きみへの想い | ナノ

▽ 今できること


「高熱病ですね」

「…高熱病…」





砂漠の町カイポ。

オアシスの中にあるその町のひとつの民家。
ベッドの上で、ローザは苦しそうに息を荒くしていた。





「…セシル……セシル……っ!」

「ローザ…」





うわ言で、セシルの名前を何度も呟くローザ。
あたしは水につけたタオルを絞り、ローザの額に乗せた。

…あの地震の事で、セシルとカインの安否を確かめるためにバロンを飛び出したあたしとローザ。

目的地だったミストの村には辿り着いたけど、そこにふたり人の姿は無く。
しかも村は入った途端、焦げたような臭いが立ち込めていて、見渡せば予想通り…家々が焼失していた。

それが余計に不安をあおって。
だから周辺にある集落も訪れることを決め、辿り着いたのがここ。

でも、砂漠の旅は結構過酷で。
こうしてローザは倒れてしまったわけである。





「高熱病を治すには幻の宝石、砂漠の光が必要なんじゃが、アントリオンという魔物が棲む洞窟にあるんじゃ」

「砂漠の光…ですか」





ベッドを貸してくれたご主人がそう教えてくれる。

砂漠の光…か。
ローザがいないから回復に頼れないけど…。
ていうかそんなこと言ってる場合じゃないよね。

あたしはベッドの傍に置いた椅子から腰を挙あげた。





「それ、あたし取ってきます!場所教えてください!」





持ってきた地図を広げて場所を聞く。
よし、ちゃっちゃと行って戻ってくるよ!





「ローザをお願いします」





ご主人に一度頭を下げ、玄関にでてドアに手を掛けようとした。
でもその時、ガチャッと先に反対からドアノブが回った。

え…、と思いつつ開いたその人物を見上げる。
そこに立っていたのは漆黒の鎧を身にまとった一人の騎士。

それを見てあたしは目を見開いた。
ていうか叫んだ。





「せ、セシルうううーーーーっ!!!!」

「うわ!?ナマエ!?」





驚く彼の手を取って上下に振りまわす。
夢中で嬉しさ表現!

そう。そこにいたのは探していたセシルの姿。
…と、言うことはその後ろにカインも…!

そう思ってひょこっとセシルの後ろを覗き込む。
しかし、そこにいたのは…。





「…お、女の子?」





緑色の髪を持つ、小さな女の子だった。








「…ローザ…」

「ごめんね、セシル…」





あたしはそのあと、簡単に経緯を説明した。
ローザと2人でセシル達を追いかけたこと。
ローザが高熱病で倒れてしまったこと。

セシルはうなされているローザの傍で、ぎゅっと手を握りしめていた。





「…それを治すには砂漠の光って言うのが必要なんだって。だからそれを取りに行こうとしてたの」

「…そうだったのか」





ローザを見つめるセシルに、なんだか物凄く申し訳ない気持ちになった。

その時、目の端に映った小さな緑。
あたしは傍にしゃがんで目線を合わせた。




「ね!貴女のお名前、教えてくれる?」





それはさっきから気になってた小さな女の子。
にっこり笑って名前を尋ねてみると、可愛らしい声で教えてくれた。





「リディア」

「リディアかー!可愛い名前だね。あたしはナマエ。よろしくね!」





笑ったまま手を差し出すと、リディアもゆっくり笑みをこぼしてその小さな手のひらを重ねてくれた。
ぎゅっと握って握手する。うん、可愛いぞ、この子。

よかった。仲良くなれそうです。

リディアはセシルとあたしを見比べて聞いてきた。





「ナマエは、セシルのお友達?」

「うん。そうだよー。今は倒れちゃってるけど…あのローザお姉ちゃんも」

「そーなんだ」

「あともうひとりお兄ちゃんがいるんだけど…、4人でリディアよりも小さい時からずーっと一緒にいるんだよー?」

「へーえ…」





あたしの何気ない話に、こくこく頷きながら一生懸命聞いてくれる。

本当可愛いなー、とニコニコしていると、セシルはローザの前から立ちあがった。
そしてリディアの前で中腰になると、ポンポンと優しく彼女の髪を撫でた。





「リディア。済まないが、少しの間ローザの事を見ていて貰えるかい?」

「うん」

「ナマエはアイテムを揃えるの手伝ってくれ」

「はーい」





セシルの意図はすぐに掴めた。
恐らく、リディアの前でし辛い話とかがあるんだろう。

あたしは頷き、セシルと一緒に砂漠の光を手に入れる為の準備をするために、一度町に出た。





「ねえ、セシル。カインは?カインは一緒じゃないの?」





ポーションの入った袋を抱きしめながら、さっきからずっと気になってた事を尋ねる。

なんでカインは一緒じゃないんだろう…。
するとセシルはゆっくり頷き、順を追って説明してくれた。





「カインは…地震の時に逸れてしまったんだ」

「……あの地震の?」

「僕らは、とんでもないことをしてしまった…。王がミストに届けるように言った箱は…ボムの指輪だった。ミストは…一気に火の海になった…」





ミストの村…。
セシルとカインを追いかける途中、ミストを訪れた。
確かに火事の後みたいに酷い状態だった。

そしてリディアはその生き残りであること。
また、セシルとカインはミストの洞窟の中でミストドラゴンと戦い、そのせいでドラゴンを召喚していたリディアのお母さんが死んでしまったこと。

あの地震は、悲しみのあまり召喚したリディアの召喚魔法の影響であったこと。

色々教えてくれた。

でも…なるほど。
これで色んな事が線でつながった。

リディアの前で話せなかった理由にも納得だ。


でも…そっか。
カインとは、逸れちゃったのか…。

会いたかった彼は、変わらず行方不明…。
少し気持ちが揺れた。

でもすぐに頭を振って、振り払った。

いやいや、大丈夫だし!
カインは強いから、きっと大丈夫!

そう思い直して顔を上げたら、セシルがこっち見てた。

は…っ!

気づいた時には遅し。
百面相で首をぶんぶん!
…あたしってば、完全に挙動不審者…!

だからセシルに笑われた。





「ははっ…、心配?」

「うん…そりゃ、そーでしょ」

「…そうだね」





セシルは目を少しだけ伏せて、小さく頷いた。

たぶん、セシルはカインの事もそれなりに責任感じてるはずだ。
逸れてしまって、無事かどうか…って。

あたしは黒の鎧をバシン!と叩いた。





「うわ…!」

「ほれ!カインならきっと大丈夫!だって強いもん!一番知ってるの、セシルでしょ?」

「…そう、だね。うん、カインは強いな」

「そうそう。だから今はローザの事!早く何とかしてあげないとさ」

「うん。急ごう」





にーっ、と笑って、いつもの調子が出て来た。

あたしだって、まず…今できることから、やっていかないと。
まずはローザを助けることが先決。

カインは、強い。大丈夫。
…それに、ローザを助けること、カインの為にもなる…よね。

…いや、それ以前にローザが死んじゃったらあたしが嫌だけど…!





「よし、こんなもんでいいでしょ。戻ろ、セシル」

「ああ」





砂漠の光を求めて。
向かうはダムシアンの先にあるアントリオンの洞窟へ。



To be continued

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