マイフレンド



「侵入者発見!」





あたしとクラウドが広場に出ると、そこには銃を構えた神羅兵がたくさんいた。

侵入者とは。
それは純粋にあたしたちを指しているのか、それとも入り口の警備を倒した先客を指しているのか。

まあどちらにせよもうあたしたちは侵入者とみなされているし、此処で騒ぎを起こして警備の目を引くのが目的だからその辺はどうでもいいってのが本音だ。





「いくぞ」

「りょーかいっ」





あたしとクラウドは走り出し、出来うる限り派手に暴れて神羅兵たちをなぎ倒していった。
増援を呼ばれたり、次々とランチャーなどの銃撃装置が出て来たり、流石は神羅って感じだったけど、多分流れは良かったと思う。
少なくとも、対処が追い付かないって向こうに言わしめるくらいにはこちらのペースだった。

そして特に苦戦することなくしばらく暴れ、一度、落ち着けるタイミングがあった。





「おつかれさま〜!」

「素人にしちゃ頑張った方だろ」





施設の上の方に回り込んで援護をしてくれていたウェッジとビッグスの喜ぶ声がした。
そんな声を受けつつ、あたしはクラウドの傍に寄り、剣を構えたまま背中を合わせて彼に声を掛けた。





「一段落?」

「いや…」





尋ねたその時、施設の一つの扉から音がした。

クラウドは機敏にそれを察知し剣を向ける。

すると開いた扉の奥には鉄格子が見えた。
その鉄格子も開き、直後、そこからワッと何匹ものガードハウンドが飛び出してきた。





「うわっ…」

「くっ…」





ガードハウンドたちは素早く駆けてきて、すぐにあたしたちの周りをぐるっと囲ってしまった。

あたしとクラウドは背中を合わせたまま。
おかげでとりあえず背中から襲ってこられることは無いけど、じりじり迫ってくる。

さて…どうやってこれを突破しよう…。

そう考えていると、ピーィー…!という笛の音が聞こえた。





「次は俺の番ッス!!」





パッと見れば笛を鳴らしたのはウェッジだった。

ウェッジはガードハウンドたちの注意を自分に引きつけ、そのまま一気に猛ダッシュした。
おかげであたしたちを囲っていたガードハウンドのほとんどはウェッジのことを追っていった。





「ナマエ。残ったのは俺がやる」

「うん!わかった」





ウェッジに引きつけられずに残った分は任せろと言ってくれたクラウド。

じゃああたしはウェッジを追っていった方だね。

あたしはクラウドの意図を察し、ウェッジの方のガードハウンドに向かった。

見れば「ひいっ」とか言いながらお尻噛まれ掛けてるし、早く助けてあげないと。
ウェッジの体力が限界を迎える前にね!




「ブリザド!!!」





あたしはバングルにはめいてたれいきのマテリアを発動させた。

空気は凍てつく。狙うはまずは足元から。
ガードハウンドたちのスピードが格段に落ちていく。

これでウェッジと距離と取らせて、それを機に、もういっちょ!





「サンダー!!」





重ねて発動させたのは剣に装備したいかずちのマテリア。

連続で放ってガードハウンドたちにビリビリと降り注ぐ。
雷が直撃すれば、ガードハウンドたちはぱたりぱたりと倒れていった。

よし、これで完了!

クラウドの方も同じくらいに片が付いていて、ガードハウンドは一掃した。





「はあ…絶対やせた…ナマエちゃん、助かったッス…」

「ううん、こっちも助かったよ!」





走りきったウェッジはぜえぜえしながらその場に座り込んだ。
あたしはそんなウェッジに駆け寄りお礼を言った。

するとクラウドも剣を背中にしまって来てくれて、高台からビッグスの笑い声も聞こえた。





「よっ!男前!モテまくりだったな!」

「罪作りな男ッス!」

「あはははっ!よっ、色男〜!!」

「いえーいッス!」




ふたりのノリが良かったから、あたしも一緒に笑った。

でも、静かになった。
まさか神羅の施設でこれで全部片付けたなんてあるわけないと思うけど…。

まあそんな心配はやっぱり案の定。

すぐにビービーッという嫌な警報が鳴り響いてきた。





「うわあああっ…」





座り込んでいたウェッジは声を震わせながら慌てて立ち上がった。
それはさっきガードハウンドたちが出てきたところとはまた違う扉が開いたから。

次に新たに出てきたのはガードハウンドでは無く機械兵器だった。
名前は確か、スイーパー…だったかな?

だけど、機械の弱点ははっきりしてるよね。
それは勿論、電撃だ。

あたしは再びいかずちのマテリアを装備した剣を構えた。





「頼むぞ」

「はーい」





クラウドはあたしに一言そう言うと機械に向かっていった。
あたしは軽く返事をし、今度はさっきより長めの詠唱を始める。





「はあッ!!」





クラウドは大きく剣を振り回した。
強力な大技を繰り返し数発喰らわせ、その攻撃が装甲を吹っ飛ばした。

そうすれば今度はあたしの出番。

詠唱を終え、さっきよりも重い一発をお見舞いだ。





「サンダラ!!」





ピシャーンッ!!
響いた雷はスイーパーを天から貫く。

おかげで機械は一瞬でショート。
シュー…と音を立てながら、その場にガシャンと崩れ落ちた。





「流石ッス!」

「つーかお前ら、さっきから見てると息ぴったりな…」

「え!ホント!?」





グッと親指を立ててくれたウェッジと感心するビッグス。

あたしはビッグスの言葉に食いつくように反応した。
だってクラウドと息合ってるって言われるのはやっぱ嬉しいもん!

えへへ〜クラウドやったね〜!なんてへらっとしながらクラウドの方を見ようとした。

だけどまあ…そう素直に喜ばせてはくれないもので…。





「包囲しろ!!」





その直後、そんな声と沢山の足音がバタバタと近づいてきた。

見ればわさわさと広場に集まってくるかなりの数の神羅兵。

うーん…これは何人いるかな…。
その勢いと人数にはちょっとばかし圧倒された。





「貴様ら、何が目的だ!」





全員が銃をこちらに構えてる。

さて、今度はどう切り抜けよう…。
そう考えようとした。

でもその前に、何か…空の方で音がした。

え…、と敵も味方も多分全員が上を見上げる。

その瞬間、ブゥンッ…と聞こえたバイク音。
そして響いた高笑い。





「え…この、声…」





それを聞いたあたしはそれが何かを察して顔をひきつらせた。
いや、ふたつの意味で。

ひとつは純粋に厄介そうって意味。

で、もうひとつは……拒否反応…?





「はははははっ!!!派手にやってるじゃないか、マイフレンド!!」





空を駆けるような勢いで現れ、ダアンッと広場に着地したバイクはそのまま味方である神羅兵すらなぎ倒して走り回る。

現れたのは、さっきバイクで戦ったソルジャーのローチェだった。

やっぱりお前かーーー!!!

声を聞いてまさかと思った。
まさかでしたね!ええ!

ローチェがマイフレンドと呼び、見ているのは勿論クラウド。
もしかして、さっきの件で結構執着されちゃった…?

ローチェはキキッ…とバイクを止めた。





「約束しただろう?次はふたりだけで勝負をしようと」





バイクを降りたローチェは剣を携え、ゆっくりとこちらに歩いてくる。





「君が点火したんだ」





そう言って差し向けた剣先は真っ直ぐにクラウドに向けられていた。





「私のエンジンは今、駆け出す興奮に激しく震えている!!」

「下がってくれ」





ローチェの様子はさっきと少しだけ違った。
いや、基本は同じなんだけど…でも多分本気でクラウドとやり合おうとしてる感じ。

それを察したクラウドはあたしたちに下がる様に言った。

ビッグスは「わかった」とすぐに従い、戸惑うウェッジの腕を引いて下がっていく。
あたしも、多分ここは手を出したらまずい部分だろうとは思った。

でもやっぱり戸惑う気持ちはあったんだろう。

だからちょっと、ふたりより足が遅れてしまった。





「フッ…レディに熱いまなざしを向けられて、羨ましいねえマイフレンド。御嬢さん、そのまなざし、私にも向けておくれよ」

「げっ…!」





確かにクラウドの背中は見てた。
でもそのせいでローチェに声を掛けられた。

うっわ、素で「げっ」つっちゃった!!

いやでもそりゃ言っちゃうよ!心の底からだよ!!
だってもう二度と関わりたくないって思ってたんだぞ!!





「…早く行け」

「あ、ハ、ハイ…」





クラウドに低い声で言われた。
あっれ?!クラウドなんか怒ってる!?

うん、早く下がれば良かったね!!
そしたらこのなんか変なちょっかい聞かなくて済んだね?!
それはマジでごめんなさい!!!!

あたしはちょっとズーンとしながらその場を離れた。

だけど…厄介な敵である事には間違いないのだ。

さっきだってクラウドが勝った。
だから…クラウドが負けるとは思わないけど…。





「さあ、正々堂々と勝負だ!マイフレンド!!」

「……。」





そして、ふたりの戦いが始まった。

現ソルジャーと元ソルジャー。
そのぶつかり合いは激しくて、周りにいる神羅兵たちも手を出せずにいた。

いや、出したら多分、一騎打ちを望んでるローチェも黙ってはないんだろうけど。

ガキン、ガキン…と剣のぶつかり合う音が何度も何度も響く。

激しいふたりの攻防。
それはしばらく続いた末…勝敗は決した。





「ぐはっ…」





ぐらりと膝をついたローチェの体。
クラウドは軽く息を吐くと、背中に剣を納める。





「満足か?」





尋ねたクラウドにローチェは笑う。

結果は、クラウドの勝ち。

あたしはビッグスやウェッジと一緒にクラウドの元に駆け寄った。

負けるなんて思ってない。
でも、ホッとした。大きな怪我とかもないみたいだったし…。

すると、ローチェはゆっくり立ち上がった。
そしてクラウドと同じように剣を背中に収めた。





「楽しい時間はあっという間だね…まだまだ、目覚せる高見がありそうだ」





ローチェがそう呟いた、その直後だった。





「あ…っ」





思わず声を漏らす。

突然、辺りにウーウーッという警報が響き渡った。
その音と共にまた施設の扉が開いて機械兵器たちがぞろぞろと出て来る。





「全機だせ!ソルジャーを倒すほどの相手だ!全力で掛かれ!」





どうやらローチェとの戦いが終わったことで傍観していた兵士たちが動き出したみたいだ。

いやそりゃそうだよね!
ソルジャーがやられたからってそれで終わりなわけないもん!

けど…こんなにどかどかスイーパーさん出てこられると流石に厄介かも…。

どうしよう…と思ったその時、またローチェの笑い声とバイクの音が辺りに響いた。





「はーっはっはっは!!」





ローチェは笑いながらバイクを操り、スイーパーたちにぶつかって蹴散らしていった。

その様子にあたしはぎょっとした。

え!助けてくれてる…?なんで!?
いやだってこいつら味方だよね…仲間割れ…!?

困惑しているのはクラウドたちも同じよう。

ローチェを見れば、彼は真っ直ぐにクラウドを見ていた。





「私たちは必ずまた会う。その時まで、生きていてくれよ、マイフレンド!」





そしてそう言い残すと再びバイクを発進させ、奴は七六分室から去って行った。

な、なんだったんだあいつ…。
そう思ったのもつかの間、残されたあたしたちにはまだ油断は許されなかった。





「うわっ…!」





ピュンピュンッ…と響いてきた銃声。
見れば残りのスイーパーたちがあたしたちに向かって容赦なく弾を放ってきていた。





「ナマエっ…!」

「クラ…っ」





クラウドは剣幅が広い事を生かし、剣を盾にしながらあたしを庇うように前に立ってくれた。

けど、このままってわけにはいかない。
このままでいたらそのうちハチの巣にされちゃう…!





「まずいな…」

「…クラウド、また装甲剥がせる?」

「ああ…。サンダラ撃てるか?」

「うん!任せて」





見ればビッグスやウェッジも銃で何とか応戦してる。
あたしたちはなんとか隙を見つつスイーパーたちを壊していった。

けど、全機出せって言ってたくらいだから、流石に全部壊すのは現実的じゃない。





「退くぞ!」





なんとか道を作ったところでクラウドが叫んだ。
あたしたちはその声に頷きその場からダッシュする。

だけどまたすぐに目の前にスイーパーが立ちふさがった。

ああっ、もうしつこいっ!!





「くっ…!」





目の前に立ちふさがったスイーパーは銃では無く鎖を放ってきた。

え、これ拘束するパターン!?

狙われたのはクラウド。
クラウドは咄嗟に剣を盾にした。

けど、その鎖はクラウドに届かなかった。





「ウェッジ!」





クラウドが叫ぶ。
あたしとビッグスも息を飲んだ。

クラウドに鎖が届かなかった理由。

それはウェッジが咄嗟にクラウドの前に出て庇ったから。





「クラウドさん…今のうちに…」





鎖に締め付けられながらウェッジはクラウドに言う。
でもその直後、あたしは背後にまた機械の気配を感じた。





「クラウド!後ろ!」

「!」





剣を構えつつ、クラウドに叫ぶ。
クラウドも気が付いていたようで咄嗟に振り返った。

挟み撃ち…!
でもウェッジを置いてくなんてこと…!

どうにかこの状況を打破する方法を探そうとする。

でもその瞬間、スイーパーたちに凄い量の銃撃が浴びせられた。
それにより傷ついた機械は爆発し、壊れる。

その衝撃でウェッジを拘束していた鎖も緩み、ウェッジはその場に倒れ込んだ。

え、助かった…?
でもこの銃撃誰が…。

銃撃の方向を目で追う。
すると神羅とは違う武装をした集団がこちらに向かって来ていた。





「武器を下ろせ!敵じゃない!」





その集団はあたしたちに向かってそう叫んだ。

敵じゃないって…。
あ、この集団…もしかして!

あたしもそこで気がついた。





「分派が何をしている」

「…そっちこそ」





うちひとりが倒れこんでいたウェッジの肩に触れ、そう声を掛けた。

そこで確信した。うん、当たり!
確かにこの人達は敵じゃない。

その光景にクラウドは不思議そうな顔をしていた。

そんなクラウドの腕をビッグスは慌てて掴み、「来い!」とそのままクラウドを連れてその場から離れていった。
その時あたしもビッグスに目配せされたから、一緒にその後を追った。

こうしてウェッジとその集団を残し、あたしたちはゲートの外へと出た。





「ウェッジは心配ない。今はあんたが見つかる方が厄介だ」





ゲートの外に出ると、様子を覗いながらビッグスはクラウドに言った。





「なんだ、あれは」





クラウドが聞いてきた。
まあそれは当然の疑問だと思う。

だからあたしは簡単に答えた。





「アバランチだよ、あれも。ね、ビッグス」





同意を求めれば、ビッグスも「ああ」と頷いてくれた。

でも、成程だ。
これでちょっと納得出来たことがあった。

どうして此処に来たときに警備が手薄だったのか、多分これでその謎が解けた。





「先客…あれも一応、アバランチだ。守旧派というか本流というか。まあ、今の俺たちにとっては目の上のたんこぶ。ケツのできもの…」

「ビッグスげひーん」

「失礼」





詳細を話すビッグス。
しかし例えが何とも下品である。

あたしが突っ込むとビッグスも笑った。

でもこれでクラウドも納得したみたいだ。

多分、分派とかそう言う話、多少は耳にしたことあっただろうから。

そう。あれはバレットたちと方向性を違えた…本家のアバランチだった。





「ここで何をしているんだ?」

「さあね。俺たちを危険分子扱いして追放したくせに、自分達だって結構な装備だったよな?噂じゃあろうことかウータイと手を組んで、ミッドガル中のマテリアを持ち去るつもりなんだとか。何の意味があるんだ、それ?」

「さあ…」

「戦争が終わったと思ってるのは、こっち側だけなのかもな」





クラウドとビッグスの会話を聞きながら、あたしが思う事は…正直、よくわからない、だ。

あたしはアバランチのディープな部分はわからないから、本家のこともよく知らない。

ウータイの事も…。
神羅と戦争してたっていうのは、誰でも知ってる話だけど。
あとはミッドガルとは大陸も違う、遠い遠い国ってことくらいだ。

相変わらず、激しい銃声は響いている。
その音を聞きながら、ゲートはガタン…と閉じたのだった。



To be continued


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