃおうかな〜」
「あ!あたしも食べたーい!」
そして話はピザの方に移ったから、あたしも手を上げて話に混ざった。
「お!いいねえ、ナマエ!じゃあさじゃあさ、今度うちでピザ女子会でもやる〜?」
「え!やりたいやりたい!」
「えー!!ずるいッスー!!」
ジェシーはひとり暮らしじゃなくて、役者志望の女の子たちと住んでいる。
その中に入れてもらってのピザパーティ。
何それめっちゃ楽しそう!!
でもジェシーの家は男子禁制だから、ウェッジが嘆いてたけど。
そんな会話をしながら、あたしたちはジェシーの言うスラムに戻る為の方法がある場所まで向かった。
「たぶんここに…あった!」
ジェシーに連れてこられたのは社宅地区のプレートの境界面だった。
そこにはひとつのボックスが安置されており、ジェシーはそれを開けた。
「パパから聞いた時は半信半疑だったけど、本当にあって良かった!」
開けたそのボックスの中にあったのはパラシュートだった。
成る程。つまり、これでスラムまで降りると。
ジェシーは「楽しみ〜!」とはしゃぎながら飛ぶ場所を確認しに走っていく。
あたしはボックスに近付き、中をひょこっと覗きこんだ。
「ふーん…パラシュートかあ」
「どうした」
パラシュートなんて初めて見たなあ…。
そう思っていると、隣からクラウドの声。
あたしはクラウドに視線を向けて、小さく首を振った。
「ううん、見るのも初めてだし、つまり使うのも初めてだなって。ちゃんと開けるかな?」
「怖いか?」
「うーん、どうだろ。楽しみ半分、怖さ半分かなぁ?あ、でもやっぱ楽しみの方が大きいかも!」
うん、不安はまあある。
だけど案外楽しみかもしれない。
成程。ジェシーが此処に向かいながらずっとわくわくしてた気持ちが今ちょっとわかった。
でもまあそれはいいんだけど。
それよりも、だ。
今ここにあるパラシュートについて、ちょっと気になる事があった。
「ていうかさ、2個しかないね?」
「そうだな」
「ということは…3人、2人で飛ぶって事だよね」
「だろうな」
ボックスの中に入っていたパラシュート。
それは人数分ではなく、その半分以下の2個しか入っていなかった。
説明事項を見るに、複数人で飛んでも平気ではあるみたいだけど。
「あ、でも誰かと飛んだ方がヘマする心配は薄れるかも」
あたしはそう言いながらポンと手を叩いた。
そうだそうだ!
引っ掛かったらどうしよう〜とか、開かなかったらどうしよう〜とか。
不測の事態にひとりだったらテンパる可能性大だけど誰かと一緒なら大丈夫じゃなかろうか。
「…なら、俺と一緒に降りるか?」
「えっ?」
その時、クラウドはそう言ってくれた。
あたしはちょっときょとんとした。
え…?一緒にって…。
クラウドが一緒に降りてくれるってこと?
なにそれ心強すぎか?!
だけどそう思った時、もう既に飛び降りる場所にいるジェシーの声が響いてきた。
「ほらほら!早く持ってきて!重さ的に私とナマエとビッグス、クラウドとウェッジで降りるよ!急いでー!」
「「……。」」
ジェシーにあたしたちの会話は聞えちゃいないだろう。
けど、凄いタイミング。
思わず笑ってしまうくらいには、ぴったりのタイミングだった。
「ふ…あははっ、だってさ!」
「…ああ」
「まあでも確かに、それで重さ、半々くらいかな?」
「…そうだな」
「バイクといいコレといい、あはは!縁無いね!」
「……。」
移動手段において行きも帰りもチーム分けがあったけど、どっちもクラウドとは被らなかったな〜。
でも、気に掛けてくれたってこと、だよね。
それは、うん。
…ああ、嬉しいなあって。
また、じわりと沁みる。
だからあたしはクラウドにお礼を言っておいた。
「あはは!でも、ありがと、クラウド!」
「いや…」
「じゃあ、いこ?」
「ああ、…気をつけろよ」
「うん。まああたしはビッグスとジェシーにお任せしちゃうから大丈夫!クラウドこそ気を付けて〜!」
こうしてあたしたちは2つのパラシュートをそれぞれ2、3人で組んで体に固定した。
そして飛び降りる為に移動する。
柵を越えて、せまっこい、ちょっと太めのパイプの上に立った。
「みんな、ご苦労様。付き合ってくれてありがとう。それから、明日の作戦終了までバレットとティファには内緒でお願い。余計な心配、掛けたくないから」
最後、戻る前にジェシーはそんなことを言った。
バレットとティファには内緒にする。
それは手を貸すと決めた当初から約束していた事。
お礼は、なんとなくむず痒いね。
「おーし、飛ぶぞ!」
そして、背中にいるビッグスがそう声を上げた。
いよいよかあ…!
あたしもそう思いながら前にいるジェシー越しに見える景色を見た。
此処から飛び降りるのか…うん、やっぱワクワクかも!
「クラウド、ウェッジを送ってやってくれ」
「ああ」
ビッグスはいくつか距離を取った位置にいるクラウドにそう声を掛けた。
パラシュートを開いた時、互いがぶつからないための距離だ。
向こうのチームはウェッジが前でクラウドが後ろ。
一番後ろの人がパラシュートを操るから、かなめはビッグスとクラウドだね。
まあ、ウェッジは怪我もしてるしね。
さあ、じゃあ本当にそろそろレッツゴーだ。
「あ!忘れるところだった!」
でもその時、ジェシーがパンっと手を叩いた。
そして何を思ったのか「ねえ!」と言いながらバタバタとクラウドの方に駆け寄って行く、…って。
「うわっ、ちょ!!」
「ちょちょちょちょ!?」
ジェシーが動けば体を繋がれているあたしとビッグスも自然と引っ張られることになるわけで。
て、待って待ってここなかなかに足場狭いよ!?!?
「危ねえだろ!?何考えてんだ!?」
「わあ、ちょっと!何すんのよ!?」
「こっちの台詞だ!」
「ちょちょちょ!ふたりとも待って待って!足もつれる!もつれてる!!」
クラウド達の方に近づこうとするジェシーとそれを止めようとするビッグス。
それに挟まれてなんか足がエライことになってるあたし。
いや待って待って!
これは怖い!怖い!!コワイよ!?!?
ひとまずジェシーはクラウドに何か言いたいことがあって、それを言うまでこのドタバタ騒ぎは続きそうだから一度ジェシーに体を預けることにした。
「残りの報酬、下に戻ったらウチまで来て!」
ずいっとクラウドに近付いたジェシーはそう言って笑った。
え、ウチまで…?
あれ、報酬って召喚マテリアじゃなかったっけ?
残りの報酬…家に来て…。
ジェシーん家、男子禁制だけど…。
ん、んん…?
何か色々駆け巡る。
でもそれは、次の瞬間一気に吹っ飛んだ。
「えいっ」
「ふえっ…?!」
「えっ、今!?」
ジェシーはクラウドにそれだけ言うと、あたしとビッグスに何の断りも無しにぴょんっとそこから飛び降りた。…でえええ!?!?
「きゃあああああっ!!」
「ひやああああああああああッ!?!?!」
「ああああああああああっ!!!!!」
ひとり楽しそうな悲鳴のジェシーとあたしとビッグスのテンパった悲鳴がいっぺんに響く。
程なくクラウドとウェッジも飛び降りて、パアッとふたつのパラシュートが開いた。
次第に風に乗り、ふわっ…と体が舞うような感覚に変わっていって、それを感じたあたしは「あー…」とため息をついた。
「はあ…うう、まだ心臓どきどきしてる…!びっくりしたー…もー!ジェシー!!!」
「えへへ!でもほら、ふふ!楽しいじゃない!」
「…まあ、楽しいけどさあ…」
ふわふわと、ゆっくり降りていく感覚。
今まで経験したことの無いその風の感覚は確かに楽しいと思えるものだった。
下に広がるスラムの街。
上から見ると、見慣れた街の景色が少し違って見えて…なんだか凄く不思議な感じ。
「なんか俺たち、ノってるよな!」
「ふふっ、この頃特にね!」
「あいつのおかげだな!」
「うん!一緒なら、なんでもやれそう!」
自由にも感じるその感覚に、ジェシーとビッグスも楽しんでいるのか弾む声でそんなことを言う。
そして、その視線が向けられているのはもう片方のパラシュートを操っているクラウド。
あたしも見た。
うん、やっぱりみんなクラウドのこと凄く気に入ってるなあって。
一緒なら何でもやれそう…。
ジェシーが今言った言葉。
うん、でもなんとなくわかる気がする。
なんだろうな。一緒にいると、頑張ろうって思えるって言うか。
あたしは、そんな感覚な気がする。
「あははっ…!」
ふたりの声に、自然と笑った。
うん、わかる、わかるなぁって。
一緒に馬鹿笑いするわけじゃないけど、だけど一緒にいると、自然と笑みが零れる。
それで向こうもふっと笑ってくれると、凄く凄く嬉しい。
そういう顔、もっともっと見たいなって思う。
そんな人だなあって、あたしはそう思った。
To be continued
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