女はみんな大女優



パラシュートを使い、あたしたちは無事に七番街スラムに戻ってくることが出来た。

あたしとジェシー、ビッグスが使ったパラシュートは少し風に流されてしまった。
だから多分、別のパラシュートで降りたクラウドとウェッジの方が早くスラムに戻っているだろう。

もう、結構いい時間だ。
明日、ビッグスとジェシーは大仕事だし、ジェシーの方はこれから爆弾の調整に取り掛からなきゃいけない。

だから「お疲れ様」なんて言葉をそこそこに、ふたりとはスラムに戻って来てからすぐに別れたのだった。





「風、気持ちいな…」





ひとりになったあたしはのんびり夜風を楽しみながら家への道を歩いてた。
思わず呟いてしまうくらいには風が心地いい。

そんな穏やかさは、無事に戻ってこられた安堵の気持ちからも来ていたのかもしれない。





「お、ナマエじゃないか」

「え?あっ、こんばんは〜!」





歩いている途中、たまたまばったり知ってる顔に出くわした。
いい時間ではあるけれど、まだ明かりはちらほらと点いているから。

挨拶して、駆け寄って、ちょっとした雑談もした。





「噂のなんでも屋、手伝ってるって話じゃないか」

「あ、はい!彼のこと、もう結構広まってるみたいですね」

「ああ、評判だよ。じゃあ、暇があるときにでも頼んだよ」

「はーい!彼、すっごく頼りになりますから!じゃあまた!」





結構モンスター退治の話を振ってくれる人だから、これはチャンスとなんでも屋のことも色々と話した。

あたしが持ってる縁、クラウドに役立てるって言ったもんね。
こんな風にクラウドの話題を出して、少しずつ縁を広げていけたらいいな。

そうして再び帰路へと戻る。
相変わらず、ペースはのんびりだ。

そう歩いていると、一本曲がった先にジェシーの家がある路地を通った。

まあまあ話しこんじゃったし、ジェシーはもう家に帰ってるかな。

ジェシーは役者志望の女の子たちと暮らしている。
だから誰かしらはいるだろうし、明かりはついてると思うけど…。

曲がり角に差し掛かり、あたしはジェシーの家の方に目を向けた。
するとジェシーの家の前にひとつ、人影があるのを見つけた。





「ん?クラウド…?」





そこにいたのはクラウドだった。

思わず名前を呟く。
でも凄く小さな声だったから向こうには聞こえていないだろう。

その証拠にクラウドはまったく気が付いていない。

ああ、そういえばジェシーがパラシュート使う前にウチに来てって言ってたっけ。

そういやそうだったと思い出しながら、あたしはなんとなく足を止めた。





「やっぱりクラウド!そろそろ来る気がしたんだ!」





声を掛けようとかと悩んでいたら、ちょうど扉が開いて中からジェシーが出てきた。

あ、ジェシー、やっぱりもう戻ってた。

よかった。
姿を見てなんとなくホッとする。

だけどそれと同時に、声を掛けようとした気持ちが一歩後ろに下がった。

いや別に入っていってもいいだろうけど…なんだろ、タイミング逃した感じ?
ちょっとその場でしり込みみたいな。

そうしてふたりの様子を見ていると、ジェシーはクラウドに緑色の魔法マテリアを手渡していた。

あれが言ってた残りの報酬なのかな。
召喚マテリアもだし、ジェシーってば気前良いな。

でも、それだけでは終わらない。





「それから特別なごほうび」





特別…?
そう思った直後。

ジェシーはクラウドの首に腕を回して、そのままギュッと彼の体に抱き着いた。

って、はい!?!!?





「ッ…!!!?」





それを見た瞬間、何か色々飛び出しそうになって慌ててガバッと自分の口を両手で押えた。

おおおおおおおおおおおう!!?

ぐうっと抑え込む。
いやもう本当変な声でそうだったんだけど!?
抑えたの誰か褒めてくんない!?

ハグなの!?ぎゅーなの!?
どういうことなの!!?

いやごめん。
ちょっと自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた。

いや、言ってないけど。心の中だけど!!

ぶっちゃけすんげえ大混乱。

でもその時またちょっと、さっきのバイクのときみたく胸の奥にギュッとした何かを感じた。





「っ…わかったから、離れてくれ」





一方、突然抱き着かれたクラウドも困惑している様子。
戸惑いながらジェシーにそう返していた。

ジェシーは抱き着いたまま、甘い声で言う。





「じゃあ、明日の夜、来て?同居人たち、みんな留守らしいから」

「じゃあって、どういう意味だ…」





明日の、夜…!!
同居人たち、留守…!!

ジェシーの口から紡がれる言葉は全部どこか大胆めいていて、なんだかこっちがドキドキする…!

これが大人の女の余裕ってやつですか!!?

いやもうホント、あたしは何を考えているのかと。
自分でもそうは思うんだけどね…!?





「とにかく、離れてくれ」





クラウドはジェシーの肩に手を置き、ジェシーを引き剥がそうとした。
だけどジェシーはまったくめげない。





「離れたら、来る?明日の夜」





また甘い声。

何でそんなイケイケドンドンなんですかジェシーお姉様…!!
いろいろ絶妙でこっちがドキドキするんですけど…!!

ていうか野次馬根性丸出しでごめんなさい!!
がっつり見てしまっている自分を客観視する自分もいる。
したところで見ちゃうんだけども!ごめん!!

でも、クラウドはなんて答えるのかな…。

あたしはちらっとクラウドの表情に目を向けた。





「しつこいぞ」





するとクラウドはそう言いながら自分の肩に置かれたジェシーの腕を掴み、そっと外して下ろした。

え、あ…お、おお…硬派…。
何だかちょっぴり感心。

そこまで言われればジェシーも今回は引くようだった。





「りょーかい!こういうのはダメか〜。作戦変更しなきゃね!ふふふふっ」





その顔はまだどことなく楽しそう?
そうしてジェシーは笑いながらくるっと家に戻っていく。





「おやすみ!」





そして明るくそう言うと、パタンと家の扉を閉めた。
…が、すぐにまた扉が開き…。





「なんつって」





そう一言置いて、またパタンと扉を閉めた。

………わお。

これは…え、今までのくだりは冗談ですみたいな?

さ、流石は女優さん…?
恐るべし…。

だけど…。





「………。」





ちょっと、考える。

…いや、本当に全部が全部演技…かなあ。
勿論からかってやってる部分もあるんだろうけど…。

でもやっぱりクラウドのことお気に入りっぽいよなあとか。

そんなことを考えていたその時。
クラウドが不意にこちらに振り向いた。

あ…。





「なっ…ナマエ…!?」





ぱちっと目が合う。

あたしの姿を見つけたクラウドはビックリしたように声を上げて目を見開いた。

あ、あー…。
気付かれちゃった…。

あたしは思わず苦笑い。
するとクラウドはずいずいとこちらに近づいてきた。





「あ、あんたいつから…!?」

「えっ?!あ、ええと…」





クラウドはテンパってるように見えた。
お、おお、なんかちょっと珍しい?

いやでも、え、いつから…!?

そりゃどう説明すればいいんだろうか…!?
あたしどっから見てたっけ…!

そう記憶を遡って遡って、ジェシーの言ってた台詞を思い出す。

…ええと、確か…。





「やっぱりクラウドー!…だっけ?」

「…最初だろ、それ」





辿って思い出した台詞を言えば、クラウドはそれで察しがついたらしい。
彼は頭を抱えて「はあ…」と大きな溜息をついた。





「…じゃあ、全部見てたんだな…」

「あ、ええと…た、多分…ばっちり?」





全部…。
まあ、うん、多分全部…なんだろうなあ…?

バレたならしょうがないと開き直ったのか何なのか。
あたしは困惑しながらも親指を立ててばっちりと頷いた。

するとそれを見てまたクラウドは大きな溜息をついた。

う、ううん…。





「まあ、まさかの衝撃的場面に遭遇ではあったかなあ。あー、びっくりした」

「…忘れろ」

「え、いやあ、それは無理でしょ。よっ、クラウドモッテモテ〜?」

「おい…」

「待って待って、睨まないで、ごめんなさい」





ちょっと軽口叩いたら、じろっとクラウドに睨まれた。
いや、怖い怖い。怖いです。

あたしが謝ると、クラウドはまた小さく息をついた。





「別に、何も無いからな…」

「え?ああ…うーん、まあ…ねえ」





何も無い…。
そう言われて、まあ…というか。

確かにジェシーはクラウドをからかってはいたと思うけど…。

でも、見られてそんなに気まずかったかな。





「んー、まあでもジェシー凄かったね…。はー…アレがお姉さまのテクニックかあ…」

「…何言ってるんだ」

「あはは!うーん、でもええと、あたし別に誰にも言ったりしないよ?あ、うん!ティファにも言わないし!」

「…え?」

「勿論バレットにも、ビッグスにもウェッジにも!マーレさんにも!大丈夫!あたし、口堅い!」





ぐっと両拳を握りしめて力説してみる。

まあこう…見られて気まずい〜って思ったのだとしたならば。

いや、例えば…ティファに知られたくない、とかさ…。
あとはバレットにからかわれそうとか。ビッグスやウェッジも然り。
マーレさんも、言ったらまたクラウド色々言われちゃいそう。

ああ…そう考えれば確かに、気まずいかもと思う理由いくつかあるのかも。

でも本当、人のことそんなにペラペラと喋る趣味は持ち合わせてませんよ。





「いや…、というか…」

「ん?」





気まずそうなクラウドの瞳がちらりとこちらを見る。

何とも言えない顔。
なにか言葉に悩んでいるような。

あたしは首を傾げる。

クラウドは「いや…」と首を横に振った。





「…もういい、この話は終わりだ。帰るぞ」

「えっ?」





話を区切り、クラウドは歩き出す。

でもそれを聞いたあたしはきょとんとしてしまった。
クラウドは不思議そうに振り返る。





「帰らないのか?」

「え、あ、ううん。そういうわけじゃないけど…」

「なんだ?」

「えっと…、一緒に帰ってくれるの?」

「帰るところ、同じだろ…?」





いやまあそりゃそうだ。
クラウドの言ってる事はごもっともだった。

ただ、一緒に帰ってくれるんだなあ…と思って。

いや帰るとこ同じだし、全然普通のことなんだけどね?
多分、うん…クラウドからそう言ってくれたことが、何となく嬉しいなあ…って。





「…ナマエ?」

「ううん!…ふふっ、うん!じゃあ、一緒に帰ろ!」





どうした、と気に掛ける様に声を掛けてくれたクラウド。
あたしは笑って頷き、クラウドに駆け寄った。





「クラウドたちも無事に帰ってこれたみたいで良かったよ。ウェッジ大丈夫だった?」

「ああ。一応、家まで送ったけどな」

「お尻、弾当たって無くて本当よかったよね。うん、でもそれなら良かった。こっちも皆無事だったし」

「ああ」





肩を並べる。
そしてふたりで何気ない話をしながら天望荘への道を歩いた。



To be continued


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